【完結】川口息吹は憑依転生者な器用貧乏だけどかわいい 作:風早 海月
1回の表、先頭打者は1番希。
打席に入り、プレイボール。
咲桜のピッチャーは
捕手の清水さんはこの世界の球女としては破格の体格…まぁ直接的に言えば体重100kgオーバーの巨体で、投球を受け止める。週刊ペナントの咲桜紹介ページによると、見た目にそぐわない細やかな守備やリードだとか。
「希ちゃん打ってー!」
「イケイケ!」
初球見送ってストライク。
清水さんの腹が揺れる。
彼女が動く度に全身がぶるんぶるんと震える。プロテクターやユニフォームなどの身につけるものは全て特注もしくは特大サイズだとか。
第2球、ワインドアップから投げられた先程のストレートと同じフォーム。だが、チェンジアップだ。希はこれを上手く捉えて左中間へ。
「行った!」
「行けー!」
「外野抜けたぞ!」
外野を抜いてツーベースヒットとなる。
「ないばっち!」
打撃防具を受け取りに行った詠深が希の両手のひらを叩いた。
ノーアウト二塁。
2番菫。
ライト前に運ぶ良い単打でノーアウト一・三塁。
3番は左打ちに転向して以来打撃もそこそここなす稜。
初球チェンジアップを見逃し。ストライク。だが、一塁ランナーはスタートしている。キャッチャー清水はセカンドへ送球、セーフ。盗塁成功でノーアウト二・三塁へ。
「ナイスラン!」
菫は手を挙げてベンチの声に応える。
だが、今のプレーでの殊勲賞は一塁コーチャーに入っている芳乃だ。菫は取り立てて足が早いわけではない。だけど、間を完全に盗んだ走塁指示で、菫が盗塁を成功させたのだ。
盗塁に必要なのは、スタート、スピード、スライディングの3Sだ。足の速さは盗塁における絶対のファクターではなく、ひとつのファクターでしかない。現に塁間でかなりのスピードを誇る選手でも、盗塁失敗が目立つ選手もいる。これが盗塁の奥の深さだ。
2球目、稜は振ってサードの頭を超えるポテンヒットとなる。三塁コーチャーに入っていた詠深は走塁を断念して希と菫に留まる指示を出す。サードも、稜の足の速さと、満塁の方が守備をしやすいというのもあって送球は丁寧な送球で確実に捕れるものを送る。
ノーアウト満塁。
ノーアウト満塁で4番の私。
「いぶきー!打てー!」
「先制タイムリー!」
「先制満塁ホームランでもいいよ!」
クラスメートたちの応援が一塁側…背中からかかる。
咲桜の守備位置が外野は後退、内野は前進する。……単打はくれてやるから長打とゴロならアウトとる…って感じかな。
「打てるよ息吹ちゃん!」
「4者連続安打だー!続けよ!」
三塁コーチャーに入っている詠深と一塁の稜から声もかかる。
投手の松原さんはそんなに良い投手ではない。柳大川越の大野さんと朝倉さんの方が全然良い投球をする。故に……
私は
「お願いします」
左打席に立って、バットを構える。
初球ストレートは見逃し。続く2球目のチェンジアップも見逃してツーストライクで追い込まれる。
ここから私はカットを続けていく。変化球はチェンジアップだけみたいだし、カットでならどれだけでも粘れそう。
途中ボールを見逃す…バットのギリギリ届かないボール球を見逃しも含めて、合計16球目まで粘っている。
第17球目。
ライト方向にかっ飛ばした打球は伸びて伸びて……ライトはフェンス際で見上げている。落下点か…と誰もが頭をよぎる。
だが、打球はそのまま柵を越えていった。
4者連続安打で先制満塁ホームラン。
私は本塁を踏んだ。
「息吹ちゃん、凄か!」
「公式戦3本目のホームランね」
「良い粘りの末のホームランだったな!」
「そ、そう?ありがとう。でも4点入ったのはみんなが安打で繋げてくれたからよ」
先に戻っていた希、菫、稜の3人に囲まれながらベンチへ引き上げるのであった。
ちなみに、試合またいでだけど、2打席連続ホームランとなった。
私はベンチに戻ってみんなとハイタッチを交わした後、守備の準備をする。
そして、試合を見に戻った時に、打席には6番の光ちゃんが、ベンチに理沙先輩が戻ってきていた。
「あれ、理沙先輩アウトですか?」
「ええ、田辺さん、レフト前ヒットになるだろう打球をジャンプしてライナーにしちゃったのよ」
「やっぱり右打者引っ張りタイプと左打者流しタイプは今回難しいですね」
「次は捕れないくらい遠くに飛ばすわ」
引っ張り方向に飛ばす方が打球は強くなることは知っているだろう。理沙先輩もそのタイプなんだけど、今回はショートの田辺さんが邪魔でライト方向への打撃はかなり制限を受ける。
本来なら主将の茜屋花音さんも良い守備力を持っていたので、三遊間は絶対抜けない魔の三遊間とも呼ばれていたのだ。
とはいえ、原作で守備と投手力に長けた柳大川越から9点も奪った打線が控えていることからも、まだまだ油断出来ない点差。
光ちゃんはサード強襲で内野安打となる。
だが……
「どうしたんですか?」
「ん、あぁ、今の光の打球を受けたサードが蹲っててプレーが止まってる」
私はネクストに入るべく準備していた主将に聞くとそう返ってくる。
とことん咲桜のサードはツイてない。3回戦でもサードの茜屋花音さんが死球で足の腱を損傷している。
「おいおい、担架まで出てきたぞ」
稜が状況の逼迫性に頬が引きつっている。
サードの野村さん(背番号11)に代わって白石瑠璃さん(背番号12)がサードに付く。
咲桜の白石瑠璃さんと白石琥珀さん(背番号13)も双子で、例のごとくまた週刊ペナント増刊号(埼玉県四強特集)で取材されて覚えている。髪型以外は瓜二つで、瑠璃さんはボブでかわいらしい髪飾りが特徴で、琥珀さんはセミロングの髪をシュシュでお下げにしている。ちなみに週刊ペナント増刊号によると琥珀さんのシュシュについて、試合用は帰って洗う時に大変だからお気に入りは制服の時しか使わないんだとか。
ってか準々決勝→準決勝まで中1日しかないのによく作るわよね…まぁ取材自体は八強の試合前に行われたやつらしいんだけど。
7番白菊はレフトに大きな当たりを出して、ランナー一・三塁。
競技は違うとはいえ、全国覇者は精神的にも強いのかも。強襲で交代した後に思いっきり振っている。これで後に続く人達も楽になる。
8番主将に、得点圏にランナーを置いて回ってくる。
センター前に返してランナー一・二塁。
9番珠姫には芳乃から送りバントのサインが出される。
きっちりと送って、ツーアウトランナー二・三塁。
ここでアベレージヒッター希に回る。
初球、ライトへ速いライナー性の打球を返す。打球はとても速い!ライトはグラブで弾いてしまって、失策となる。横に弾き飛ばしてしまい、ファールゾーンまで取りに行くことに。その間に希は三塁を踏んだ。タイムリーエラーだ。
2番菫は速いゴロを打った。本来ならレフトに抜けるゴロヒットのはずが、ショート田辺さんのスーパープレーで一塁アウト。スリーアウト。
ここまで1回の表だけで一巡。ヒット7本、7得点。
「みんな凄かったよ!超ビッグイニングだね!守備もがんばろう!」
芳乃がベンチから守備に散っていくみんなに発破をかける。
1回の裏。咲桜の攻撃。
1番、塁間最速の小関さん。
初球、理沙先輩のストレートがど真ん中に入ってしまった。小関さんは迷わず打撃。打球は稜の守るショートに転がる。きっちり捕球したものの、一塁送球は間に合わない位置に小関さんが爆走していた。稜は一塁送球を諦める。
ノーアウト一塁。
2番北内さん。
初球の低めストレートを見逃し…
「ランナー走ったよ!」
稜はベースカバーに入った菫のカバーに入る…が、珠姫の送球は焦ったかさらに後ろへ。センター主将がバックアップに入って、三塁に送球。私は捕球してタッチプレー。セーフ。
多分予想以上に速かったから焦ったのね。
その後、制球が乱れた理沙先輩。北内さんは四球を選ぶ。
ノーアウト一・三塁。
3番田辺さん。
ライトへの当たりを出す。
ワンバウンドでキャッチしかけた白菊が後逸。小関さんと北内さんは本塁を踏んだ。田辺さんは三塁を蹴った。バックアップに入った主将のレーザービーム。
珠姫が捕球して、田辺さんがスライディング。クロスプレーだ…!
「アウト!」
田辺さんの足は珠姫のグラブで抑えられていた。
「ナイスキャプテン!」
「すみません〜!ありがとうございます〜!」
「珠姫もナイスブロック!」
エラーからのリカバリーとしては最高の結果だ。
ワンアウトノーラン。
4番末原さん。
理沙先輩のストレートを初球から簡単に捉えてきて、センター前に返す。
やはり理沙先輩の投球でアウトを取るには打たせてとるのでは無く、
5番丸山さん。
初球エンドラン。レフトへ抜けた打球。一塁送球も、間に合わず。
やっぱり足の速さは小関さんだけでなく全体的に速い。
ワンアウト一・三塁。
6番錠さん。
エヴ〇ンゲリオンの碇とは読み方は同じだけど、かねへんの南京錠の錠だ。
左打ちの彼女はライトに引っ張り、追加点を加える。ワンアウト一・二塁。
7番瑠璃さん。
初球、投球モーションと共に二塁ランナースタート。一塁ランナーはノースタート。珠姫はサードの私に送球…二塁ランナーの丸山さんの足は速く珠姫の送球が私のグラブに収まる時にはスライディングを終えていた。私がピッチャーに返球で、手からボールが離れた瞬間に一塁ランナースタート。理沙先輩は捕球して稜へ送球も間に合わず。ワンアウト二・三塁に変わる。
ここで珠姫は瑠璃さんを歩かせることにする。ワンアウト満塁に。
8番松原さん。
初球空振りして、2球目をファール。
第3球…打ち上げた。打球は三塁線に切れてファールゾーンへ。私が追いかける。壁ギリギリでキャッチ。ツーアウト満塁。タッチアップは無し。
9番清水さん。
あの巨体で走力は咲桜らしくない低いものだろう。
そう、油断してしまった。
彼女こそが、真の4番だということに気がつかず。
同点満塁ホームラン。
そう、これが咲桜だ。
これが、乱打戦だと、その巨体の背中が示す。
その巨体の背中は、何故か物理的以上に大きく見えた。
1イニングも終わってないのに、両チーム合計12安打3失策14得点という頭のおかしい結果から始まりました。
ちなみに清水についてはかなり作りこんでいます。
咲桜に強い憧れがあって入学したものの、彼女の攻撃に関する能力は咲桜の機動力重視とは相いれず、3年となった今年の春から正捕手を任されるようになるまではほとんど公式戦には出ていませんでした。
1年生の頃から打ててたので、その頃からレギュラーに入れていれば中田の高校通算50本以上という数字を超える本数を軽く打っていたと予想できるほどの超強打者です。
足は50メートル13秒台のクソザコナメクジですが、超パワーとミート力を併せ持つ「ホームランを打つために産まれてきた」少女です。
……デブですが