【完結】川口息吹は憑依転生者な器用貧乏だけどかわいい   作:風早 海月

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第2話 外野用グラブ忘れたぁぁあ!

野球大国日本。

毎日どこかでその歴史は紡がれてきた。

 

高校野球においては最高峰(プロ)を目指す者、青春の一片とする者、地元の期待を背負った者…様々な思いを抱いた球女たちは、グラウンドに色んな汗と涙を流しながら四千校あまりの頂点を目指す…

 

そして、ここ埼玉県新越谷高校はというと―――

 

 

現在4名。

 

……うん、原作っぽく言ってみたけど、私らしくないわね。

 

「2人とも練習着(ユニフォーム)姿いいねえ!」

「ヨミのは中学の時のやつ?」

「そだよ〜」

「息吹ちゃんも買わないとね」

「そうね…」

 

そろそろバッセンで使ってるバットを練習用にして試合用のバットを買いたいし、正直なところ金欠であります。野球やったことある人なら分かると思うけど、高いんや!高すぎるんや!

しかも、私の場合は木製バットをオーダーメイドしているのでさらに……ね。だって私が長打を打つには細かいことも全て頑張らないといけない。木製バットはしなりがあるからより遠くまで飛ぶのだ。…ま、芯が狭いんだけど、そこは私のバットコントロール力でカバーだよねぇ。

 

「あっ、グラウンドに誰かいる。こんにちはー、先輩ですか?」

「こんにちは。1年よ」

 

2人の少女がストレッチをしていた。

 

「なんだ2人とも1年生かぁ。先輩かと思った…どこ中?」

「私たちは南相模よ」

「へぇ、隣の校区じゃないの。私たち光陽台桜よ」

「おっ近いな」

 

南相模はそこそこ強い中学だ。だから、芳乃の餌食だ。

 

「ポジションは!?それと名前!」

「藤田菫よ。二塁手(セカンド)

「川﨑稜。遊撃手(ショート)だ」

 

二遊間が最初からペアになってるのは良い。

 

「二遊間かあ」

「それは頼もしいわね」

「うんうん、下半身すごくいいよ!」

 

やっぱり芳乃の餌食だった。(知ってたけど)

菫と稜は私と芳乃を見比べる。

 

「私は川口息吹よ。このセクハラしてるのが妹の芳乃」

「双子なんだ〜」

「へぇー、初めて見た!」

「双子なのね」

 

その後、詠深と珠姫も自己紹介して、準備運動に入る。と、待ちきれなくなった稜が内野へ踏み入れる。

 

「おーい、誰かノック打って!」

「こら!稜ったら勝手に入ったら怒られるわよ!」

 

そう、ここの設備は停部だったとは思えないほど綺麗にされており、トンボもきちんとかけられているのだ。

 

「あーあ…せっかくグラウンド綺麗にしてくれてるのに」

「一連の不祥事には暴力沙汰も含まれてるらしいし、おしりバットくらいは覚悟しないと」

「……!」

 

流石に原作で岡田怜パイセンと藤原理沙パイセンがいい人たちなのは知っているが、それでも冗談としては良くないよ、詠深。

 

「停部まで食らってるんだし流石に改善されてるはずだけど…その代わり腕立てやスクワット100回とかはあるかもね」

 

野球部の厳しい上下関係。あるあるだけど…現実的過ぎてそっちも怖いよ!?

私たち4人がストレッチをしながらそんな話をしていると、菫はグラブをはめる。

 

「ったく、仕方ないわね」

「菫ちゃんも行くんだ」

「こういうのってどうせ連帯責任でしょ」

 

どうせ怒られるならやった方が得である。

 

「じゃあ私が打ってあげるよ」

「もー、芳乃まで」

「芳乃ちゃんノック打てるんだ」

「まぁ、私たちは遊びでやってたし、多少はね。道具もそこそこ家にあるのよ」

「へぇ」

 

カキン!

 

決して課金!課金!という音ではない。

芳乃のノックを遊撃手の位置についた稜がダイビングキャッチして一塁にいる私へ送球する。本当はファーストミットだといいのだが、別にサード用に買ったポケットの深いグラブで受ける。

 

送球は私のグラブに吸い込まれた。私はキャッチャーの珠姫へ山なりのボールで返す。

 

「へぇ、上手ね」

「だろ?見直した?」

「は?芳乃(あのコ)のノックのことよ」

「なっ!?」

 

うん、二遊間漫才、面白いよね!

 

「次、菫ちゃん(セカンド)!」

「来なさい!」

 

丁寧にゴロを処理して、私へ送球。稜の荒々しい送球に比べて丁寧で捕りやすい。

 

「菫のプレーは上品過ぎるんだよ!つまんねぇ」

「アウトが取れればいいのよ。(あんた)の送球は雑で中学の時何回悪送球したか覚えてるの?」

「えーと、公式戦だけなら2回だぜ?」

「そうね、でもあんたの送球で一塁手(ファースト)失策(エラー)になった数入れたら?」

「覚えてねぇよ!?」

「5回よ」

「うっ…」

「いい加減チームプレーを理解した方がいいわ」

 

その後も改善の余地はなかったが、怪我をした稜を気遣う菫。この掛け合いも、もしかしたら彼女たちなりの愛情表現なのかもしれない。

 

そんな時、詠深がネット越しにこちらを見る2人を見つける。

 

「先輩が来たっぽいよ」

 

詠深の言葉に、みんな直ぐに駆け寄る。特に元運動部組は早い。

 

「こんにちは」

 

全員で声を揃えて挨拶をする。

 

「こんにちは。2年生の藤原理沙です」

「岡田怜…です」

 

う、理沙先輩、かわいい…こんな彼女が欲しいです…!みんなも分かるよね?ね?

 

「お待ちしてました、先輩!早速一緒に…」

 

バチッ

詠深が怜の手を取ってグラウンドに引こうとする前に、手を振りほどかれる。

 

「私たちは別だから」

「えっ」

「あなたたちのお遊びに付き合うつもりはないから」

 

キレてる二遊間を珠姫が宥める。そして、怜先輩、あなたは既に芳乃にロックオンされてますから…逃げられないですよ。特性かげふみですからね。

 

「ここの野球部って以前は結構強かったの」

「1度全国にも行きましたね!」

「でもここ数年結果が出なくて…練習やしごき、上下関係も厳しくなっていって、私たちが入った頃は最悪だった。それがある時度を越してしまって、対外試合禁止、活動自粛。そのあとみんな辞めたり転校したりして、2人だけになっちゃった」

 

理沙先輩の説明に、一同が重い空気になる中、菫が口を開いた。

 

「先輩たちはなんで残ったんですか?」

「新入生が入ってくるまで廃部にならないように、籍だけは残しておいたんだ。最後に役立って良かったよ」

「最後にって…じゃあ先輩方は…」

「停部中、私たちはクラブチームの練習に参加させてもらってたんだ。大学とかでやり直すためにも、これからもそうするつもり。今後は新入生で新しい野球部を作ればいいよ」

 

それだけ言うと、怜先輩はグラウンドの外へとネットを潜ろうとする…が、詠深が引き止める。

 

「先輩!私の球、打ってみませんか?部存続のお礼の意味も込めて…あっでも、真剣勝負ですよ!ねっ、タマちゃん」

「う、うん!」

「…わかった。そういうことなら」

 

先輩2人が練習着に着替えてきて、準備運動をして、いざスタート。

 

「外野適当に入って!理沙先輩も!」

「はーい」

 

私はとりあえずセンターに入る。正直な話、原作の息吹と私では既にステータスが違う。今の私なら、原作の打球でも捕れるはず。頑張って理沙先輩にいいとこ見せちゃうぞ〜!かわいいは正義だからね!年上も年下もかわいかったら守備範囲だよ。

 

「外野に強い当たりが出たら私の勝ち。それ以外はそっちの勝ちでいいよ」

「サービスいいですね」

 

なんだかんだ言いつつも、怜先輩は走攻守全てにおいて高いレベルの名中堅手(センター)。強打者だ。

 

初球は外いっぱいのストレート。だが、怜先輩は手を出さない。

2球目低めにあの球。右打者にとってあの球は顔面に来るように見えて、それから急に落ちつつ逃げていくボールであり、とても打ちづらい。空振りでストライクツー。

3球目は直球外角低めでボール。際どいコースで、球審によっては手が上がるコース。カットも視野に入る球だったが、あの球を意識し過ぎて手が出せなかったのだ。

カウント1-2。

 

「先輩!この勝負…負けた方がなんでも言うこと聞くってどうですか?」

「は?」

 

「まああの子、完全有利になってから賭けを持ち込むなんて…」

 

理沙先輩、同感です。せこい。でも…

 

「いいよ…でもそう簡単にはいかないよ」

「やった!」

 

怜先輩なら受ける。なぜなら彼女も…

 

「ったく…何があんなに楽しいんだか…」

「中学の時いなかったんです。あの球を捕ってくれる捕手(キャッチャー)が。だから投げるのが楽しくて仕方ないんでしょうね」

「…そう」

 

詠深の今の投手としての力量と、怜先輩の今の打撃力はほぼ拮抗しているだろう。あの球も多少見られているし。だからこそ…この勝負は意地の強さの違いが勝敗を決するだろう。どちらが勝っても同じ結末だろうに。

 

詠深のあの球を完璧に捉えた打球は右中間へ。伸びて伸びて…タイミングはギリギリだ。私はダイビングキャッチを試みる。

 

「っ!」

 

私のグラブの先に収まりかけたが、内野用のグラブでは短かった。失策(エラー)

 

「息吹!ナイスファイト」

「見直したぜ」

 

菫と稜が私を支えて立たせてくれる。

 

「…」

「ヨミちゃん…」

 

詠深と珠姫はお通夜ムード。だけど…

 

「捕っていた、私なら」

 

ハッとして近くにいた詠深たちが怜を見る。

 

「センターフライ。勝ちだよ、そっちの。いい球だった。悪かったよさっきは…お遊びなんて言って」

「そんな…」

 

怜の謝罪にキレてた二遊間も納得したようだ。

 

「それより怜先輩。私たちの勝ちらしいので、お願いがあるんですが」

「えっ」

「一緒に野球をやりましょう!出来たら主将(キャプテン)もして欲しいな」

 

詠深の言葉に、怜先輩は少し微笑んで…

 

「いいよ。けっこう厳しくいくからね」

「はい」

「そうこなくっちゃな」

「理沙もそれでいい?」

「もちろん」

 

だが、そこで詠深は後回しにしていたことを思い出す。

 

「ところでタマちゃん…打たれちゃったね……息吹ちゃんにも単打くらい打たれちゃったし…実は私の球大したことないのでは」

「そんなことないよ!誰か打ちたい人!」

 

というわけで…

 

稜 三振

菫 三振

理沙先輩 内野ゴロ

 

「ね…怜さんが凄いんだよ」

「それにね…」

 

理沙先輩はヘルメットを取りながら詠深達に話しかける。

 

「怜ったら気になってずっと見てたの。本当は会えるのを楽しみにしていたのよ」

「余計なこと言わないで!」

「それで研究されてたんだ」

 

理沙先輩の暴露に、怜先輩…主将は顔を赤くする。

 

主将(キャプテン)として最初の命令を与えねばならないのを思い出した…先輩より先にグラウンドに入った罰としてグラウンド20週!」

 

とばっちり、または八つ当たりに近いが、それが上下関係というものです。

え?息吹ちゃん体力大丈夫か?ええ、鍛えてますから!

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