【完結】川口息吹は憑依転生者な器用貧乏だけどかわいい   作:風早 海月

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第3話 アベレージヒッターとコピー投法

今日も今日とて練習です。

 

選手7人、マネージャー1人の計8人に増えた新生新越谷高校野球部。練習はよりハードになっていた。原作とは違い、そこそこは鍛えてあったことと、前世の野球部経験もあって、なんとかついてはいけている。

あ、そんなことより、とうとう練習着買っちゃいましたよー。短パンで膝を擦りむきそうなのが怖いのでニーソ履いて誤魔化す。ちなみに、バットとグラブも新しいのを買っちゃって、本当に金欠になりました。芳乃から借りて何とか…なった?キャッチボールくらいは新品のグラブ、ハードな練習は前のグラブという感じに使い分けて、新品のグラブを手に馴染ませつつ試合用にする予定です。バットはメイプルの木製バットを自分好みに作ってもらったものを2本調達して、これまでのと合わせて3本。木製バットは折れる可能性もあるからローテーションで使い回す。まぁ折れるような使い方はする気ないけど。

 

 

さて、練習もさることながら、野球経験者へ勧誘をかけに回っているけど…いやー、どんだけ野球部評判悪いのよ。

ま、今日あたりあの2人が来るから…そこまで心配いらないけどね……って言ってるうちにほら。詠深が2人を連れてきた。

 

「みんな〜!入部希望者だよ!」

「歓迎するよ!」

 

芳乃の小さいハーフツインテが揺れる。未だにあれが動く理由は分からない。一塁側ベンチの前にみんな集まってくる。

 

「主将、あまり威圧しないでくださいよ」

「わかってるよ」

 

菫が主将に釘を刺す。前科ありだからね!色んな意味で。

 

「コホン…主将の岡田です。2年生。ポジションとか適当に自己紹介お願いします」

ニコッと笑うが、どこかぎこちない主将の笑顔。

 

「おっ、大村白菊です…中学までは剣道部で、野球は初心者ですのでポジションとかはまだ…」

「剣道かぁ。なんでまた野球部に?」

 

詠深はバットを正眼の構えにとる。

 

「いえ…個人競技以外もやってみたくて……」

「剣道かあ、いいねえ!さすが鍛えてるね!」

 

芳乃の安定の太ももまさぐり。本当にあれでなんでも身体のこと分かっちゃうんだからすごいよねぇ…

 

「次そっちの子いい?」

「はぁ……」

 

さて、本命ktkr。彼女こそが新越谷高校野球部の4番を背負う運命の者……

 

「中村希…一塁と外野してました。でもここに入部する気は―――」

「中村ってもしかして左打ち?」

「えっ…うん」

「おてて見ていい?」

 

芳乃にロックオンされて逃げ切れるわけが無い。そういう運命。……いや、CP的にはこの2人なんだけどさ。

 

「やったぁ。新越谷(うち)、左1人もいないんだよ。新しい豆!春休みもバット振ってたんだ」

「始まったわね…」

 

芳乃が希の手や体を触りながらあーだこーだ言っている間に理沙先輩と二遊間の3人が打撃練習(マシンバッティング)の準備をする。元々今日の練習メニューだったので、体験入部にちょうど良いと考えたのだろう。

 

「芳乃、それくらいにしときなさい。それより、せっかく理沙先輩たちが打撃練習の用意してるから、体験入部ってことで打ってみるかしら?」

「いいんですか?」

 

理沙先輩はマシンの点検をしてから白菊に近づいく。

 

「着替え持ってる?」

「ハイッ!」

「部室はあれね」

 

主将が部室の鍵を希に預ける。

ちなみに屋内練習場も部室の近くにある。雨天の時はそこで練習。本当に昔は強豪だったことを伺わせる設備だよね。

 

 

 

 

さて、2人が着替えているうちに今の私は―――

 

「珠姫、せっかく防具着けてるならちょっと座りなさい」

「え、息吹ちゃん投げれるの?」

「ま、芳乃のおもちゃとして色んな選手の真似してきたし…」

 

前世でも投手(ピッチャー)も出来た。

 

「それに、暴投すら止めてくれるんでしょ?」

「あはは…」

 

苦笑いしながら珠姫は体感で18mちょい離れて座る。

 

「肩は大丈夫?」

「さっき芳乃とキャッチボールであっためといたわよ」

「よし、じゃあこい」

 

珠姫がミットを構える。

 

私は《詠深》をコピーする。

ワインドアップからの投球。

球は―――

 

「ッ!!!?」

 

珠姫は驚きつつもミットに球を収める。

 

「きゅ、球威は劣るけど、完全にヨミちゃんの『あの球』だ…」

「次行くわよ」

 

今度はプロで活躍する有名な潜水艦(サブマリン)投手のコピー……

 

下から伸びていく球は再び珠姫のミットに吸い込まれた。

 

次はクイックモーションの上手い人のコピー……

 

「す、凄いよ!こんなにいろんな投法で投げられるなら実戦でも十分通じるよ!」

「そ、そう?」

 

珠姫は全国区の捕手(キャッチャー)だ。彼女が通じると言うなら通じるのだろう。

私たち川口姉妹は観察力が高い。それを自分の身体に反映できるのが私…息吹で、頭に反映できるのが芳乃なのだ。その結果、芳乃は異能レベルで身体を触ったり見るだけでプレースタイルやら何やらまで全部分かるし、私は他人のプレーを見るだけで真似を出来る。どっちが凄いかという話ではないが、これは私たち双子に与えられた才能(ギフト)で、前世の記憶と合わせて川口息吹という存在を特別なものとしている。

 

ま、そんな才能なくても、私の息吹ちゃんかわいいから問題ないけどね!

 

「でも球威は足りない…のよね?」

「まぁ息吹ちゃんは体格が細身だし身長も平均的…速球派にはあまり適性なさそうだから仕方ないよ」

 

女子の成長期は中学が最盛期。高校で変わるとしたら大人びた身体付きになるくらい。身長や筋肉が増えるわけではない。3年生の方が鍛えられてる期間が長い分強い人が多いってくらいで前世の男子のような成長期による格差は少ない。

つまり、私が速球派の重い球を投げる適性はほぼ皆無に等しいということだ。

 

「それに、真似が出来るってことは打撃投手としても―――」

「打撃投手はやらないわよ!……ごめん、でも、打撃投手は勘弁して。やるとしても18.44mのマウンドから投げさせて」

 

打撃投手はほとんどの場合18.44mよりも近い位置で投げさせられる。いくら()のせいではないとはいえ、自分を殺した立ち位置には抵抗がある。

 

「う、うん…………」

 

珠姫と私の間に気まずげな空気が流れる。

 

「……あ、2人とも着替えてきたみたいだよ。戻ろっか」

「そ、そうね」

 

少し強引に珠姫が打撃練習の方に話を逸らしたことで、とりあえずその場は流れる。ごめん、珠姫。

 

 

 

 

体操着に着替えた希と白菊が戻ってきた。

 

「経験者の中村さんから打ってみましょうか!」

「頑張れ〜」

 

希は両手にバッティンググローブをはめて、ヘルメットを被って、オープンスタンスに近いスクエアスタンスで構える。マシンバッティングは投手の投げた球とは違うものの、球速は県内最速の久保田選手に合わせられている。…いや、稜が勝手にやったのだが。

 

「おねがいします…」

「じゃあお手並み拝見といくかぁ」

 

稜がマシンに球を入れる。そして、飛んで行った球は……

 

カーン!

 

芯に当ててマシン前のネットに当てる。

 

「すっ、凄いじゃない、中村さん!」

「別に…バッセンでマシン慣れとーけん」

 

その後も全て芯に当てて保護ネットに当てる。

 

「何者なの…?」

「全部芯でとらえてる」

 

一歩引いて見ていた珠姫と主将も驚きに包まれる。

 

「しかも全部ピッチャー返し…狙ってやってるんだ」

「ボール拾い楽でいいわね」

 

外野の方まで飛ばされるとたった数球のために取りに行かなければならない。グラウンドランニングの時はそんなに徒労感ないのに、何故かボール拾いのために端まで行くのは徒労感あるのだ。

 

「中村さん!!中学はどこのチームだったの!?」

「箱崎松陽……福岡」

 

福岡と言えば…とんこつラーメン食べたいわね。邪道だけど、明太子入れて食べるのが前世からの好物だ。

 

「福岡…野球大国!」

 

詠深の言う通り、福岡はプロ野球のお膝元でもあり、野球が盛んなのだ。

 

「道理でチェックリストにいないわけだよ。まさか野球留学生?」

「ち、ちが……」

「驚いたな。新越谷(うち)がまだ越境組を取っていたとは……」

 

芳乃と主将は野球のために越してきたと思ったみたいだが、ここに来たのは本当にたまたまなのだろう。運命という名の。芳乃のヒロインだしね!…芳乃がヒロインなのかな?……どっちでもいいか。

 

「ち、ちがうよ。埼玉に来たのは親の仕事とかでたまたまで…ほんとは全国目指せるとこで野球したかったっちゃけど……でも、ここの野球部のことよく調べんで入ったけん、入部する気は……中学のみんなと約束したのに……全国で会おうって」

「全国……」

 

この人数じゃあ確かに現実味はないけど……でも、そこまで弱い認定されたら傷つくなぁ……いや、実際、詠深の球も打てなかったんだけどさ!

その言葉に主将は最も実績のある珠姫にわざとらしく声をかける。

 

「ガールズで全国経験ある珠姫はどう思う?」

「私に振らないでくださいよ…」

 

そう、玉は揃っているのだ。

実績のある人だけでも、ガールズ全国区の珠姫、全国には届かなかったものの中学でも成績を残した主将、そこそこ強い中学の二遊間……

実績がなくても、詠深はピッチャーとしては全国目指せるレベルにあるし、芳乃のマネージメント能力も高く、理沙先輩のパワーはそれこそ全国区。

私以外はそこそこ強いのだ。かく言う私も原作よりは鍛えているし…けが人さえでなければこの人数でも戦える。試合中けが人出たら芳乃つっ込むしかないけど。

 

「ここは参謀の芳乃ちゃんが」

 

そして、珠姫はそのまま芳乃にスルーパスを送る。芳乃の分析力は恐らくプロの野球解説者よりも高いだろう。

 

「このチームのレベル…?うーん、2人が入ってくれたとして……決勝進出も有り得るかもね」

「またまたぁ」

「それはなめすぎじゃないかしら?」

 

菫の自虐とも取れるセリフに、芳乃はずいっと顔を近づける。ほんと、芳乃のパーソナルスペースの狭さには驚きだよ。部屋はやばいけど。

 

「なめてないよ?そっちこそ自分を過小評価するのも良くないよ」

「そ…そうね」

「もっとも、3か月みっちりと練習して、組み合わせとかの妙があったらの話だけどね」

 

……そういえば芳乃の分析上がってない?まさか本当に私が鍛えてるのバレてる?

 

「じゃ…じゃあ1年後はどうなるかいな!?」

「そんなに先のことはわかんないよ」

「優勝できるっちゃうと?」

「他の学校の事情も変わるし…」

 

打撃練習エリアから希は離れつつ芳乃に食らいついている。

そのうちに理沙先輩は白菊にバットやヘルメットなどを渡して、打撃練習に入る。

 

「大村さんは初心者だったよね。スイングとか大丈夫?」

「はい…一応」

 

理沙先輩は頷いてエリアから出る。そして、白菊はスクエアスタンスに構える。

 

「お願いします…」

 

白菊がバッティングすることに気付いた芳乃と希もそちらを見る。

稜がボールをマシンに入れる。そして放たれたボールは…

 

ィィン!!

 

凄まじい大振りで豪快で速いスイングに芯で捉えられて外野側フェンスの上の方に当たって落ちた。

 

「バットに当たりました!すごく良い感触…」

 

その光景と白菊の言いように一同にどよめきが走る。

 

「嘘……」

「当たったってもんじゃないわよ!?」

「キャー」

 

ちなみに黄色い声をあげているのは言わずとも分かると思うが芳乃だ。

 

「次、お願いします」

 

それからは1回も当たらずに空振り。稜がトスをあげてくれてもそれにも当たらない。

 

「なんだ、さっきのはマグレか…ほれ」

「そのようです…」

 

そこで私はみんなにネタばらしをする。

 

「大村白菊さん…さすが、去年の中学剣道全国大会優勝者ね。親が剣道の道場で師範をしている…道場の娘。長物を振るのは慣れてるのね。あとは飛翔する物体に当てられるようになれば立派なホームランバッターよ」

「すげー」

「でも、そんなに強いのに続けなくていいの?」

 

稜と詠深が詰め寄る。予想外の人材なのだ。

 

「元々は野球がしてみたかったんですよ」

 

剣道で1位になれたらっていう条件で、クリア出来たところがこの子の異常性を掻き立てるわけよ。

 

「というわけで、高校からですけどよろしくお願いします」

 

そこに詠深も見せつけるようにあの球を投げ込む。

 

「2人の打撃力でガンガン援護してね」

 

本当に…正直なところ指名打者で芳乃を入れたいと思えるくらいの打率しかない詠深だからね…指名打者制ないけど。

 

「いいよ…でも入るからには…一緒に目指して欲しいっちゃけど、全国を」

 

芳乃、尻尾…じゃなかった、ツインテバタバタ邪魔だから。今いい場面だから。邪魔せんといて。

 

「それから!白菊ちゃんには負けんけんね!」

「えっ!?え〜〜」

 

初心者と張り合ってどうするよ。

 

「人数も揃ったし」

「チームの目標も決まったな!」

「よ〜し!全国目指そ〜!」

 

「おー!」

 

全国。その言葉の重みを唯一知る珠姫は複雑な表情を浮かべている…が、まぁこの件に私が関わっちゃダメなところだから放置放置。

 

「タマちゃんどうしたの?こっちおいでよ」

「う…うん」

 

 

「目指せ全国たい!」

「ばかにしとーと?」

「よかよか」

「使い方間違っとーし!」

 

 

 

よし、私もより一層投げ込まないと…もうバレてるだろうし庭で投げ込んでもいいかな?あとは色んな投手の映像みてレパートリー増やさないと……

 

 

 

 

 




ごめんなさい、オリジナル部分加えたらちょっと長すぎちゃった…

しばらくは原作とほぼ同じルートを辿ります。分かれるのは…とりあえず試合開始後ですかね…

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