【完結】川口息吹は憑依転生者な器用貧乏だけどかわいい 作:風早 海月
シンデレラにかけられた一夜だけの奇跡。
そんなおとぎ話のような魔法にかかったかのようなナイターゲーム。
新越谷の大勝…と言っていいのか分からないが、とにかく大差で終えたあの試合から翌日。
3回戦の相手が決まった。
「星光学院…」
「熊谷実業みたいな強打のチームだけど、熊実より守備もそれなりにできるし、打撃力に限っていえばベンチ入りメンバー全員が最低でも主将や光先輩クラス相当だよ」
今大会優勝候補ランキング的には、最上位にランキング付されるほどの伝統校だ。美波をはじめとする強打者揃いの高校で、近年はプロ野球選手輩出も多くなっている…一時期では1年で3人や4人も支配下契約を交わした時期もあったほどに。
「今年の星光学院のキャプテンは伝説の再来とまで言われてる超強打者だったな?」
「はい。楠川由梨さん、背番号6でポジションは遊撃手です。右投両打で、右投手相手には左打、左投手には右打を使います。高校通算本塁打は今大会含めて既に99本で、次に1本打てば伝説の再来となる100本塁打に到達します」
「うわー、マスコミは今回ばかりは敵になるわね」
「話題性としては11人+3年生無しっていうのもあって、世論的には同情的だったからな…3年生最後の夏で通算100本塁打がかかった試合…球場のムードはあちら有利か」
「それはいつも通りでしょ…って言いたいけど、バックスタンドの一般観客席のムードって結構来るものね…」
私は主将の予想に肯定を返すと、ズーンとした空気が広がる。
打撃の名門とはいえ、投手陣ももちろんそれなりに育成はしており、サウスポー2人を含む5人に背番号を与えている。
大体にして、熊実よりも強打で守備も堅いメンツとか上位互換やん。久保田さん泣くで!
さて、試合は10日目…16日の第二試合。
第一試合が9時からなので、恐らく11時半前後から。
真昼間の試合は日差しが痛いので、UVカットの白いアンダーシャツやレギンスで肌を保護しないと…あ、日焼け止めは忘れずに!
女子たるものいつでも美しく、よね。まぁ流石に汗かくから化粧は出来ないけど。
私たち新越谷の選手たちは思い思いの方法で身体を試合に向けていく。
例えば…
詠深は軽く投げ込み。
2年生組は素振り。
菫はアップをするだけで、後は身体を休める。
などなど。
私はと言うと…稜と白菊と3人で流しそうめんの竹を制作していた。
15m級を作るので、かなりの重労働だ。ちなみに、応援に来てくれてる他の生徒たちも各々手伝ってくれており、合計15m級が5本できる予定。
野球部のメンバーのために1本貸切にしてくれるという話なので、せっかくなら自分たちで作ろうという話に。
まずは、鉈と木槌で竹を半分に割ります。
長いので足場用も含めてそこそこ必要になる。でも、『竹を割ったよう』という言葉があるように、結構割れやすくてびっくり。
続いて割った竹のうち、水を流す竹の節を取り除きます。
節はまずは金槌で叩き、その後グラインダーやヤスリなどでなめらかに削っていきます。長くて数が多いので、根気のいる作業。ついでに、割った部分もヤスリをかけることで素手で触っても危なくないようにする。
次は土台作りです。今回は土台用の竹を麻紐で結いて作ります。
ここで実力を発揮したのが白菊。
「白菊って意外とこういうの上手いわね」
「うちでやってました!」
「そういや白菊の家って剣道の道場だったな!」
「イベントとかやる方が小学生とかの入門者は増えますから」
ゆったり食べれるように、角度は少し緩めに。
その後、流す部分を洗って土台に設置します。
ここで大事なのが設置場所。排水を考えて、水が落ちる場所を調整する。今回は排水溝に水が落ちるように配置した。
「おぉー!すげー!」
「これだけ長いのだと壮観よね。暑い中やったかいがあるわ」
汗を拭って、スポドリを飲む。汗をかいている時は塩分も補給しないとダメ。
熱中症対策は入念にしており、作業していたスペース部分には巨大なタープのような屋根を設置しているので、直射日光を避けられている。それでも、暑いものは暑い。
……真夏の薄着の女の子がキラキラ光る汗を流してるのって、なんかこう……くるものがあるわよね?ね?
それが光ちゃんならもう我慢出来ないかも…?
まぁそんな冗談はともかく、今は
特に、女の子の場合は月のものの周期も絡んでコンディションが崩れるのは良くあること。というか、好調な時なんて月に1週間ほどもないかもしれない。
うん、前世の世界で女性の社会進出が難しい理由がこの体のおかげで身に染みて理解させられてます。というか、確かにこれならレディースデーとかそういう特典があってもいいと思うわ。
……この世界じゃ女の子しかいないからそんなものないけどさ。
ともかく、この流しそうめん大会で精神面での調整を図る狙いもその点にある。
遠回しに表現するのが大変なので率直に言うと、次の試合、我が新越谷の誇る頭脳芳乃の評価で、メンバーの平均コンディションが最悪に近い状態となる予想なのだ。
プロ選手なら低用量ピルなどで周期コントロールやPMSや月経痛などの軽減を行う人が多いものの、高校野球では禁止されている。
そのため、周期が微妙に異なる選手たちを把握して適切な運用を行うのは監督やマネージャーの腕の見せどころとまで言われており、高校野球特有のノウハウを擁している。
さて、竹の準備が出来たのを確認した私と稜と白菊の3人は、家庭科室に移動する。
学校の家庭科室は、実は普通の厨房よりもコンロの口数は多いことが多い。
応援に来てた子達と一緒に大量の寸胴をコンロにかけて、そうめんを大量に茹でていく。
「そうめんのゆで時間ってどんくらいなんだ?」
「この乾麺だと1分半よ」
「ワクワクします!」
十数分で予定の量を作り終え、お昼ご飯…流しそうめん大会の準備が完了した。
「すごい…これ、息吹ちゃんたちが作ったんだよね…」
「まぁ白菊が手馴れてたからね」
「ほう、これはすごいな」
「そうね〜。これは食べがいあるわ」
2年生3人組が何故か私を囲みながら、流しそうめんの評価をする。
「主将と理沙先輩は流すとしたら、さくらんぼとみかんどっちがいいですか?」
「うーん、私はさくらんぼかしら」
「私もそうだな。みかんは水で流すのはなんかなぁ…」
「それは良かったです。さくらんぼは生ですけど、みかんは缶なので保存できますからね」
時期的に缶詰てもなければ常温保存は出来ない。
とっておいて、後でヨーグルトなどと合わせても良いのがシロップ漬けの良いところよね。
お昼ご飯の時間になったところで、応援の生徒たちを含めて流しそうめんの竹の前に揃う。
ちなみに、右利きなら上流に向かって左側、左利きなら上流に向かって右側…バッターボックスと同じように箸を構える。
「じゃあ時間だし、始めるわよ!」
私は開始の言葉と共に、そうめんを流していく。
野球部員なら取りはぐれることは無いよね?ということもあり、傾斜は少し急で流れが速い。
ちなみに、野外調理でカレーも作っているので、お腹が冷えないように適度に食べてもらう。
……なんか炭水化物ばっかりな気もするけど、お祭りだし、気にしちゃダメダメ。
「トマトもらいっ!」
「あ!稜、それ私が狙ってたのに!」
「トマトじゃなくてミニトマトですよ」
二遊間がミニトマトの取り合いをするのに、真面目に訂正を入れる白菊。まぁ白菊も準備した側だしね。
「やっぱり夏はそうめんが美味いな」
「暑いものね…」
理沙先輩も、体力ある方とはいえ夏バテ気味。
逆に、主将は結構平気みたい。
器用に枝豆を箸で捕らえて食べているのは珠姫。流石キャッチャー?
その隣では、詠深が水を切らずにそうめんをツユに入れて薄くしてしまっているのを見て、芳乃と希がクスリと笑う。
途中で芳乃や光ちゃんや菫と交代してもらって私も流しそうめんを楽しむ。
うん、やっぱりのどごし良い!
そうめんやっぱり◯◯の糸!
「息吹ちゃん、それはさすがにギリギリじゃない?」
うん、光ちゃんは心の声にツッコミを入れないでくれる!?
「息吹ちゃんの考えてることなら、なんとなく分かってきたよ」
喜んでいいのか、ゾッとするべきなのか…
まぁいいか。
私たちは明明後日の10日に合わせていく。
夏らしい入道雲が、近づいている気がした。