【完結】川口息吹は憑依転生者な器用貧乏だけどかわいい   作:風早 海月

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第39話 夏の終わりと世界の扉

翌日再試合となった新越谷と星光学院の3回戦。

リードしたままノーゲームとなったのは惜しかったが、波には乗れてる…はずだった。

 

翌日、雨の日の後の晴天で蒸し暑い中、再試合が行われた。

 

主将は左足の捻挫で全治1ヶ月。ベンチ入りも見送られた。

さらに、詠深の2日連続先発ははばかられて先発は理沙先輩となり、その結果理沙先輩にかかる負担は数倍に。

4番で先発で主将代理。そのプレッシャーは理沙先輩のプレーを阻害。

 

ほかのメンバーも、精彩を欠くプレーであっという間に10点差を付けられ、途中から星光学院側もサブメンバーへの切り替えなどで体力の温存策に。

ようやく試合が終わった頃には21-4の大差で敗北となった。

 

 

 

その後、勝ち上がった星光学院は決勝へ進出。

 

幕鈴学院との最後の1戦に敗れ、準優勝となった。

 

 

 

こうして、私たちの夏が終わった。

 

でも、3年生のいない私たちには、まだ来年がある。

来年こそは、球界に名を残す覚悟を、私たちは誓ったのだった。

 

 

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

 

 

8月23日火曜日。

全国高等学校野球選手権大会の決勝が終わって、その余韻がまだ残っていたその日。

全日本野球協会・日本野球協議会の連名において、U-17桜ジャパン…U-17野球日本代表のメンバー招集候補が発表された。

 

「い、息吹ちゃん。こ、ここ、これ嘘じゃないよね!?」

 

家に帰ってきていた私たち川口姉妹は、テレビで発表を見ていた。

マジか…というレベルの驚きが溢れてのに、頭の中は真っ白という訳分からない状況だった。

人間って、本当に驚くとこうなるのね…

 

招集候補なのは、もちろん事情があって拒否せざるを得ない状態…例えば、主将のように怪我をしているとか…ということだが、何も無ければ基本は行くのが普通。

 

そして、呼ばれたメンバーをもう一度眺める。

 

監督

・長本洋子(総責任者/元東京ヘッジホッグス(監督))

コーチ

・森永梨亜子(ヘッドコーチ/元ブルズ盛岡(選手))

・谷口結美(投手コーチ/室蘭学院高(監督))

・石田茉穂(打撃コーチ/星光学院高(監督))

本メンバー

・岡本美穂(2年/内/左左/旭川学園高/北海道)

・平沢萌恵(2年/内/右右/仙台高/宮城)

・清藤奏子(2年/内/右右/福島大耀高/福島)

・楠川由梨(3年/内/右両/星光学院高/栃木/主将)

・伊藤美亜(2年/内/右右/城東高/高知)

・青木玲奈(2年/内/左両/須崎高/長崎)

・川下楓結(2年/外/右右/柏葉高/千葉)

・川原光(2年/投外/左左/新越谷高/埼玉)

・大野亜由子(2年/投外/左左/大阪桜雅高/大阪)

・睦月久乃(1年/投外/左左/五島高/長崎)

・田崎真智子(2年/投外内/右右/本部海洋高/沖縄)

・山谷彩(3年/投外内/右右/聖カメリア学院高/山口)

・川口息吹(1年/投外内/右両/新越谷高/埼玉)

・宇田川瑠菜(1年/投/右左/葛飾農業高/東京)

・小林依織(2年/捕/右右/梁幽館高/埼玉)

・高槻夜亜(2年/捕/右右/東祥大東祥/神奈川)

・近藤唯(2年/捕/右右/東雲高/茨城)

・石田彩花(1年/内外捕/右右/桜花朔莉高/福岡)

・山崎摩利(2年/内外捕/右右/能登工業高/石川)

 

ツッコミどころは、新越谷から2人も選出されてることもあるけど、まずは監督。

長本洋子と言えば、長年打点王となった後に、プロ野球監督で多数の優勝を経験してからプロ球界から引退して、さらに高校野球の監督を歴任して4度甲子園での優勝を経験した指導者としても優秀な人だ。

さらに、森永梨亜子はプロ野球選手としてこそ短命だったが、長本洋子が高校野球監督をやっていた時の教え子として華々しい活躍をした野球解説者だ。アラフォーの壁が近づく歳なのに、美魔女とまで言われる美貌の持ち主として、球界のアイドル扱いである。

 

という破格の指導者陣に招集された、新越谷の2人。

私と光ちゃん。

まず、私は10歩譲って理解できなくない。

私は未だ防御率0だし、OPSも高い。ジャイロボーラーでホームランバッターという二刀流の話題性もある。

 

それに対して光ちゃんは口汚く言うと、中途半端なのだ。

投手としては、全国レベルでは球威が軽く打たれた時は厳しい。

守備はそこそこ。

打撃は小技使いとしても使えるけど、恐らく打撃だけなら熊実の久保田さんを連れてくるべきだと思う。多分、久保田さんなら星光学院の楠川さんと同レベルで張り合える力はあるはず。熊谷実業戦は味方の好調と敵の守備に助けられた。

 

 

何はともあれ、私は光ちゃんと会うことに。

新越谷東口で待ち合わせ。

 

夏らしく、ちょっと気合いを入れた小洒落た膝下丈の黄色いワンピースにラベンダー色のサマーカーディガンを羽織って白いサンダルで決めている、いわば『夏用勝負服』だ。

 

え?そりゃデートにふさわしい服ならそこそこ揃えてるわよ。

…せっかくのかわいい女の子なんだし、着飾らないと損だものね!イケメンはおじさんになってもモテるけど、おばさんはモテないんだから!若さは武器やで!

 

しばらく待つこと数分。

東武線の方から降りてきた光ちゃんを見つける。

光ちゃんは、アイボリーなブラウスに焦げ茶のロングスカートにポシェットを合わせたお嬢コーデで登場した。うん、カワユス。

 

「ごめん、待った?」

「ううん、さっき来たとこよ」

 

武蔵野線も昔に比べれば本数が増えた…って近所のおばあちゃんが言ってた。

その点、東武線は特に北千住から北越谷まで、私鉄とは思えない複々線で、高速線と鈍行線を分けることによって、交通が密になっている。

 

「こっちよ」

 

私はサンシティの方に向かって歩く。

途中の路地裏に入ったところの喫茶店が私の行きつけ。

王道のものから変わり種まで色々扱ってる喫茶店で、いつも面白い。

 

「マスター、いつもの2つね」

「おや、珍しく連れがいるわね。《コレ》かしら?」

「まぁそんなところかしら。光ちゃん、このバカマスターのことは気にしなくていいわよ。8割聞き流しなさい」

 

マスターと言っても、50前後のおば様であり、からかい好きな変人である。この人の話は2割以外聞く価値はない。

ついでに、いつものと言ってもいつもと同じものが来る訳では無い。

今日は何が出てくるのかな?

 

「はい、今日のおすすめ『ドネルケバブ』とチャイのセットだよ。暑い夏の中、クーラーの効いた部屋で熱いチャイ。これも乙なものよ。ケバブのソースは、甘口、中辛、辛口、ヨーグルトの4種類持ってきてるから好きな分だけかけてね」

 

ケバブはヨーグルトソースに限る。

某砂漠の虎もそう言ってたし。

……意外と機動戦士の中では虎さん1番好きなキャラだったかも。おじ様意外とハマるのよね。この世界のアニメにかっこいいおじ様が出ないのは悔やまれることだ。

 

「それにしても驚きね、U-17の世界大会があるってだけでも驚きなのに、たった20人の中に選ばれたって」

「うん、私は特に突出した成績は残してないから…特に。まぁ息吹ちゃんが選ばれたのは理解出来るけどね。あのジャイロとスプリットと直球を投げ分けられたら、プロの選手でも打てないんじゃないかな」

「あはは…ありがとう。確かに、光ちゃんは球種こそ多い…あぁ、もしかしてストレートのホップアップが大きいからかも。海外の選手のストレートって綺麗なフォーシームは投げないから、逆に上にホップアップする光ちゃんのストレートが目に止まったのかもしれないわね」

「そっか、日本で普通でも、海外だとちょっと違うって大きいもんね。フライを打たせるイメージで使われるかも…?」

 

しかも、光ちゃんの小柄さからくるあの浮き上がってきそうな球は実際の球速よりも速く感じさせ、バットを早く振ってしまうという特性も備えている。オーバースローなのに、アンダースローのような特性があると言えば分かりやすかしら?

 

「このチャイおいしい…」

「そりゃあスパイスの分量からアタシが調整してるからね。アタシの腕は新越谷で1位じゃないかしら」

「結構狭いわね…」

 

もう少し大言したら冗談に聞こえるのに、この人がこの規模のことを言うと冗談に聞こえない。

 

「チャイ以外にもいろいろここの店はおいしいわよ。まぁマスターの気分によってメニューは変わるから毎回確認しないといけないのだけど」

「あんたはそれが面倒くさくて、『いつものおまかせ』よねぇ」

「シナモンは嫌いだから除いてもらってるけどね」

 

シナモンの匂い嫌いなのよね。

チュロスとかも、シナモン使ってるの多いから食べないようにしてる。

 

「とりあえず、光ちゃんはどうする気なの?まぁ受けるつもりなんでしょうけど…」

「うん、こんな機会滅多にないし、ね?息吹ちゃんも行くでしょう?」

「まぁ…ね」

「何か用意するものってあるのかな?」

「パスポートは取らないとダメでしょうね…ビザとかはいらないと思うけど」

 

あとは、その大会のルールをよく見ないと。

まぁ甲子園より厳しいことはないと思うけど。

 

後は木製バットを1本折ってしまったので、その替えを買わないといけない。というか、海外では日本のバットを入手するのは困難なので、予備も買っていかないといけない。

 

「ってかバットって金属製使えるのかしら?」

「どうかな…多分なしだと思うけど…」

 

金属バットなら折れる心配がないので、最悪の予備としても利用出来るのに…

 

後必要なものと言えば…

 

「確か、オーストラリアでの開催だったわね。冬明けから春って感じの時期だから、脱ぎ着しやすい服を中心に見繕わないと…」

「そっか…気候も違うんだもんね。息吹ちゃん、服買いに行く時には一緒に行かない?」

「ええ、そうね…とりあえず、明後日の招集の説明会があるから、その後の方がいいわよね。その日早めに終わったら、レイクタウンででもどうかしら?」

「うん、大丈夫だよ」

 

 

 

この時、私はまだ光ちゃんの笑みが黒いことに気づかなかった…

 

 

 




バッサリカットしていましましたが、甲子園編はこれにて終了となります。
この後は世界大会編に突入します。
世界大会編が終わったら、春季に移っていく予定ですので、よろしくお願いします。
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