【完結】川口息吹は憑依転生者な器用貧乏だけどかわいい   作:風早 海月

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第46話 交流

U-17国際平和記念野球大会の本戦グループリーグは10月29日の開会式後、各グループリーグはおよそ1ヶ月に6試合試合のペースで行われている。その試合間隔はおよそ5日~6日で、抽選時の集団が上位であればあるほど試合間隔に便宜が図られる。日本は第1集団なので、中10日近い試合間隔が得られている。

 

逆を返すと、日本は初戦スタートなのだ。

 

10月31日、Hグループの初戦。

日本対パナマが夕刻から始まった。

 

オーストラリアの紫外線の強さは尋常でない。春のこの時期でも東京の夏より強いとも言われるほどには、オーストラリアの紫外線はバカにできない。

そんなわけで、この大会ではナイターを基本とすると大会要項に記されている。

試合開始は17:00である。

 

試合間隔の話があったので、投球制限についても触れる。

 

アジア予選では50球で中4日、100球で中10日の投球制限が課せられるという話はした。

本戦においては少し違う制限がかけられており、30球で中3日、60球で中5日、90球で中7日の制限となっている。最大投球数には制限はかけられていない。

日本はグループリーグでは3試合の間には11日の中日があるので、投球制限は無視して投手を起用できる。

 

 

そんな日本のオーダーがこんな感じ。

 

1 青木玲奈(一)

2 平沢萌恵(二)

3 岡田怜(中)

4 楠川由梨(遊)

5 岡本美穂(指)

6 穴吹芽衣(左)

7 清藤奏子(三)

8 山崎摩利(捕)

9 藤堂雨音(右)

投手 大野亜由子

 

岡本さんは久々のスタメン。

怜先輩も足を活かせる3番。

平沢さんも上位打線での出場は久々か。

捕手は打撃好調の兼任捕手の山崎さんがスタメンマスクを被る。

 

この日は継投での完全試合と、打撃が重なり、26-0で勝利する。

 

なお、1試合3本塁打を放つ活躍を見せた楠川さんと、代表初本塁打を放った穴吹さんの星光学院アベック砲が炸裂。

さらに新越谷の打点マニアこと怜先輩も5打点をマーク。光ちゃんと私も代打で途中出場して、光ちゃんは2打点。私はと言うと…敬遠2回とライトフライという残念な結果に終わった。

 

とはいえ、大事な初戦に大勝した私たちは中11日後の11月12日まで時間があった。

練習会場として抑えてあるこじんまりとした球場での練習はこれまたやはり夕方から。昼間は自由時間である。

 

「2人とも…いいの?怜はともかく、私邪魔じゃない?」

「それを言ったら私も邪魔だと思うんだが…」

 

私、光ちゃん、怜先輩、楠川さんの4人でメルボルンの街に繰り出していると、ふと後者2人がそんなことを言い出した。

 

「別に気にならないですよ。公衆の面前でもこっちはベッタリですもん」

 

光ちゃんはと言えば、そんな2人の言ってることすら聞いてないほど私の腕にベッタリとくっついている。そんな光ちゃんに鬱陶しさは感じない…というか、私もこれはこれで嬉しかったりする。

 

それに、こんな状態の2人で海外を歩くのはさすがに怖い。

 

あノ(あの)もしかすてだげど(もしかしてだけど)にぽんのぉだいひゃう(日本の代表)?」

 

そんな話をしていた時、たどたどしい日本語で話しかけられた。

振り返ると、小柄で小麦色の肌をした美少女がいた。ミクロネシア系かな?ってことはパラオの人?

髪も綺麗だし、スリムな体型からは足の速さが伺える。

 

光ちゃんが不機嫌そうに抱きついていた腕の力を強める。ごめんごめん、浮気じゃないから。手は出さないから。

ちょ、痛い痛い。

 

「もしかしてパラオの代表ですか?日本語お上手ですね」

ぼぁちゃんからぁ(ばあちゃんから)おすえてもらったよ(教えてもらったよ)

 

楠川さんが日本語を褒めると、おばあちゃんが教えてくれたらしい。この子のおばあちゃんの年代的には、ギリギリ日本の統治下で教育を受けてたのかも。

 

そえに(それに)あたらのこと(あなた達のこと)やうけしらへた(よく調べた)くすこわ(楠川)おきだ(岡田)かうぇはり(川原)、ジャイロん人…うー、わすえた(忘れた)

「川口息吹よ。あなたは?」

わし()、ユキ=マツイ=ヒロコ。ヒロコがめーじ(苗字)なの」

 

何故か、パラオの人達の苗字は日本人の名前が多い。そして、名前も日本人らしい名前をつけることも多々あるらしい。日本人っぽい名前でも、純粋なパラオ人ということも結構あるらしい。

 

さいすーせん(最終戦)たのすみにまっとれよ(楽しみに待っててよ)にぽん(日本)よくしらへたから(よく調べたから)

 

パラオと日本の試合はグループリーグ最終日。

よく調べた…つまり、かなり研究しているのだろう。

 

「私達も全力でお相手しますね」

 

楠川さんはそう返した。

気を引き締めておこう。それに、次は強敵台湾だもん。

 

と、ヒロコさんが去っていった直後、またしても声をかけられる。

 

『失礼、日本代表の主力たちだね?ワタシはアメリカ代表のフィーネ・アルテラだ』

 

大人っぽいアルトな英語。振り返ると、怜先輩位の身長に引き締まった肢体、そして何より特大の『おもち』が…痛い、光ちゃん、痛いから!光ちゃんのちっぱいもありだと思ってるからやめて!うぅっ!?

 

「く、楠川さん…」

 

ちなみに、私に本場の英語のリスニング能力は皆無。故に彼女が何を言っているのか分からん。

唯一の3年生で、頭も良さそうな姉御に期待を託す…!

 

「ご、ごめんね。私、スポーツ推薦なのよ。察して?」

 

オーマイガー!

我らが新越谷の主将は…と振り向くと、冷や汗を流してる怜先輩。くっ、あとがない…

 

『日本代表の川原光です。私たちに何か御用ですか?』

 

流石光ちゃん!頼りになる!

で、なんて言ったの?

 

『なに、この大会で1番の強敵だと思う日本の主力が目に付いたのでね。どんな子か見に来たんだよ。日本の子たちは童顔が多いって聞くけど、本当に小学生位の子かと勘違いしそうになるよ。あぁ、もちろんかわいいって意味でね。

そんなことより、是非日本の野球の考え方を教えてくれないかい?日本の野球は見ていて美しいからね。そうだな…そこのレストランにでもどうだい?』

『仲間に聞いてみます』

 

光ちゃんと英語の巨乳…ぐふっ…英語のお姉さんの高速の英会話についていけない私達3人に、光ちゃんはようやく通訳してくれる。

 

「こちらはアメリカ代表のフィーネ・アルテラさんです。日本の主力が目に付いたので、是非野球について話したいから食事でもどうですか…との事ですが、どうします?」

「うん、まず光ちゃん、英語めちゃくちゃ凄かったわね」

「そうね、私は物理以外勉強出来ないから羨ましいわ」

「あぁ、英語が苦手な訳では無いのだが、入国審査とかの人より早口だったり訛ってたりするともう何言ってるか分からないな」

「ありがとうございます…楠川さん、どうですか?」

「川原さんの負担が凄いことになるけど…大丈夫?」

「はい…完全に通訳するのは難しいですけど、それで良かったら…」

「じゃあせっかくだし、お願いするわね。川口さんと岡田さんもそれでいい?」

「「はい」」

 

光ちゃんとえー、アルテラさんだったっけ?大きい(もうどこがとは言わない)お姉さんが短く会話をするのを、私は聞き流していた。

 

 

私たちは連れ立ってお茶を飲みながら、光ちゃんの通訳を受けながら日本とアメリカの野球の違いについて話していた。

 

例えば逆シングル捕球についての考え方の違いがあげられる。

日本の小学生とか中学生とかの野球チームにおいて、多くの場合「正面で受けろ」とひたすら教えられる。逆シングル捕球はあくまで応用という扱い。

逆に、アメリカでは正面も逆シングルも同様に練習する。絶対に正面で受けろとは教えられないし、逆シングル捕球をして「なんで正面で捕らなかった」と怒られることもない。

 

他にもバッティングへの考え方も違う。

日本の野球は『打率』を重要視するけど、アメリカは『長打率』を重要視する傾向がある。

実際、NPBとMLBではNPBの方が単打が多く、MLBの方が長打が多い傾向にある。

 

逆に似通っているところもある。

公式戦での捕手のプロテクターにファウルカップが義務化されていることとか。

前世のような男の急所を守るための形ではないので、また少し違うけど、採用理由はほぼ同じ。恥骨を骨折したり、周辺にダメージがあると、妊娠出産とかに影響があるかもしれないってことで、捕手は義務みたい。

まぁ、この世界じゃ知ってる人はいないけど、うん、痛いよね、ローブロー。

 

後は、グラブとかバット。

日本のメーカーを使うアメリカの選手も意外と多いみたい。特に福光のバットは有名で、わざわざアメリカから直接買い付けに来る高校生もいるとか。

ちなみに私も福光の木製バットを愛用してるよ。重心とか、私の要望にちゃんと応えてくれる職人技だもん。

 

『今日は楽しいお茶会だったよ。次に会う時は本戦の決勝リーグのグラウンドで、ね』

 

アルテラさんはウィンクをかまして、上機嫌に街の雑踏へ消えていった。

 

「私たちも帰ろうか」

 

楠川さんは伸びをしながら、泊まっているホテルへの帰り道を進んだ。

 

 

 

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