【完結】川口息吹は憑依転生者な器用貧乏だけどかわいい   作:風早 海月

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第48話 変態アベックホームラン

日本対台湾の試合から5日後の11月17日。

夕食を食べながら、試合中継を観戦していた桜ジャパンの面々は唖然としていた。

 

「パラオは1枚の超エースか…まるで甲子園でたまに出てくるようなチームだ」

「こういうチームって妙に勢いがあるから大変ね」

 

怜先輩と楠川さんがパラオを分析する。

 

最終的に、パラオはパナマを2-0で下す。

 

「次のパラオ台湾戦で今回がたまたまか、実力かがはっきりするわね」

「あの『魔球』は私たちで打てるのか…」

 

パラオのエース…ユキ=マツイ=ヒロコ。

彼女はパナマの打線を完全に封じており、パーフェクトゲームを達成していた。

だが、そもそもパナマは戦力的に良くここまで残ったなくらいなレベルなので、比較のしようがない。

 

 

さらに6日後。11月23日。

パラオ台湾戦。

 

ユキの投球は、日本から5点を奪った台湾打線を相手に完封。

1-0でパラオが勝利した。

これで台湾の3位が確定して、首位争いは最終日の日本対パラオの試合に集中することとなる。

 

この時点で、他のグループの首位はほとんど確定している。

 

グループA:イタリア

グループB:ドミニカ

グループC:キューバ

グループD:アメリカ

グループE:オーストラリアまたはスペイン

グループF:韓国

グループG:カナダ

グループH:日本またはパラオ

 

各グループ首位+各グループ2位で行われるプレーオフ勝者2チームが決勝リーグに勝ち進む。プレーオフは3イニング制で、延長は一二塁のタイブレーク制。中日は無し。

決勝リーグでは12月から1月にかけて。

2ヶ月に渡って、3回連戦を中3日という連戦で駆け抜けるハードっぷりである。ここに投球制限などが加わることで各チームの戦術が試されることになる。

本戦決勝リーグでの投球制限はグループリーグと同じで30球で中3日、60球で中5日、90球で中7日の制限となっている。

そう、投球制限の抜け穴が30球未満の投球時。投球制限に引っかからない連投可の球数。長本監督の想定した「ブルペンデー作戦」はこれを想定しているのだ。先発投手陣が消耗した時、中継ぎ陣が投球制限に引っかからない最大の利用方法。それがこのブルペンデー。

特に抑えの私にとってはこの30球制限はそこまで苦ではない。上手くハマれば3イニングくらい投げられる球数だ。

 

それはともかくとして、私は光ちゃんとパラオの研究を行う。

 

「パッと見だけど…パラオって影森に似てないかしら?」

「…確かに、守備上手いね。柳大川越の『良い守備』と言うよりは、影森の『堅実でスマート』って感じ」

「…選手層が薄いからかもしれないわね。なるべく疲れないように、怪我しないように…自分の出来る範囲を手堅く…」

「それに加えて投手はエース1枚に中継ぎ1枚に抑えが1枚。決勝リーグ行ったらどうするつもりなんだろね?」

「もし中継ぎと抑えも先発で投げれるなら…いや、無理ね。5回を60球未満で抑える…ユキさんならともかく、他の中継ぎと抑えに出来るとは思えないわ」

「少し可哀想かも。これだけ投げれる投手がいるのに、決勝リーグは棄権せざるを得ない試合が出てくるってことだよね」

「棄権試合は10-0での敗戦扱い。3試合に1試合棄権したとすると…表彰台に登るのは難しいわね」

 

中継ぎ投手が、ユキと同じくらいの投手なら、もしかするかもしれないけど…無理ね。あんな投手が2枚もあるような選手層じゃないもの。

 

「とりあえず、私たちはいかにユキを攻略またはベンチに下げさせるか。台湾に勝って調子乗ってるだろうから、少し天狗の鼻を折るのに時間かかるかもだけど」

 

特に、グループリーグでの投球数に伴う投球制限はプレーオフでは無視されるので、パラオ側としてはユキを完投させる勢いで来るはず。

 

 

 

そして決戦の日…11月29日。

とうとう始まる本戦グループリーグ最終戦。

Hリーグなので、日本とパラオが最後の試合となる。

多くの人々はこのカードが消化試合となると予想していたはず。でも、結果的に首位争いとなっているのだ。

 

この試合、勝った方が本戦決勝リーグ進出を決定して、負けた方は12月2日と3日のプレーオフに向かう。

そして、引き分けた場合は得失点差において日本が有利なので、日本が首位でパラオが2位となる。

 

勝負はお互いの投手力だ。

 

 

日本のスターティングメンバーは以下の通り。

 

1 伊藤美亜(遊)

2 平沢萌恵(二)

3 岡田怜(中)

4 川口息吹(指)

5 川原光(左)

6 岡本美穂(一)

7 清藤奏子(三)

8 小林依織(捕)

9 藤堂雨音(右)

投手 田崎真智子

 

 

楠川さんが打撃練習時に左肩に痛みを感じたため、急遽変更されたシート。

DH予定だった伊藤さんがショートに入り、私がDH、レフトに光ちゃんが入る。

監督は最後まで光ちゃんか穴吹さんか迷ったけど、最終的に光ちゃんをレフトに入れた。

 

パラオの先発はもちろんユキ。

あの魔球を相手に、日本の打線がどこまで通用するか…

 

 

1回の表、パラオの攻撃。

 

1番、2番を内野ゴロで打ち取ると、3番は強い当たりでライト方向に落ちる。

藤堂さんは日本でも屈指の守備力を誇る右翼手。走りながら難しいバウンドの球を素手で掴み、そのまま一塁送球。

一塁岡本さんのミットに綺麗に収まり、ライトゴロ。スリーアウト。

 

 

 

1回の裏、日本の攻撃。

 

1番伊藤さんはショートゴロ、2番平沢さんは三振、3番の怜先輩も三振してスリーアウト。

 

「やばいな…あの球は本当にやばいぞ」

「そんなにですか?」

「あぁ。まるで()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

ネクストからベンチに戻りながら、三振した怜先輩に聞く魔球の球筋。

ユキの投げる魔球…ナックルボールだ。

投手でさえ予測不可能な変化をするナックルボール。しかも、フォークのように手元で急激に球速も落ちる。あの球は魔球。しかも、全ての投球を魔球ナックルで、完投出来るユキはイカれてる。

 

まぁこの大会では球数制限もあるから完投は難しいだろうけど…

 

とにかく、彼女から安打を打つのはとても難しいのだ。

 

 

 

 

2回の表、パラオの攻撃。

 

田崎さんは4番に四球を出すも、続く5番から7番を三振ひとつ含む凡退に抑える。

 

 

 

2回の裏、日本の攻撃。

 

私のバットコントロールでも独特な変化をするナックルボールを相手に芯を外され、レフトフライになる。

続く光ちゃんはショートフライ、岡本さんはセカンドゴロとなってスリーアウト。

 

 

 

3回の表、パラオの攻撃。

 

8番は三振に打ち取るが、9番のサードゴロに送球エラーで一塁に出塁される。

藤堂さんのバックアップが間に合い、何とか二塁は踏ませずに済む。

ワンアウト一塁で1番。一塁ランナーに代走が送られる。

1番は送りバント。代走は足が速く、三塁まで進む好走塁。

ツーアウト三塁でピンチとなる日本。

田崎さんは制球乱して2番を一塁に四球で押し出す。ツーアウト一三塁に変わる。

3番への初球、一塁ランナーが盗塁を仕掛ける。小林さんは依織バズーカでショートの伊藤さんに送球。これは通るも、一塁ランナーは一塁帰塁。その隙に三塁ランナースタート。肩が強い小林さんの依織バズーカと違い、伊藤さんの肩はそんなに強くない。クロスプレーにもならず本盗を許す。

 

パラオ先制本盗。

オーディエンスがざわめく。どう足掻いても日本相手に勝ち目がないと言われていたパラオが、日本に無安打無出塁を強いている中で先制したのはとても大きい。

 

3番はその後三振に抑えるも、この投手戦でこの1点は大きい。

 

ベンチの雰囲気も沈む。

 

 

 

3回の裏、日本の攻撃。

 

ユキのナックルの前に、日本の打線は完全に沈黙。

7番清藤さん、8番小林さん、9番藤堂さんが三者凡退に仕留められる。

 

こうなってくると、観客のムードも下克上に期待が出てくる。

 

アジアの王者たる日本が負けるのか…と。

 

 

 

4回の表、パラオの攻撃。

 

4番からの打順、パラオの主砲が火を噴いた。

4番打者のソロホームラン。0-2とリードを広げられる。

この本塁打が、この試合初の安打である。パラオの勢いは止まらない。

 

ここで長本監督は田崎さんに代えてリリーフの風間花詠さんを登板させる。

 

これが致命的だった。

ここで投入するべきは確実に消火が期待できる投手であって、風間さんは『好調を維持するのが得意』な投手。この場合でいえば、自意識過剰かもしれないけど私とか、信頼性のある山谷さん、抑えに数えられてる睦月さんとかを投入するべきだったのだ。

 

風間さんは5番相手に失投。ど真ん中に行った真っ直ぐの棒球に反応され、強烈なサードゴロを清藤さんがファールエリアに弾いてしまい、二塁へ。

さらに6番に大きなライトフライを打たれ、タッチアップで犠牲フライとなる。

0-3。

 

どうにか7番をセカンドゴロ、8番を藤堂さんのファインプレーに助けられた形でライトフライに抑えてスリーアウト。

3点のビハインドを追う日本は苦境に立たされた。

 

 

 

4回の裏、日本の攻撃。

 

苦境の日本の先頭は1番伊藤さん。

流れを変えられるラッキーガール。

初球、内野ゴロがマウンドに当たって不規則なバウンドとなった関係で一塁に滑り込んだ。

日本のこの試合初安打となる。

 

 

2番、平沢さん。

森永ヘッドコーチから送りバントの指示。

バントするも、ナックルの変化にやられて打ち上げる。

伊藤さんは一塁に帰塁。

キャッチャーがマスクを外して、背走キャッチ。ワンアウト。

同時に伊藤さんはスタート。意表を突かれたパラオのキャッチャーの送球は乱れてセンター方向へ。伊藤さんはそのまま三塁へ。ワンアウト三塁。

 

 

ワンアウト三塁のチャンスで巡ってきた怜先輩。

この場面で打てないわけがない。

 

やや詰まりながらも右中間に飛び、タイムリーヒットを放つ。

 

1-3の2点差に詰め寄る。

 

 

だけど、続く私と光ちゃんはヒット性の当たりを出すも相手の守備範囲に。スリーアウトで攻撃の流れが途切れる。

 

 

 

5回の表、パラオの攻撃。

 

ここで風間さんを降板させて、山谷さんが登板する。

山谷さんは先発を任される投手でもあり、その安定感を買われている3年生投手で、10月のドラフト会議では福岡ヴァルチャーズ・札幌ファルコンズ・ブルズ盛岡の3球団から1位指名を受けているほど。

ちなみに、楠川さんは重複回避を選択した球団が多かったのか2球団から1位指名を受けている。

 

山谷さんの安定感はパラオに三者凡退を突きつける。

 

 

 

5回の裏、日本の攻撃。

 

6番岡本さんはナックルを捕球し損ねたキャッチャーの捕逸で振り逃げ。一塁セーフ。

だけど、後続が続かずそこから凡退。9番藤堂さんのライトフライでスリーアウト。

 

 

 

6回の表、パラオの攻撃。

 

試合も終盤に差し掛かり、日本が2点のビハインド。

観客のボルテージが上がる。

 

だが、山谷さんはそんなことも気にせず三者凡退でスリーアウトを取る。

 

 

 

6回の裏、日本の攻撃。

 

先頭は日本の起点、ラッキーガール伊藤。

ラッキーガールの名に恥じぬサードゴロエラーで出塁した。

 

 

続くは2番平沢さん。

森永ヘッドコーチは送りバントではなく強攻を選択。

セカンドゴロでゲッツー。ツーアウト。

 

 

3番、怜先輩。

怜先輩相手にユキは速球勝負で、ナックルに目が慣れていた怜先輩は空振り三振。スリーアウト。

 

 

 

7回の表、パラオの攻撃。

 

長本監督はここでDHを解除。

光ちゃんがピッチャーに入り、私がレフトに入る。

 

光ちゃんの多種多様な変化球にパラオは翻弄され、三者凡退。

 

 

 

7回の裏、日本の攻撃。

 

もうあとが残っていない日本。

 

先頭は4番の私。

いい加減4番としての仕事をしたいところ…

ベンチにいる楠川さんを見て、ネクストにいる光ちゃんを見る。

 

覚悟を決めて、打席に入る。

いい加減ナックルも見えてきてる。

それに…もう60球を超えてる。そろそろ失投があってもおかしくない。

 

打席で構えて初球を待つ。

ユキが投げた初球、それは、回転が微弱ながらかかっていて、ナックルとは言えない何かであった。ユキもしまった!という顔をする。

私の目は川口姉妹の観察眼。失投をスタンドに叩き返すのはそう難しくはなかった。木製バットのしなりを利用してスタンドに打球を叩き込む。

私は軽く流してダイヤモンドを回った。

 

反撃ののろしが上がる。

 

 

5番、光ちゃん。

 

(息吹ちゃん…打った時の嬉しそうな顔…かわいかったなぁ……)

 

どうも集中してないように見えるけど…大丈夫かしら?

 

本塁打を打たれて、動揺したユキ。パラオは残りの1点差を守り切らなければ首位にはなれない。

 

そのプレッシャーが、連続失投を招いた。

 

(息吹ちゃんかわいい、これ真理……あれ?この球…打て…る?)

 

豪快なフルスイングが失投に当たり、連続ホームランとなる。

 

アベックホームランね。

 

 

自失ボーゼンとなったユキが降板させられ、抑えの投手が登板。

精神的に抑えの投手の方が強かったのか、あとの3人を抑えられ、スリーアウト。ゲームセット。

引き分けでこの試合は幕を下ろした。

 

 

 

 

 





感想くれると嬉しいです!

また、もうひと作品を球詠で執筆を始めています!そのうち投稿するかと思いますが、その時は是非!
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