【完結】川口息吹は憑依転生者な器用貧乏だけどかわいい 作:風早 海月
約2か月間で27試合を戦うスケジュールの中、残りは9試合。
残り9試合を小技使いを光ちゃんや山崎さんに頼るのは総合的な打力低下に繋がるので、小技専門の選手を追加招集する。
だけど、それがまさか…
「えーと、新越谷高校1年の川口芳乃です。スター選手候補ばっかりのこのチームに招集されて驚いてますが、精一杯頑張ります!」
てへっと笑うのは我が妹。
「はい!?」
百歩譲っても、新越谷を甲子園に導いた『指導者』としてなら呼ばれるかもしれないけど、選手としてはまだまだ未熟である芳乃を呼ぶ理由は…?確かに、小技使いとしては最低限使えるけど…世界に通用する…?
これからアメリカとパラオを相手取るのに?
「まぁ実力では全然国家代表に呼ぶほどじゃあないんだが…この数日で招集に応じれる選手は少ないからな。後9試合…しかも、パラオは多くて2試合だ。つまり、8試合使えれば問題ない。そして、こいつの戦術眼と観察眼は数試合程度で優位を失うほどじゃあない」
中日の最終日…明日からパラオ戦と言う状況での夕食ブリーフィング、長本監督はそう説明する。
「それでは、明日のスタメンを発表する」
1 伊藤美亜(遊)
2 川原光(指)
3 山谷彩(右)
4 岡田怜(中)
5 山崎摩利(三)
6 岡本美穂(一)
7 穴吹芽衣(左)
8 川口芳乃(二)
9 近藤唯(捕)
投手 大野亜由子
「ベンチ外は藤堂と田崎。以上だ。明日はエンドラン及びエンドヒットを多用するので、サインはよく確認しろ。それから、川口妹の方は細かいサイン出すから、今日中にサインを覚えておくように」
夜、芳乃の部屋に新越谷勢4人が集まる。
まだ荷物を解いていない。
「まさか芳乃まで来るとは思わなかったわ」
えへへ〜、私もびっくりしたけど、電話があった1時間後には荷物まとめちゃったよ」
「まさか新越谷から4人目とはな…私も驚いたよ」
「芳乃ちゃんも一流プレイヤーだね」
久々の再会に、4人は近況報告を兼ねたおしゃべりで夜がふけていくのであった。
翌日、曇天の中、17:00に試合が開始される。
1試合目はユキの登板を避けられた。
日本はパラオの投手を打線が完全に捉え、大野さんも好投して、5回までに15-0のパラオノーヒットに抑えた。5回の攻守を終えた段階でパラオはタイムをかけて、責任審判と通訳を挟んで長本監督に自主コールドゲームを交渉。長本監督はこれを受け入れて5回コールド15-0で試合を終えた。
ちなみに自主コールドは本大会の決勝リーグにのみ適用されるルールで、コールドゲームが無い代わりに、両チームの監督またはその代行が同意した場合、4回5回で10点以上、6回で7点以上点差がある場合に限ってコールドゲームとすることが出来る。選手の疲労対策でもあるが…暗黙の了解であまり使われていないルールだ。パラオの場合は選手層が薄いので、致し方なく…という側面があるが。
内容も、芳乃のバントエンドランの成功等、それなりに良い形を残せた。
だけど、喜んでばかりはいられない。
2試合目は、先のイタリア戦2試合目降板後から足の張りがある田崎さん――肩の強い鉄腕も、海外の硬いマウンドに足が馴染まなかった様子――の代わりに宇田川さんが登板。
パラオはもちろんユキが登板する。
日本のオーダーは以下の通り。
1 伊藤美亜(二)
2 川口芳乃(指)
3 岡田怜(中)
4 楠川由梨(遊)
5 川原光(左)
6 山谷彩(右)
7 岡本美穂(一)
8 山崎摩利(捕)
9 清藤奏子(三)
投手 宇田川瑠菜
2試合目の先攻後攻は、1試合目の反対で日本が後攻…先に守備に入る。
試合開始のプレイボールが宣告。
1回の表、パラオの攻撃。
宇田川さんと山崎さんのバッテリーは可もなく不可もなくな感触で、1番を三振に抑えたものの、2番には単打を浴び、二盗を許し、3番にも単打を打たれ、4番の犠牲フライでツーアウトとなるも先制点を許す展開に。
1回の裏、日本の攻撃。
1番、伊藤さん。
ユキのナックルの特異な変化に、予選時では3打数1安打の結果を残した伊藤さんも呆気なく三振に討ち取られる。
2番、芳乃。
ラッキーガール伊藤さんでも対戦成績4打席1安打となったユキのナックルを相手に、意外にも綺麗な当たりを放つ。とはいえ、パワー不足の芳乃は内野の頭をギリギリ超える打球が精一杯。レフト前安打で一塁を踏む。
3番、怜先輩。
ベンチの森永ヘッドコーチからはエンドヒットの指示。
ユキとの対戦や他国のチームとパラオの試合から、パラオのバッテリーの盗塁刺殺率が低いことはよく分かっている。ナックルの投球動作が遅いことと球速が遅めなこと、捕手の能力がナックル捕球に偏っていることなどが理由となり、特に二盗は足の遅い選手でもほぼ確実に成功する。
パラオバッテリーもそれは分かっているので、ナックルではなく速球で外に外して二塁捕手牽制を試みると予想される。だからこそ、各選手には悪球打ちで有名な楠川さん指導の下、悪球打ちの練習を中日に行っている。怜先輩とて、この桜ジャパンで得るものをなるべく吸収するために色んな選手やコーチから教えを受けている。
その結果は、打てなかった本塁打を打てるようになったことを始めとして、基本スペックの向上という形で見られる。
「打った!」
外しきれてない微妙な悪球をセンター前にはじき返す素晴らしいヒット。
芳乃は投球モーションの時点でスタートしており、かと言って芳乃の足は速くもないけど遅くはない。三塁に滑り込むには十分なスピードが乗ったまま二塁を蹴って三塁にスタンドアップスライディングで飛び込みセーフ。
ワンアウト一三塁。
4番、楠川さん。
実は、一三塁と二三塁のランナー配置では得点率はそう大して変わらない。それが一塁ランナーが快足の怜先輩で、バッターが強打者なら尚更。
例えば一三塁なら、一塁ランナーが牽制球を誘ってから二盗を目指し、その隙に三塁ランナーがホームへ帰還するという戦術も新越谷の時には使っていた。
怜先輩と芳乃はリードでバッテリーにプレッシャーを与えつつ、盗塁機会を伺う。
初球、高めに外してボール。
キャッチャーはここで一塁に牽制球を送り、そのタイミングで怜先輩がスタートを切る。ファーストはショートへ送球。そこでさらに芳乃もスタート。
怜先輩はフックスライディングという故障離脱した平沢さんから教わった技術も駆使して二塁セーフ。ショートは本塁のキャッチャーへ送球するも、芳乃は間に合うタイミングではなくセーフ。さらに、キャッチャーはショートからの送球をグラブで弾き、怜先輩は三塁へ進む。6-2の捕球エラーがさらに付く。
だが、ユキは前回から今回に至るまでに精神的に成長したらしく、崩れることなく楠川さんをショートゴロに打ち取る。
5番、光ちゃん。
光ちゃんもユキのナックルに苦しみ、3球三振に抑えられた。
スリーアウト。1-1の同点で1回を終える。
2回の表、パラオの攻撃。
先頭6番にライト前安打を打たれ、ノーアウトで走者を出してしまう。
打線はそれなりのパラオ打線ではあるが、野球には流れというものがあり、宇田川さんは投手としての実践経験が少ないため流れを握るのを苦手としている。
それでも、長本監督と森永ヘッドコーチの2人から日本人最速になりうると、潜在能力だけで代表に選ばれている。その意地だって、チームの投手の中では最も登板試合数の少ないながらも芽生えるもの。
粘りのピッチングで、球数を投げさせられるものの続く三者を1三振含む凡退に退けてさらなる追加点は阻止する。
2回の裏、日本の攻撃。
6番の山谷さんから。
今日のスタメンは打撃優先のスタメンであり、下位打線であっても得点への期待は高い。
山谷さんは三振も、7番の岡本さんが三遊間を真っ二つにするレフト前安打で出塁。
8番、山崎さん。
2球目で二盗を成功させた岡本さん。
その後、三振する山崎さんだったものの、キャッチャーが捕逸。山崎さんは走るもファースト送球、一塁アウト。二塁走者岡本さんは三塁に進んでおり、ツーアウト三塁のチャンスになる。
9番、清藤さん。
勝ち越しのチャンスに、攻撃のタイムを取る日本。ベンチ前に集まった指導者陣+芳乃。恐らく清藤さんをそのまま打たせるか、代打を出すかで悩んでいるはず。
チャンスの代打で考えられる人選は、私、風間さん、小林さん、穴吹さん、青木さんくらい。だけど、この後の守備を考えると青木さんは除外できる。
私と穴吹さんと風間さんならライトの山谷さんをサードに変えて、外野に入る形。小林さんならキャッチャーの山崎さんをサードにして、キャッチャーに入る形。
そして、得点を今絶対に取りたいなら私か穴吹さんのどちらかを使うと思う。逆に、後での交代カードを取っておきたいなら風間さんや小林さんと変えずに清藤さんのまま行くべき。
芳乃がチラリと私と穴吹さんを見る。芳乃も同じことを思ってるみたいね。
「よし穴吹、ピンチヒッターや」
長本監督の最終決定は穴吹さんを代打起用だった。
穴吹さんは良い当たりを出すも、レフトの好守備でレフトフライに倒れた。スリーアウト。
3回の表、パラオの攻撃。
先頭から、代表初のサードを任されている山谷さんのところに打球が転ぶも、きっちりファースト送球してサードゴロ。
続く2番、3番も外野フライに倒れてスリーアウト。
宇田川さんも良いピッチングでチームを支える。
3回の裏、日本の攻撃。
1番、伊藤さん。
ラッキーガールの名に恥じない、失投を完璧に弾き返してセンター前安打。
2番の芳乃の打順で、伊藤さんは二盗。
さらに芳乃の送りバントで三塁へ。ワンアウト三塁。
3番の怜先輩は、芯を外した打球を放ってしまうが、伊藤さんの好走塁で勝ち越しの犠牲フライとなる。
その後、ツーアウトから2連続安打で一三塁のチャンスを迎えるも、山谷さんはチャンスをものにできずサードゴロでスリーアウト。
4回の表。
先頭の4番がセンター前安打で出塁するも、宇田川さんが今日調子の良いカットボールとパームボールで山崎さんの配球もあり、後続を完璧にカット。
4回の裏。
日本代表は下位打線3人を凡退に抑えられてしまうが、ここまででユキに69球もの球数を投げさせている。状況はイーブンだ。
5回の表。
守備につく日本は、ここでリリーフの風間さんに継投。
ランナーを出すも得点圏に進ませずに抑える。
5回の裏。
1番の伊藤さんからの打順だが、ユキはここが踏ん張り所と見たか力投を見せる。ナックルの球速が明らかに速い。ナックルはその特性上、球速が速ければ速いほど変化が大きい。
多分だけどユキはいつもパワーをセーブして投げていたのを解放して投げているのだと思う。
三者凡退でこの回の攻撃を終える。
6回の表。
風間さんは球速だけで言えばこのチームで1番速い。
パラオの野球レベルはこの大会中に育ってきているとはいえ、元々が人口の少ない島の中の話。風間さんの重く速い球を捉えるにはまだ一手足りてない。
三者連続三振となりかけたものの、ここを逃せば後に控える抑え…私と睦月さんから打つのは厳しいと分かっているパラオの5番は何とか食らいつくもショートフライに終わる。
6回の裏。
ユキは最終回に望みを残すために、全力投球。
4番楠川さん、5番光ちゃん、6番山谷さんと、桜ジャパンの上位打線級3人を三者凡退に抑える。きっちり89球。大会最終戦も見据えた上手い配球だった。
7回の表。
ここを抑えれば勝つ桜ジャパンは、抑えに睦月さんを起用する。
死にものぐるいのパラオは代打攻勢でツーアウト三塁とチャンスメイクを果たすものの、睦月さんは次の打者をファーストファールフライに打ち取ってゲームセットとなった。
2-1で日本の勝利。
3試合目は、パラオは例のごとく試合を棄権して10-0となる。
中日が増えたことで、みんなの疲労も少しは和らぐといいかな。
さて、これまで7×3試合の21試合を終えて、上位陣の順位は以下の通り。
1位 19勝2敗0分 日本
2位 18勝2敗1分 アメリカ
3位 13勝4敗3分 韓国
順位の取り方は勝ち点、直接対決、得失点差、順位決定タイブレーク戦と言う順番になる。流石に順位決定タイブレーク戦まではもつれ込むことはないと思うけど…ともかく、日本はアメリカよりも現状上回っている。だが、アメリカの8回戦の相手はイタリア…正直言って、イタリアが1つでも引き分けにでも持ち込めれば凄いというレベルで戦力差があるので、アメリカが3タテしてくることを想定する必要がある。
これを維持するためには、韓国を蹴散らす勢いで3タテが必須。
本当に最後の最後まで厳しい戦いね。
韓国…ね…