【完結】川口息吹は憑依転生者な器用貧乏だけどかわいい 作:風早 海月
第52話 韓国戦 スリーアウト!のあらすじ。
韓国のラフプレーで警告試合となり、日本優勢の中、危険球や死球を警告の上で投じた韓国。最終的に大会特別ルールの没収試合が適用され、日本は15-0で勝利する。
韓国は不満タラタラで、以降の試合を放棄して帰国するのであった。
8回戦の後ろ2試合を不戦勝で勝利した日本は、体力的に大分回復した。
特に主軸級の打者のほとんどは韓国戦にも出てないので実質9日間もの休日があったようなもの。
さて、日本とアメリカの勝利条件を振り返る。
日本は2勝または1勝1分となった段階で優勝が確定する。
アメリカは2勝となった段階で優勝が確定する。
そのため、引き分けでも首を絞めることになるアメリカとしては何がなんでも先に1勝をあげようと必死になる。
本大会最大得点のアメリカ打線が必死に打ってくるのは、それはそれで怖い。逆に本大会最低失点の日本はいかにアメリカ打線を封じるかがキモとなる。
主力選手で固める桜ジャパン最高のラインナップで、基本的に優勝確定までは大きな変更はしないと長本監督は話し、初戦のラインナップを発表した。
1 伊藤美亜(二)
2 川原光(指)
3 川口息吹(左)
4 岡田怜(中)
5 楠川由梨(遊)
6 岡本美穂(一)
7 山谷彩(三)
8 小林依織(捕)
9 藤堂雨音(右)
投手 大野亜由子
球場入りして、ロッカールームで着替える。
流石に優勝のかかる3番勝負に、桜ジャパンの面々も緊張が見える。
ベンチに入ると観客席が見える。そして、私たちが入ってきたのを見て、スタンドから大歓声が響いてくる。大一番で、どちらにも優勝の可能性が残るこの3連戦に、スタンドは超満員。大会一番の盛り上がりを見せている。
「これは…凄いわね。立ち見までいるわよ」
「甲子園じゃあ入場規制とかがあるからな。熱気自体は甲子園の方が凄いが、観客席の圧力はこちらが上か」
私のあとからベンチに入った怜先輩が私の独り言にそう答えた。
お互いの監督がオーダー表を交換し、会場の電光掲示板にアルファベットでラインナップが点灯する。
以前光ちゃんの通訳で話したことのあるアルテラが2番DHで起用されている。
ノック等の練習を終えて、国歌斉唱の後試合が開始される。
日本先攻で始まる初戦。
アメリカは左投手が先発。
このアメリカメンバーの多くはきっと大リーグに行くのだろう…けど、私たちとて伊達に甲子園を目指す異常なほどの情熱は他の国には多分ない。甲子園への渇望は仮に格上とて喰らうこともある。
1番、伊藤さん。
初球、アウトコースにシュートが逃げていき、空振り。0-1。
……意外にも、アメリカの先発は軟投派らしく、球速はさほどでは無い。だけど、これは…
伊藤さんは3球で三振に打ち取られ、ワンアウト。
2番、光ちゃん。
初球、落差の激しいシンカーで空振り。
2球目、高めのストレートを見逃してボール。
3球目、外に逃げるスライダーを引っ掛けた光ちゃん。サードが弾いたがショートがリカバリーして一塁アウト。記録はサードゴロ6-3一塁アウトとなる。
「どんまいよ」
「うん、あの人打ちづらいから気をつけて。特にシンカーは厳しいよ」
ネクストの私は一塁方向から帰ってきた光ちゃんと一言交わして打席に入った。
3番は私。
この投手の投球は明らかに「打ちづらい投法」。リズムが微妙に普通ではない上に球持ちも異常に良い。だけど、それは私と芳乃の観察眼を前にはあまり意味をなさない。
初球、よく抜けたカーブ。いや、スローカーブ?ナックルカーブでは無い…まぁこれはスルーで大丈夫。待ってるのは…
2球目、ツーシームかな。外に外れてボール。微妙に動いてる。これなら叩いてもヒットにはできる。でもこれじゃない。
3球目、逃げていく形のシュート。……見えた。
振り抜いた私の木製バットはまるで金属のような音を響かせ、打球は右中間へ。ちょっとタイミング遅かったわね。フェンス際でライトが捕球してスリーアウト。
初回、日本は三者凡退に終わった。
1回の裏、アメリカの攻撃。
大野さんの調子はそこそこ。
日本の奪三振姫は伊達ではない。
1番を3球三振に打ち取ると、迎えた2番DHアルテラさん。
チーム内での研究でも、高いアメリカの打撃レベルの中でアルテラさんが1人飛び抜けているのは周知だ。捕手の小林さんも、それを踏まえて初球から大野さんの決め球であるシンカーで勝負した……
パンっと軽い打撃音。飛んでく打球。
全くフルスイングじゃなかったのに、悠々と外野の頭を超えて右中間後ろへ。
何とかフェンスに当たった球を怜先輩が抑えるも、アルテラさんは既に二塁。さらに二塁を蹴って三塁へ。怜先輩のレーザービームも、三塁までは間に合わず三塁打となる。
瞬く間にピンチのランナーを背負う日本、そして大野さん。
成績こそアルテラさんに劣る3番の打者だけど、打点はアルテラさんに匹敵する怜先輩タイプの打者。つまり、全く油断はできない。
2球使って追い込むと、3球目のシンカーを失投。3番打者は後逸すると判断してからスイング。小林さんは暴投となったシンカーを後逸。打者走者とアルテラさんが走る。
球足の乗っていたシンカーはバックネットギリギリで小林さんが追いつき、振り返りざまに大野さんに送球。ホームベースカバーに入った大野さんとアルテラさんのクロスプレー。土煙が2人を隠す。どうなったの…!?
球審はアウトの宣告。ツーアウト一塁に変わる。
大野さんのガッツポーズに、日本ベンチと日本の応援席が盛り上がる。大野さんも怪我無さそうで良かった。あとは調子崩してなければ良いんだけど…無事之名馬とも言うし、投手は本当に怪我しやすいから…
ツーアウト一塁に変えて、アメリカは4番に打順が回るも、数値的にはこの4番は3番やアルテラさん程は怖くない。まぁアメリカのメンバーはみんな怖いけど、その中ではって話ね。
大野さんは4番を6球かけて見逃し三振に打ち取った。
2回の表、日本の攻撃。
4番怜先輩はセカンドゴロに倒れ。
5番楠川さんもピッチャーフライ。
主軸が全く機能していない1巡目、ツーアウトで6番岡本さんが逃げてくスライダーを完璧に捉えてセンター前返し。ツーアウト一塁と今日の日本側初安打となる。
7番、山谷さん。
最近打者としても起用される山谷さん。その期待に応える様に…と言いたいところだったものの、なかなか前に打てず粘った末、バッテリーが折れてツーアウト一二塁に変わる。
チャンスで回ってきた8番、小林さん。
元々打てるタイプのキャッチャーという訳ではない彼女。たまに打てる守備の要としての役割は梁幽館の時と同じだけど、日本代表としてのスタメンマスクとしては打撃での貢献も求められている。例えばこういったチャンスの時に。
とはいえ、そう簡単に打てたら苦労はしてない。小林さんは5球目で三振。振り逃げも、アメリカのキャッチャーは前に落としていたので楽に刺殺されてしまうのだった。
スリーアウト。
2回の裏、アメリカの攻撃。
5番か始まる打順。
大野さんは初回のホームベースカバーの影響を見せない安定したピッチングで2個三振を奪いツーアウト。
ところが、7番打者相手に粘られてフォアボールを与えてしまったところから調子が崩れ始める。
8番打者が初球を振ってレフトの私の方向にかっ飛ばした。ギリギリファールゾーンに切れたけど、後ボール数個分内に入っていれば完全にタイムリーツーベースコースだし、私も全く間に合わなかった。
2球目はボール。
3球目、三遊間を鋭く抜いた打球。私が飛びついて後逸を避ける。素早く立ち上がって走塁を牽制する。一塁ランナーは三塁に、バッターランナーは一塁に飛び込んでいた。
ランナー一三塁のピンチ。
9番打者相手に精彩を欠き、フォアボールを与えて満塁となる。
ここで日本ベンチはタイムを取り、投手コーチを務める谷口コーチがマウンドへ向かう。
今日は投手が3人も打順に組み込まれているので、この段階でDHを解くのを敬遠した日本ベンチ。大野さんを落ち着かせて続投させる。
だが、これは判断ミスとなる。
1番打者に一二間を抜くタイムリーを打たれてしまう。もし新越谷の白菊なら最低2点は失っているところ、藤堂さんが守備職人の好プレーで出血を抑える。
満塁で迎える2番アルテラさん。
長本監督はしばらく考え込んでから、申告敬遠を示す。アメリカはさらに押し出しの1点を手にする。観客席からブーイングが飛ぶ。
怜先輩が寄って来て、「見覚えのある光景だな」と笑ってまた戻って行った。
3番打者はショートの楠川さんのファインプレーでショートライナーとなりスリーアウト。
3回の表、日本の攻撃。
2点を追う日本は9番藤堂さんから。
藤堂さんの打率は国内公式戦で.205。代表では.101。四球を選べる選球眼も良いとは言えない。打撃では高校球女の平均を下回る。
だけど…ここぞという時の仕事ぶりは意外にも良い。
三遊間を上手く抜いた打球。一塁を走り抜けてセーフ。
ノーアウト一塁。
1番、伊藤さん。
2巡目の伊藤さんは星光学院の監督で、桜ジャパンの打撃コーチを務める石田コーチにアドバイスされた通りに打撃に臨んだ。軟投派投手の球を見切れないなら『見ないで打つ』というアドバイスであった。
伊藤さんのラッキーを信じたアドバイス…のはず。投げた瞬間に目をつぶって、自分の感覚でバットを振る。
打球は鋭く強い打球となり、一塁線方向に。ファーストがミットを構える暇もなくファーストを強襲。進路が変わったその打球は外野ファールゾーン方向へ。
ファースト強襲安打でノーアウト二三塁に変えて、チャンスを作り出す。
2番、光ちゃん。
2球見送って追い込まれる。
ところが、そこから軟投派の弱点とも言える球足の遅さと威力の低さを逆手にとって、光ちゃんは自慢のパワーを最大限使える豪快なフルスイング。三振するも、バットの音にビビった捕手は後逸。直ぐに拾い直すも、三塁の藤堂さんが走りかけたりする牽制で一塁を刺せず、パスボールの記録となる。
3番、私。
ここでは最低限遠いフライで犠牲フライを演出しないと…
アメリカの外野陣は私の1巡目の長い飛球を見て後退守備を選択。場合によっては前に落としてもタイムリーになる…
まぁノーアウトだし、気軽に振っていくわ!
初球、低いボールを見逃してボール。
2球目、足元でバウンドしてボール。
3球目、高めに入ってきた速球…ツーシーム?を振る…
ミシッ……と嫌な音と共にライト方向に流した打球。ライトの深いところに飛ぶもライトはしっかり捕球した。その瞬間、全ランナースタート。
三塁走者藤堂さんは余裕の生還。
二塁走者伊藤さんはコーチャーに立っていた石田コーチの走行指示に従って本塁へ走る。
一塁走者の光ちゃんは二塁を蹴って三塁へ向かう。
この時、中継に入っていたセカンドは選択を強いられる。
点を許容して光ちゃんを三塁でアウトにするか、点を許容せずタイミングが厳しい本塁でのクロスプレーに賭けるか…
結果として、セカンドはキャッチャーに送球。二塁走者の伊藤さんとのクロスプレーは伊藤さんに軍配が上がり、三塁に勝ち越しの走者である光ちゃんが生存する、アメリカにとって最悪な状態に変わってしまった。
ワンアウト三塁で、同点に並ぶ。
4番、怜先輩。
練習試合等も合わせた通算圏打率は脅威の.896。
得点圏時、89.6%の確率で安打を製造しているということ。
そのチャンスへの強さはアメリカの指揮官も認めるところなのだろう、投手を交代した。
だけど、投手が代わるくらいで対策ができるなら、怜先輩の成績はここまで異常ではなかった。
犠牲フライにはなったものの、きちんと勝ち越しの打点を決める仕事を果たした。
ツーアウトノーラン。
5番、楠川さん。
交代した投手は速球派。勝ち越されて動揺した速球派を打ち崩すのに楠川さんはそこまで苦労しない。
カナダ戦2試合目以来のアーチを放ち、ダメ押し。
6番岡本さんはショートライナーでスリーアウトになる。
3回の裏、4回の表、4回の裏、5回の表まで、追加点無しに終わる。
だが、再び1番からの打順でアメリカ打線が火を噴く。
5回の裏、先頭1番が内野安打で出塁すると、2番のアルテラさんが打席に入った。
2回目のタイムと共に、森永ヘッドコーチが出ていき少し長く相談した結果、大野さんは続投を決断。
多分、折り合いとしてはこの打席を凌げば続投、打たれたら山谷さんか光ちゃんに交代という感じかしら。
大野さん対アルテラさんは双方折れない勝負に。一塁ランナーも小林さんの肩を警戒して盗塁の気配は無い。
10球を超えて粘るアルテラさんに、大野さんも根気よく変化球を投げ分けて凌ぎ続ける。既に球数は90を超えており、夜でも暑くなってきたメルボルンの夏を身に浴びて汗が流れる。
15球目、勝負が決まった。ライト線側に切れる特大ファール…かと思いきや、風のイタズラで進路を変えた打球はライトポールに当たった。
軍配はアルテラさんに上がり、試合は振り出しに戻ってしまうのだった。
3番打者を迎える前に、日本は投手交代とDH解除を球審に告げた。
光ちゃんがマウンドに上がる。
光ちゃんの持つ球種はこの代表戦に呼ばれている間に1つ増やしていた。それはホップと名付けられたボールで、光ちゃんの持ち味だったストレートの上回転をさらに磨き上げて変化球に押し上げた究極の『上に変化する変化球』だ。代わりに球速を意識した新たなストレートの収得に時間がかかったので、実戦投入は遅れていた…でも、ようやく初公開。
さぁ、光ちゃん、やっておしまい!(悪役感)
多彩な変化球で、あっという間に三振3つ。
後続を断ち切り、5回の裏を終えた。
6回の表、日本の攻撃。
4番、怜先輩からの打順。楠川さんに対する申告敬遠以外は塁に出れず、この回の攻撃を終える。
6回の裏、アメリカの攻撃。
光ちゃんは変化球を巧みに操ってこの回も2奪三振を含む三者凡退に抑える。
7回の表、日本の攻撃。
8番小林さんがこの日2三振の汚名返上のシングルヒットで出塁。小林さんに風間さんが代走に送られる。
9番藤堂さんの送りバントを取り損ねたファーストのエラーで一二塁。
1番伊藤さんのフライでタッチアップしてワンアウト一三塁。
チャンスで回ってきた2番、光ちゃん。
スクイズのサインが出たものの、これをミス。ピッチャーフライに打ち取られる。
スクイズのサインで、一塁が埋まっているため一塁走者は走らなければならない。一塁走者の藤堂さんはもちろん走っていた。それを分かっていたアメリカの投手は一塁へ送球。一塁の藤堂さんは帰塁間に合わずアウト。
そして、アメリカがさぁ攻撃だ!と意気込んでベンチに戻ってファールゾーンに野手が全員出たところで、球審が本塁前でセーフのジャッチと共に日本の得点を認める判断を記録員の方に示した。
そう、いわゆるドカベンアウトである。ごく限られた、滅多にない形のプレーであるため、何が正解なのか分からないマニアックな世界。
一塁の藤堂さんがアウトになる前に、三塁走者の風間さんがホームイン。だけど、風間さんはスクイズでリタッチしていなかったから、アメリカ側のアピール権が失われたタイミングで得点が認められた…ということだった。
5-4。日本が均衡を崩す。
7回の裏、アメリカの攻撃。
私は久々のマスク。
光ちゃんがレフト。
ピッチャーには左の抑え、睦月久乃さん。
私はカットボールとチェンジアップを織り交ぜた変化球主体のリードでアメリカ打線を抑え、得点圏に進ませずに最終回を終え、日本の優勝に王手をかけた。