【完結】川口息吹は憑依転生者な器用貧乏だけどかわいい 作:風早 海月
新越谷高校野球部は現行で重大な欠陥を抱えている。
それは、選手の層の厚さと、打撃力の差だ。
特にコンスタンスに長打を狙える人は希と主将だけ。私も狙えないことはないけど、そこは投手との相性次第。理沙先輩と白菊へパワーこそあれどコンスタンスに打てるかと聞かれると首を横に振らざるを得まい。理沙先輩は若干バッティングに自信が足りないだけだと思うけど…
そして、選手層の厚さは言うまでもない。交代出来ないのはかなりのプレッシャーだし、クロスプレーを避けざるを得ないため安全策に走り気味。正直、9イニング制採用されてたら夏の大会とか熱中症になるよ。
私はいざと言う時に備えて、家での自主練にはあーだこーだ理由をつけつつ芳乃にもやらせている。バンドの期待値なら稜を上回るだろう。外野なら最悪主将がフォローに入ればなんとかなるだろうし…
正直な話、光先輩が夏大後じゃなくて夏大前に入ってくれたら結構楽になるんだけど…光先輩って打撃もいけるからね。正直、打撃力のネックには詠深と白菊の存在がほぼ自動アウト献上機になっているので、かなり痛い。2人とも当たれば凄いんだけどね…特に詠深は当たらない。
光先輩がいる仮定でDHがあるなら、先発詠深で、DHに白菊入れたい。ロマン砲だからね、白菊は。
だが、なんといっても打撃力の向上はなによりの急務である。あの朝倉さんの球は希ですらかなりの衝撃を受けていた。練習試合後はひたすら素振りをしていた。涙を浮かべながら。
さらに、守備力も不足気味だ。打撃力が低い分、守備で魅せたいところだけど、こちらも初心者の白菊、地区でそこそこだった二遊間、基礎的身体能力が野球選手としては低めで守備範囲の狭い私…穴が大きすぎるのだ。いくら走攻守揃った主将や強肩理沙先輩や全国区クラスの防御を持つ珠姫や魔球の詠深がいても、あまりにも穴が広い。柳大川越という、藤井先生のセリフを借りるならば『振れていないチーム』に7失点もしたのはそれが理由とも言える。
特に白菊と私のレーザービーム強化は必至だ……私の場合は投手としての球速向上と合わせて、肩の強化。白菊の場合は、剣道で肩は強いから、悪送球しないためのコントロール強化。
私はまずは筋トレ増やさないとね。……ムキムキにはならないよね?
☆☆☆☆☆
さて、ゴールデンウィークに入り、私たち新越谷高校野球部は合宿をスタートした。
守備練習は藤井先生が、打撃練習は芳乃がそれぞれ担当する。私はキャッチャー役として返球を受ける役だ。ちなみに本来のキャッチャーである珠姫は詠深共にトレーニング中だ。
「さあいきますよ」
「こい!」
内野陣の守備練習。藤井先生がノックを打つ…が、初球はすかっと空振り。
「……すみません」
クイッと眼鏡を押し上げる藤井先生。
「おいおい大丈夫か〜?先生、無理すん…な!?」
次の打撃は稜の反応では一瞬遅く、グラブで弾いてしまう。
「なんだ今の打球は!」
藤井先生のノックは、高校野球の平均的な打球を捕りづらいコースを交えつつ内野陣を攻め立てる。
「柳大川越は振れているチームではありませんでしたからね…高校野球の打球の速さを叩き込んであげます」
だが、唯一サードを守る理沙先輩はなんとか着いていけている。
「よっしゃ!さすが先輩!」
現行で、稜の評価は攻守共に微妙だ。決して他校のレギュラークラスの打撃力がある訳ではなく、守備でも悪送球ギリギリが多い。せいぜい足の速さとセカンドの菫との連携が最初からできているところだけだろう。
その点、菫は職人的な活躍が期待できる評価を得ている。振らせて良し、小技も良し、四球狙いの粘りも良し、捕球や送球も丁寧で、最も安定感がある。
とはいえ、稜の良さは格上との戦いにおいて、『空気を読まない』フリースインガーとしては突破口を開く鍵になるだろう。逆に菫は常に同じような能力を発揮するタイプで、同格以下には強いが格上には弱い尖っていない能力なのだ。この2人は真逆の存在なのだろう。
小休憩も挟みつつ2時間の守備練習を続けた。
全体休憩(大休憩)でベンチにみんなが戻ってきた時だった。
「みんな〜、ちょっと聞いて!」
芳乃が藤井先生の横でバインダーを手にみんなに話しかける。そう、投手判定だ。私も芳乃を見ているからマッサージの真似はできるけど、それが何を意味するかを理解するのは出来ない。
「野手の面談するので、希ちゃんから順番にベンチ裏に来てね」
そして、希と芳乃がベンチ裏に消えて数秒で…
「あっ、ギャッ!」
という希の悲鳴のような声が聞こえてくる。そして、すぐにベンチに戻ってくるが、希は両腕を胸の前で抱きながら戻ってきた。
「何されたの?」
「マッサージ?された…」
菫は、微妙な顔をしながらベンチ裏に向かう。
「なんで野手だけ…」
「すぐにわかるよ」
詠深は主将に聞く。そう、詠深1人という投手の薄さを解消するためのものでもあるのだ。
……ん?……あ、そっか。
もしかしてだけどー、もしかしてだけどー………私が光先輩誘っちゃえばいいんじゃないの?そういうことだろ。ジャン。
よし、ゴールデンウィーク終わったら行ってみよう。そーっと言って捕まえればいいよね。ちんまりしててかわいいから行けると思う。打撃力もあるし、新越谷の弱点である選手層も増えるし、いい事づくめだよ!なんで気づかなかったんだろう…原作守る気もなかったけど、無意識に外してたのかしら。
「おまたせー」
「なんだったんだ?気持ちよかったけど…」
稜がそう聞くと、得意げにバインダーを見ながら答える。
「上半身の可動域、やわらかさ、下半身の強さ…つまり、
「息吹ちゃんのコピー投法、見せてあげたら?」
珠姫はそっと私に囁く。
「仕方ないわね…いくわよ」
私はまずはここにいるみんなが知っている朝倉さんをコピーする。
「朝倉そっくりだ!」
「でも…球速は見劣りするわね」
二遊間凸凹コンビは的確に私を評価する。
「球速もコピーしろよ〜」
「無理言うんじゃないわよ…」
珠姫の返球。そして、今度は珠姫にも見せた
「息吹ちゃん!想像以上だよ!これなら
芳乃がぴょんぴょんはねつつ喜ぶ。藤井先生も驚きつつも頷く。
私は一旦ブルペンから離れて、理沙先輩に譲る。
理沙先輩が振りかぶって珠姫のミットへ白球を投げ込む。
ドシッという効果音が付きそうなその球に、一同は……
「重そう…」
「確かに重そうだ」
「重そうです!」
と思わず口にして、理沙先輩は笑顔…
「思った通りどっしりしてる。私たちより一年分体づくりできてる!コントロール付いたらすぐ試合でも投げてもらうよ。投げ込みは1日70球くらいでね」
翌日。内野の基礎練に、私も参加する。あの股割りだ。結構キツイ。
何故私が最近内野の練習に参加しているかと言うと、これもやはり新越谷の選手層の薄さが原因だ。オールマイティに『真似る』ことによる守備も可能な私は全ての守備位置…まぁ捕手は遠慮したいところだが……捕手って、配球やら相手選手の打席状況だとかをきちんと把握しないと出来ないのだ。私は面倒くさがりなので、ブルペン捕手ならともかくとして試合に出るサブ捕手としては勘弁して欲しいと芳乃に頼んである。とはいえ、珠姫が何らかの理由で捕手ができなくなった場合のためには必要なことだ。
というわけで、私は外野手、内野手、投手、捕手全てを練習しなければならなくなった。あれ?前世と変わんない気が…気のせいかな?これ来年新入生来たら使い勝手がいいからってベンチウォーマーになるやつだよね?ポジションは右サイドベンチですっていうジョークが本当になっちゃうよ!?
夜、合宿所で夜ごはん。
メニューは芳乃が考案しており、料理のできる数人が手伝って作っている。出来ない人を手伝いに入れると邪魔にしかならないものね…え、私?芳乃からキッチンに立つなって何故か言われてるのよね…なんで?
「いただきまーす」
「いっぱいあるからゆっくり食べてね」
同じ釜の飯を食う仲間とは言ったもので、食事を共にするということはコミュニケーション上大事なのだ。
「ヨミ!あとで夜の学校探検しようぜ!」
「いいね〜」
「私もお供させていただきます」
稜の提案に、意外なことに白菊もついて行く。多分こういうのも憧れてたのかな。
「寮がとなりにあるから静かにね。それと、明日もあるし自主トレする人はほどほどにね」
「はーい」
私は行かないよ?え?行かなきゃダメ?イベントシーン?
うーん、私他の人よりハードだったしもうお風呂入っちゃったし、このまま寝る。うん、それがいいよ。
そんなことより、私は光先輩を口説き落とすイメトレだよね!かわいいし、強いし、正直マジ幼女先輩。小さい子好きです。でも、ロリコンじゃあないよ?ロリじゃなくて、ちまっとした女の子が好きなんです。分かる?分かるよね?
うーん、普通に誘っても来てくれなそうだよね…いっその事、練習を影から見てる時に後ろからガバッと抱きついてみるとか?役得よね。そう、あくまで光先輩を野球部に引き入れるためなんだから!
なお、ずっとこのことについて妄想していた私は、消灯の23:30になっても集中していたらしく、芳乃の激ツボマッサージで正気に戻されるのだった。