【完結】川口息吹は憑依転生者な器用貧乏だけどかわいい 作:風早 海月
さて、5月ももうすぐ終わり。何故か新越谷全体的に打撃力が高くなってることには目を瞑りつつ練習と週末の練習試合をこなしていく。
5月末時点で柳大川越戦を含む7試合を終えた。
さすがに化け物扱いしててごめんね、主将と希の打率は5割台まで落ち着いてきた。光先輩もだ。ちなみに私だけは6割維持してます。
逆に珠姫の打率は4割台にまで上昇。3割台がいなくなるという…ね。
あ、竹塚高校戦で、私初勝利あげました。やっふー!
6回表の守備。満塁にされた詠深がすっぽ抜けたまっすぐを捉えられて3-0に。
理沙先輩が登板したものの、次の打者にフェンス直撃のタイムリーツーベースを浴びてしまったのだ。まぁこれは主将じゃなければランニングホームランの可能性もあったからこれでも助かった方なんだけど。
6回の表、ノーアウト二・三塁で4点ビハインドの状況で回ってきた私の登板。満塁策や内野陣の好守備にも助けられて追加失点を抑えた。
その裏に5点の追加点をぶち込んで、最終回を抑え、結果勝ち投手の権利貰ったって感じ。
詠深とは相性が悪かったみたいで、ちょこちょこ打たれてたから少し凹んでたけど…まぁ詠深だし大丈夫だよね。
あと、理沙先輩の打率が2割きったのはどうしましょうか…なんか悩みでもあるのかな?まぁまだデータ数が少ないからだよね…?芳乃が理沙先輩をクリンナップに据えてるんだから必ず何かあるはずなんだから…
「息吹ちゃん、ちょっといい?」
「あ…光先輩…なんですか?」
光先輩、光先輩とはやし立てていた私が憎い…光先輩って、こんなにちまっとしててかわいいのに、脱いだら凄いんだよ。胸が、おっぱいじゃなくて、胸板なんだよ…大胸筋なんだよ…腹筋割れてるんよ……こうさ、小さい子にはもっとぷにぷにしてて欲しいのよ!光先輩とシャワー室行った時に内心ウキウキしてたのに、一気にドン引きです。
そういう意味では菫の方がいい体してるよ。でも、1番は理沙先輩かな。太もものムチムチ感は合宿の時に膝枕してもらったけど、良かったわ。あとは二の腕も適度に筋肉と脂肪があって寝る時は腕枕で寝させてもらったんだー。羨ましい?いいでしょ〜?
あとは希もいい体してるよ。でも腕枕お願いしたら拒否られた挙句に芳乃にお触り禁止にされました。…あっ(察し)てぇてぇはいいぞ。
「どうかしました?」
「ちょっと球威不足に悩んでて…何かフォームで改善できないかな?」
「うーん…ちょっと待ってくださいね?」
私は朝倉さんの投げ方をトレースする。……想像するのは常に最強の自分って?それは無いなぁ。
ついで、大野さんの左サイドスローを思い浮かべつつコピーする。さすがに左手から放たれた球はゾーンに入れるのが精一杯だ。
最後に、光先輩を真似る。左のスリークォーター。
「フォームには改善点はなさそうと思います。詳しくは芳乃の方がいいと思いますけど、伝えておきます?」
「ううん。それはとりあえずまた今度で…」
「分かりました。何かあったら言ってくださいね」
光先輩は再び投げ込みに戻る。正直、光先輩と詠深のスタミナ…はヤバい。あの2人は試合で80~90球投げてもケロッとしてるんだからヤバいよ。もちろん完投する他の高校の投手とかも凄いけどさ、詠深に至ってはまだ1年生なんだよ?凄いよね。
ちなみに、この世界の高校野球では70~90球で交代となる場合が多い。どんなに良いピッチャーでも3桁台に突入すると球威やコントロールに不満が出始めるため…とされる。もちろん上級生の全国トップレベルのピッチャーに至っては120球も投げる強肩もいるが。柳大川越戦で大野さんが116球も投げたのは多い方ということ。多分女の子しかいないことが関係してるんだと思う。
そう、驚いたのはほんとに女の子…というか女性しかいないってこと。きらら系とかではたまにあるけどさ、いざ目にするとびっくりだよね。子供ってどうやってつくるんだろ…ってか人間なのかな、私たち(錯乱)。
まぁいいか。きっと子供はコウノトリが連れてきてくれるんだね!
さて、何故か芳乃と希がいい感じなのをよそに、6月最初の練習試合に望む。まぁ皆さんご存知の通り、芳乃と希の"てぇてぇぱわー"で初打点をあげる日です。
先発は詠深で、中継ぎに光先輩と理沙先輩。私が抑えで、4人の投手が全員登板する予定だ。投手陣の調整戦という意味合いもある。
1回表、新越谷の攻撃は主将が初めて4番以外…1番で打つ試合。そして、菫、私と3連続単打で満塁へ。
そして真打希。ファーストのグラブを弾き飛ばす強烈なヒットで2点先制。さらに最近打撃が好調な珠姫が5番に座り、2点追加点を打つ。
6番の白菊は惜しくもライト前に落としたものの、ライトの好送球で一塁アウト。7番の理沙先輩はライトへ単打を放ち5点目。
この回一挙5点をあげた後、3回までを詠深が投げて1失点。
4回と5回を光先輩が投げて1失点だけど、これはエラーの走者だったので自責点はゼロ。
6回に理沙先輩が打たれつつも1失点に抑えて、7回は私が得点圏にランナーを出さずに打ち取ってゲームセット。
勝ち投手は詠深で、私はセーブを記録した。
詠深にチームから誕生日に4勝目をプレゼント。
☆☆☆☆☆
私は今、影森高校の偵察に来ている。
影森高校の真骨頂である高速プレーは見れないけど、ここで最低でも彼女のクイックプレーを見なければ……いや、まぁそもそも今の新越谷なら楽勝とは言えなくとも勝てそうなものだけど…あれは全国区クラスの強豪相手にも通用した戦術だ。あまく見てはいけない。梁幽館のキャプテンも言っていたけど、野球は何があるか分からない。だからこそどんなときも慢心はダメだ。
「初戦で当たる影森高校、データもほとんどないし現地に来てみるしかないよね。抽選会にはマネージャーしか来てなかったし。ここ3年間は3回戦が最高。公式戦で柳大川越や椿峰*1に敗戦しているとはいえ、全てがロースコアの接戦」
「未知の戦術…ということね」
「うん!」
商店街を2人で歩いていると、双子だ、とか、かわいい、とかそんな声が聞こえてくる。でしょ?息吹ちゃんかわいいからね!なんたって私が1番かわいくみえるようにトレーニングもしてるし、ファッションもレイクタウンで勉強してるし!着飾るのって楽しいしん…はっ!女の子がファッションにうるさいのって楽しいからなのね。
小高い山が沢山ある秩父地方だけあり、山の上の公園から練習場から丸見えとなっていた。
「盗み見しなくても丸見えだよ。ありがたい!」
芳乃は目を練習場へ向ける。双眼鏡もあるけど、視野が狭くなるのであまり使いたがらない。川口姉妹の目はかなり良い方だ。
「線は細いけど、ちゃんと練習してるなぁ」
「守備もそこそこ上手いわね…おっあの子が…」
「エース中山さんだね」
「アンダースローか…」
芳乃がいきなり隠れた。
「……見つかってないわよね?」
「多分…大丈夫なはずだけど……何…今の
やっぱりクイックは使ってくれないか…
私と芳乃はせっかく秩父に来たので、名物豚みそ丼を食していくことに。みんなにもお土産としてチルドしたやつを持って帰るつもりだ。
「ん、さすが名物だけあって美味しいわね」
「そうだね。豚肉はビタミンB2が豊富に含まれてて疲労回復に効果あるし、タンパク質も摂れて一石二鳥だよ〜」
ロースの肉々しさと、バラの脂と、絶妙なバランスで味噌が取り持つ。炭火で焼いた香ばしい香り。そして何よりネギだくの注文で、ネギと味噌がまたこれも合う。控えめに言って美味い。
「芳乃、多分予想はつくから言っておくけど、18.44mより近い距離じゃ投げないわよ?」
「…うん、それは前も言ってたから、大丈夫だよ。とりあえず、中山さんのフォームでアンダーを見れれば多少いいかなって」
「それならいいけど…」
打撃投手はメインの投手よりも球速や球威に劣る場合が多い上に、打者の練習のためにも近い位置で投げることがある。その代わり打撃用ヘルメットや防護ネットで守られてはいるのだけど、私はそれを抜けて死んだ経験を知っている。最低でも18.44mでイレギュラーがなければ躱すことはできるから、私が打撃投手をやる時は必ずマウンド上から試合と同様にやっている。
「でもなんでそんなに打撃投手嫌いなの?」
「……怖いからよ」
「…そっか」
私の返事に何かを感じたのか、芳乃は口を噤む。
「さ、そろそろ帰りましょ?早く帰らないと家に着く頃には日が暮れちゃうわよ?」
「そうだね」
私たちは勘定を済ませると、駅の方へ歩き始めた。
「たまには2人で旅行もいいわね。今度熱海にでも行きたいわ」
「…息吹ちゃん、それ絶対漬物目当てでしょ?」
「うっ…」
熱海の方にあるお店のたくあんが私は大好物なのだ。
糠の香りと塩味が強くてバリバリとした歯ごたえが特徴のあのたくあんだ。独特な細長いシルエットが目を引く。知りたい人は『熱海 たくあん』で検索したらトップヒットだと思う。実在する商品なので、この辺にしておこう。
熱海のたくあんと、秩父の味噌豚は美味しいですよ!
でも、(回し者では)ないです。
「だって美味しいじゃない」
「うーん、私は普通のでいいかな」
「分かってないわね…あの糠の香りと塩っけに、焼き海苔と炊きたてご飯で無限に食べられるわよ」
「…息吹ちゃん?」
「ひぃっ!?」
芳乃が立ち止まって私にすごくいい笑顔を向ける。理沙先輩の重い球の時の顔よりもヤバい。こんな攻撃的な笑顔は芳乃に似合わないよ?だから落ち着いて…?
「そんな食生活だから中学で太ったんでしょ?」
「ぐ…それは一生の不覚……かわいくない。あれはかわいくない………」
芳乃が栄養面でも詳しくなった要因は、私の食生活の乱れに伴う激太りが要因だ。あんな体形の私…かわいくない……思い出したくもない。あの当時の写真を全て燃やし尽くしてやりたい。
「まったく…息吹ちゃんは信頼のできる人が出来るまでは私がきちんと管理してあげるからね」
「はい…すみません」
2人は和やかに(?)電車の改札をくぐるのだった。