蝶を焦がす燈り 作:うひよ
にわかの私にも優しく指摘して下さり感謝しております!知識がモリモリ増えてなんだか気持ち良い〜!
最終選別。それは、鬼殺隊への正式な入隊試験である。
“
何故鬼が大人しくその山に閉じ込められているのかというと、鬼は藤の花を嫌う性質だからだ。近付くのすら嫌がるらしいので、麓から中腹にかけて藤の花に囲まれている藤襲山から鬼は出る事が出来ないらしい。
つまり、最終選別は中腹以降の藤の花が効力を発揮しない場所で行われるという訳である。
「綺麗……」
今、私は既にその藤襲山へと最終選別を受けにやって来ていた。
父上から許可を貰ってからの一ヶ月はあっという間だったけれど、毎日欠かさず鍛錬を続けて来たし、今朝も家を出る時はみんなから応援の言葉を貰ってきたんだ。それに…母上もきっと私の事を見守ってくれている事だろう。
藤の花を眺めながら、麓から中腹にまで続く長い階段を登り切る。そこには既に沢山の入隊志願者が試験開始まで今か今かとその身体に闘気を纏わせて待機していた。
…父上や兄上は私の様な歳で試験を受けるのは珍しいと言っていたけれど、どうやらそれは本当だったみたいだ。周りを見れば全員が十三〜十六歳くらいだろうか、この場に現れた一回りも体の小さな私をジロジロと興味深そうに眺めてくる。
腰には父上から渡された仮の日輪刀が差してあるから、迷い込んだただの子供だとは誰も思っていない様だった。
「どうも、こんばんは」
「あ…こんばんは」
「まさか、私の他にも女の子が居るとは思って無くてビックリしちゃった。私の名前は胡蝶カナエ、歳は十三よ。貴女は?」
そんな視線の中、唯一普通に話しかけてきてくれたのは「カナエ」と名乗る女の人だった。
頭の両端に蝶の髪飾りを付けていて、長く綺麗な黒髪とその優しそうな表情が印象に残る美人な方だ。
どこかで見た事がある様な気もするけれど、これだけ綺麗な人を忘れるとは思えないから気のせいだろう。
「私は煉獄燈火、九歳です」
あんまり家族以外と話す事も無かった…というのもあるかもしれないけれど、目の前の女性があまりにも綺麗なので少し緊張してしまう。
「あら、もっと上かと思ってたのに。しっかりしてるのねぇ」
「ありがとうございます。でも、そうでも無いですよ、今も少し緊張していますし…胡蝶さんが話しかけてくれて少しホッとしました」
「ふふ、そう?あ、それと、私の事はカナエって呼んで欲しいな」
「じゃあ……その、カナエさん、で」
「カナエ」
「カナエ…さん」
「カナエお姉ちゃん」
「カナエお姉…って、それはおかしいでしょう!!」
軽く頬を染めて声を荒げる私に、カナエさんはくすくすと柔らかく笑った。
…何だか、不思議な気持ち。今よりもっと小さい頃に母上が天国へ旅立ってから、私の周りは男の人ばかりだったから…。千寿郎も可愛いけれど、私が今この人に感じた「可愛い」とはまた違うのだろう。
「ごめんなさい、私には燈火ちゃんくらいの歳の妹が居てね、当分会えてないものだから、あの子もこれくらい大きくなってるのかなって思っちゃって…」
「カナエさん…」
「カナエお姉ちゃん」
「そ、それはもう良いですから!」
少し重たい空気になるのかと思えば、直ぐに茶化して雰囲気を和ませる。
私には、誰にだって自慢出来る程の素敵な兄上が居るけれど、カナエさんの様な姉上が居るのも悪くない…なんて。
「妹さんはご実家ですか?カナエさんみたいに素敵なお方の妹さんなら、それはもう同じくらい素敵な方なんでしょうね」
「あらあら〜、嬉しい事言ってくれるじゃない〜!でも、実家はもう無いの。妹は確かにとっても可愛いわ!」
「あ……、…ごめんなさい」
実家はもう無い。…鬼殺隊を目指す人が言うと、その言葉には常人以上の重みがあった。
鬼に襲われて家族を亡くし、その憎しみで鬼殺隊を志願する人は少なくないと父上から聞いた事もある。きっとカナエさんも…この優しい笑顔の裏には沢山の葛藤を抱えて、それでもこうやって誰にも悟らせない様にしているのだろう。
「皆様、今宵は最終選別にお集まり下さり、ありがとうございます」
カナエさんとの話もそこそこに、私は声がかけられた方へと視線を向ける。
そこに居たのは、思わず魅入ってしまいそうになる程美しく、淑やかで、今にも消えてしまいそうだと錯覚する程に儚げな白髪の女性だった。
発言からして、最終選別を纏めているのはこの方で間違い無さそうだ。
その方は藤襲山や、その中で生け捕りにしている鬼、そして最終選別の合格条件等を話していく。
喋る際の些細な仕草から、儚げでありながらも凛とした立ち姿まで、正に完璧と言っても良い程の礼儀作法だった。
全てを説明し終え、自らは脇に逸れて藤襲山の中腹以降へと続く入口を示した。
「知ってる?燈火ちゃん、最終選別って、受けた人の大半が命を落とすらしいのよ」
「…?それは、聞いたことはありますけど…」
他の人が続々と先へ進んでいく中、カナエさんが私の隣に立ってにっこり笑いながらそう言った。
「お姉ちゃん」
「……はい?」
「私、死ぬかもしれないでしょう?ほら、お姉ちゃんよ、カナエお姉ちゃん」
「ええ…」
まだ諦めて無かったみたいで、カナエさんは何度も「お姉ちゃん、お姉ちゃん」と同じ言葉を続けた。最早お姉ちゃんと言われ過ぎてどっちが姉でどっちが妹なのか混乱しているけれど…。
「カナエさん」
「もう、お姉ちゃんって呼ん––––」
「七日後、お互い…必ず生きて、無事に会いましょう。…その時は……カナエさんの事を、姉と呼びます」
「–––––!!!」
パァ、と太陽の下に咲く大輪の花の様な笑顔を浮かべる彼女に、私も自然と表情が緩くなる。
兄上より歳上なのにも関わらず、その上初対面だというのにこんなにも打ち解けやすいのは、やはり胡蝶カナエという人物から溢れ出る人の良さ故じゃないだろうか。
「ご武運を。では、また…必ず」
「ええ、気をつけるのよ」
「それはお互い様ですよ」
もう私達以外は誰も残って居ない様だったので、私とカナエさんは走って山の中腹へと入って行く。
カナエさんとは試験という事もあり、最初から行動を共にするのはどうなのかと思ったので、早々に別れて私は東側から前へと進む。
目標の死者ゼロを達成する為には、この山の鬼を全滅させるのが一番手っ取り早い筈だ。
私自身も決して油断しない様に立ち回らなければならない。慢心は動きにどうしても隙が出来るから、目標を持ちながらも決して気を抜かないように心掛けないといけない。
「…!!」
そんな風に思考している間にも、視界にちらりと影が映った。
小さいけれど額に二本の角を生やし、瞳の色は赤く、昼時の猫の目みたいに縦に細長い黒目。
…鬼だ。事前に兄上と父上から聞いていた、弱い鬼の特徴と完全に一致する。
幸いにも、標的はまだこちらに気が付いていない。
不意を突けるのなら、遠慮せずにやれ。父上はそう仰っていた。そうだ、これは命の奪い合い…相手と対等な勝負をする必要は無い。
炎の呼吸
「––––––––」
コォオオオオ…
私の口から、燃える様な呼吸音が漏れた。走り出した私の足音も合わさり、鬼が私の存在に気付く。
「壱ノ型」
「ッ、な…!?」
赤い眼と視線がぶつかった。
その時初めて、鬼は音の正体である私の姿を視界に捉える。だけど時既に遅く、私の刀は確実に鬼の首へと迫っていた。
「“
鬼の首を狙って一閃された炎刃が、叫ぶ暇すら与える事なく動体と首を斬り離した。
コロン、と地面に転がる生首が、恨めしそうに私を睨みつけてくる。
…この人も、元は人間だったのだろう。人を喰らった今となっては、被害者や遺族の為にも首を斬るしかないけれど…せめて来世では、幸せに溢れた人生を歩んで欲しいと願う。
私の様な体躯の者でも、全集中の呼吸 常中をずっと続けていたからか問題なく首を斬る事が出来た。
最終選別はまだ始まったばかりだ。死者ゼロを達成する為にはぐずぐずしている余裕なんて無い。
ダッ!と強く地面を蹴って走り出す。全神経を集中させ、木々の間を通り抜けながら辺りをつぶさに観察し、鬼が居れば斬るを繰り返して山中を駆けていく。
道中で危うそうな場面の人達も助けつつ、私自身も実戦だからこそ学べる事を片っ端から吸収し、糧とした。
とはいえ、父上の仰っていた事は正しかった様で、対峙する鬼はどれも一撃で首を刎ねる事が出来る程の実力しかなかったから実は少ないかもしれないけれど。
他の人の戦闘も見た所、技も薄く、全集中の呼吸も十分ではない人が大半だった。緊張で本来の実力を発揮出来ていないという理由もあるだろう。
そうして、一日、また一日と過ぎていく中で、私は遂に鬼と出会わなくなってしまった。
詰まる所、この山に居る鬼を殲滅出来たという事だった。
「…ふぅ」
今日でこの山に入って七日目になる。今から山を降りれば合格を貰える事だろう。
鬼を全て倒した事を兄上に報告すれば、頭くらいは撫でて貰えるだろうか?「凄いな!流石は俺の妹だ!!」なんて…ふふ。
刀に付着した血を振り払い、腰に挿し直す。
頭の中では華麗な妄想劇が繰り広げられており、端から見れば何も無いのににまにまと笑っている変人だった。
だからだろう。––––この時、私は完全に油断をしていた。
あれ程父上に、そして出掛ける前に兄上にも同じ事を教わっていたにも関わらず…慢心していたんだ。
「ガァッ!!」
「っ…あ…!」
頭上から声が聞こえ、緩んでいた気持ちを引き締め直して腰の刀に手をかける。
だけど、もう遅い。木から飛び掛かって来たのだろうか、見上げた時には既に鬼の顔が目の前にあった。
ダメだ、噛まれる、顔を噛まれる…!目だけは守らないと、反撃が…っ!…いや、もう、間に合わな––––。
「水の呼吸 壱ノ型…“
「ギャッ!?」
もうダメだと思ったその時、凛とした透明感のある声が聞こえ、私を襲おうとした鬼の首が飛んでいった。
私は後ろへと飛び退き、降ってくる胴体を躱して声が聞こえた方へと顔を向けた。
「カナエさん…!」
「燈火ちゃん!大丈夫?怪我は無い!?」
「はい、すみません、助かりました…ありがとうございます」
小走りで近付き、私の体をぺたぺたと触って確認をしてくる彼女に心の底から感謝を伝える。
…馬鹿か、私は。鬼が居るか居ないか、もっと隈なく確認しなくちゃダメでしょうに…!今のはカナエさんが助けてくれてなかったら…絶対、死んでいた。
この七日間で…自分は強いんだと、慢心してしまったんだ。
父上と兄上、それに千寿郎にも、こんな情けない姿は見せられない。それに…母上にだって。
帰ったらこの事を父上と兄上に伝え、もっと厳しく稽古を付けて貰う事にしよう。鬼殺隊に入れば、油断してましたなんて言い訳にもならないのだから。
…それにしてもカナエさん、感謝はしてるけどちょっと触り過ぎというか、その、頬をすり寄せる必要は、果たして本当にあるんでしょうか…。
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胡蝶カナエさんについては必死こいて調べましたけど、何か違和感がありましたら教えて頂ければ幸いです!