蝶を焦がす燈り   作:うひよ

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文通

色々あったけれど、無事に最終選別を突破する事が出来た。

今年も死者数はゼロだったみたいで、目標は達成したと言える。

 

「……」

 

最終選別から三週間、私は今まで以上に鍛錬に励んでいた。

最後の最後で気を緩め、死にかけた事実は私に重く伸し掛かる。父上や兄上は、「生きて帰って来てくれただけで充分だ」と言ってくれたけれど、私が自分を許せないのだ。

兄上に頭を撫でて貰うのも、今はまだ早いだろう。

 

家の道場で一人、目を閉じて座禅を組み、精神を落ち着かせている。

普段無意識にやっている全集中の呼吸を意識的にする事で、呼吸の際に発生する僅かな“無駄”を削ぎ落として行こうという考えだ。

 

呼吸は戦闘において一番重要な要素である。これを完璧に覚えれば、もしかすると使用する際に違和感を感じる炎の呼吸も、違和感無く使用出来る様になるかもしれない。

 

そういえば、二日前の事なのだが、遂に私の日輪刀と隊服が手元に届いた。

最終選別を終えた後に、その場で刀にする鋼を選ばせて貰えたのだ。

刀匠は『鉄地河原鉄珍』という人で、父上曰くかなり腕の立つ刀鍛冶なんだとか。

そして隊服なんだが…何故かスカートだった、ヒラヒラしている。兄上に聞けば、女性隊士も男性と同じモノを履いているらしく、スカートは見た事が無いとか。

父上は私が動き辛くないのならそのままでも構わないと言ってくれたので、身動きに支障が無さそうだと判断した今は喜んで履かせて頂いている。

 

「………」

「………」

「…………、ん?」

 

不意に視線を感じて薄らと目蓋を持ち上げれば、目の前にカナエさんの顔が。

それこそ少し動いただけで唇同士が触れそうな距離まで接近していた。

あまりの驚きに声も出ず、体もぴし、と固まって動けなくなる。少しでも動けば、触れてしまいそうで……動くに動けない。

 

「…え、……と…?」

「あら、気付いちゃった?」

 

うふふ、と楽しげに微笑み、私の隣に腰を下ろした。

 

「色々と聞きたい事があるんですけど、どうして家に居るんですか?それに、家の場所はまだ教えてなかったと思うんですけど…」

「『煉獄』の名前は有名だもの、燈火ちゃんから聞いた時にピンと来たわ。場所は色んな人に聞いてなんとか…ね?」

 

それで、たまたま家の前を掃除していた兄上に話しかけて招いて貰った様だ。カナエさんの事は家族にも話しているから、私の事を助けてくれた命の恩人だという事で、我が家において『胡蝶カナエ』という人は正に神にも等しい扱いだった。

 

「訪ねた理由は一つよ、燈火ちゃん、あの後すぐに山を降りちゃったから、私まだお姉ちゃんって呼ばれてないでしょう?」

「あっ……、え、それだけですか?」

「ええ、そうよ?」

「そ、そうですか…」

 

私に『お姉ちゃん』と呼ばせる為だけに足を運んだとすれば、かなりの執念というか…あの時、約束を忘れてしまっていた事を申し訳なく思う。

 

「ほら、カナエお姉ちゃんよ」

「…ぅ、か、カナエ…お、おね…」

 

恥ずかしい…!!何だか分からないけどこれ、すっごく恥ずかしい…!!

顔から火が吹き出してもおかしくないくらいには熱い…大丈夫かな、私の顔、燃えてないだろうか…。

 

「カナエ……お姉……ちゃん…」

 

頭から煙を昇らせ、顔を俯かせる私とは対照的にカナエさんはニコニコと楽しそうだ。

私と同じくらいの妹が居るって言っていたから、カナエさんも何とか寂しさを紛らわそうとしているのかもしれない。

 

「そうそう、妹から手紙でね、来年の最終選別を受けるって連絡が来たわ」

「どうしてカナエさんと一緒に受けなかったんですか?」

「私としのぶ…妹は育手が違うのよ、だから、もう何年も妹には会っていなくて……。便りのお陰で元気に過ごしている事は分かるけれど、それでも心配なの…。あと、もうお姉ちゃんとは呼んでくれないのかしら?」

「何度も呼ぶ、という約束では無かった筈ですよ。カナエさん」

「そんな事言わないで、これからもお姉ちゃんって呼んでくれないかしら」

 

頑な!グイグイ来る…、このままでは、押し切られてしまう…!

 

「…あ、姉上」

「!」

「姉上なら、どうでしょう?これなら呼べます」

 

苦肉の策…意味はそのままで、呼び方を変える!

姉上という言葉なら私も聞き慣れているので、まだ言える…と思う。

 

「姉上…、ふふ、それも良いわね〜、じゃあこれから私の事は“姉上”と呼ぶ様に」

「ぅ…はい、姉上」

「そんなに堅くならずに!もっと親しく…ね?何なら敬語も要らないわ」

「何でカナ…あ、いえ、姉上はそこまで私に構って下さるのですか…?」

「簡単よ!だって燈火ちゃん……燈火は可愛いもの!」

 

答えになっていない様な…!

…でも、悪い気は全然しないから…別に良いか。

……あれ?姉上が着ている隊服、兄上が着ている物と同じだ…、やっぱり私のは、何かおかしいのだろうか。

 

「失礼する!燈火、そろそろ昼食の支度をするぞ!カナエ殿もご一緒しては如何だろうか!父上もお喜びになられる!」

「姉上、私からも是非。お礼もきちんと言えていませんので」

「そうですね、良いのでしたら頂きます。用意がまだでしたら手伝わせて下さい。それから燈火、敬語は要らないわ」

 

あまり抵抗は無いとはいえ、それでも言い慣れていない姉上という言葉も羞恥心はあるというのに、姉上は更に敬語すらも崩そうとしてくる。

今もニコニコと優しい笑顔は絶やしていないが、彼女の妹さんは苦労してそうだと思った。

 

 

昼食を食べた後、姉上はすぐに鎹鴉(カスガイガラス)と呼ばれる鬼殺隊の伝令役を務めるカラスに呼ばれ、任務へと出掛けて行った。

鎹鴉は鬼殺隊一人一人につけられるので、私も一匹、最終選別の後に貰っている。

 

ちなみに、昼食は全て姉上の手料理だったのだが…これがなんともわっしょいだった。

父上も兄上も千寿郎も、勿論私もいつも以上に食べ、それを見ていた姉上も嬉しそうに笑っていた。

普段は父上、兄上、私と回しているのだけど、姉上の料理を食べてしまったからにはもう戻れないかも…と思ってしまう程だ。

 

 

 

––––––––––––––––––––––––––––––––––

 

 

 

「炎の呼吸 肆の型!“盛炎(せいえん)のうねり”!!」

「グギャッ!?…ガァァ…!鬼、狩りめ…!!」

 

刀についた血を払い落とし、崩れていく鬼に心の中で祈りを捧げて次の任務場所へと向かい走る。

姉上が初めて手料理を振る舞ってくれた日から、あっという間に半年の月日が経った。

その間、私の生活には大きな変化が何個か生まれている。その内の一つが、コレ…「鬼狩り」だ。

鬼殺隊となったのだから当然の事だけど、任務で遠くの地にまで赴いたりする経験など無かったので、初めの内は結構大変だった。

だけど姉上や兄上、そして偶にではあるけれど柱の方達と…あ、それから冨岡さん達とも、合同任務をさせて貰えるのはとても有り難かった。

…炎の呼吸は、まだ使用するのに違和感を残したまま。姉上は水の呼吸から花の呼吸に変えてから劇的に動きが良くなった。少し、いや、かなり気持ちに焦りが生まれているのは否定出来ない。

 

「炎の呼吸…参ノ型 “気炎万丈(きえんばんじょう)”!!」

 

ザン!

 

次の場所でも一撃の元に鬼の首を刎ね、もうそういう流れになってしまった祈りを捧ぐ。

…これも、何か違う。兄上の参ノ型はもっと、こう…太刀筋が綺麗で、炎にもっとハッキリと、本当に熱さを感じる程の迫力がある。

 

今日だけでも、倒した鬼の数は十匹は下らない。だけど、それでも…今日もまた私は何も得る事が出来なかった。

 

本日の任務はこれで終わりなのか、鎹鴉は鳴かなかった。

気持ちにもどかしさを抱えながら、私は家へ帰宅し、戻った事を父上と兄上に伝えて自室へと一直線に向かう。

以前ならば、先に湯を浴びていた事だろう。薪の段取りも必要になってくるし、急がねば軽く二時間程待たないと入浴出来なくなってしまう。

 

「えっと…『拝啓 春爛漫の季節となりしたが、いかがお過ごしでいらっしゃいましょうか』……うーん…頭語は、もう略してもいい、わよね、その様な間柄でも無いのだから」

 

部屋に入った私は、真っ先に机の上で筆を取った。

これも、私の生活の中で起きた大きな変化の一つ……文通である。

 

『今日も、あまり成果は得られなかった。兄上や姉上は凄い、私はまだ(かのえ)なのに、兄上は(ひのえ)、姉上は(つちのえ)なのよ。鍛錬の仕方は兄上と同じなのに、どうしてここまで差が出るの?年齢で言い訳はしたくないの、貴女なら、分かってくれる…?

……ごめんなさい、折角の手紙が、この様な愚痴になってしまって…。だけど、兄上達に落ち込んでいる所は出来れば見せたく無いの。貴女の優しさに甘えているのは分かっているけれど……けどどうしても、貴女には聞いて欲しくて。

 

それで、そっちはどう?全集中の呼吸 常中は出来る様になった?ふふ、こんな言い方しちゃったら、貴女は怒るかも。出来るわよ!なんて、少し荒れた字が返って来るのかな?今から返事が待ち遠しいです。

 

そうだ、もう最終選別まで半年ね。手紙じゃ無くて、貴女と顔を合わせてお話し出来る日を心待ちにしているわ。–––––––しのぶ』

 




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