ホワイトルーム。それは、俺が生まれ育った場所のことだ。物心ついた時にはすでに白い天井を見上げていて、周りには同年代の子供が何十人も同じ生活をしていた。
曰く、そこは学校のような場所であるという。まあ、俺はこの施設の外に出たことが無いので学校というものがどんな施設なのかは知りようもないが。
とにかく、ホワイトルームでは様々なことを教わった。勉強は当たり前として、戦闘技術や、他人を従える術など、なんの疑問を覚えることなく習得は進んでいった。
ところで話は変わるが、俺と同い年の一人の少年の話をしたいと思う。彼は全てが一番だった。勉強も一番できるし、走れば一番早い。おまけに誰と戦っても負けなしだという。……名前を、綾小路清隆といった。
先生たちは異様なほどに彼を褒めたたえた。最高傑作だそうで、全ての数値が桁違いだと騒ぎ立てていた。
一方で、俺はといえば。この施設では可もなく不可もなくといった具合らしい。年齢が上がっていくごとに先生の興味は綾小路君だけに注がれていき、逆に俺へはほとんど関心を示さなくなった。
だから、逃げた。ホワイトルームを飛び出し、一人の力で生きていくことを決意した。それが、三か月ほど前のこと。
初めて吸ったホワイトルーム以外の空気は、ひんやりしていておいしいと思った。
なのに……。
「えー、綾小路清隆です。えー、特に得意なことはありません。えー、よろしくお願いします」
どうして、綾小路君がここに!?
まて、落ち着け。まずは夢じゃないかの確認が先だ。
俺は右手で思いっきり自分の頬をつねった。……痛い。つまりこれは現実。
奇しくも、どうやら俺はこの高度育成高等学校で綾小路君と再会してしまったらしい。
金がないからといって、国立なうえに、今後の進路も保証してくれるこの学校を選んだのは早計だったか?
いや、しかしこれ以外の選択肢は俺にはなかった。結局世の中は金で回っているのだ。ホワイトルームでもそう教わった。ゆえに、大事なのはこれからどうするか。
今は生徒たちが自主的に自己紹介をしている最中。今日がこの学校の入学式で、まだクラスの面々は顔を合わせたばかり。はやくクラスの輪を深めようというイケメン君の案である。
この状況だが、俺からしてみれば非常にまずい。もし綾小路君に俺の存在がばれて見ろ。ホワイトルームから即座に呼び戻しを食らうに違いない。無断で抜け出したのだ、相応の罰も予想できる。なにより俺は、もうあの場所には戻りたくない。
だから、綾小路君に俺の正体を明かすわけにはいかない。
どうやってこの場を切り抜けようか。そんなことに思考を巡らせていると。
ガターンッ!!
荒々しく机が叩かれる音がした。俺から見て右斜め前の方向にいる赤髪の男子。彼が、自分の足を机の上に乗せた音だった。
彼は、注目を浴びていることを知ってか、こう言う。
「おいおい、俺らはガキかよ! 自己紹介なんてやりたい奴だけでやれ。俺は付き合うつもりはねえぜ」
「もちろん、僕はみんなに自己紹介を強要することは出来ない。だからどうしてもやりたくないというのなら仕方がない。他にも、やりたくないという人がいたら出て行ってもらっても構わないよ」
イケメン君の引き留めもむなしく、赤髪の男子を筆頭に数人の男女が教室を出ていく。
——ここがチャンスだ。
その流れに遅れないように、俺は教室を後にした。ここで出ていくデメリットは多いが、それでも綾小路君に身バレするのだけは避けないといけない。
それはさておき。背中に感じるクラスメイトの視線が、ものすごく重苦しかった。
まだ出てきていませんが主人公の名前は、白井 空(しろい そら)です。
一話の文字数
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今のまま(2000~3000)
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5000前後
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10000前後
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それ以上