ホワイトルームの失敗作   作:マサカノ

2 / 6
トモダチのつくりかた

 ……ケヤキモールと言っただろうか。今、俺が突っ立っている場所の名前のことだ。道の中央にポツリと立ち止まっている姿は、さぞかし不審がられるの違いない。

 

 自己紹介の場から立ち去って早三十分。今となって後悔が押し寄せてきたのだ。

 

 ――ボッチルート、まっしぐらである。

 

 俺を含め、自己紹介の場を立ち退いた数人は一人でいることが好きな人種と判断されたに違いない。俺が逆の立場でもそう判断するからだ。

 そんなやつにわざわざ話しかけるもの好きなんているはずもなく。つまり、友達なんて出来るはずもない。

 

 ホワイトルームでは自分以外の他者は全員道具だと教わった。自分が頂点へ立つために利用することはあっても、真に心を許すことはしてはいけないと。

 しかし、ホワイトルームを出て数か月。俺の考えは日に日に変化していった。気の許せる仲間同士で笑いあう人々を見るたびに思うのだ。

 

 ――羨ましいなぁ。

 

 俺だって、友達の一人や二人は欲しい。綾小路君にだけはご遠慮いただいて。

 

 だから俺は早速行動に移した。動くなら、友人間でグループが出来始める前の今しかない。

 俺は、目的地の方へと足を踏みだした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これ、会計お願いします」

 

 言って、俺は買い物かごをレジに乗せた。

 コンビニである。

 まさかコンビニに友達などという商品が売っているわけではない。どうして、という問いにはおいおい答えるとして。

「お会計、0ポイントになります」

 店員から、普通ではありえない言葉が発せられる。

 買い物かごに入っている商品は肉、野菜、それに総菜も含まれる。これら、全て無料なのだ。到底信じられる話ではないが、事実なので理解して欲しい。

 ちなみに、ポイントと言うのはそのまま円を置き換えたものとして考えていい。全ての買い物をポイントでやり取りするのがこの学校のやり方らしく。なんでも、買えないものは無いとのこと。それでもって、俺たち生徒は全員入学と同時に10万ポイントを学校から支給されているのだ。つまりお小遣い10万円。

 なんたる好待遇か。あまりにも生徒たちにとっては居心地のいい学校で。都合がよすぎて。だから、日常のありふれた会話ですら、俺の耳は敏感に反応した。

 

 つい10分ほど前のこと。ケヤキモールですれ違った男3人グループの話し声が聞こえた。

「なあ、金がないんだよ。少しでいいから貸してくれねえ?」

「無理に決まってんだろっ。どうせ返す当てもないんだから」

「そうそう。それに、金欠なのはみんな同じだよ」

 1人は真剣なまなざしで、1人は呆れたように、また1人はあきらめたように語り合っていた。

 そんな馬鹿なはずはない。

 金がないって?

 ポイントは毎月1日に支給される。入学時に担任の茶柱先生からそう説明を受けた。たった一日もたたずにポイントが無くなるわけがない。

 それに、返す当てがないと言うのも妙な話だ。ポイントは毎月支給されるのだから、計画をもって貯金すればいいだけの話であって、不可能だという理由は思い浮かばない。

 ならば考えられる理由は限られてくる。

 

 通りがかった男子生徒がものすごく計画性がなくて貯金が出来ないタイプか……。もしくは、来月以降は10万ポイントももらえない、ということだろうか?

 結果、俺の読みが当たっている可能性は大いに高い。もし支給されるポイントが減ると仮定したとき、生徒たちがそれでも最低限生きていける環境は必要になる。だから無料で使える設備がないかと探してみれば案の定。コンビニに無料食材が置いてあったというわけだ。

 さて、ここまで長々と説明したが。最終的な目標は友達を作ることである。無料食材と友達がどうつながるか。

 ……どうやら、早速その場面に遭遇したようだ。

 会計を終えて店から出ようとしたあたり。

「万引きはダメですよ」

 びくっ、と目の前の彼女の体が硬直した。その後彼女は、ゆっくりと首をロボットのようにぎこちない動きでこちら側に向ける。

「……そんなことやってない。言いがかりはやめて」

「言いがかりもなにも、見たんだから仕方ないでしょう」

「……証拠でもあるわけ?」

「証拠は……ない。けど、ひとついいコトを教えてあげましょう」

 そこまで言うと、彼女はなんだ言ってみろ、とばかりに俺を睨みつけた。少し、いやかなり怖かったので目線をそらしつつ。

「すぐそこに、監視カメラがあります。見えにくいですが、この場所はバッチリ映っているでしょうね」

「……気が付かなかった」

「と、いうわけで。商品は棚に戻すのが賢明ですよ」

 彼女は、悔しそうに手元のバッグから商品を取り出し、棚にもどした。

「そこで、と言ってはなんですが」

「なに?」

「ここに、無料商品のコーナーがあります」

「…………は?」

「え?」

 どうして、そんな間の抜けたような顔をするのだろうか。

「だって、ポイントが無いから万引きなんてしようとしたんですよね?」

「……いや、違うけど」

 …………違う? …………ちがう? …………チガウ?

 俺の記憶が正しければその言葉は否定の意味が込められているはずで。つまり、俺が言った言葉は的外れだということで。

「ポイントは、あるんですか?」

「当然でしょ、今日配られたんだから」

 本当は他人に携帯の中身見せるのは嫌なんだけど、とつぶやきながら彼女はポイント残高を掲げた。そこに表示されていたのは、配られたポイントとそう大差ない量の残額。

「じゃあ……。どうして万引きなんて?」

「そんなの、あんたには関係ないでしょ」

 もういい? と彼女は颯爽と店外へ消えていった。残されたのは、呆然と立ち尽くした男子が一人。

 

 ここらで、反省会でも開いてみよう。といっても参加者は俺一人だが。

 まずは今回の作戦。

 目的は友達を作ることだったが、あえなく失敗。

 友達を作る方法として考えられるのは、自分が相手にとって有益な存在だと思わせるか、相手の弱みを握って脅すかの二択だ。それ以外の方法は知らない。

 そして、今回とったのが前者の方法。無料食材の存在を教えることによって、こいつは友達になるといいことがあると思わせようとしたのだ。

 そこで都合よく表れたのが先ほどの彼女というわけで。万引きをしているところを見れば、誰だって金がないのだと思うだろう。本当はクラスメイトの誰かにこの情報を流そうと思っていたが、ここで話すことを選択した。

「なのにさぁ……」

 金はある、なんて、それはないでしょうとツッコミたい。

 

 次はどうやって友達を作る方法を探そうか。と考えていると。

「お、お前は確か……」

 横から話しかけられて、顔を向けると。

「同じクラスにいた……」

「人違いです、さようなら」

 俺は、速足でコンビニを去った。

 冗談じゃない。どうして、綾小路君がこんなところにまでいるんだ!

 いや、コンビニに用事があったのだろう。そんなことに文句を言ったところでどうしようもない。何かあるとすれば、不幸な俺を呪いたい。

 ああ……。はたして、平穏な学園生活はいつになればやってくるのか。

 

 




主人公が敬語だったのは初対面で相手が上級生の可能性もあったからです。

よう実ファンの皆様なら出てきたキャラが誰だか分かったでしょうか。本編と主人公が関わるのはもう少し先の予定です。

一話の文字数

  • 今のまま(2000~3000)
  • 5000前後
  • 10000前後
  • それ以上
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。