コンビニから出てしばらく。男子寮にある自分の部屋で物思いにふけっていた。
まだ真新しい部屋には最低限の物しか置いてなく、まっさらな床に寝転ぶと背中が痛い。
「綾小路君……か」
決して俺では敵わない男の名前をつぶやく。同時に、ホワイトルームでの出来事が脳裏に蘇ってきた。
「今日は対人戦闘を行う。ペアは、綾小路と……白井」
その日。綾小路君と俺が、初めて面と向かって会った日。彼はその日のことを覚えているのだろうか。
綾小路君の目はとても力強くて、何者も寄せ付けないオーラを放っていた。
でも。それよりも。なにより印象に残ったことといえば、綾小路君の目は同じ人間の物かどうか疑うぐらいに冷たかったのだ。
はっと我に返った時には綾小路君は準備が出来ていて俺に向かって言う。
「……いくぞ」
「いつでもいいよ」
なんて、大見えを切った割にはあっけない結末だった。俺の攻撃など、どこ吹く風だとばかりに避ける綾小路君。その時の絶望感と言えば計り知れない。
そして数分が経つ頃には、俺は床に寝転んでいた。何を言っているのか分からないかもしれないが、この表現が一番正しいのだ。気づいたら、倒されていた。
――俺はこの日、初めて絶対に敵わない相手というものを知った。
「もう夜、か」
過去のことを思い出して言ううちに、気づけば日は落ち切っていた。
今日は、色々なことが起きすぎて疲れた。まさか綾小路君に会うなんて。完全な想定外である。
まあ、いいか。細かいことはまた明日考えよう。
とにかく今は寝たい。俺の体は、吸い込まれるようにベッドに覆いかぶさっていった。
「……うーん。驚くほどになにも起きない」
翌日。始業前の教室。
俺は早くもクラス内でボッチとしての地位を築き始めていた。思った通り、自己紹介の場にいなかった俺にわざわざ話しかけてくる人はおらず。だからと言って俺から話しかけようにもどんな話題を振ればいいのか分からない。
そんなこんなで、あっという間に放課後まで時間が過ぎていった。
まあ、そんな中で一つ朗報と言えるのは、例にもれず綾小路くんも俺に話しかけてこなかったということだ。自己紹介の場から立ち去った甲斐はあったというもの。
そして、時間が過ぎていくごとに教室内は静かになっていく。たしか今日は部活動の説明会があると茶柱先生が言っていた。
ちなみに参加する気はない。今の俺は綾小路君という巨大な敵に怯えながら生きている身で。そんなことに割く時間は一秒たりともないのだ。
結局この日も何をすることもなく一日が終わる。綾小路君の脅威は無くなるどころか、いつ存在がばれたっておかしくない。ますます、気を引き締めないとな……。
そして、事が動いたのがそれから三日後のことで。
「わたしと、友達になってくれないかな?」
まさかの友達志願者の登場である。
いきなりのことで驚いたが。よく観察してみると、頭のてっぺんから足のつま先まで完璧な美少女だった。や、そんなジロジロ見ているというわけではなくて。一つ一つの仕草に体全体を使って、美少女感を増幅させているという印象を受けた。
「自己紹介の時にも言ったんだけど、わたしの目標は学園中ののみんなと友達になることなの」
「へえ。それはずいぶんと立派な目標だね」
「うん、だから白井君も友達になってくれると嬉しいなっ」
そう言って、目を輝かせる目の前の少女。その表情が本意なのかどうかはともかく、俺からしてみればこの上なく魅力的な提案だった。
「ぜひ、こちらからもお願いするよ。俺と友達になって欲しい」
「うん、これからよろしくねっ。それじゃ早速、連絡先を交換してもらってもいいかな?」
「もちろん」
そして、晴れて俺の端末に友達第一号の連絡先が登録された。
今更だが、彼女の名前は櫛田桔梗と言うらしい。
まあ、そんな事があって。多少浮かれていたのかもしれない。だから、本来はするはずのないミスを犯してしまったのである。
「見学者がずいぶんと多いな……。まあいい、授業を始めるぞ」
今年初の水泳の授業。珍しいことにこの学校では四月から水泳の授業が行われるようだ。プールサイドに集まった生徒の数は全体から比べると物寂しいもので。たしか今朝、複数の男子が女子のおっぱいの大きさランキング、なんてものを賭けていたことが原因とみられる。
「早速だが、男子と女子に分かれて競争をしてもらう。それぞれ一位のものには5000ポイントを俺からプレゼントしよう」
先生の言葉にやる気を出したのか、プールサイドは歓声でにぎわう。
女子の方は情報がないので知らないが。男子は可哀そうに。
――どうせ一番は、綾小路君なのだ。
「まあ、どうせ勝てないけど。やるだけやってみるか」
女子のレースの成り行きを見守りながら、そんなことを考えていた。女子の方で優勝したのは、小野寺という水泳部だった。
「位置について、よーい、ドンッ!」
スタートの合図が鳴り響く。今俺が泳いでいるのが予選一組目。男子は予選の順位から上位五人が決勝を戦う仕組み。当然、そこに綾小路君も出てくるだろう。
ホワイトルームでは水泳の授業というものは無かったが、それでも鍛え上げられた身体能力は嘘をつかない。おそらく、さぞ不格好な泳ぎだと思うが、それでも全力を尽くした。
そして、泳ぎ切った後に先生にかけられた言葉が以下の通りで。
「白井……お前、水泳部に入らないか?」
まさに驚愕、といった表情だった。そんなに早かったのだろうか? たしかに、組のなかでは一番早かったらしい。
「お断りします。今は、部活とかやってる余裕はないので」
主に、綾小路君関連で。
プールサイドに上がった俺を待ち構えていたのは、クラスメイト達の賞賛の嵐だった。
「すごいね白井君っ。こんなに早いなんて思わなかったよ」
「白井、お前やるじゃねえか」
「あんなに早くて羨ましいよ」
櫛田をはじめ、俺の周りには小さな輪が出来上がっていた。自己紹介の時にいなかったことは嘘のように。今の俺は、クラスメイト達から歓迎されている。
でも。先生も、こいつらも。きっとすぐ後には俺のことなんて眼中に入らなくなるだろう。次の組で待機している綾小路君の泳ぎを見てしまえば。
……って、綾小路君もなんかこっち見てない? めっちゃ見てるよ。
――ああ、失敗した!
そうだ。注目を集めれば綾小路君にも気づかれるなんて分かり切っていたことじゃないか!
肝心なところでポンコツと化した自分の頭を恨む。
そして、待ちに待った綾小路君の出番。
なのにこれは、どうしたことだろうか。スタートしてしばらく、綾小路君は真ん中ぐらいの順位に収まっている。待てども待てども、綾小路君の泳ぎが速くなる気配はない。そしてそのまま、レースは終わりを迎えた。
――どういうことだ?
考えられる可能性は二つ。
単にに綾小路君が水泳を苦手としている場合。しかしそれは、動くチートこと綾小路君に当てはまるとは思えない。
ならば考えられるのは、わざと手を抜いたということだ。
しかし、理由はなんだ? 考えろ。理由もなく綾小路君がこんなことをするはずがない。
――まさかっ!?
俺の脳裏には、一つの結論が導き出された。
俺を、正確にはホワイトルームの脱走者を油断させて、こっそりと始末する算段なのではないか?
そう考えれば、手を抜いていたことにも納得がいく。
このままでは非常にまずい。早く、綾小路君への対策を練らなければ。
授業は終わり、放課後を迎える。きっと、タイムリミットはそう遠くない。そうなる前に必ず。
――俺が、綾小路君を封じ込めるしかない。
櫛田の髪って何色なんですかね? ちょっとよく分からなくて描写してないんですけど……。というか描写自体が苦手です……。
問題は、ヒロインを作るかどうかなんですよ。作るのならおそらくメインキャラの誰かになるので、そうすると綾小路ヒロインズが欠けてしまいますからねえ。
本番は原作でいう五月以降なので後一話か二話で四月はサクッと終わらせて本筋に入りたいですね。
一話の文字数
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今のまま(2000~3000)
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5000前後
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10000前後
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それ以上