そして今回は、綾小路視点です。
窓の外を眺めると、グラウンドで体育をやっている生徒の姿が見えた。これは、窓際の席に座っている者の特権といえるだろう。そんな窓際の、一番後ろ。それが、オレに与えられた居場所だった。
ホワイトルームを抜け出して早数か月、オレが身を置いたのは高度育成高等学校という国が運営する学校。入学から卒業まで外部との接触の一切が禁じられているため、ここならホワイトルームの運営者でもある父親から逃れられると考えてのことだ。
平穏な学園生活を送れさえすれば、それでいい。
やはり学園生活の醍醐味といえば、友人と過ごす時間だとどこかで聞いたような気がした。ところで、友人とはどうやって作るものなのだろうか?
自分から話しかけるのは気が引ける。かといって、相手から話しかけられることは入学して以来数えるほどだ。教室の中央では、池、山内、須藤の三人が周りの迷惑などどこ吹く風といった風に騒いでいる。彼らは、どのようにして友人関係を築いたのだろうか。オレ自身もたまに彼らに話しかけられることはあるが、友人という感じではない。
一つ、ため息をついて。隣人に意見をうかがってみることにした。
「なあ、堀北」
「……何?」
「いや、友人ってどうやって作るんだろうな」
「さあ。そもそも私は友人を欲しいと思ったこともないし、考えたこともなかったわ」
余計なことを聞かないで頂戴、と軽くあしらわれる。もっともだ、と思った。堀北ほどのボッチに友人の作り方を聞いても仕方な――。
「――痛っ」
突如、腕に刺されたような痛みが走る。あわてて患部を確認すると、幸い血は出ていなかったもののまだしびれが残っていた。犯人は明確だ。
「おい堀北。痛いんだが」
「あら、どうしたのかしら?」
「どうしたって、お前が刺したんだろ」
堀北の手には凶器であろうコンパスが握りしめられていた。それなのにすっとぼけた態度をとるとは。
「私が犯人であるという明確な証拠でもあるのかしら。このコンパスにしたって、ただ手に持っているだけだもの」
「いや、しかし」
「すぐに人を疑うのは悪い癖よ、綾小路君。大方、失礼なことでも考えていてバチがあたったのね」
終始すまし顔で言う堀北。この一瞬に限っては、オレには彼女が悪魔に見えた。
それからはなにかが起きることもなく。イベントという意味では水泳の授業くらいだろうか。
予選で白井という男子がものすごい泳ぎを見せて、クラスメイトに取り囲まれていた。つい、羨ましくなって凝視してしまったが。オレは目立つことは避けたいため無難に真ん中くらいの順位を獲得。さらに高円寺もものすごい泳ぎで注目を集めていた。決勝では二人の直接対決となり僅差で軍配は高円寺に。もしオレが本気を出していても勝てたかどうか。身体能力において高円寺という生徒は頭一つとびぬけている印象を受けた。
――そして、その翌日のことだ。
誰かに、監視されている。そのことに気が付いたのは放課後コンビニにいた時だ。教室から出て、コンビニに入るまで、オレに対して不自然な視線が向けられていた。群衆からのどうでもいい視線や、好意的な視線でもない。例えるなら針を刺すような、鋭い視線。
しかし、犯人が誰か、なかなか分からない。ホワイトルームで訓練を受けた時に見破ったプロの探偵の尾行と同じか、それ以上に上手い。そんな人間がこの学校にいるのだろうか。そもそも、どうしてオレを監視しているのか。これまで、特段といって目立つ行動は避けてきたため、理由が思いつかない。
だがこのまま放置するわけにもいかないだろう。監視されていると言うのは、平穏な学園生活からは程遠い。
翌日。
オレはわざと帰り道を変えた。そして視線もそれに着いてくる。オレ以外には誰もいない裏路地。ここを通る生徒はまずいないだろう。もし向こうの方から出てきてくれればと期待したが、そうはいかないようだ。ならば、もう一つの方の作戦に期待しておこう。
――夜。時刻は0時を回り、もうほとんどの生徒は寝静まったころだ。監視者も、例外ではないだろう。自室でオレは、コーヒーを飲みながらこの時間を待っていた。
今から、今日の帰りに通った裏路地に戻るつもりだ。当然こんな時間に外を出歩いているのが見つかれば何かしらの罰を受けるだろう。最悪停学もあり得る。だから、防犯カメラのない裏路地を選んだ。そこまでの道で、防犯カメラに映ることなく行けるのは確認済みだ。
寮の廊下も防犯カメラがある。靴を持って自室の窓を開き、こっそりと外に出た。裏路地まで、バレないように慎重に、かつ急いで進む。目標は、ごみ箱の上にある小型カメラだ。今日の登校中に設置しておいたのだ。
映像は問題なく映る。肝心なのは放課後。オレが通った、すぐ後。カメラには、一人の男が映っていた。ちょうど正面から映るように角度を調整していたため、よく見える。
この男は――。
クラスメイトの、白井空だ。
翌日以降も、白井の視線は途絶えることが無かった。オレになんの用があるのか、それだけはやはり分からない。直接聞いて答えるとも思えないため、しっぽを出すのを待つことにした。
そして、尾行が始まって一週間が過ぎた頃。突如、視線を感じなくなった。オレに興味をなくしたのだろうか。それならば何の問題もない。しかし、不安は残る。こうも急にいなくなれば、気味が悪いというものだ。
オレは、白井を探すことにした。通学路にはもういないか。どこだ、あいつは今、どこにいる。
探して、見つけた。そこには、白井の他にもう一人。堀北の姿があった。
少しして、堀北がオレの存在に気づき、強引にオレを引き寄せる。
「良かったじゃない、偶然本人がいて。綾小路君、彼、あなたと友達になりたいそうよ」
そう、堀北が告げてきた。そんなことがあるのか? オレをつけていた理由が、友達になりたかったから?
「一つ聞きたい」
聞かずには、いられない。
「ここ数日。あるいは一週間以上にわたって、どうしてオレを追い回していた?」
「言ったでしょ、友達になりたかったんだ」
その言葉は、本当なのか。それとも、嘘なのか。オレにはまだ判断できない。
しかし、水泳のの授業で見せた人並外れた身体能力。オレを尾行していたプロ並みの技術。とても高校生の物とは思えない。敵意があるとすれば、オレにとって脅威になりえる。危険だ。見極めなければならない。
「分かった。そういうことなら友達になろう。ちょうどオレも、友達が出来なくて困っていたところだ」
そう言って、右手を差し出した。
相手のことを知るなら、友人という関係になるのは悪くない手だ。
そして、場合によれば。
――オレはこいつを、排除しなくてはならない。
一話の文字数をどれぐらいにするかで悩んでいます。後でアンケートを張っておくので回答していただけたら幸いです。
一話の文字数
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今のまま(2000~3000)
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5000前後
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10000前後
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それ以上