ぜろのふたばさ   作:どっとはるか

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つい作った、後悔はしていない


タバサ「最悪のはじまり」

 ……いくらなんでもこれは予想外。

 

 それは私、タバサが体験した事故。春の使い魔召喚の儀式でのこと。

 

 魔法がろくに使えないゼロと呼ばれる少女、ヴァリエール家のルイズは、なんと人間を召喚したのだ。

 

 その人間はとても小さくて、一見すると頼りないくらいに細い。そんな体躯にも関わらず、その少女は不釣り合いな大きな武器を持っている。

 

 そう、私だ。

 

 どうやったらそうなるのか。彼女は私の真下へサモン・サーヴァントで召喚のゲートを作り、不意打ちに近い形で私をそこへ落とした。感じた重力による落下の勢いは、突如真横へのエネルギーへと切り替わり、ゲートの前にいたヴァリエールへドロップキックをおみまいしてしまったが、これくらいは許されてもいいと思う。

 

 だって、これはつまり、私はこれから彼女の使い魔にされるのだから。

 

 というのも、ヴァリエール自身もやり直しを要求しているものの、ハゲ教師……監督官のコルベールがそれを認めない。終いにはヴァリエールへ、進級できなくてもいいのかと脅迫じみたことを言っている。

 

 私が彼へ何も言わないのは、使い魔になることを肯定とみなしているのだろうか? 私はそんな人間、一人としていないと思うのだけれど。

 

 もし、彼自身がこんな被害にあっても、同じ姿勢を貫けるのか問い詰めたい気持ちにさせられた。

 

「解りました……やればいいでしょ、やれば!」

 

 ついにヴァリエールが折れてこっちへと向き直る。私は首をふるふると振って拒絶の意を示した。

 

「やめた方がいい」

 

「わたしだってイヤよ! でも、わたしはこのまま落第だと退学させられて、きっと実家で飼い殺しなの!! 背に腹変えられないのよ!」

 

 違う、そんな話ではない。私の主になるということはガリアとの外交問題になるかも……とかでもない。むしろ外交問題なら歓迎する。使い魔は嫌だが私としては、ヴァリエール家の庇護を受けられれば、得られるものも少なくない。貴族のプライドなど、本当の名前と共にとっくに捨ててきたし、目的のために利用すれば、きっと大いに役立つだろう。

 

「きっと後悔する」

 

 だが、それを良心が拒む。私を使い魔にするということ……それはたぶん、彼女にとって退学より辛いことになる。私は、まともな立場の人間ではないのだから。

 

「何を後悔するのよ!」

 

「それは言えない」

 

 こんな大衆監視のなかで、言えるわけがない。そんな後ろめたいことが私にはあるということを、どうか察してくれないだろうかと願ったものの、彼女には届かなかったらしい。

 

「なんだって良いわよ! 我が名はルイズ・フランワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール、五つの力を司るペンタゴン! このものに祝福を与え、我が使い魔となせ!!」

 

 まだ話は終わっていないのに、彼女は強引に私へとキスをした。ほんのり甘い香りが唇から伝わる。

 

「ふぎゃあ!」

 

 逆に彼女は苦味を覚えたらしく、キスの後すぐにのけ反り、尻餅をついた。私が召喚した使い魔と全く同じ反応をしている。恐らく今朝食べたはしばみ草の臭いが、まだ私の唇には残っていたのだろう。

 

「貴女……くっ!?」

 

 何てことを……そう言おうと思った瞬間、突然左腕の甲に鋭い痛みが走った。ものすごく痛い。髪を切る前の私ならば、大声で泣き出したと思うくらい痛い。私の使い魔は別にそんな顔してなかったのに、どうして私だけこんな目にと、ルーンを刻まれていく手の甲を見つめながら思う。

 

「使い魔のルー、んっ……」

 

 しかも、それだけでは収まらなかった。今度は股間へ変な痺れと熱が走る。熱さで股間が溶けそうだ。

 

「え……ええっ!?」

 

 姿勢を直したものの、未だ私の前で座ったままなヴァリエールが叫んだ。低い視点から、食い入るように私の股間を見つめている。

 

「ひゃあぁ!?」

 

 突如として、彼女と私の股間の間に何かが現れた。全く見覚えの無い、グロテスクなものが私のスカートを押し退けて飛び出している……私の股間から。

 

「み、ミス・タバサ。こここ、これって、もしかして男の人の……っ!」

 

「!!」

 

 目の前で見ていたヴァリエールが、私より早くそれが何であるのかを理解したらしい。同時に、言われた私も体の変化を悟った。理解はできないが、とにかく事態は把握した。同時に、ここ数年全くなかった羞恥心で頭がいっぱいにされる。従姉妹からの嫌がらせで、多少の

恥辱には慣れたつもりだった。でも、これは無理だ。目の前の少女にこれを見られるのが、私は酷く恥ずかしくてたまらない。

 

 理由はきっと、これが今は普通の状態ではないから。知識だけならある。この状態は女性で例えるのなら、恐らく濡れた股を指で拡げているようなものだ。どうしてこうなっているのかは解らないが、そんな姿を見られるのはさ恥ずかしいし、屈辱だ。

 

「これも……貴女の失敗なの?」

 

「ち、違うわよ!」

 

「嘘……」

 

 彼女の言葉に、未だスカートから飛び出して先が見えるそれを見つけて、私は慌てて両手で隠す。手()触れたことで伝わってくる、自分の指先の冷たさをこれで感じる。そしてこれは浮いてるとかではなく、私から生えてきたものなのだと実感させられた。同時に、彼女を気にかけていた良心が音を立てて崩れていく。

 

「嘘、貴女のコントラクト・サーヴァントのせいとしか思えない……っ!」

 

「そそそんなの、あるわけ無いわ!! わ、わたしだったら多分、生やすんじゃなくてきっと、あなたのお股を爆発でこう、ドカーンって……うぅ」

 

 

 ヴァリエールは、自分から普段ならば言わないことまで口にして、激しく首を振って容疑を否定した。だが、他に考えようがない。言葉に僅かだが怒りを籠めてしまった気がするけれど、これはヴァリエールを蹴り飛ばした時より、もっとずっと怒っても良いはずだ。

 

「あ、えっと……。」

 

「どうしてくれるの……っ」

 

「ど、どうって……どうって言われても!」

 

 たどたどしいまま混乱するヴァリエールへ、ふつふつと怒りが湧いてきた。こんな風にただ理性無く、純粋に怒りを覚えたのは何時ぶりだろうか。昔は怖いや悲しいが先に来てたから、ひょっとしたら始めてかもしれない。理由はきっと……女として何かが終わらされたと、人である前に命ある生物として、そう感じたから。

 

「なんとかして」

 

 この怒りは感情ではなく、きっと本能なのだろう。だから、今の私は自分が抑えられない。あの男の、憎いあいつの心臓へ杖を突き刺すその時まで……自分がどうなろうと、たとえ慰み物にさらようと知ったことか。もはや私は何も感じない。恥ずかしがらないし、怒らないお人形だと、そう思っていたのに。あの男へ向けたい黒い気持ちを、ヴァリエールへ向けることを止められなくなっていた。

 

「戻して」

 

 だから、言いたいことはこれしかなかった。今すぐなんて、無理を言っているのは解っているけれど、許せない。

 

「も、戻してって言われたって!? こんな、その、おちん――を生やす魔法なんて、初めてだし聞いたこともない……治しかたなんて、わたし知らないわよ!」

 

 泣きそうな声でヴァリエールが叫ぶけれど、泣きたいのはこっち。もういっそ、殺してしまいたい。でも、それはできない。私の中にあるどす黒い願いだけが、それを叶えるために今私の中で渦巻くこの本能を、ギリギリのところで押し留めてくれていた。

 

「……どうしたのかね?」

 

 泣き出しそうなヴァリエールと、鉄面皮なはずの私が目尻に涙を浮かべているのを見て、驚いた顔でコルベールが近づいてきた……今更過ぎる。

 

「あ、あの……み、ミス・タバサのあそこが――」

 

「何でもありません。ただ、使い魔のルーンが刻まれた手が、予想以上に痛かっただけです」

 

 やめて欲しい。自分がもしも同じ境遇になっても、この女は男のコルベールへ、自分の股を見せて相談するつもりだったのだろうか。やれるのならどういう気持ちでやるのか問い詰めたい。やはりダメだ。私は人としての羞恥を取り戻してしまっているし、隠せそうにない。いや、本能とか感情ではなく、もしかするとこれがそう思わせているのではないか。まずい……良く解らないままに溢れてくる気持ちと、未知の体験からの疑問に、頭が混乱してきた。

 

「少し、休んでから戻ります」

 

「わかりましたぞ。ふむ、珍しいルーンだなこれは。見たことがない……スケッチをして持ち帰って調べてみましょう。」

 

 そう言うやコルベールは羊皮紙を取り出してサラサラと私の手に刻まれたルーン書き始めた。彼の視線が、その先にある私のこれにまで届いてるように思えて、手に力がこもる。

 

「はぅ……!」

 

 ぎゅっと先を強く握りしめたせいだろうか。体に電流が走り、肩が跳ねる。沸き上がる変な感覚に耐えきれず、私は思わず背を丸めてうずくまった。

 

「おおっ!? 大丈夫ですかミス・タバサ! なんなら医務室のメイジを――」

 

「平気、です……っ。落ち着いたら、自分でなんとかできますから!」

 

 トライアングルメイジになれていたことに、私は心底感謝した。ヴァリエールみたいに実力がなければ、間違いなくこの意見は通らなかったはずだ。危うく、学院全ての人間に公開処刑されるところだった。

 

 それよりも、コルベールはお願いだからとっとと消えて欲しい……人がいるままでは、恥ずかしくて動けない。

 

「だから、先生は早く」

 

屈んで隠したままに手を股間から外し、彼へルーンを見せてスケッチを急がせた。この言葉だけで彼はスケッチを急いでくれたものの、ルーンの単語を呟く後半は、私のことを見ていなかった。

 

「そ、そうですか……では、後でゆっくりと戻りなさい。なに、午後の授業は、どうせ使い魔とのふれあいです。級友である貴方たちならば、多少遅れたところで問題ないでしょう」

 

 彼はルーンに興味津々で、上の空のような口調でそう言う……ねえ、私の使い魔と私のふれあいの時間はどこ?

 

 私が睨んでも、そんな思いはコルベールへ届かなかった。ヴァリエールも、コルベールも、トリステイン貴族は鈍感ばかりだと、心のなかで毒づくと、また体が火照りだした。

 

「はあ……はあっ」

 

 儀式を無事全員終えたので、これにて解散。コルベールが周りの生徒に命じているが、私は自分の心臓と脈の音が煩くて、良く聞き取れなかった。こんな私を見てキュルケは残るかと思ったが、私なら平気かと信頼してくれているのか。もしくは、やらかしたのは()()ヴァリエールだと考えたのか、彼女も私を置いて学院へと帰っていった。

 

 ……正直助かる、彼女に見られたらどうなるか解らない。

 

 ついでに、戻る生徒たちがヤジをヴァリエールへ飛ばしていたが、彼女の耳には恐らく届いていないだろう。

 

「……」

 

「あ、あの……その」

 

「……見ないで」

 

「え、あ、ごめんなさい!」

 

 やっと、ヴァリエールと草原でふたりきりになれた。おかげで、私は少し落ち着きを取り戻していく。しかし、人目憚らず立ち上がることができたものの、彼女が股間から目を話さないせいで、ついスカートを手で伸ばして隠してしまう。

 

「だから見ないで」

 

「うう。で、でも……こ、こぼれてるわよ?」

 

 ある程度反りが無くなり、脈動も落ち着いてきたものの、それは未だ主張を止めてくれなかった。機動性を優先しているせいで、股下がほぼ無いほどに短くしてある私のスカートと、こんなものを隠す想定をしていない下着では、今の大きさでもこれを隠しきれなかったのだ。私に生えたこれのせいで下着が膨らみ、布地が股下からすこし、飛び出している。

 

「……!」

 

「うう。み、見えてるわよ?」

 

 ヴァリエールの指摘でより深くスカートで隠すよう右手で布地を伸ばし、慌てて杖を持つ。

 

「わたしの使い魔で帰る」

 

「使い魔って、風竜の?」

 

「そう。貴女はその前に乗って、私を隠して」

 

「つ、使い魔がご主人様に命令なんて――」

 

「隠して」

 

「わ、わかったわよ……!」

 

 私はヴァリエールを睨んだ。自分で言うのもなんだが、トライアングルに睨まれたのが効いたのだろう。怖さと罪悪感で竦み上がった彼女は、何度も首を縦に振る。

 

 やって来た私の龍も、睨む私に気圧されていた。いったい、どんな顔を今の私はしているのだろう?

 

「ごめんなさい……」

 

 龍の背中に乗って自分の部屋へと帰る途中、ヴァリエールが突然素直に謝ってきた。コントラクト・サーヴァントが失敗したと認めたらしい。涙ぐむ彼女は先程見たが、弱気な彼女は初めてだ。人前でなければもしかすると、こうなのかもしれない。チラリと後ろの私に振り返る彼女の瞳は、なんだか私の怒りも沈めていくような、思い詰めた悲しい目をしている。

 

「その、使い魔の方は……あれだけど。でも、そっちはわたしも何とかするから! 何でもするから!!」

 

「何でも?」

 

「う、うん……だって、落ち着いて考えたらわたし、あなたにとっても酷いことをしちゃったのが解ってきたの。そのままじゃ、恋人も作れないじゃない。」

 

言われてみれば、確かに。

 

「だから、絶対何とかするから! 使い魔を見捨てるなんて、メイジ失格だもの!」

 

動機と理由は少し納得いかないが 、その言葉に私の怒りは完全に絶ち消えた。怒ったところで、もはやどうにもならない、そういうものだ本能を理性が包む。

 

「……責任」

 

「……へ?」

 

だから、これはきっと、感情で疲れた頭がぼけていたの。

 

「もしも、貴女が私のこれをどうにかできなかったら……」

 

手を伸ばして、ぎゅっとヴァリエールのお腹の下を抱き締め、彼女の肩にあごをのせて囁いた。

 

「貴女のここは、私の。」

 

理性を取り戻した頭でこんなことを言うなんて、どうかしてる。

 

 

 

少しして……私の言葉の意味を理解したヴァリエールは、その頭を沸騰させていた。




ん?
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