凶個性持ちの転生者は平穏に生きたい 作:アリアンロッド=アバター
『個性訓練施設』にやってきてから、すでに一年半が過ぎた。
俺、五歳。
そんな俺の目の前には今、なんか全身真っ黒で脳みそ丸見えな人型の化け物――『脳無』がいる。
「さぁ、やってごらん? 君なら簡単だろう?」
そして、その化け物と相対する俺を見守る、全身に生命維持装置を付け、潰れた顔に工業用のマスクみたいなのを付けているヤベー人……『先生』が弾んだ声を上げていた。
なお、脳無は俺に対してばっしばしに殺気を向けている。
ついでにいやぁ、俺は丸腰で体も出来上がっていないばっちばちの子供である。
……これ、なんて拷問ですか?
「ぐがぁああああああああああああああ!!?」
ッ! チッ、おちおち考え事も出来やしねぇ。
バカみたいなスピードで突っ込んでくる脳無に対して、俺は手を翳す。
「――――【
「ぐぁがぁあ!?」
突っ込んできた脳無が、俺の設置した空間断層にぶつかり、悲鳴を上げる。
空間に層を創り出すことにより、絶対防御を可能とする我が最強の盾――【断】。
いかに脳無が怪力を持っていようが、空間に阻まれてしまえば何もできない。
まぁ、脳みそ丸出しの化け物が迫ってくる時点で、めちゃくちゃ怖いんですけどね!?
もう何度もやっていることとはいえ、この恐怖は中々薄れてくれない。
「おやおや、防御だけかい? 君の力はそんなものじゃないだろう? 本気を出しなよ、次元」
「……はい、先生」
わぁい、声音は優し気なのに、背筋が凍るくらいに怖いや。本気だそ。
ははっ、先生に比べたら、目の前で足掻いてる脳無なんぞ、道端の石ころレベルだぜ!
脳無に向かって翳していた手を手刀にし、上から下へ、一直線に振り下ろす。
「――――【
先ほどの【断】が最強の盾ならば、こちらは最強の矛。
空間断層を創り出す座標と対照を重ね、対象の身体を空間ごと
するとどうなるか? 簡単だ。
「ッ…………!?」
脳無の身体が、真っ二つに別れる。苦しげな声を出そうにも、声帯すら両断しているのだから声が出るはずがない。
これぞ、対空間防御でもしない限り防ぐことがかなわない究極斬撃。この世界のどんな物質を使って盾を作ろうが、それが三次元的なモノである限り絶対に切り裂くことが出来るというチートオブチート。
だが、これで終わりじゃない。脳無はまだ蠢いている。
脳無は先生が作り出した生体兵器であり、生命力も半端ない。このくらいの攻撃は全然平気なのだ。あっ、今のは兵器と平気をかけた激ウマギャグな。ここ、笑うところだぞ。
「次元? くだらないことを考えていないで、さっさと止めを刺しなさい」
「は、はい。先生っ」
何故わかったし。
さっと先生の視線(目が潰れているのでどこから向けられているのか分からんが)から目を逸らし、脳無へともう一度腕を伸ばす。
今度は、脳無を手中に収めるように手を広げると、それをきゅっと握りしめた。
「――――【
めきめきめきめきッ!!
脳無の周りの空間が歪む。それはまるで、脳無に向かって周りの空間が迫っているようだった。
【潰】は、対象を覆う空間を圧縮し、拘束―――または、圧殺する技だ。
これもまぁ、空間に干渉しないと防げない。絶死の技。
というか、俺の攻撃技って、大体一撃必殺が前提になってるんだよね。ハハッ、物騒☆
そうしているうちに、脳無は【潰】を受けて飴玉くらいのサイズまで縮んてしまった。いかに生命力が高い脳無でも、もう生きていないだろう。
……念には、念を押しておくか。「やったか!?」はフラグだしな。
というわけで、【潰】をかけたままの脳無を、空間収納から取り出した『個体状の液体』と合わせる。
これは空間圧縮と時間停止をかけて保存してある濃硫酸と硝酸の化合液――要するに、『王水』である。
死体処理にはコレが一番だからね。人間の構成物質全部解かせる。つよい(小並感)。
で、これと脳無玉を創り出した亜空間に放り込んで――はい。全部溶けましたー。
残った王水はまた空間圧縮と時間停止をかけて、空間収納に仕舞っておく。
はい、戦闘しゅーりょー。
戦闘と呼べるかどうか怪しい、一方的すぎるもんだったがな。
先生の方を向き、ぐっと親指を立てる。
「先生、終わりました」
「ふむ……見事だったよ、次元。最初から勝てるとは思っていなかったが、最新型の脳無がまさか、ここまで圧倒されるとはね。しかもだよ、次元。君は個性の力を半分も使っていない」
「まぁ、使うまでもない相手でしたので。というか、全力で使ったら何もわからずに終わりますよ?」
「ははっ、そうだったね。時間停止と空間切断の同時使用をされたら、僕でも何もせずに殺されてしまうよ」
そう言って朗らかに笑う先生。や、顔は見えねぇんすけどね?
「君なら、オールマイトだって余裕なんじゃないかい?」
先生に言われて、ふむ、と考えてみる。
オールマイト。オールマイトか。先生、オールマイト嫌いだよね。声に憎しみがこもってるもん。昔、彼女でも取られたのかね。
オールマイトって、あの筋肉の化け物のことだよな? ナチュラルボーンヒーローとか言われてるオッサン。
超パワー、超スピード。超防御力。シンプルイズベストで強力無比な力だと思う。個性が無くてもあの肉体だ。そこいらのヴィランには負けないだろう。
じゃあ、俺が彼と戦ったら? 個性を全力で使って、その命を狙ったら?
…………まぁ。
「楽勝かと」
「ッ! ふ、ふふふっ……本当に、君は頼もしいね」
負ける要素がないんだよなぁ。先生曰く、『すでに世界を滅ぼすだけの力がある最強にして最凶の個性』を舐めて貰っては困る。
それにしても、一般的な子供はオールマイトに憬れてヒーローを目指すそうだが……よくやるよなぁ。
俺はあんなものにつきたいとは思わないし。だって常日頃からヴィランに狙われ続けて、なおかつ戦闘しなくちゃいけないんでしょ? そんなの無理無理。
脳無と戦えるのは、これが訓練だと分かっているのと、先生が側にいるからだし。
先生は怖いよ? 子供の俺に戦闘訓練とかさせるし、普通に殺す気の攻撃を放ってきたりするし。
でもそれは、俺に個性の訓練をさせるという目的があってこそだ。
先生曰く、『個性は理屈ではなく本能で動かすモノ。だから難しいことを考えられない状況に放り込むことが個性制御訓練の最適解なんだ』だそうで。
えぇ~~、ほんとぅにござるかぁ~~? と思ったが、やってみたらマジでさらりと制御出来て、なおかつ個性で出来ることがぐっと増えた。
【断】や【斬】、【潰】に空間収納などは、この訓練で身に着けたモノだし。
個性が危険だからこんな場所に放り込まれた俺にとって、個性の制御は急務だったし。
それに、先生から『君の個性は強力すぎるからね。いつヴィランに狙われてもおかしくない。だから、ある程度の自衛能力は必要だよ』と言われてしまえば、努力しないわけにもいかないし……。
生まれ持った能力が強すぎるから、犯罪者たちに狙われますて。
確かに前世でも顔面偏差値が高いと性犯罪に巻き込まれやすいとかあったけど、この世界は相変わらず物騒過ぎる。
だから、まぁ、俺は先生を信頼している。
信用は……うーん、微妙だ。
なにせ、俺は先生のことを何も知らない。個性にクッソ詳しくて、クッソ怪我してて、クッソ強いということくらいだ。名前すら教えてもらっていない。
だが、この施設に来たその日から、何かと俺を気にかけてくれて、話を聞いてくれて、不満を受け止めてくれて……希望を提示してくれた人だ。
転生者故の異常性。歳不相応に成熟した精神や、知るはずもない知識群。そう言うのも全く気にせず、接してくれている。授業は分かりやすくてなおかつ面白い。教育者としても一流と来た。
見た目が不気味なこと以外、これといった欠点のない方だ。
クッソ感謝してるし、その内何かお礼が出来たらと思っている。
そうだな……空間支配の方はだいぶコンプリートしてきたし、時間支配の訓練を重点的に行おう。
『加速』、『停止』、『遅延』の次なる力――――『逆行』。
それが使えるようになったら、先生の『何をどうしたらそこまで怪我するの?』というレベルでボロボロな体を直して上げよう。そうしよう。
「先生、期待しててくださいね」
「……ん? よく分からないけどまぁ、楽しみにしているよ」