天使は語らう、世捨てた人間とともに。   作:エズソン

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1話:神域と女神のお話

雨上がりの空を見た。1人の天使がおりてきた。

 

「君は私が見えるのか?」

 

羽がついている女性が俺に問う。

 

「見えるとも、霊感は強い方でね。」

「私は幽霊じゃないよ…」

「冗談さ。そういう君は、なぜ俺の前に来た?」

「いつも君が、ここにいるからさ。ここは元々神域でね、君のような一般人は入れないはずなんだ。」

 

聞き慣れない言葉を聞いた気がした。ここが神域……驚きはしたが、不思議と信じる気になっていた。

 

「今日はこれといった話は出来ないが、また明日ここに来るのなら、話をしよう。」

 

彼女はそう言って羽をひろげ、天へと上っていった。……次の日、戻ってみたら女性の像が、俺がいつも横たわっていた場所にたっていた。隣には、昨日見た金髪で長髪の美しい天使が俺の事を待ってくれていた。俺は不思議がり、天使にこれについて聞いた。

 

「我らの女神さ。……彼女は引きこもりでね、普段は人間はおろか私達でさえ近づくのを禁じている。だから君が珍しいのさ。」

「珍しい?」

「この像は女神の加護を受けている。即ち、この像にすら誰も近づけない様になっているんだ。だけど……君はここにいながら平然としている。女神に受け入れられた存在ということになるね。」

 

何やら話が大きい。……彼女のような天使でさえ近づけない所に俺は、毎日のように通っていたということになる。落ち着く場所を欲していたためとはいえ、罰当たりの行動をしているような……そんな気がする。

 

「……君、今罰当たりだと捉えたね」

「君は心が読めるのか?」

「そんな顔をしているなと思っただけさ。図星かい?」

 

天使様にはなんでもお見通しのようだ。

 

「そう重く考える必要は無いよ。君達人間は我々の事を空想のものだと認識しているだろう?つまり君も、ここを神域と知らず寝転がってゴロゴロしていた。それを咎める人なんていやしないさ」

「空想だろうがなんだろうが、実際に天使はいるということが君で確定したけどな」

「ナハハハ、君はツッコミがお得意のようだ」

「……それに、俺は見ての通り普通の人間だ。特別ではない。」

「君は目立ちたがりではないんだね。」

「俺の性格故さ。……だが、これも何かの縁だ。良かったらまたこうして話をしに来てくれないかね。」

「ふふ、私で良ければ、いいとも。」

 

その翌日、あの天使がまた会いに来てくれていた。次の日も、またその次の日も。お互いの名前も知り、2人だけの呼び名として、天使からは俺の本名である木戸康からとってキドヤス、俺からは自由に呼んでいいと言われ、エリーと呼んでいる。

……この物語は、特に深くも浅くもない人と天使のお話。

 

「やぁ。」

「やぁ。」

 

最初の挨拶はこれに尽きる。

 

「エリー、前に聞いたがここは神域なんだよな。君の言う女神が許しても、君達はどうなんだ?俺がここにいることに対して。」

「……別に?我々天使は女神の従者たる存在だからね。勿論不満に思う者もいなくは無いが、基本的には女神が絶対の存在なんだよ。」

「女神が絶対、て……天使の世界もブラックなんだな。」

「ブラック……?あぁ、君たちの言う職場環境が悪いって意味か。確かに命令があれば逆らえないけど、ウチの女神は命令することはほとんどないし、むしろほったらかしなんだよね。命令に逆らうと即堕天使と認知され処刑の対象にされるけどね。」

 

堕天使……そんな簡単に決め付けるものなのか?俺はエリーに詳しく説明するよう促した。

 

「本来は違うね。

 

『天使としての使命を果たさず自身の私利私欲のために動く……そうして悪の心を生んだ天使はさらにその深淵へと沈む』

 

それが堕天使だ。でも女神は悪=言うことを聞かないやつという認識で決めるからある意味間違ってはないけどね。」

 

エリーは真面目に耳を傾ける俺をチラと見つめ、また青空へと目線を移した。

 

「……天使は女神の命に基づき、生きとし生けるものの魂を正しく裁き、安楽を提供する。そこに天使個人の我儘が入ったら魂の進むべき道が滅茶苦茶になってしまうだろう?だから女神は1つの命令を下した。

 

『心亡き魂の導きに、(あま)の心を通わすことなかれ。』

 

キドヤス、君はこの考えをどう捉える?」

 

彼女は説明した後、ニコニコしながら俺に質問を投げかけた。

 

「仕事は仕事、自分のしたいことは他でやれ……てことか?」

 

答えた後ハッとした。随分とサラリーマンくさい事を言ってしまった。彼女は笑いながら返事をした。

 

「そうとも言えるし、そうでないとも言える。」

「答えがないのか?」

「アンケートみたいなもんだと受け取ればいいよ。だけど人間の君が真面目に考えているのを見て、つい可笑しくなっちゃった」

「……もし俺の考えが合っているなら、心無い天使が審判を下しているということか?随分と天も冷めたもんだな」

「あれま、苦言を呈されてしまっては何も言えないね。間違ってはないけどさ」

「否定はしないのか?」

「否定されて欲しかった?」

「……いや、不快にさせたのであればすまない」

「ナハハ、君は面白い正直者だな。」

 

彼女は気にもせず、笑って受け止めてくれている。失言をしてしまった自分が情けない。

 

「……天使の中にも法律ってものがあるのさ。私だって法の種類を全部が全部覚えているわけじゃないけど、女神という法を守るという心構えは持っているつもりだよ。君達人間と同じさ」

「……言われてみれば。天使も人間味があるんだな」

「私達も心を持っているからね。でも、生きとし生ける存在かどうかは、君の解釈次第。」

 

天使なんだから生きてないんじゃないか……そうツッコミを入れようと思ったけど、やめた。朗らかな彼女を前にすると言い出せなかった。

 

「さ、今度は君の番。色々君について聞かせてもらおうかな」

「天使様が一介の人間に何を聞くんだ?」

「まぁまぁ、天使にだって興味ぐらい持つよ。話を戻す感じになるけど、君はここに何しに来ているんだ?」

「……俺には、この場所がとても落ち着く。それだけだ」

「……落ち着く、か。なにやらワケありみたいだね」

「なぜそう思う?」

「見た目で判断しちゃった。無精髭でボサボサ髪で、ジャージ姿。いかにもって思うのも無理ない容姿をしているじゃないか」

 

いかにもな点を指さしながら、理由を簡潔に述べてくれた。分かりやすい、実に。当の本人である俺は彼女に頭が上がらない。

 

「……まぁワケありの部分は詳しく聞かないことにするよ、というかむしろ私はとっくに知っているけどね」

「人のプライベートを知っておいておちょくるなんて、君は意地悪だな」

「君の言葉を借りるとするなら、性格故さ。……なんてね」

 

まぁ無理もない。もしも俺がイメージしていた天使の通りなら人ひとりひとりのいきさつを彼女ら天使が知らないはずがない。天使は我々生者を常に見守ってくれているのだから、俺の好きな本や嫌いな虫など何から何までを漁るのも朝飯前である。

 

「さて……今日はこのくらいにして、続きは明日聞くことにするよ」

「いいのか?あまり俺からは話してないんだが」

「君の今までを知る私に対し、君は私をよく知らないだろ?沢山語ったつもりだけど、まだ君には及ばない。……ホントは君が生きている間は天界の事をあまり喋っちゃいけないって言われてるけどね。君達人間のあいだで言うテヘペロってやつかな?」

「君も君でおもしろいな」

「お互い様さ。じゃ、また。」

 

別れの言葉を最後に、彼女はいつものように天へと上った。次の日には、また彼女が笑って迎えてくれるだろう。今度はどんな話になるのか、楽しみだ。

 

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