「夏乃?」
下校中、懐かしい香りがしてそちらのほうに視線を向けると、私とよく似て、久しぶりに見た顔。実に四年ぶりに見たその顔は驚愕と、ほんの少しの怒気を混ぜたような顔でこちらを見ていた。
「……姉さん」
小さく、けれども私にはしっかり聞こえる声で、呟く。
「久しぶりね、夏乃」
「…………」
久しぶりに見た妹に、少しうれしくなって声をかけるも、返ってきたのは沈黙。そればかりか、こちらを軽くにらみつけてくる。その姿が、四年前の最後の日の夏乃と重なる。
あぁ、なるほど。つまり、つまりだ。夏乃はまだ許していないのだろう。あの日の出来事を。
「……あなたには一番会いたくなかった」
「っ」
少しの沈黙の後、夏乃はそう私に言い放った。冷たく、冷徹さを感じる声音に私は慄く。
夏乃はそれだけ言うと、こちらを振り返ることなく校舎に入っていった。
四年の月日が経っても、ほんの少しも許している様子がない夏乃の様子に、私は一歩も動けないでいた。
私たちの関係は四年前から一歩も進んでいない。
☆ ☆ ☆
「さて、まずは編入おめでとう」
私の目の前に座っている人――平塚先生は煙草に手を伸ばしながらそう言った。
「テストの結果はおおよそ満点に近い。特に英語の分野に関しては、高校では教えることがないレベルだ。学力は申し分ない」
「ありがとうございます」
英語ができるのは当たり前だ。それが標準語の国に、つい最近までいたのだから。少なくとも、高校卒業まではあちらにいるつもりだった。
「ところで、私は今日なぜここへ? 一応、まだこの学校の生徒ではないはずですが」
先日、メールで呼び出しがあり、それに応じた形だ。念の為、制服を着てくるように書いてあり、それに従ったのでこの高校の制服を着ているが、私は厳密にはまだこの高校の生徒ではない。
「なに、事前の面談というものだよ。すぐ終わる予定だ」
「はぁ……?」
平塚先生はそう言うと、机の上に置いてある資料を私に渡してきた。
「……なんですか」
渡された資料に軽く目を通せば、英語の原文と翻訳された文が交互に纏められている。軽く流し見してみたが、私の前の高校での素行と呼ばれるものを、なるべく詳しくまとめられた書類、といった感じだ。
「君の転校元からの資料だ。前の学校での素行調査というやつだよ」
「なるほど。で、なぜは私にこれを見せたのでしょうか」
素行調査、確かに必要だ。転校してくる生徒が何かしらの問題をもっていたら、それを知ることができるし、何より転校してくる生徒がどんな性格なのかを簡単に知ることができる。
しかしだ。しかしなぜ、その書類を私に渡してきたのかが、よく分からない。正直言って、こういう書類は教師陣が、見るもので生徒である私は見るものではないというものだ。もっとも、私はまだ生徒ではすらないが。
私の疑問に対して、平塚先生は私の持っている書類の一部分を指で指し示す。
「……協調性がない」
そこに示されている一文は端的で、私を簡単に表すことができる単語だった。
「自覚がある、なしに関わらず君は一度自分の欠点というのを理解したほうがいい。本来なら見せるものではないが、君の場合は特別だ。何せ、君は協調性がないことをあまり問題視しているようには見えない。他人から見た、君への評価も大事なものだ」
イギリスにいたときは、周りのことなど一度も気にしたことがないのを思い出した。一番になる、ということだけを考えていたので、周りなどには一切の興味も持たなかった。それがあっちの先生から見ても、特段ひどかったのだろう。
「それに、君はこれから日本で過ごすのだろう。協調性は最低限身につけたほうがいい」
確かにその通りだ。間違いなく大学が終わっても、日本に住むことになる。だから先生の言っていることには一理あると思う。それに、このために私を呼んだわけではなさそうだから、きっと何かしら解決策みたいなものもあるのだろう。
「……分かりました。先生の口車に乗るとしましょう。私は一体どうすればいいのでしょうか」
「君にぴったりな部活があってだな……」
そういう平塚先生はすごい悪人面だった、とだけ語っておこう。