【初配信】はじめました! 安藤ロイド【♯新人Vtuber】   作:watausagi

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第二十三話 この一瞬ですら君となら思い出になる

◇◇◇◇◇

 

 感覚的には、まさに瞬き一回。一瞬の出来事。目を閉ざしたと思ったら、次に開けるとそこは私の配信部屋ではなく、大通りから外れた脇の小道にひっそりと隠れた静かな喫茶店の、木漏れ日を浴びる窓辺の席だった。でも、少し遠くに目をやると壁のない真っ白な空間。

 

 ここは現実ではないと直感した。誰の仕業かはよーく分かっている。知っている。目の前のテーブルの上にはあの日と同じ、便箋が置かれてあった。

 

 差出人は言うまでもなく、対価の神様。

 

『ゲームマスターがプレイヤーの前に気軽に現れるのは私の趣味ではないが、今回の一件は謝罪をしに来た。どうしようもなく私の責任だからだ。故に、こうして例外ながら君に言伝を送った。薄々察しているとは思うが、君に、君の元の自分(仮に前世と呼ぼう)の家族という存在を思考に落とさないよう敢えて制限をかけておいた。これは、私なりの親切やお節介の類だったと言い訳する。やはり慣れない事はするものではないと反省しているよ。とにかく君は自分自身の意思で制限を突き破り、誤作動を起こした器が強制的にスリープモードに入った。実に興味深いイレギュラーだ。一体何がきっかけだったのか、あのちゅーちゅーぶとやらのコメントか、やけに君を贔屓しているあの機械のせいか、それとも君は無意識の内に常に家族について日頃考えていたのかもしれないな。もう隠す意味もないので教えておこう。前世の君が叶えたかった願いは、家族を生き返らせる事だ』

 

 『家族を生き返らせる事』。それを聞いた瞬間に脳に衝撃が伝わる。ビビッと。それしかないと言わんばかりにしっくりと。でも、肝心なところは思い出せない。それを裏付けるように、こう締め括られていた。

 

『願いは半分だけ叶えられた。前世の君の家族は死ななかった事になったが、代わりに君は別人となり、それらは“家族” ではなくなったからだ。家族を生き返らせるという願いは、他人を生き返らせるという辻褄合わせで対価とした。ここまで言えば理解出来ると思うが、君が前世の家族について思い出す事は決してない。私がここまでお喋りになっているのもそのせいだ。幾ら君が頭を働かせても、前世の願いを知っても、家族について思い出す事だけは絶対にありえない。それが、理。或いは……覆せない設定』

 

 そこまで見て紙を破いた。まだ続きはあったけれど、もう見なくてもいいかなと思ったから。

 

 しかし厄介な仕様だったらしく、内容の続きが直接脳内に伝わる。

 

『私は分かりやすく神を名乗っているが、呼ばれ方など様々だ。法則でもいい。理、ルールでもいい。確かな事は、そのどれもが正しいという事だ。正しさの体現、それが私だ。君は前世について一生思い出せないのだから、そんな無駄な事に時間をかけずに、今の人生を好きに生きるといい。君はもう、自由なのだから』

 

 知った風な口を大層な存在が仰る。

 

 色々と呼ばれ方はあるみたいだが、法則とか理とか可愛くないので、やはり親しみを込めて神様と呼ばせてもらう。

 

「でも神様、この状況だって本当はイレギュラーなんでしょう? ここに来る前私は何を願ったと思う? まだ死ねない、だ。私の奥深くのそいつが叫んだんだ。まだ死ねないって。ほら、私は既に法則の埒外にいるよ。対価の神様、あなたはいつまで正しいのかな?」

 

 多少喧嘩腰になってしまった。それは私の奥深くに燻るそいつのせいという事にしておこう。

 

 今の私の言葉は、特段誰かに聞かせるわけでもない話だったが、神様は聞いていたらしい。

 

『やはり……面白い』

 

 背筋がゾクっとざわつき、同時にこの世界から自分が消えていくのが分かる。反比例して、あの子の声が聞こえてくる。いや、本当はずっと聞こえていた。私がどこにいようと、私がどんな姿であろうと、君はそうやって私の前に現れてくれるのだろう。

 

『あんどうさんっ!!』

 

 そうして私の目は開く。

 

 とある病院で、個人部屋で、私はただ眠っていた。さっきから私を呼び続けていた声の主は、疲れているのか眠っている。私の膝を枕にして。

 

 外は太陽がのぼっている。感覚的に私が気絶して1分……という事は丸一日経っているという事だ。今のをアンドロイドレートと呼ぶ。香澄ちゃんはきっと、ずっと私の側にいてくれていたのだろう。健気な子だ。

 

 愛おしくなって私はそっと香澄ちゃんを撫でた。小動物の様に身じろぎした後、ゆっくりと香澄ちゃんは目を覚ます。

 

 私が起きている事に気付いて叫びそうになったので、その口に人差し指を当てる。よく殺人鬼が現場に訪れた幼児にやるやつ。

 

「看護師さんに気付かれちゃうから、静かにね。滅多にこんな事ないし、もう少しだけ二人っきりでいよっか?」

「ふぐっ……ろ、ロイドさんっ」

「心配かけちゃったね。ごめんね」

 

 泣くのを我慢して香澄ちゃんは目尻に顔に力を入れる。本当にフグみたいに膨らんでるよ。抑えて抑えて。

 

 溢れる涙をすくう。こんな女の子を泣かせてしまうなんて、正直自分が情けなかった。

 

「私っ……私、どうすればいいのかわかんなくて、ただ怖くてっ、またどっか行っちゃうんじゃないかって思ったら、目の前が真っ暗になってっ……胸がっ、痛くて!」

「大丈夫。大丈夫。もう怖くないよ。私はここにいるよ。ずっといるよ。たとえ姿形が変わっても、必ず側にいるって……約束したっけ? してないなら、今した! はい、もう安心。だから、これ以上女の子が好きな人以外の事で目を泣き腫らしたらダメだよ」

「じゃあ大丈夫ですぅ……ぐすっ」

 

 異性でって意味なんだけどね。まあ嬉しいけども!

 

 自分には勿体無い子だ。泣いてても、その目は私の事を見ている。母親の如き包容力で私の体調を気遣っている。だからだろうか。つい、聞いてしまった。心の隅っこで隠れていた弱気な自分が、あろう事か歳下の女の子に対して悩みを打ち明けてしまった。

 

 

「約束の証拠に、香澄ちゃんに秘密を打ち明けるよ。私には記憶がない。安藤ロイドになる前の自分を何一つ知らない」

「……ロイドさん?」

「難しく考えないでいいよ。香澄ちゃんはさ、もしもさ、神様に、自分の大事な記憶を忘れて思い出させなくしてやる〜って言われてさ、そしたら本当にどうやっても思い出せなくなってしまうと思う?」

「……ロイドさん。普通の人は、神様がいなくたって色んな事を忘れてしまうものですよ」

 

 香澄ちゃんは私が完全記憶の事を話してると思ったのか、若干呆れた目で見てくる。

 

 でも確かに、言われてみればそうだ。ごもっともだ。納得していると、香澄ちゃんは続けた。

 

「でも、忘れられないものもあるんです。だから、神様だろうと誰であろうと、何をされたって絶対に忘れないものはあるはずです!」

 

 元気よく答える香澄ちゃんを見て、私は確信する。やっぱりこの子こそが……

 

「私にとって『必要な人』なんだね」

「え、何がですか?」 

「香澄ちゃんが私にとって、かけがえのない子だって事だよ」

「っ……な、何を、急に、も、もう! びっくりするから、汗かいちゃいました。そうだ、私飲み物買ってきますね!」

 

 アセアセと顔を真っ赤にさせて部屋から出ていこうとする香澄ちゃんは、扉を開けて一人の女性にぶつかる。

 

「あ、すいません!」

「やっ、こっちこそ悪い悪い。ごめんよ不注意で。まさか病人の部屋からこんな可愛い子が出てくるなんて想像もしてなかったからさ」

「……もしかしてロイドさんのお仕事仲間ですか?」

「そそっ、君こそみかん大福ちゃんだよね。初めまして。まー大体予想ついてると思うけど、エクレールII世だよ、よろしくよろしく。ここでは梶原だからかじっちゃんと呼んでね」

「あわわっ」

「飲み物買うんだっけ? はい、これおねーさんの奢りだから、ついでに私の分も買ってきてくれる? ミルクティーがいいな」

「は、はい!」

 

 憧れのエクレールII世さんを見て限界化しそうだった香澄ちゃんだったが、最近免疫がついてきたのか辛うじて足取り確かなまま行ってしまった。

 

 エクレールII世さんはニカっと私を見て笑いながら、お見舞いの品の代名詞、果物の入った籠を見せてくる。

 

「思ったより元気そうじゃん。良かった良かった。橘さん滅茶苦茶心配してたから後で連絡入れてやりな。あの人何してるかっていうと、まぁなっちゃんの後処理というか、穏便に事を進めているみたいだけど」

「うわっ、迷惑かけまくりですね」

「まあ大丈夫大丈夫。思ったよりも悪い噂とか立ってないって。話題にはなってるけどな!」

「面目ないです。ほんと、申し訳ありません」

「はっはー、そこまでしおらしいのも珍しいね。りんご一つ剥こうか? 多分こんな機会今日が最後だろうし、私が腕によりをかけてウサギさん作ってやるぜ」

「ありがたい事です。ただ、一つだけ。梶原さんどこから聞いてました?」

「……あちゃー、バレてた?」

 

 慣れた手つきでウサギを一匹二匹と作りながら、私に向かってはにかむ顔。そんなイタズラがバレた子供みたいな表情されても困る。

 

「どこから聞いてました?」

「……熱烈な告白あたりから」

「ふむふむ。ウサギちゃんが可愛いので、そういう事にしておきますね」

「助かるよ。はは、だってまさか、急にあんな真面目な話になるとは思わないじゃん? 入るタイミングを見失ったというか、秘密の話だったらごめんよ」

「ただの世間話でしたから、大丈夫ですよ」

 

 私の世間話には、もれなく神様がついてきそうではあるけれど。あっという間に八匹のウサギを作ったエクレールII世さんは、香澄ちゃんが戻ってくるとすぐに帰って行った。気を使ったのかもしれない。

 

 その後は病院の人にバレるまで、香澄ちゃんと一緒に二人でウサギを食らいつくした。香澄ちゃんは私の記憶について深く触れる事はなかったけど、二度と離さないと言わんばかりに、お医者様が来るまで私の服を握っていた。

 

◇◇◇◇◇

 

切り抜き

 

あまり公共機関には近づかないでねとエクレールII世に言われて、お見舞いお留守番中のエガヲちゃん

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