【初配信】はじめました! 安藤ロイド【♯新人Vtuber】   作:watausagi

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第三六話 ちゃっぷり〜ん☆!

◇◇◇◇◇

 

『悪いが無理だ。何度言われようと俺は今回辞退する。本当にすまねぇと思ってる』

「まだ私何も言ってませんけど」

『そういう内容だろ?』

 

 カイザーさんの電話の第一声はお断りの言葉。取り付く島もなかった。無いなら作ればいいじゃない。

 

「五条唯華という名に聞き覚えは?」

『……あの日まさかとは思ったが、お前やっぱり知ってるんだな』

 

 カイザーさんはきっと夜叉金さんとのコラボ配信の時の事を言っているのだろう。あの時はお互いラインを越えないようにと牽制し合っていたっけ。

 

 まだ時期尚早だと考え有耶無耶に流していたが、今回は絶好のタイミングだった。

 

『誰から聞いた?』

「いいえ誰にも。私は知ってるだけです。その病を治す当ても」

『治すだと? もしもそれが悪意のない冗談だったとしても、嘘だった場合俺は生まれて初めて本気で人に怒るかもしれねぇ』

「ミトさん呼んで確かめましょうか?」

『……別にそこまで疑ってねえよ』

 

 嘘つく理由もないだろうしな、と静かに言った。その落ち着きようは何かに耐えている様だった。

 

 兎にも角にも私は、カイザーさんのご自宅に行く事を許されたのだった。車を走らせ、東京から県を二つ跨いでやって来たのはビル一つない田舎。人の影も滅多にない。時折すれ違う運送系のトラックでここが人の生活圏内だと辛うじて判断出来る。

 

 こうも人気を感じないと、田舎が舞台のフリーホラーゲームにでも入ったみたいだった。どこかの建物に入ってようやくイベントが始まる。

 

 冗談はさておき、ここに本当にカイザーさんが住んでいると確信が持てたのは、道のど真ん中に一本大きな立て札が突き刺さっていて、『五条家私有地関係者以外立ち入り禁止』とあったからだ。

 

 車で進めないようになっているので歩くしかない。が、数百メートルも進まない内に前方からカイザーさんの姿が見えた。迎えに来てくれたらしい。センサーでもあったのかな。

 

「悪いな。こんな田舎まで呼び出しちまって」

「来たいと言ったのは私ですよ。むしろ、ありがとうございます。カイザーさんにとってリスクのある行動なのに。いえ妹さんにとってですかね」

「お前ほんと何でも知ってるんだな。親か何かが医療関係者だったりするのか?」

 

 さぁどうなんでしょう。とお茶を濁して、カイザーさんに付き添いで案内される。

 

 しばらくして目に入って来たのは無機質な四角い建物。情緒のカケラも感じられない。そこでは殺菌されて清潔な服に着替えさせられた。きっとこの目的の為だけに用意されてる空間なのだろう。

 

 ここまで念入りに体を綺麗にしてからようやく、五条家の家の中に入る事が出来る。きっと二人っきりで生活しているのだろうと予想していたが、玄関で私を出迎えたのは夜叉金さんだった(声で分かった)。

 

「俺の後輩なんだよ。あぁガキの頃の話な」

 

 後ろからカイザーさんが私の疑問に答える。まさか、そんな関係があったとは。ただ男同士仲が良いなーくらいにしか思っていなかった。

 

「こうしてお会いするのは初めてですね。久しぶりです夜叉金さん」

「……尊い」

「お前せっかく慣れてたのにぶり返してんぞ」

「やっ、でも先輩! コレはずるいでしょ! コレは! ロイドさんがこんなっ、こんな……perfectだなんて」

「むしろスクエアで知らないのお前と二期生くらいだろ」

「そんな……だってこんな……女神様?」

「最早そうなのかもしれませんね」

 

 仮に私が自分の事を人間だと言い張っても、私以外の全ての人間がそれを否定してロイドは女神だと言うのなら、真実に関わらずその人はもう女神になってしまうでしょう。

 

「も、もしかしてお二人は、お付き合いをしておいらっしゃるのですかです?」

「どうした急に拗らせて気持ち悪ぃ。日本語で話せよ」

「だって先輩がこの家に人を呼ぶのなんて滅多にないじゃん。美男美女でお似合いだし」

「お似合いとか言うな俺たち配信者はそこら辺繊細なんだから。俺もお前以外を呼ぶとは思わなかったよ。昔、痛い目を見たからなぁ」

 

 どうやらカイザーさんは青年時代に恋人を家に連れて来たらしいが、その恋人というのが病気に対する理解が浅く、それが原因で唯華ちゃんは風邪を引いて危ないところまで悪化したそうだ。それをきっかけにカイザーさんは人付き合いをやめて、唯華ちゃんの為に人生を費やして来たのだろう。

 

 ネットではボカして話している為、痴話喧嘩&身バレみたいな話になっているようだが、その実情はもっと慎ましいものだったらしい。

 

 玄関に入るとまたついでのように滅菌されて、ようやく五条家に足を踏み入れた。そして直行で唯華ちゃん……とはいかずにリビングに案内されて、真剣な目つきのカイザーさんに真正面から見つめられる。

 

 こうして見ると、やはりこの人の容姿は人間にしてはとても優れているなぁと実感する。ちょっと今の感想魔王っぽくて好き。

 

「まず、事情を聞きたい」

「あまり話す内容も多くはないんですけどね」

「……悪いやーしゃん席を外してくれ」

「わ、分かったよ。じゃあ、えーっと、モニター室にいるよ。それじゃ」

 

 どうやら気を遣ってくれたようだ。モニター室? 唯華ちゃんのバイタルでも見ているのだろうか。思っていたよりもここは狭苦しいのかもしれない。唯華ちゃんにとって。

 

「話せるだけ話してくれ」

「うーん、無駄に引き伸ばすのもあれですしね。簡単に言えば私は未来に起こる出来事を知っています。結論から言えば10年後くらいに出来る新薬と治療で唯華ちゃんは治るらしいです。嘘じゃないですよ?」

「だから疑ってねえ、って言いたいが流石に厳しいな。まあいいよ……10年後か」

「はい。で、どうせなら10年後より明日にでも治るのなら、その方が断然いいと思いません? 私はそう思います。というわけで今日治しましょうね」

「待て待て俺を置いてけぼりにするな。お前そういうとこあるぞ。なんか自分ペースで話を進める的な。俺の優位にでも立ちたいの? まだこっちは悩んでるんだぜ」

「疑ってないんでしょう?」

「信じてもねぇよ」

 

 カイザーさんは難しい顔をして言った。突拍子のない話に戸惑う心と、私が嘘をつかないという信頼の心でせめぎ合っている。

 

 ……私ははっきり言って人に褒められるような性格をしていない。何せ、モットーが好きなように生きるだからね。自分本位なのは明白。だからいっそ、このまま問答無用の強硬手段で解決しようという気持ちもある。けれど、こうして意思表示の確認を取っているのは、まさかインフォームドコンセント……!! 職業病! これが香澄ちゃんの言っていた忘れられないものだというのか! 絶対に違う。

 

 でもまあ、やはりスッキリしておきたい。

 

「一度唯華ちゃんに会わせて下さい。それで私が唯華ちゃんに認められたら、カイザーさんも私の事を信用して下さい」

「簡単に言うな。俺だってアイツと直接会うのは避けてるんだぜ」

「その生活をあと10年間続けるつもりですか? あ、そうだ、コレ」

 

 私はポケットから携帯を取り出して、録音を流す。

 

『ああ、何でもするよ』

「まだ持ってたのかよそれ! ってか、その勝負は同率だったからって流れただろうが!」

「今もう一度同じ条件で試してみます?」

「目が怖ぇよ」

 

 このまま押し問答が続くかと思われたその時、勢いよく部屋に飛び込んできた夜叉金さん。その表情には焦りが見える。

 

「唯華ちゃんが……!」

「っ、どうした!」

「いやお腹減ったって」

「いっぺん死ね!」

「あーうそうそ! 本当は唯華ちゃんが監視カメラでロイドさんが来ているの見てたらしくて。一度会いたいって。ほら、あの子大ファンじゃん」

 

 なんと、レディーからのお誘いを断るなんて人としてあり得ない。私は喜色満面にカイザーさんを見つめた。あっちからすれば気色悪い顔に見えたかも。

 

 私の視線に根負けしたカイザーさんが両手を挙げる。

 

「あー分かった分かった。数少ない妹からのおねだりだ。無理とは言えねえよ」

「ありがとうございます任せて下さい。病原菌一つ持ち込みませんよ」

 

 自信満々にそう答えて、唯華ちゃんに会いに行く。

 

 唯華ちゃんの部屋は廊下の一番奥にあった。ここだけの話ではないが、この家は常に新鮮な空気が漂っている。でもどこかそれが寂しい。底の見える程透き通った美しい湖に、一匹も魚がいないみたいに。

 

「この中だ。あまり近付き過ぎないようにしてくれよ。念の為言っておくが、姿は見えねーけど声はこっちに常に聞こえてるからな」

「オッケーです。では、目を瞑って下さい」

「あん? 何を……ってお前!」

「あー!! 先輩ダメ!! 僕もダメ!」

 

 私は最大限唯華ちゃんの安全を考慮する為に、自分の着てる服を全て脱いで生まれたての赤ん坊の姿になる。相変わらず作り物めいた綺麗な手足だ。

 

 多分これが一番清潔だと思います。私の体に常在菌は常在していません。微生物一匹受け付けていないのです。故にこれが最もリスクのない方法です。

 

「軽々しく乙女忘れてんじゃねえよ!」

「先輩目を開けてはいけません! 絶対に! ……でも、もしも僕が目を開けそうになったら、その時は僕の両目を潰してください!」

「お前が目を開けてるかどうかは俺にも見えないんだよなぁお前の両手が俺の両目を塞いでるせいでな! 長い付き合いだから教えてやるけど、お前の手と俺の目の数は一緒なんだわ」

「じゃあ行きますね」

「もう早く行っちまえ怪我人が出る!」

 

 扉が閉まってすぐにカイザーさん達の声が聞こえなくなる。かなりの密閉度だ。でも空気は澄んでいる。温度は快適。完璧に整えられた空間。そんな冷やかな部屋の隅っこで、窓から差し込む淡い光を一身に浴びてる女の子がいる。もちろんそれは幾重にもカットされた弱々しい光だ。

 

「……あ、ごめんなさい。いま日向ぼっこの時間なの。あんまりやり過ぎると体に良くないからもう終わるね……ミロのヴィーナス?」

 

 私を一目見た感想がそれとは。知性を感じる。ちなみに私の両腕は健在だ。

 

「似たような褒め言葉を君より少し上の女の子に言われた事がありますね。でも私は女神像でも女神でもありません。ただの人間ですよ」

「すっぽんぽん」

「私の一番清潔なスタイルです」

「そうなんだ……ロイドさんって意外と、リアルでは変わってる人?」

「私の事知ってるんですか?」

「もちろんです! 私基本はお兄ちゃんの配信しか見ないんですけど、ロイドさんは特別です! いつも元気いっぱいで健康的なところが大ファンです。見ててください」

 

 そう言って唯華ちゃんはゆっくりとした動きで右手を目に持っていくとピースサインを取って。

 

「ちゃっぷり〜ん!」

「……?」

「えへへ、もしも私がVtuberになれたらこんな挨拶どうですか? チャオと私の好物のプリンを混ぜてみました。ポテトも大好きなんですけどね。プリンには勝てません」

「あぁ、今更繋がりました。私の大ファンってそういう事ですか。チャップリンは唯華ちゃんだったんですね」

「そうなんです。えへへ。私はまだ元気が足りないからVtuberになれないけど、お兄ちゃんがいつも遊んでくれるんです。私幸せ者でしょ?」

「うん良いお兄ちゃんだね」

「えへへ、それ程でもあるけど。ロイドさんは、どうしてここに?」

「単刀直入に言って唯華ちゃんを治す為ですね」

 

 これ以上引き伸ばすのもあれなので手早く本題に入った。唯華ちゃんは目を丸くして胸の辺りを手で押さえる。

 

「治せるの?」

「正確には治せる人に心当たりがあるってだけですが。唯華ちゃんがいいのなら今日にでも。どうですか、私の事信用出来ますか?」

「……不思議なの。直接会うのは初めてなのになんでだろう、ロイドさんの事は信用出来るの。きっと治してくれるって分かってる……もう誰にも迷惑かけたくない。お願いロイドさん、私を助けてほしいの」

「それが聞きたかった」

 

 唯華ちゃんはポウッと私を見つめる。

 

「本当に女神様じゃないの……?」

「私は違いますよ。私はね」

 

 でも、これから会いに行くのは正真正銘の神様……神様かな? まあいい。随分と遅くなったけれど、今時手紙でしか交流を図ろうとしないシャイな自称神様に、初めましてを言いにいこう。

 

◇◇◇◇◇

切り抜き

 

ロイド「チャップリンって関西人のはずじゃ?」

カイザー「だから、騙されるなって忠告しただろう」

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