冷凍睡眠を抜けると、そこはハーレムだった   作:黒川伝説・ハプスブルク

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危険を感じる前:2065年

 

 

 

 

 

 

 

2065年

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エイミー・レイザーは誰もいない場所まで来ると、高校指定バッグの中から折りたたみタイプの手鏡を取り出した。

周辺をもう一度確認し、誰も彼女に気付いていない事を確かめると、それを開いて中にあるボタンをいくつか押す。

すると手鏡の上に小さなホログラムが現れた。

フードを被った男のホログラムで、彼女の所属する080機関の上司である。

ホログラムの男は、彼女に挨拶をするでもなく単刀直入に状況報告を求めた。

 

 

『"ベーダー卿"、作戦は順調かね?』

 

「はい、マスター。目標への潜入に成功しました。」

 

『よろしい』

 

「しかし…やはり学園への潜入任務ならトモやシラユリの方が最適かと…」

 

『任務中はコードネームを使え、ベーダー卿。"モーロ"と"ティラルス"は此度の目標を達成するには不適格なのだ。任務の達成には君の能力が不可欠だ、期待している。』

 

「…分かりました、最善を尽くします。」

 

『ターゲットへのコンタクトは済ませたのか?』

 

「いいえ。ですが、じきに。」

 

『急ぐのだ、ベーダー卿。"連中"はもう手を打ち始めている。準備が整い次第、オーダー68を実行せよ。』

 

「はい、マスター」

 

 

手鏡の中へと消えるホログラムを見送った後、彼女は手鏡を閉じてふぅっと一息をつく。

作戦前のブリーフィングでさえ、この任務には大きな困難が伴うことは多いに予想できた。

"ダース・シリアス"…080機関本部のコードネーム…の言う事が本当なら、作戦は早くも新たな展開を迎えた可能性がある。

敵が彼女達よりもっと早く行動しているのだとしたら。

ターゲットは今も敵に狙われているし、その排除は080機関にとって最悪の結果にすらなるだろう。

場合によっては排除する事も考えられているこの作戦だが、それは必成目標ではないのだ。

 

もしかすると、ターゲットを守らなければならない状況が生起するかもしれない。

そう思ったエイミーは早くも動き出していた。

敵が攻撃を準備しているとすれば、その準備はまもなく終わる事だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

洋弓部を選んだのには理由がある。

合宿が一番短くて、練習時間もまたしかり。

ライバルは少ないし、コーチも顧問もやる気がない。

希望進路を実現するためには部活動への参加はマストだが、別にスポーツ推薦を貰うつもりはなかった。

難点といえば部費が高い事ぐらいだし、それなら親父に頼めば解決する話。

 

だから俺はこの日も、的に当たろうが当たらまいが特に関心はない矢を的に向けて適当に放っていた。

案の定矢は的の中心を逸れたが、紙の範囲内に入っただけ及第点とでも言うべきか。

背後からはやる気ありますアピールを欠かさない野郎の拍手と、帰ってから飲むビールの事しか頭にないコーチの緩慢な拍手が聞こえて来て、それはあまり人のいない練習場に寂しくこだました。

 

 

「ふぅ…まあ、こんなモノかな。」

 

「ご主人様!」

 

「うえあっ!?ふぁあ、ふぁい!」

 

「驚かせてしまって、申し訳ありません。しかしながら、一つアドバイスを。その弓の設定では当たるものも当たりません。」

 

「は、はぁ…」

 

「少し、その弓をお貸しいただけませんか?」

 

 

いつの間にか背後に立っていた紅蓮さんが、そう言いながら俺のリカーヴボウを手に取って調整を始める。

まあ、彼女も弓使いだから職人としての矜持が騒いだのだろうか。

にしてもね、紅蓮さん。

皆々様の御前で「ご主人様」はちょっとどうかと思うよ?

せっかく偽装したのにバレバレじゃん?

なんでまた、当校指定のジャージにキッツい思いさせてまで身分を隠してるのに即バレるような事するかなぁ。

 

 

紅蓮さんは手早く弓の調整を終えて、俺に弓を返す。

試しに一本射ってみると、本当に俺の弓なのか信じられないくらい射ちやすく当てやすいモノに変わっていた。

さっすが紅蓮さん!

 

 

「ご主j…俺君。何事も真摯になってこそ、得られるものも大きいのよ?」

 

「今更遅え…いや、それは分かるんですけどね、紅蓮さん。」

 

 

多分だけど、紅蓮さん俺の警護という本来の任務の他にも、本気で高校生活を楽しもうとしている風味が感じられたので、俺は彼女に向かって耳打ちをする。

 

 

「紅蓮さん、お気持ちはありがたいんだけど…ウチの洋弓部でスポーツ推薦ってのはあまり聞かないんだ。」

 

「進学だけが全てでは」

 

()()()()()()()()()、部活動でまぁまぁ成績を残すくらいで良いと思うし」

 

「!?」

 

紅蓮さんの目の色が変わる。

 

「俺の成績なら部活に全力投球するより、勉学に当てる時間を充実ふぎゃっ!?

 

「嬉しいです、ご主人様ッ!警察官への魅力に目覚めて下さったなんて…私…涙が…」

 

 

スーパーダイナマイツボディは使用方法によっては凶器ともなりかねない。

俺は今彼女から熱烈な抱擁を受けたのだが、そのせいで窒息寸前である。

あなたは俺を守りにきたのか、殺しにきたのか。

 

実際に警察幹部に部活動の成績がどのくらい有効なのか知ったこっちゃないし、そもそも本当は警察官になろうとも思ってない。

ただ単に彼女が弱そうな文言を並べて、自己の主張を押し通そうとしただけ。

結果は大失敗。

戦闘以外はちょっと天然なところもある彼女はその言葉を鵜呑みにしてしまい、俺は無事窒息してしまう。

 

 

 

「本当に嬉しいですっ」

 

「わ、わかった!ぷはっ!分かったから!離れて!ぷはっ!息できな…ぷはっ!ソーシャルディスタンス!ソーシャルディスタンスゥゥゥウウウ!!!!

 

 

 

 

 

 

やる気のない部活動は17時きっかりに終わり、俺は紅蓮さんと2人で帰ることになる。

何でセーフティ達に迎えに来なくていいなんて言ったかというと、帰り道にちょくちょく寄り道するのが日々のちょっとした楽しみだったからだ。

紅蓮さんはあまりいい顔をしなかったが、やっぱり高校生活を全力で楽しみたい疑惑は正しかったらしく、彼女も同意する。

あまりに身長差のある2人は、今まさに校門を出ようとしていた。

 

 

その時、我が家のセダンがこちらに向けて突進してくるのが見えた。

あのセーフティ共。

ついに主人の指示まで忘れるようになったのか?

俺は苛立ち紛れに車から降りてきたセーフティ①に向かって声を張り上げる。

 

 

 

「帰りは自分で帰ると言っただろう!」

 

「お坊ちゃん、少し前に匿名で電話がありました。脅迫電話です。お坊ちゃんを殺すと。」

 

「はい?一体何だってそんな」

 

「詳しくは車内で話しましょう。」

 

 

セーフティ①に案内され、俺と紅蓮さんはセダンの後部座席に乗り込んだ。

セダンは急発進して、そのままスピードをぐんぐん上げていく。

 

 

「何をそんなに急いでる?警察に止められるぞ?」

 

「若旦那、こいつぁ私の勘ですが…嫌な予感がします。」

 

「この前のラン●ーといい、最近のお坊ちゃんには何かと危険が迫っています。念のためにも急いで自邸に戻るべきかと。」

 

 

セーフティ達がいつになく真剣にそう言うので、俺も段々不安になってきた。

何故俺が狙われるのか、見当はつくにせよ"何故俺なのか"は分からない。

攻撃するならもっと効果的な人間が幾らでもいるはずだ。

 

しかしながら最近の事象はことごとくセーフティ達の不安を予言しているようなので、俺は彼女達の判断を信じることにした。

 

 

「…分かった。ただ急ぐにせよ、制限速度はちゃんと守るんだ。警察に止められて、その間に撃たれたりなんかしたら…」

 

『前方の黒いセダン、止まりなさい!』

 

 

 

言った側からパトロールカーのサイレンと拡声器による停止命令が後方からやってきた。

俺はため息を吐きながら、セーフティ②にセダンを停止させるように命じる。

セーフティ②は渋々といった感じでセダンを路肩に寄せて止め、サイドブレーキをかけた。

 

後方に止まったパトカーからは2人の警察官が降りてきた。

2人とも人間の警察官のようで、青い制服を着てサングラスを装着している。

速度違反の車を止めた時によくやるように、2人はまずセダンの運転席を覗き込む。

 

 

 

「ちゃんと速度は守ってましたよ、御同輩。」

 

「…いや、こっちの計測機だと立派な速度違反だった。君らはセーフティモデルバイオロイドか?…個人所有のようだな。後部座席にいるのが君らの主人か。」

 

「ええ、そうですよ、まったく。」

 

 

セーフティ②が警察官に反論したが、警察官は彼女の主張を押し潰す。

次いで2人は後部座席の方へやってきて、スモークされたサイドウィンドウをノックする。

俺はサイドウィンドウを下げて、精々申し訳なさそうな顔を取り繕った。

 

 

「すいません、お巡りさん。制限速度を守るように言ったんですが…」

 

「君は学生かい?…最近の若者は凄いな。おじさんもこんなバイオロイドを買ってみたいもんだよ。…悪いがね、君。バイオロイドの速度違反は所有者にも責任があるんだ。学生証を拝見させてもらえるかな?」

 

 

俺はため息混じりに学生証を差し出す。

話していた方の警察官は学生証を受け取ると、一瞥して少し後ろにいる同僚にもそれを見せた。

あれれ、何だか様子がおかしいぞ。

2人目の警察官は学生証を見て、最初の警察官に頷いた。

彼はその右手をホルスターに伸ばしているし、そのホルスターに入っているのは…()()()()()自動拳銃……?

 

 

 

次の瞬間、信じられないことが起きた。

 

 

紅蓮さんが左手を伸ばして、俺の後頭部を掴む。

そのまま俺の頭を豊満で馬鹿でかい胸の方へ誘いながら、右手を胸の谷間に入れた。

彼女の右手が谷間に分け入った後、シルバースライドのG48拳銃を持って出て来ると、紅蓮さんは躊躇うことなく2人の警察官を射殺したのだ。

 

 

バンバン、バン!

 

 

「えっ!?ちょ!?紅蓮さ」

 

「敵襲!敵襲!」

 

 

間髪おかずに右側から猛烈なエンジン音が響いてきて、灰色のバンがセダンのフロント部分に突っ込んできた。

おかげでセダンは左方向へと振られる形となる。

突っ込んできたバンはセダンの進路を完全に塞ぐと、その左側方スライドドアから2人の男を吐き出した。

2人とも黒い覆面を被ってAK47自動小銃を抱えている。

 

ズダダダダダダッ!

 

しかし今度は助手席のセーフティ①がいつのまにか取り出していたAKS74Uカービン銃を使って2人のテロリストを撃ち殺す。

銃弾がセダンのフロントガラスを突き破ってテロリストに引導を渡している間にも、紅蓮さんは次の段階を見据えていた。

 

 

「セーフティ①と②、状況報告を!」

 

「車両は損壊、使えません!」

 

「敵の人数、装備は不明!」

 

「了解。ご主人様、次のご指示を。」

 

「あうええええ」

 

「ご主人様は指揮不能、私が指揮を引き継ぎます。セーフティ①は引き続き車内から援護を。②は私と一緒に車を降りて、トランクの後ろに下がりなさい。GO!GO!GO!」

 

 

紅蓮さんは俺を抱えたままセダンの後部座席から降りてトランクの後ろへと向かう。

セーフティ②がすぐに追いついて、車のキーをトランクに差し込んだ。

トランクからはAK12自動小銃とM17自動拳銃が姿を現して、紅蓮さんは自動小銃を取りつつ拳銃をセーフティ②に投げ渡す。

 

 

「セーフティ①、援護します。下がりなさい!」

 

 

AKのコッキングレバーを引いて弾薬を装填すると、彼女は5.45ミリ弾をバンの運転席に向けて短連射で撃ち始める。

クリンコフを持ったセーフティ①もトランク後ろに合流、我々はとりあえず形勢を整えた。

 

 

「前方に3名の敵を視認、脅威を排除します。」

 

「ちょちょちょっと待って、キリシマ法はどこへ行っちまったんだ!?」

 

「ご主人様、今我々は敵の攻撃を受けていますし、私達の任務はご主人様の脅威を排除する事です。どうか安全な場所に辿り着くまで私の指示に従ってください。」

 

 

 

従わない=(death)な感じがしたので俺はもう黙って紅蓮さんの指示に従うことにする。

彼女は谷間に持ち運んでいたG48拳銃を俺に渡し、AKで敵のテロリストを撃ちまくっていた。

どうやら3名のテロリストは順調に倒されたようで、次いでとばかりにセーフティ①がバンの運転手を射殺した旨を伝える。

 

 

「運転手を排除!」

 

「了解…これで直近の脅威は」

 

 

チュドドドドドドッ!

 

 

信じられないくらいに馬鹿でかい銃声が響き渡ったのはその時だった。

セダンの前方からピックアップトラックのエンジン音と重機関銃の発射音が聞こえてくる。

 

 

「新たな脅威を視認、武装したピックアップトラッ」

 

 

チュドドドドドドッ!

 

 

セダンの後方から少し頭を出していた紅蓮さんが、いきなり俺を庇うように覆いかぶさってくる。

背中に紅蓮さんの馬鹿でかい胸と、後頭部に彼女の吐息を感じながら、俺は彼女越しにセダンの方を振り返った。

幸いな事にセーフティ2人も無事だったが、セダンの上半分は50口径弾によってメタメタにされている。

 

 

 

「クッ!敵の武装車両!50口径機関銃です!セーフティ①、敵の側方に回り込めますか?」

 

「無茶言わないでください!セダンから頭を出した瞬間微塵切りにされますよ!!」

 

「しかしこのままでは全滅です…仕方ありません、私が側方に回ります。他の2人は援護を。」

 

「無茶ですよ!」

 

「やるしかありません!」

 

 

紅蓮さんは決死の覚悟を決めたようだった。

彼女は俺に覆いかぶさったまま、AKに新しいマガジンを突っ込んでコッキングレバーを引いている。

そして彼女がセダンから飛び出す為に両膝を地面に突き立てた時、どこかから50口径機関銃とは明らかに異なる銃撃音が聞こえ、機関銃音はピタッと止まった。

 

 

 

「!?」

 

「狙撃?…一体誰が…」

 

 

答えは8000回転エンジン音を伴ってやってくる。

某艦船ゲームにも登場するようなスポーツカーがセダンの後方に滑り込んでくると、停止すると同時に後部座席のドアを跳ね上げた。

運転席のサイドウィンドウは既に開いていて、運転手がこちらに声をかける。

 

 

 

「さあ乗って!時間がありません!」

 

「あ、あなたは光線エミ!?」

 

「紅蓮さん、俺が見てもエイミー・レイザーだって分かるよ?」

 

「!?…何故気づいたのですか!?」

 

「あのね、エイミーさん。あんな無理して若作りしたみたいな状態で来られても何の偽装にもなってない」

 

ご機嫌よう

 

「すいませんすいませんすいませんすいませんマジすいません調子乗りました助けてくださいお願いします。」

 

「なら、乗ってください。敵が体勢を立て直す前に。」

 

 

俺と紅蓮さんとセーフティ2人はエイミーさんのスポーツカーの後部座席に雪崩れ込む。

スポーツカーは4人の客を乗せるとすぐに発進し、タイヤは悲鳴を上げながらも凄まじいスピードを繰り出していた。

 

 

「後方から追手のバイクが2台…しつこいですね。」

 

 

エイミーさんがバックミラーを見てそう言った。

彼女は右腕でハンドルを操作しながら、左腕で俺を掴んで助手席に引っ張る。

後は寿司詰めになってしまっているから、こちらの方が安全だと判断したらしい。

俺が助手席に落ち着くと、エイミーさんは指示を出した。

 

 

「シートベルトをしてください。少し荒い運転になりますから。」

 

「はい、分かりました…シートベルト完了!」

 

「では、しっかり掴まっていてください。」

 

 

 

エイミーさんは突如ブレーキを踏み、右手でそのままハンドルを大きくきり始める。

スポーツカーはドリフトを始めて、俺は舌を噛みそうになった。

そんな状態にも関わらず、エイミーさんは左手でハンドバッグを掴むと…よく見ていなかったが…どうやったのかドラグノフっぽい狙撃銃を取り出してサイドウィンドウの方へ突き出した。

彼女は片目を瞑ると息を整え、狙撃銃を2発撃つ。

 

ズドンッ、ズドンッ

 

強力なライフル弾の銃声が響くとほぼ同時に、スポーツカーを追っていた2人のバイカーはのけ反って転倒した。

そのまま慣性の法則によって道路を滑り続けていたが、やがては後続してきた大型トラックに跳ね飛ばされる。

うっわ、グッロ。

 

 

 

「…ふぅ。これで脅威は無くなりましたね。…改めてまして、光線エミことエイミー・レイザーです。エイミーと呼んでください。」

 

「七十七紅蓮ことC77紅蓮改です。あなたの目的が何かは分かりませんが、もしご主人様に何かあれば…分かりますね?」

 

「あらまぁ!私はあなたの"ご主人様"を助けたというのに…慌てん坊さんなのですね。」

 

 

後部座席で紅蓮さんが立ち直り、AKの銃口をシート越しにエイミーさんに突きつける。

エイミーさんは笑って答えたが、俺としちゃ笑ってられるような状態ではなかった。

正体不明のテロリストの襲撃を受けたと思ったら、バイオロイド版エージェント●7みたいなアサシン・●リードが俺を助け出したのである。

 

何が何だか、まるで分からなかったが、1つだけ分かることがあるとすれば。

今日は早く帰ってひとっ風呂浴びて、すぐに寝たいという欲求のみだった。

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