冷凍睡眠を抜けると、そこはハーレムだった   作:黒川伝説・ハプスブルク

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紳士の時代が終わる前:2065年

 

 

 

 

 

 

 

 

2065年

 

 

 

 

 

 

「関わるなと言ったはずだ、兄貴!あんな番組から金を貰ったところで家族が危うくなるなら何の意味もない!」

 

「ほおっ!お前が家族を語るのか。仕事漬けで嫁にも逃げられちまった癖に、生意気な口を利くんじゃない!」

 

「その話は今関係ないだろ!息子が殺されかけたっていうのにそんな言葉しか出てこない兄貴だって家庭人なんて称号とは無縁だな!」

 

「何をこのッ」

 

「あなた落ち着いて!」

 

 

一階で行われている両親と叔父の第三次世界大戦は、二階にいる俺の自室にまで聞こえてきた。

この前のラン●ーの後、親父は帰ってこなかった。

何たって相手は気の狂った戦争映画マニアの帰還兵で、偶発的要因が主たる原因だったからだろう。

だから、親父も紅蓮さんを払い下ろしてもらって俺の警護につけるぐらいで済ませたのだ。

ところが、今回の襲撃は明らかに俺を狙ったものだった。

連中は周到に準備を進め、我々の通学経路を研究し、警察の制服とパトカーまで用意して計画的に俺を襲撃した。

こうなると親父も何かが不味いと思ったらしく、ハワイからヨコハマの別荘まですっ飛んできたのである。

私の事を心配してくれたのは叔父さんも同様のようで、彼も地元からこちらに来てくれた。

皆俺を心配してくれるのは嬉しいんだが…しかしながら親父と叔父が我が家の別荘で顔を合わせた瞬間から大戦の火蓋が切って落とされてしまったのだ。

 

 

 

「ご主人様、大丈夫ですか?」

 

「ああ、うん、大丈夫だよ、紅蓮さん。それよりもありがとう。」

 

「責務を果たしたまでです。…お怪我がなくて本当に良かった……」

 

 

 

肝心の俺はというと、自室で紅蓮さんが淹れてくれたココアを両手で抱えながら、どうにか落ち着きを取り戻そうとしていた。

マグカップを抱える両手は未だ震えているし、動機は未だにクラブ・ミュージックみたく鳴っている。

勿論、今回の事件は俺にとってとんでもない災悪ではあったものの、俺自身としては"何故"襲われたのかの方が気になって仕方なかった。

 

人間が一番恐れるのは得体の知れない物である。

原因が分からないものほど怖いものはないのだ。

ポルターガイスト、超常現象、宇宙人。

原因さえ分かれば方法の可否はあるにせよ、少なくとも自らを守る備えができる。

しかし分からなければいくら備えても、その備えには穴が開く。

だからこそ、人は未知を恐れるのだ。

 

 

頭の中で、考えられる可能性を整理してみる。

一体何故、俺が狙われたのかを。

 

親父が伝説サイエンスと組んでバイオロイドにラッセル・●ロウの真似事をさせたから?

近年、バイオロイドの人権を謳う組織が出来上がり、キリシマ法が通ってからはどんどん過激化していると聞く。

バイオロイドを剣闘士(グラディエーター)として戦わせるような人間は、確かに彼らの癪に触る事だろう。

しかしそれなら番組ディレクターを襲う方が最も効果的且つ順当ではなかろうか?

例え親父が番組のアドバイザーとして大金を貰っているとしても、その息子である俺にまで怒りの対象を広げる理由…ましてテロ攻撃を行う理由になり得るだろうか。

下手をすれば、世間から殆ど無関係な高校生を殺したと非難される可能性もある。

テロ攻撃のせいで組織の主張の正当性が全く持って無に返るようなら、それこそ本末転倒というものだろう。

 

 

低所得者が身代金目当てに俺を誘拐しようとしたとか?

あり得ない。

テロリストの動きは橋桁の下で甲種焼酎を飲んでいる人間のものではなかった。

計画、資金、統制のどれをとっても彼らには無理難題だ。

 

 

実は県警幹部の叔父を脅そうとしたとか?

あり得なくはないが、何故叔父を脅す?

俺の知る限り彼はクリーンな警察官で、尊敬の念を集める事はあれど恨みを買うような事はしていない。

犯罪者が復讐を試みるにしても、やっぱりただの親戚を襲うとは考えにくい。

襲撃を計画したならその段階で俺にそれなりの警護がついてる事を知ったはずだし、同じリスクを犯すなら直接叔父を狙ったはずだ。

 

 

 

じゃあ俺が狙われたのは一体何のため?

考えれば考えるほど分からなくなってくる。

俺という人間は内心がすぐ顔に出るらしく、隣に控える紅蓮さんが心配そうに声をかけてきた。

 

 

「………大丈夫?おっぱい揉む?

 

「………」

 

「ご主人様?」

 

「…ありがたいんだけどね、紅蓮さん。その申し出はもう30回目になるんだが…」

 

「これは、申し訳ありません。ご主人様がとても深刻な表情をされていましたので。」

 

 

そもそも俺の手のサイズじゃ紅蓮さんの胸を"揉めない"。

頑張って揉むにしても片方のおっぱいを揉むのに両手を使わねばなるまい。

それほど彼女の胸はデカかったのだ。

 

 

「…ご主人様が何故狙われるのか、私にも分かりませんが…でも、これだけは確かです。襲撃者について思い詰めるのは、ご主人様の仕事ではありません。」

 

「そうは言っても気になるよ、やっぱり。…なんだって…俺なんだろう?」

 

コンコンッ

 

 

「失礼、入るよ?」

 

 

 

叔父の声が俺を思考の泥沼から引き戻す。

俺は自然に姿勢を正して、隣にいる素晴らしいバイオロイドを遣してくれた恩人を迎え入れる姿勢をとった。

 

 

「はい、どうぞ。」

 

「…すまない、嫌な思いをさせてしまったね。良い齢した大人2人が兄弟喧嘩なんて」

 

「いえ。こちらこそありがとうございます。叔父さんも両親も俺の事を心配してくれるが故のことだと思いますし…それに、彼女がいなければ俺は今頃チキンナゲットです。」

 

「はははっ!まだ高校生なのに肝っ玉は座ってるな。…久しぶりに思い出話でもしたいが、君には安全の話をしておかなければならない。」

 

「私は席を外しますか?」

 

「いや、紅蓮君もいてくれ。…さてと。今回君を狙った連中だが、全員があるテログループのメンバーだった。『三浦半島のアルカイダ、聞き覚えは?」

 

 

何だか前時代の残党が無理くり組織を立ち上げたばかりに凄まじく場違いな方向に向かって挙句の果てにスケールダウンしたみたいな名前だな。

つーかいつの間に三浦半島まで来てんのよ。

そんな「あなたの隣にアルカイダ」みたいなネーミングされても親近感湧かないからね?

むしろ湧いてくるのは危機感だからね?

 

 

「ありません…でも、アルカイダなら知ってます。前時代の原理主義組織ですね。…豚肉なら食べますが、それで彼らの怒りを買ったとか?」

 

「いや。そう単純なら有難いんだが、残念なことに今じゃテロも外部委託の時代でね。…分かるかな?己の主張の為じゃなく、テロ資金の為にテロをする。」

 

「組織の幹部はその金をケイマン諸島にでも流してイビザの別荘でも買うんでしょうね。」

 

「まさしく。嫌な時代になったもんだ。ウサマ・ビンラディンやガッサム・ソレイマーニーが生きていた時代の方がよっぽど良い。誰が、何のためにやったか直に分かる。テロの外注は所謂安全機能の役割をも果たしているんだ。テロ攻撃が失敗しても、攻撃を企んだ連中には繋がらない。…とにかく、言いたい事は分かってもらえたかな?」

 

「誰が何のために俺を狙ったのか、到底分からない」

 

「正解だ。ところで進路の話だが…もし良ければ警察官に興味はないかな?給料は良くないが、やりがいと誇りのある良い仕事」

 

「ご心配なく。ご主人様はもう既に、警察官になる決意を固めておいでです。」

 

「おおっ!そうかそうか!君の勘の良さなら出世も順調だし…ここだけの話叔父さんが口利きするから心配するな。」

 

 

叔父さんはプレゼンテーションをやったことがないか、或いはやったとしても失敗したことしかないに違いない。

甥に自分の跡を追って欲しいという、自らの欲望丸出しのプレゼンテーションには辟易するものがあった。

しかし、この場では精々苦い笑みを浮かべるのが関の山。

仮に否定しても説得が始まるだろうし、俺はその段階をスキップしたかった。

 

 

「あの、叔父さん。進路の前に、当面どうしたら良いか教えてもらえませんか?連中の目的が分からないなら、今回の失敗で諦めたかどうかも分からないわけでしょう?」

 

「その点は心配しなくていい。こちらの警察にも協力を仰いで、厳重な警護もつけてもらう。あのセーフティ2人の他にもね。それに紅蓮君がどれだけ優秀かも、その目で見ただろう?」

 

「紅蓮さんがいてくれるなら俺は安心です。」

 

「ご主人様、申し訳ありません…今のお言葉で、少し濡れてしまい」

 

こういう発言以外

 

「…まあ、完璧な人間が存在しないように完璧なバイオロイドもまた存在しない。だが、彼女は警護と対テロ作戦のプロだ。連中が

"次"を仕掛けて来たとして、それは成功しないさ。」

 

 

できれば、その"次"もない事を祈りたい。

そう思いつつもココアを一口飲んで、口内を潤した。

自覚はなかったが、どうやら俺も自然に緊張しているらしい。

 

叔父は俺がココアを飲むを見ていたが、俺がマグカップを口から離して甘い液体を飲み込む頃を見計らって口を開く。

今度は、何故か少しばかり威圧が感じられた。

 

 

 

「…なあ、君。もしも、だ。もしも…誰か不審な人物或いは…その…バイオロイドと接触をしているなら、叔父さんに話して欲しい。」

 

「セーフティ2人と紅蓮さん以外で?」

 

「ああ。」

 

「いませんよ。」

 

「本当に…本当にか?」

 

 

叔父さんの目線が鋭くなっていることに気づく。

これまでもその目で犯罪者を追い詰めて来たに違いない。

俺は喉元まで出かかっている名前を飲み込んで、自分の主張を押し通す。

 

 

「…いませんよ、本当に。」

 

「そうか。紅蓮君は?」

 

「いません」

 

「……なるほど。…なら…もし、これからそういう事があった時は、すぐに叔父さんに教えてほしい。」

 

「勿論です。」

 

「では、叔父さんはこの辺で帰るとしよう。明日から少し物々しくなるが、安全のためだから納得してくれ。それじゃあな、勉強頑張れよ!」

 

 

 

叔父さんはスーツの襟元を正しながら出て行った。

彼がドアを閉めてから数分後、俺はドアをもう一度開けて廊下に誰もいない事を確認してから、紅蓮さんにお礼を言う。

 

 

「ありがとう、紅蓮さん。」

 

「今現在、私の警護対象…即ち仕えるべき相手はご主人様です。その意図も汲み取る事もまた私の仕事ですから。…それにしても、本当によろしかったのですか?」

 

「ああ…正直不安は残るけどね。約束は約束だ。エイミーさんの事を叔父さんに話すわけにはいかない。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

襲撃を受けてエイミーさんに助けられた後、俺は彼女からその存在を秘匿するように要求された。

例のスポーツカーが別荘のポーチに滑り込み、俺が紅蓮さんに密着されながら入り口に向かう時、そう言われたのだ。

 

 

「私の事はどうか誰にも話さないでください。私の名前を知っているなら、()()()()()()()()()()()もご存知のはずです。」

 

「…エイミーさん、それなら一つだけ聞かせてほしい。あなたは俺の味方なのか?」

 

「………」

 

「………」

 

「…敵ならあなたを助けたりしませんよ?」

 

「分からない。トラップかもな。この襲撃も自作自演なのかもしれない。助けるような状況を作り上げて、俺の信用を狙いにきたのかも。」

 

「………では、これだけは言っておきましょう。あなたのように周到な人間は、出来るだけ敵にしたくありません。」

 

「それじゃあ答えになってない。」

 

「今言えるのはそれだけです。私を敵に回したくないのなら、少なくとも先の約束を守ってください。」

 

「………ああ」

 

「うふふ♪一先ずは安心ですね。それでは良い夜を。」

 

 

 

 

 

ファム・ファタムが何を命じられているにせよ、俺はアルカイダのクソッタレ共がワールドトレードセンターに突っ込んでしまって以来時代の覇者ではなくなったと言われる、紳士という者に憧れていた。

約束をした以上、俺は彼女を裏切る訳にはいかないし、自身の安全を考慮しても、やはり裏切らない方が得策だと感じたからだ。

今回の襲撃ならセーフティ2人と紅蓮さんでまだどうにかなるかもしれない。

でも離れたビルの屋上から、SVDかPSLにそっくりのスナイパーライフルに狙われたら…いくら彼女たちでも防ぎようがないだろう。

 

 

でも叔父さんは俺の嘘を見破ったか、或いは直に見破るはずだ。

現役警察幹部が高校生の嘘を見抜けないとは思えない。

それはエイミーさんも承知のはずで、昨日の態度を見るに俺の身辺調査は済ませているだろうから、いつまでも露見しないと考えるのは楽観が過ぎる。

 

 

まあ…全てにおいて、物事は俺の手の届く範囲の外にある。

今手が届く所にあるのは、上着を脱いで下着姿になり、揉まれるのを今か今かと待っている紅蓮さんのおっぱいぐらいであろう。

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