冷凍睡眠を抜けると、そこはハーレムだった   作:黒川伝説・ハプスブルク

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今回視点がぐるぐるしますごめんなさい


戦争が始まる前:2065年

 

 

 

 

 

2065年

惑星コンサルト

ブラックリバー本社

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何だって皆んなで警棒で殴られに行くんです?俺に機関銃を持たせてくれれば、一人で出て行って、全て終わらせてから戻って来ますよ。」

 

 

大昔にそんな事を言った革命家がいたな、とアンヘル・リオボロスは眼下のデモ隊を眺めながらそう思った。

連中の末路は決まっている。

直にセーフティモデルバイオロイドとケルベロスモデルバイオロイドを満載した警察車両がやって来て、警棒やライオットシールドで群衆を押しつぶす。

連中がブラックリバーの社屋前でデモをするのはこれが初めてではないが、今まで機関銃を持って現れた者は誰一人としていなかった。

 

そんなのだから何も変えることはできんのだ。

いつか、まだドイツという国家がバラバラだった頃の人間でさえ世の真理を見通していたというのに。

問題は話し合いでは解決しない、血と鉄という対価がいる。

 

 

まあ、そんな事を連中に言ったってしょうがない。

賢者は歴史に学ぶが愚か者は経験に学ぶ。

愚か者達には存分に経験してもらうとしよう。

 

 

 

「アンヘル様、080機関からご報告があります。」

 

 

背後に控える秘書がそう言った。

彼はデモ隊の見物をやめて秘書に向き合う。

秘書は既に手鏡サイズのプロジェクターを手にしていて、それをアンヘルの方へ差し出した。

プロジェクターはホログラムを投影し、フードを目深に被った男を映し出す。

 

 

「パルパティノス君、順調かね?」

 

『概ねにおいて順調ではありますが、いくつか障害もございます。』

 

「その障害を解決するのが君らの仕事だ。それとも私が一々口出しをしなければならないのかな?」

 

『とんでもありません。解決方法の模索もほぼ完了しております。…しかし、こんなに急を要す必要がおありでしょうか?大金をかけるのですから、もう少し時期を見て…』

 

「ほう。時期?時期を見ろと?…私が何も考えずに君らに指令を出しているとでも思っているのかな?」

 

『いえ。しかし』

 

「戦争というものは始める前に終わり方を決めねばならんのだ。ナポレオンもヒトラーも、モスクワからどこまで東に進むか決めていなかったからロシアに負けた。目的が決まっていれば自然と準備も計画も整うものだ。…私は早ければ5年以内にコトが起こると考えている。」

 

『………』

 

「キリシマ法が日本で可決されてから、私は10年先を見据えて君たちに指示を出してきた。ここが正念場だ、パルパティノス。君にはその実力があるし、だからこそ我々も君をその地位に推した。期待を裏切るようなマネは、どうかしないでもらいたい。」

 

『勿論です、アンヘル様。ご期待には必ず答えます。』

 

「それで良い。例の件にはあとどれくらいかかる?」

 

『もうまもなく終わります。』

 

「よろしい。では期待しているぞ。……あと、その中途半端なフードはどうにかしたまえ。そう、その、アサ●ン・クリードと暗●卿を足して割ったようなそのフードだ。良い歳してそんな格好して恥ずかしくないのか?そんなのだから部下に『シ●の暗●卿(笑)』とか陰口を叩かれるんだ。やるならやるでどっちかにしろ。お前のそれはエ●ィオなのかパルパ●ィーンなのか、一体どっちなんだ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日本

ヨコハマ

某所

 

 

 

 

 

 

ターゲットを無事に自邸へと送り届けた後、エイミー・レイザーは機関が用意したセーフルームに戻ってから一息を吐く。

 

今まで彼女に与えられて来た任務といえば、分かりやすい単純明快なもので、誰かを誘惑して殺せだとか遠距離から狙撃して殺せといったものだった。

だが、今回機関はこれまでとは異なる任務を彼女に与えた。

それは殺害前提の任務ではなく、それよりももっと難易度の高い任務だった。

 

 

 

「ターゲットの懐柔…はぁ。殺しの任務よりは楽にやれると思っていたのですが…」

 

 

エイミーは自身の考えの甘さを呪った。

思春期の高校生なら、隣の席で太腿をチラつかせ、おっぱいを見せればイチコロだと思っていたのだ。

しかし、現実にはターゲットは本当に高校生か疑わしいほど懐疑的で、おまけに彼女のそれよりも遥かに大きいおっぱいが常に着いて回っている。

こうなると彼女の得意なハニートラップは効果を大幅に減じてしまう事だろう…供給が需要を上回るがゆえに。

 

何か、別の手立てが必要だ。

幸いなことに、敵がどこだかの誰だかさんを使ってターゲットを攻撃してくれた、そのおかげで彼には貸を作ることができた。

これで彼との接点が出来上がったことになり、そこを軸としてうまく立ち回れば、ハニートラップよりも効果的な結果が得られるかもしれない。

 

 

「…それにしても色々と厄介ですね。敵が痺れを切らしたのは予想外でしたが。どうにかコレを"怪我の功名"にしなくてはなりません。は〜〜〜あ。」

 

 

何も080機関も彼女も、たかが高校生を懐柔したところで何か得られるとは思っていない。

ターゲットはあくまで第一目標であり、機関は彼を懐柔する事で、真の標的を引きずり出すことができると信じているらしかった。

その真の標的が誰であり、その標的を誰がどうするのかについては、まだ彼女は伝えられていない。

 

 

「考えても仕方ありませんね。」

 

 

エイミーはセーフルームのバスタブに冷水を溜め始める。

紅茶を淹れて飲む間に、冷たい水がバスタブを満たすと彼女は水を止めて冷蔵庫から氷を取り出した。

次いで、ゴロゴロとした氷を無造作にバスタブへ落としていき、最後に彼女は一糸纏わぬ姿となる。

 

彼女は全身を冷水の只中に漬け込んで、ついにはその頭までバスタブの中に入れた。

ここまで読んで何か頭に浮かんだ読者諸兄には、どうかアト●ック・ブロンドとかいう映画やシャー●ーズ・セロンとかいう女優の事を頭の中から追い出して欲しい。

ともかく、彼女は水中に身を沈め、思考の中へと入っていく。

 

 

接点が出来上がったとはいえ、問題がないと胸を張れる状況にはない。

ターゲットは今回の襲撃で殊更に慎重になるし、恐らくは接触の機会も減ることになるだろう。

彼の叔父は警察幹部で、恐らくは080機関の事も知っているはずだった。

ターゲット自身は約束を反故にするような人間には見えないが、叔父の方なら甥の簡単な嘘など見抜いてしまうだろう。

そうなるとエイミー自身の事が露見するのも時間の問題だ。

時間とチャンスは減っていくのに、制限はどんどん増えていく。

いつもの暗殺任務なら、こうなる前にズドンと終わらせる事ができる分、やはりこの任務は自身に向いていないのではないかと思えた。

ダース・シリアス(080機関本部)が何を考えているにせよ、彼女はそういうバイオロイドであり、ボンドガールの真似事をやるには向いていない。

 

 

彼女は水中から全身を出して、バスタオルで水分を拭き取る。

きめ細やかな白い柔肌に付着した水分を拭き取った時、手鏡型のプロジェクターが映像通信の通知を奏でていることに気がついた。

エイミーはバスタオルを身体に巻きつけて、プロジェクターを開く。

 

 

「あら。ダース・シリアス?こんなに早く連絡が来るとは思いませんでしたが…」

 

『何かと心配事が多くて…うわっほおおお!お前どんな格好してんだ!服を着ろ!服を!』

 

 

フードを被ったホログラムが最初は渋い声で語りかけたが、すぐに彼女のあられもない姿に気がついて動転する。

せっかく闇のボス感全開でやって来たのに台無しだ。

よく見れば、彼のフードには手直しをした形跡が認められた。

コードネームの元ネタになった作品の方に寄せられている。

「ああ、またアンヘル様に何か言われたのね」

そう思いながらエイミーは服を着て、彼女達が陰で呼ぶところの『シ●の暗●卿(笑)』の眼前へと舞い戻った。

 

 

「…それで、今回はどんなご用件です?レディの入浴中に電話するなんて、品位を疑われますよ?」

 

『貴様の入浴時間なぞ知るか!…まあいい、本題に入ろう、ベーダー卿。君がターゲットとの接点を作った事で、作戦は新しい局面を迎えた。だから君には、もうワンステップ上の情報を与えなければならない。』

 

「なるほど…ついに真打ちが登場、というわけですね?」

 

『うむ。実を言うと、我々の真の標的は…』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日本

タネガシマ・スペースセンター

 

 

 

 

 

 

 

「県警から警備主任に大抜擢とは大出世じゃないか、君。」

 

「ええ、おかげさまですよ。なんでも警備任務の勤務成績が評価されたようですから。それにしても、衛星の打ち上げなら専属の警備チームがいるはずでは?」

 

「タネガシマ・スペースセンターが衛星を打ち上げるのは十数年ぶりになる。スペースダストのせいで制限が増えてしまってな。このままじゃ人類は地球から外に出られなくなるよ。…まあ、ともかく、お役所ってのは余計な人員確保を嫌うモンなんだ。」

 

「なるほど…そうなりますと、私も気合を入れなければなりませんね。」

 

「そう気張る必要はない。いつも通りにやってくれればそれで良いよ。」

 

 

 

主人公の叔父は宇宙開発機構の上級職員と、人工衛星打ち上げ施設の中を歩きながら話をしている。

先の会話の通り、この施設は長年最低限の保全体制しか動いていなかったらしく、施設のあちらこちらで修繕作業や資材の運び込みが行われている様子が見て取れた。

 

オリジンダストの発見は、少なくともこの国の国民の興味を、宇宙におけるそれから奪い取った。

政府予算はバイオロイド関連に向けられて、宇宙開発機構は最低限の予算しか交付されなくなったのである。

よって宇宙開発は停滞し、久々の衛星打ち上げともなればご覧のザマであった。

スペースダスト云々より、単に金がなかっただけだろう。

そうは思いつつも、叔父は自身の感想を胸の内にしまい込む。

 

 

「…それにしても、今回の打ち上げは何が目的なんです?」

 

「軍用AGS指揮統制衛星の打ち上げさ。国防軍のお偉方の肝煎りで、おかげでここはこんなお祭り騒ぎになってる。」

 

「AGSの衛星ならとっくの昔に打ち上げられてると思ってましたが…」

 

「ああ、諸外国はとっくの昔に打ち上げている。ところがこの国は宇宙開発に関心がなさすぎてね。『軍用衛星?借用じゃダメなんですか?』と、こんな調子さ。」

 

「なるほど…」

 

「これまでは同盟国の衛星を借用してたが、アメリカさんは世界中で軍事活動をしている。そうなると日本のAGSの面倒まで見ていられなくなる可能性があるから、国防軍のお偉方は今更になって自分の衛星が欲しいと言い出した。」

 

「何というか…気づくのが遅すぎるというか…」

 

「日本人ってのはそういう民族なんだよ。…ま、過去の話をしても仕方がない。我々は我々でやれる事をやろう。当日はよろしく頼むよ?」

 

「お任せください。」

 

 

上級職員と別れた後、叔父は自分の職務のためにこの施設で与えられた部屋に向かう。

警備員の配置や警備用AGSの調達など、やることはまだ山ほどあった。

しかしどうにも、引っかかる事がある。

 

それは甥の事で、だが彼は甥の身の安全というよりかは、甥の事件がこの仕事に何らかの関連性があるよに思えて仕方がなかったからだ。

それは何の根拠もない、ただの勘ではある。

自身にただの偶然だと言い聞かせながらも、しかしやはり気になって仕方がない。

 

 

彼は任務に集中するためにも、濃いめのエスプレッソを淹れる。

そしてそれを一口飲むと、再び元の作業に取り掛かった。

 

 

 

 

 

 

 

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