さあ依頼主様! 予告した通り日曜日に完成させたのです!
ムジナは人を化かす生き物ですが、約束は違えないのです!
逃げる指揮官、追うお姉さんたち
逃げ場のない基地の中で、指揮官が出会ったのは帝国出身のあの人でした。
それでは、続きをどうぞ……
(はぁ、はぁ……!)
ショタ指揮官が、薬の副効果に曝露してしまった教廷の外部派遣員2人(ウィオラとコンスタンス)から逃れること数分後……指揮官は依然として、複数の女性たちから追われる身となっていた。
しかも、小さくなった指揮官を追っているのはウィオラとコンスタンスだけではなく……
「指揮官く〜ん、保健体育の時間ですよ〜」
「ふふっ……隠れてないで、出てきてくださ〜い」
(……っ!)
廊下を駆け抜けていた指揮官は、すぐ背後に黛と臙脂の気配を感じたため、一旦、空いている手近な部屋へと身を隠すことにした。扉を開けて部屋へと飛び込み、中から鍵をかけて、さらに扉の前に椅子と机を引きずってバリケード代わりにする。
鍵のかかった部屋の中で指揮官が息を整えていると、やがて廊下を進む黛と臙脂の声がだんだん近くなってきた。
頼むから、そのまま通り過ぎて……!
息を殺してそう願う指揮官だったが……
「うーん……こっちね!」
しかし、そんな指揮官の思惑に反して黛と臙脂は指揮官のいる部屋の前でピタリと足を止めた。扉越しにそんな気配を感じ取り、指揮官は心の底から震え上がった。
(な……何でこっちの居場所が……!?)
そう呟いたのもつかの間、ドアノブがゆっくりと捻られた。空き部屋にも関わらず扉に鍵がかかっていたことで確信を得たのか、2人の艶やかな嬌声がその場にこだました。
「指揮官く〜ん、そこにいるんでしょ〜?」
「ふふっ……大人しく出てきて下さい。大丈夫です、取って食ったりなんかはしませんから……まあ、別の意味で指揮官くんのことを食べちゃいますけど〜♡」
指揮官の目の前で、今すぐにでも壊れそうな勢いでひっきりなしにドアノブが回されている。いや、極東の諜報機関に所属している2人が本気を出せば、ピッキングなり蹴破るなりして、鍵のかかった扉の一つや二つくらい簡単に突破できる筈だった。
しかし、わざわざこうして開けられないフリをしているのは、音ですぐそばにいるということを強調し、部屋の中にいる指揮官に揺さぶりをかけているようだった。もしくは扉が開かないと指揮官を油断させ、その隙を狙って一気に突入し、指揮官が反応するよりも早く確保するつもりなのだろう。
(くっ……!)
どちらにせよ、なけなしのバリケードが長く持つとは思えなかった為、指揮官はロクに息つく暇もなく移動を余儀なくされた。部屋の中を通ってベランダへ……そして、排水管を伝って中庭へとゆっくり降下する。
指揮官が中庭へと降り立った時、2人が扉をぶち破ったのだろう……部屋の方から猛烈な破砕音が響き渡った。
(き、来てる……!)
慌てて中庭を駆け抜け、開いていた扉から建物の中へと侵入しようとして……指揮官がふと背後を振り返ると、ちょうど黛と臙脂がベランダから飛び降り、中庭へと華麗な着地を決めている瞬間を目撃することとなった。
「……み〜つけたぁ♡」
(……ッ!)
黛と目が合うと、彼女は顔を赤らめにっこりとした表情を浮かべた。そんな黛の姿に寒気を感じた指揮官は、慌てて扉を閉め、部屋を通り抜けて廊下へと飛び出した。
小さくなってしまった原因を解明すべく、一刻も早くセラスティアのところへ向かいたかった指揮官だったが、2人に追われているこの状況下で彼女の元へ行くことは不可能だった。なので、2人を撒くためにいくつもの分かれ道をランダムに通って進むことにした。
しかし、指揮官がどのような複雑なルートを通って安全地帯へ身を隠したとしても……ようやく息つく暇が出来たと思った次の瞬間には、どういうわけか黛と臙脂の影が間近に迫っていた。しかも、指揮官の居所を最初から知っていたかのような正確さでジリジリと詰めてくるのだから、これには流石の指揮官も恐怖でしかなかった。
脅威の探知能力を前に、指揮官は発信機でもついているのではないかと疑い、2人から逃げつつも全身をくまなく探した。しかし、指揮官がいくら探しても、特にこれといって発信機が体についているだとか、ポケットの中など衣服の仕込まれているだとか、そういうものの気配を感じることはできなかった。
焦る指揮官に、さらに不幸(?)が訪れる。
通路を進み、角を曲がろうとしたその時……
(う……ウィオラとコンスタンス!?)
通路の奥から機械教廷出身の2人がこちらに向かって歩いてくるのを目撃し、指揮官は慌てて角を曲がるのをやめて壁に張り付いた。
「指揮官く〜ん、どこにいるの?」
「さあ、早く我々と交尾するのだ!」
そんなことを言いながらこちらに歩いてくるものだから、たまったものではない。2人とすれ違った基地の女性スタッフたちは皆一同にギョッとした表情を浮かべており、角越しにそれを見ていた指揮官は思わず首を吊りたい衝動に駆られた。
しかし、そうするわけにもいかず……
ウィオラとコンスタンスから逃れようと踵を返した指揮官だったが、数歩ほど進んだところで前方からさらに強烈なプレッシャーを感じ取り、足を止めた。
(この感覚……黛と臙脂ッ!? ま、まずい……!)
薬の副効果に暴露してしまったお姉さんたちに挟まれる形となり、指揮官はどうしていいか分からずオロオロとした。まさしく『前門の虎(山月記的な)、後門の狼(ブラッディウルフ的な)』である。[↑上手くない?]
このままでは、飢えた4匹のケダモノに襲われ、純粋無垢な指揮官の体は淫らに弄ばれて穢され、骨の髄まで激しく貪られてしまうことだろう。
早い話が、いわゆる5Pというやつである。
どれくらいヤバいのかと言うと、某プリコネで例えるならば幼児退行した騎士くんを、美食殿とトゥインクルウィッシュの6人が襲ったりするようなものだったりするのです! ヤバいですね!
(ど、どうすれば……っ!)
徐々に迫り来る4人の影にどう対処するべきか、指揮官が必死に頭を回転させていると……ふと、どこからともなく花のようなふんわりとした甘い香りがするのを感じた。
(……むぐっ!?)
その時、いつのまにか背後に忍び寄っていた何者かによって手で口を塞がれ、指揮官は思わずびくりと体を震わせた。
(だ、誰……!?)
「シッ……静かに、声を立てないでください」
(その声は……!)
後ろから耳元に囁かれた優しげなその言葉に、指揮官は驚きつつもそれに従うことにした。やがて、その人物は指揮官の口を塞いだまま通路の端にかけられた大きなカーテンの方へと移動し、そのままカーテンの中へと潜り込んだ。
しかし、カーテンの中というものは言うまでもなく閉鎖空間である。限られた小さな空間の中に2人以上も身を隠すならば、出来るだけ身を縮こませたり身を寄せ合う必要がある訳で……
(……ッ!)
指揮官は自分の後頭部に、柔らかな2つの塊が押し付けられる気配を感じて頰を赤らめた。ふわふわでぬくぬくな谷間に埋まり、奥底から響き渡る小さな鼓動が指揮官の理性を刺激した。
というか、カーテンに隠れたくらいで追跡を躱せるとは思えないんだけど……そう考えていた指揮官だったが、まもなくウィオラとコンスタンスが目の前を通過していく気配を感じ、静かに困惑した。
……え、嘘……?
何事もなく通過した2人を前に、カーテンの中で驚いていた指揮官だったが、やがて黛と臙脂の接近を感じ、極東の諜報員として高いステルス&ストーキング能力を持つ彼女たちには、流石に見つかってしまうだろうと半ば諦めかけていた。
しかし、指揮官のそんな予感に反して、まもなく目の前を黛たちが通り過ぎていく気配を感じて、指揮官はさらに困惑してしまった。
……な、なんで……?
カーテンの中に隠れているという、子ども騙しの行動に全くと言っていいほど気づけないという、凄腕の諜報員らしからぬミスに驚くしかなかった指揮官だったが、つい先ほど感じた花のような甘い香りのことを思い出した。
恐らく『彼女』から発せられた甘い香りが指揮官の匂いを隠蔽し、指揮官の匂いを頼りにトレースしていた黛と臙脂を誤魔化すことが出来たのだろう。
……そんな、2人は犬か何かじゃあるまいし……そう思っていた指揮官だったが、そこでふと、意識が遠のいていく感覚に陥った。
「……どうやら、行ったみたいですね」
その女性は指揮官の口を手で塞ぎつつ、カーテンの隙間から周囲を見渡して安全を確認すると、指揮官を胸に抱いたまま安堵のため息を吐いた。
「指揮官様、もういいですよ」
(………)
「指揮官様……?」
(…………)
返事がないことを不審に思った女性が指揮官に目を向けると、自分の胸の中で、指揮官がぐったりとしてピクリとも動かないことに気付いた。
「息、してない……?」
慌てて指揮官の口から手を離した時には既に遅く……黛たちに追われ、ただでさえ酸欠気味だった指揮官は窒息して意識を失ってしまっていた。
「えっと……こういう時、どうすれば……」
しかし、女性はそれでも冷静だった。
指揮官を床に横たわせると、肩を叩きながら少しだけ考える素振りを見せ……
「あ、そっか……CPR……?」
ふと思い出したかのようにそう呟き、女性は指揮官の顔をまっすぐに見つめた。僅かに顔を朱に染め、青白い髪の毛を触るその姿はどこか色っぽいものがあった。
「緊急事態なので、仕方がないですよね……」
誰に言うでもなく確かめるようにそう告げて頷くと、女性は青白い髪の毛をかきあげ、それから両手で指揮官の頰を包み込んだ。
機動戦隊おねショタサーガー第6話ー
ショタと蝶々と蜜の味
数分後……
(うぅ……はっ!?)
指揮官が目を覚ましたのは、基地の一角にある庭園の中でのことだった。中庭に併設するような形で存在するその場所は、手入れの行き届いた色とりどりの花々で囲まれ、小鳥のさえずりが響き渡り、空には澄んだ青空が広がっている。
「起きられましたか?」
指揮官が覚醒後間もないうっすらとした視界をパチパチとさせていると、その頭上から、もの静かな印象を受ける女性の声が聞こえていた。
(イザベラ……?)
目を慣らした指揮官は、横たわる自分を心配そうな表情で見つめているその女性を見上げた。色白の肌、青みがかかった長い髪の毛、髪や腰回りなどに暖かな色合いの造花をアクセサリーとして身につけている。
また、モノキニ(後ろから見るとビキニ、前から見るとワンピースに見える水着のこと)にも似た露出の多い白い礼服を着用しているものの、それを着た彼女は淫乱や妖艶といった雰囲気を放っているという事はなく、むしろティンカーベルやピクシーなどといった幻想的な存在……妖精のような印象を受ける、不思議な存在感を放っていた。
「はい。息を吹き返した後も一向に目を覚ましてくれなかったので心配だったのですが、どうやら大丈夫みたいですね」
そう言って、妖精のようなその女性……イザベラは微笑みと共に指揮官の頭を優しく撫でた。指揮官はそこで、自分がイザベラに膝枕されていることにようやく気づいた。
慌てて彼女の膝から退こうとした指揮官だったが、起き上がろうとする彼をイザベラはやんわりと膝の上に押し留めた。
「まだ動かないでください……つい先ほどまで気絶していた状態でしたので、念の為、私の力で貴方のことを癒している最中です……」
指揮官がイザベラの視線を追うと、胸や手足など自分の体の至る所に、彼女の持つナノマシンによって構成された光の蝶々が数匹ほど羽を下ろしているのを見ることができた。何かしらの治癒を施しているのだろう、光の蝶々が触れた箇所には暖かな光が宿っていた。
イザベラ
グレイトブリテン帝国出身、帝国国会の書記官を務めている美しい女性。幼い頃はスラム街で花売りの仕事をしている貧しい身分だった。しかし、後に先帝の隠し子だったことが明るみとなり、それに目をつけた貴族に養女として迎えられ、美しい容姿とご機嫌を取る手腕で、現在は伯爵の地位にまで上り詰めている。
(気絶……? 一体何が……)
「そう……覚えていないのですね」
黛たちから逃げている最中に、自分が気絶してしまった理由をなかなか思い出すことが出来ない指揮官に、イザベラは自分のしてしまったことをこと細やかに話し、そして心から謝罪した。
(……ん、そっか……イザベラは追われている自分のことを守ろうとしてくれたんだ)
「はい、そのつもりだったのですが……」
そこでイザベラは、申し訳なさそうな感じで指揮官から目を逸らした。一方、そんな彼女の様子を見て、指揮官は小さく首を振る……
(いや、そんなに気に病む必要はないよ。イザベラのお陰で助かったのは事実だし、気絶した自分のことを気遣って、こうして治癒してくれている……それだけでも嬉しいよ、ありがと)
「そんな……お礼を言われる筋合いなんて、私には…………本当に、貴方はお優しい方なのですね」
イザベラはそう言ってふっと微笑みを浮かべた。それから、うっとりとした表情で指揮官のことを見つめ……
(あ、そうだ……!)
指揮官は小さくなってしまった今の状況と、女性を魅了するという薬の副効果についてを思い出し、慌てて姿勢を変え、仰向けから横向きの形となることでイザベラから顔を逸らした。
「どうされましたか?」
(いや、その……なんて言うか……)
「もしや、私が薬の副効果を受けてしまわないか配慮しているのですか?」
(え? 何で知ってるの!?)
知るはずがないことをイザベラが知っていたということに、指揮官は驚愕した。
「知っているというより、既に基地の中ではもっぱらの噂になっています。指揮官が幼児化している、そして幼い彼の姿を間近で目撃した者は、彼に対する性的な欲望を抑えられなくなる……と」
(えぇ……)
「その反応……ということは、噂は本当だったという事なのですね?」
(実は、そうなんだ……)
指揮官はイザベラの問いかけに小さく頷いた。それから、朧や黛らとの間で起きた、これまでの出来事を包み隠さず説明した。
「なるほど……こうして貴方は、薬の効果で数多くの女性たちが言い寄ってくるのをいい事に、容赦なく情を交わしてきたと。それは、さぞお疲れだったことでしょう」
(そ、そんな事は……)
とは言いつつも、キスをしたり体を触ったりしたという前科がある以上、指揮官はあまり言い返すことが出来なかった。
「そして今、私が貴方に対して抱いているこの気持ちも、薬の影響によるものだと。では、私も他の方々と同じ様に、貴方様の手によって淫らに犯されてしまうのですね……」
(言っておくけど、何もしないからね……)
「ふふっ……冗談です」
イザベラはお茶目に微笑んだ。
そんな彼女の微笑みを横目で見て、自分がからかわれていることに気づいた指揮官は小さく溜息を吐いた。
(だから、その……薬の影響を受けるとまずいから、せめて、あんまり自分の顔を見ないようにして欲しいんだ)
「何を今更、もう遅いですよ」
(だよね……)
せめてイザベラの言う治癒が終わるまで安静にしておこう、そう考えた指揮官は微笑みイザベラから視線を逸らした。
それにしても……
指揮官は今、自分が枕がわりにしているイザベラの脚へと視線を送った。
……生足…………
生まれたままの姿になった彼女の美脚が指揮官の目に飛び込んできた。水着のような礼服を着ている以上、太腿から下を包む布は皆無で、彼女の白い肌も相まって、その上に頭の乗せていることにより指揮官の視界の先は雪の平原を思わせる神秘的な光景が広がっていた。
シミひとつない綺麗なイザベラの脚は、モデルにも負けず劣らず程よく引き締まっており、陶器のように美しく、そして頭部に伝わるその弾力はとても心地よいものだった。
「私の脚が気になりますか?」
ついつい脚の美しさに魅入ってしまっていた指揮官だったが、そんな指揮官の様子をイザベラは敏感に察知し、そう問いかけた。
(あ……こ、これは……)
「隠さなくても良いですよ。私の脚にかかる、貴方の熱い視線を感じますので……いえ、特に不快という訳ではありません。殿方からそういう目で見られることには慣れていますから……」
(そんなこと……)
「いいのです。寧ろ、貴方にいやらしい目で見られるのは、私としても好ましい限りです。貴方にならもっと見られたい、自分の全てをさらけ出したい……そう思ってしまうのは、きっと薬の影響によるものなのでしょうね」
(……?)
イザベラの様子に、指揮官は疑問符を浮かべた。
朧や黛など、これまで薬の効果を受けていた女性たちは皆、指揮官に対して積極的に言い寄り、中には指揮官を拉致するなどといった強行手段に走る者もいた。その一方で、イザベラは薬の影響を受けていることを自覚し、理性でそれを抑えている素ぶりが見られた。
……きっと個人差があるのだろう
薬の効き目について、指揮官は密かにそう分析した。
「まあ、それはそれとして……」
イザベラの伸ばした指先が、指揮官の掌に触れた。
「触っても、いいのですよ?」
(えっと……な、何を……?)
「私の脚です。はい、貴方が枕代わりにしているそれにです。貴方だって、本当は触りたくて触りたくてたまらないのでしょう? 一々そうやって、カマトトぶる必要はありませんよ」
(カマトトって……)
視線から内心を言い当てられ、イザベラの少しだけじっとりとした視線を感じながら、指揮官は戸惑いつつも生唾を飲み込んだ。
(じゃあ、触るよ?)
「はい。気絶させてしまったお詫びと言っては何ですが、私の脚如きでよければいくらでも触って下さい……んっ」
指揮官は横向きになったまま目の前に手を伸ばし、手始めにイザベラの白い柔肌を軽く撫でてあげると、彼女の口からくすぐったそうな声が漏れ出た。
(うわ……)
すべすべの肌、しっとりと手に馴染む。
さらに、程よくひんやりしていることから、ただ触っているだけでも、とても心地よいものを感じられた。
「貴方の手つき、とてもいやらしいですね」
(……ごめんね)
「はい、くすぐったくて堪りません。それに、よくよく考えてみたら何故私は貴方に脚を触らせているのでしょう? いくら薬の影響があるとはいえ、このような人の脚を触っただけで喜ぶような変態なんかに……」
(泣いていい?)
まさしく『綺麗な薔薇には棘がある』
ふっと湧いて出てきたイザベラの棘がある言い方に、指揮官はイザベラの脚から手を退けようとした。しかし、イザベラの伸ばした指が再び指揮官の掌に触れ、それを押し留めた。
「でも……それ以上に暖かい」
それは心からの安らぎに満ちた言葉だった。
指揮官がふと、イザベラに視線を送ると……彼女はまるで指先から伝わる指揮官の感触と体温を感じ取るかのように、そっと目を瞑っていた。
「貴方には、感謝しているんです」
目を瞑ったまま、イザベラは静かに語り始める。
「貴方も知っての通り、私は先帝の隠し子です。貴族たちは私の従姉……ヴィクトリアを玉座につけました。しかし、彼女があまりにも民衆からの支持を受けたので、貴族たちは彼女をコントロールすることができなくなりました」
(……それで、将来ヴィクトリア様に代わって国を治める候補として、イザベラが選ばれたんだよね)
「その通りです。当時、私のいたところは貧しく、明日を生きる糧すらままならない日々が続いていました。そんな路頭に迷っていた私を、貴族たちは探し出し……養女として貴族に仕立て上げました。これだけ聞くと、まだ良いように思えるかもしれませんが……言うなれば、私は貴族たちの傀儡、女王から政権を奪取する為の道具に過ぎないのです」
イザベラは淡々と続ける。
「私は、一匹の蝶でした。貴族という名の小さな鳥籠に囚われた……哀れな生き物。外で自由に生きることを許されず、ただ貴族たちの欲望にまみれた矮小で醜い世界を、少しでも見栄えを良くするためだけに飼われ、生かされ続けている存在。本当は、代わりなんていくらでもいるのです……」
指揮官はそこで、以前、イザベラを誘ってヴァネッサの経営する喫茶店へ行った時のことを思い出した。ややあって、そこで出された料理を分け合って食べることになった際、豪勢な帝国国会の料理と比較すると圧倒的に粗末で、庶民的な料理だったにも関わらず、彼女はそれを実に美味しそうに、懐かしむように食していた。
貴族たちに目をつけられる前は、貧しいなりに、彼女にも平穏な日々と自由があったのかもしれない。いや、あった筈だ。
そして、その自由は虚しく奪われた。
それまで、貴族社会とも政治ともまったく関わりのなかった彼女が、いきなりそういった世界へ引き込まれてしまったのだ。選択権などなかった。将来、ヴィクトリアに取って代わる存在としての役割を無理やり与えられ、育てられ、その最中で膨大な量のプレッシャーに晒され、恐らく生きた心地がしなかった筈だ。
そして必要がなくなれば……捨てられる。
役割を果たせなくても、それは同様である。
本来ならば、先帝の不貞の末に生まれた帝国の汚点であるべき存在なのだ。そんな彼女が失敗すれば、それは即ち存在そのものを抹消……いや、否定されるということを意味していた。
それが死ぬよりも過酷な運命であるということは、容易に想像することが出来た。
ただの貧しい少女だった彼女が、貴族としてここまで成り上がることが出来たのは、周囲の期待に応えたかった訳でも、流れに身を任せてしまった訳でもなく、ましてや自分の意思でそうした訳でもなく、ひとえに……
ひとりの人間として、生きたかったからなのだろう。
「ですが、ここのところ……揺らいでいました」
顔に暗い影を落とし、イザベラは続ける。
「自分は何故、ここにいるのか? このまま貴族たちに飼い殺しにされたまま生き続けることに、何か意味があるのか……と、代わりなら幾らでもいる。私は、私がいなくなっても別に良いのではないか……そんなことを考える事もありました」
(……!)
指揮官はイザベラのことを真っ直ぐに見つめた。
その手には、いつのまにか彼女の細くしなやかな手を強く握りしめている。
「……そんな顔をなさらないで下さい」
(イザベラの代わりなんていない)
「大丈夫です。それも、昔の話ですから……」
イザベラは指揮官の頭を優しく撫でた。
「でも、そんな時に現れたのが……貴方でした」
直後、イザベラの顔から暗い影が消えた。
不思議そうな顔を浮かべる指揮官に、彼女は続ける。
「貴方が鳥籠の鍵を開け、その中に囚われるだけだった私に手を差し伸べてくれた。そして、私の事を本来あるべき場所に向かって羽ばたかせてくれた」
それは、今から少し前の出来事だった。
当時、指揮官はブリテンの政治に立ち会う機会があった。その際、ヴィクトリアやゲーテとの会話の中からイザベラの存在とその境遇を知り、2人の頼みもあって、指揮官はイザベラを巡って貴族たちと大立ち回りを繰り広げたことがあった。
イザベラの言う『昔の話』という言葉からして、それは指揮官と出会う、まさに直前の事だったのだろう。つまり、あの時に指揮官がそうしていなければ、今ここにイザベラは存在していなかった可能性があった。
まさか、そんなギリギリの状態だったなんて……
今更ながら、最悪の事態を想像して薄ら寒いものを感じ始めた指揮官に、イザベラは優しく微笑みかけた。
「鳥籠の中から見た貴方は、私の目からはとても輝いているように思えました。そんな貴方の暖かい手を、汚れきった私の手で取っていいのか心配になりました。ですが、貴方は私の事を知っても尚……私に手を差し伸べ続けてくれましたよね?」
(それは、ヴィクトリア様の頼みで……自分はただ、それに従っただけ)
「ですが、命令ではなかった筈です。帝国騎士ではない、ヴィクトリアと対等な関係……唯一、友と呼べる存在である貴方には」
(…………)
「私はいい女かどうかという以前に、いい人間でもありません。私なんかと一緒にいると、幸せにはなれません。なので、男の影をチラつかせて貴方の方から離れて行ってくれるよう仕向けたりもしました。大抵の殿方は、そうするだけで興味を削がれてしまうものですから。でも、貴方はそうしなかった……」
イザベラは空いたもう一方の指で指揮官の小さな手を優しく包み込んだ。そして持ち上げ、指揮官の腕を胸に抱いた。
「貴方は、私という存在を認めてくれた。だからこそ、私は生きたいと思えるようになった……貴方の隣で、生きていきたいと思えるようになりました」
(……ッ!)
イザベラの白い肌は俄かに赤く染まっていた。愛情、信頼、恋慕……様々な想いが込められた瞳で真っ直ぐに見つめられ、指揮官はドキッとするものを感じた。
(……あ…………も、もう治癒は終わったみたいだから、ありがとう。膝枕……とっても気持ちよかった!)
顔が熱くなるのを感じつつも、いつのまにか自分の周りから蝶々たちが姿を消していることに気づいた指揮官は、そう言ってイザベラの膝から起き上がった。
「もう、宜しいのですか? 触りたいと言っていましたが、結局あまり触れませんでしたけど……」
(だ、大丈夫……! 十分堪能したから)
「そうですか……」
しかし、そこでイザベラは何かに気づいたようにハッとした表情を浮かべた。
「少し、動かないで下さい」
(え……? どうかした?)
「貴方の顔に、蝶が……」
(ついてるの?)
自分の顔を確認しようとした指揮官だったが……
「動かないで下さい」
指揮官の顔についた蝶を取るつもりなのだろう。
イザベラは指揮官の顔に両手を伸ばし……
指揮官の頰を包み込んだ。
(え……?)
「だから……」
そして、指揮官が反応するよりも早く……
ありがとう
短いリップ音が鳴り響いた。
口先に広がる蜜の味
その糖度は、まるで世界中の花から採れる蜜を濃縮させたかのように、甘いものだった。
(イザベラ……?)
「…………ふふっ♪」
戸惑う指揮官を目の前に、イザベラは至近距離で指揮官に微笑みを送った後、指揮官の頬から両手を離して元の位置へと戻った。
「どうでしたか?」
(……ちょっと、驚いた。でも、気持ちよかった)
「そうですか、それは何よりです。因みに言わせてもらうと、私は殿方と口づけを交わすのはこれが初めてという訳ではありませんから」
(……それ、今言う必要あった?)
「勘違いされると困りますので」
(そ、そう……)
プロフィールにもある通り、美しい容姿で成り上がったと書かれるほどの美女なのだから、お付き合いしたことのある男性の1人や2人くらいいてもおかしくない。
モヤモヤとしたものを感じつつも、指揮官は自分の唇に触れた。指先に伝わる混じり合った2人分の体温が、とても熱く感じられた。
「やはり、何か
(え?)
「何でもありません……ふふっ♪」
イザベラはそう言って唇を押さえながらイタズラっぽく笑った。それを見て、最初から最後まで彼女の手玉に取られているような感覚に陥った指揮官だったが、彼女の可愛らしい一面を見られるのなら、まあそれも悪くないだろう……そう思い、明るく笑いかけた。
「貴方がいてくれたからこそ、私は生きる理由が出来ました。ですが、私はまだ自由という訳ではありません。私はいずれ国会に戻ります。そして、帝国が真の平和と安定を得られるために……私は努力を惜しまないつもりです。全ては、私たちのことを信じてついてきてくれる民衆の為に」
そこで、イザベラは手を差し出した。
「なので、もし……私が見事、自分の役目を終わらせることができた時には、私のことを迎えに来てはくれませんか?」
(ん、いいよ。約束する)
そうして、2人は固い握手を交わした。
「貴方と出会えて、本当に……よかった」
最後に、指揮官とイザベラはお互いのことを真っ直ぐに見据え、安らかな微笑みを浮かべながら約束を交わした。
そんな2人の周囲を光の蝶々たちがゆっくりと飛び交い、2人の体を暖かな光で包み込んだ。それはまるで、2人のことを祝福しているかのようだった。
続く……
読んでいてモヤッとなった方は、CPRについて検索して下さい。
次回はいよいよ天才ちゃんが登場!
果たして彼女は、この状況を打破することができるのか!?