本作は、アイアンサーガのASMR……いわゆる音声作品への転用を意識したお話なので、作中には水音や物が擦れる音などといった、様々な「効果音」を意識した文章が多く見られます。
また、本作はムジナの著作の1つである『12の月の小夜曲』(非公式クリスマスイベント)内にある、『べサニーに耳かきしてもらうお話』を先に読んでおくことを推奨します。読んでなくても読めるように工夫してはいますが……その方がより一層楽しめるかと思うのです。
それでは、続きをどうぞ……
頭部に心地よい冷んやりとしたものを感じ、指揮官は目を覚ました。気がつくとそこは自室で、指揮官は子ども用のバスローブ姿で、ベッドの上に仰向けの状態になっている。
しかし、指揮官がいくらここまでの出来事を振り返っても、自分の部屋に帰ってきたという記憶はなかった。
ベッドの上に横になったという記憶もなければ、バスローブに着替えたという記憶もない。
一体いつのまに、自分はここに来たのだろうか……頭の中でそんな思考を巡らせかけた指揮官だったが、自分が枕にしている柔らかいものの存在に気づき、思考を中断させられた。
「あ、起きたみたいね〜」
指揮官が目を開けると、ちょうど目の前にいたその女性と目が合い、彼女は微笑みを浮かべた。艶のある長いアッシュブロンド、美しい金色の瞳、金の刺繍が目立つ真っ白なドレスに身を包んだその姿は、まるでギリシャ神話に登場する女神(アルテミス)のようだった。
「おはよう、ダーリン〜」
(ヴァネッサ……? お、おはよう……)
それは喫茶店バビロンのマダム、ヴァネッサだった。
ベッドの上に腰掛けた彼女は、指揮官のことを膝枕で介抱しながら、手にした団扇で指揮官に涼しげな風を送っていた。
(何でいるの……?)
「あら〜? 私がここにいたら、何かまずいことでもあるのかしら〜?」
(いや、そういうことではないけど……)
そう言って少しだけ視線を逸らすと、ヴァネッサは女神のような微笑みと共に指揮官の頬を悪戯っぽく撫でた。
「大丈夫よ〜、ダーリンがベッドの下に隠してある秘蔵本なんて見てないから〜」
(いや、そんなものないよ……)
「ふふふ。そう隠さなくてもいいのよ〜? 健全な男の子だったら、誰だってそういう本の一冊や二冊……持っているのが当たり前なんだから〜」
(いや、それはそうかもしれないけど……)
そこで、指揮官は部屋の中に2人目の気配を感じた。それと共に、どこからともなくチャプチャプとした水音が響き渡る。
「ヴァネッサさん、指揮官様の秘蔵本とは何のことでしょう?」
(あ、べサニーもいたんだ)
指揮官が声の方向に目を向けると、部屋のバスルームから桃色の髪の少女……べサニーが出てくるのが見えた。
グレートブリテン出身の地方長官令嬢で、ペンタスをモチーフにした桃色のドレスが似合う彼女は、なにやら水の入った桶を抱えている。
「おはようございます、指揮官様。それでヴァネッサさん、指揮官様の秘蔵本とは一体……」
べサニーはきょとんとした表情を浮かべていた。ここまで言って、まだピンと来ていないところを見ると、やはり高貴な身分なだけあるんだな……と、指揮官は密かに思った。
「要するに〜、女の子のあられもない姿がたくさん描かれたエッチな本ってこと〜」
「なるほど……つまり、春画ということですね」
(春画は知ってるんだ……)
「はい。一応、知識としてはですけど……」
そこでべサニーは難しそうな表情を浮かべた。
「ふふふ。べサニーさん、大丈夫よ〜。さっきも言ったように、エッチな本なんて年頃の男の子ならみんな持っているものだから〜」
「いえ、趣味は人それぞれと言いますし……指揮官様がそういう御本をお読みになられているからと言って、私は決して幻滅したりなんかは致しません」
そう言ってべサニーは桶をベット近くの棚に置き、少しだけ照れた様子で「ただ……」と続けた。
「ですが、指揮官様がどのような女性にご興味があるのか……ちょっとだけ、気になると言いますか……よければ中身を拝見させて貰って、参考にしたいなと存じます」
「熱心ねぇ〜。うーん、私としては〜 ブロンドのお姉さんがヒロインの本を、ダーリンが愛読してくれていると嬉しいんだけどな〜」
指先をチョンチョンとさせるべサニーに、ヴァネッサはそう言って優しく微笑みかけた。
「うーん、そうじゃなくても……そうねぇ、胸が大きかったらポイント高いかも〜」
「胸ですか?」
「そうそう〜。世の中の男の子はみんな大きな胸に惹かれちゃうものなのよね〜、ダーリンもそうでしょ〜?」
(いや、その…………それは……)
突然話を振られ、指揮官が困惑していると……
「言い淀むってことはつまりそういうことなのよね〜? でも、それだったらべサニーさんも嬉しいんじゃないかしら?」
「私がですか……?」
(あの……何も言ってないんだけど……)
困惑する指揮官を置いてけぼりにして、話は続く
「そうそう〜! 貴女だって中々大きいし……えっと、カップ数はどれくらいだっけ?」
「えっと……[個人情報につき削済み]ですけれど?」
「だってさ〜、聞いた? ダーリン〜」
(…………ッ)
「あ〜、ダーリンのお顔真っ赤っか〜 可愛い〜。それじゃあ、後でダーリンの秘蔵本を一緒に見てみましょうか〜」
「はい、そうしましょう!」
(なんで持っているのが前提になってるの……?)
2人が抱いた誤解を解きたかった指揮官だったが、このままでは話が変な方向に進んでいきそうなので、早目に話を変えておくことにした。
(というか、どうしてこうなったんだっけ?)
「あら? 覚えてないの〜?」
(確か……部屋に帰る途中だったと思うんだけど……ここに来るまでの記憶がすっぽりと抜け落ちているというか、なんか体も火照ってるし)
指揮官は先程感じた冷んやりの正体を探ると、自分の額に濡れたタオルが置かれていることに気づいた。恐らく、これで火照った体を冷やしてくれていたのだろう。
「あ、タオルをお取り替えしますね」
そう言ってべサニーは温くなったタオルを取り上げ、桶の中から新しい濡れタオルを取り出し、指揮官の額に乗せた。
(ありがと。それで、何があったの?)
「それはもう大変だったのよ〜? 騒ぎを聞きつけて来てみたら、ダーリンが女湯の中で倒れているものだから〜」
(お、女湯……ッ!?)
指揮官はそこで全てを思い出した。
白いペンキを頭から被ってしまい、それに責任を感じたリンダとエレナと一緒にお風呂に入ることになってしまったことを……
そして、2人が去った後……
飢えた肉食獣の如く目を輝かせた裸の女性スタッフたちに囲まれ、これでもかと体をもみゃくちゃにされ、ついに湯あたり(オーバーヒート)してしまったことを
(〜〜〜〜〜ッッッ)
衝撃的な光景の数々が、指揮官の脳裏にフラッシュバックした。額には冷たいタオルが乗っている筈なのに、冷却されるどころか、指揮官は顔全体がさらに熱くなるのを感じた。
「指揮官様、お顔が大変赤いようですが、ご気分が優れないのでは?」
(うん、大丈夫……)
「うふふ……顔赤くしちゃって可愛い〜〜〜、それで、急いで指揮官を部屋の中に運び込んで、今の今まで2人で熱冷ましをしてたってワケ〜」
(そっか……2人とも、ありがと)
指揮官がお礼を言うと、2人は満面の笑みを浮かべて……
「いえいえ、お礼を言うのはこちらの方です」
「そうねぇ〜。小さくなったダーリンをお世話できる機会なんて、中々滅多にないだろうから〜、貴重な体験をさせてくれてありがとうね〜〜ダーリン♫」
そんな2人の言葉に、指揮官は嫌な予感を覚えた。
そういえば……と、自分の体を見下ろし、いつのまにかバスローブが着せられていることを思い出した。
当然、自分で着た覚えはない。
指揮官はそれを2人に尋ねてみるも「やあねぇ〜」と、2人は笑って話を逸らすばかりで、答えるつもりはないようだった。
「でも、みんながダーリンに夢中になるのもわかる気がするわぁ〜。だって、こんなに可愛いんですもの〜」
「そうですね。平時の凛々しくてカッコいい貴方も素敵ですけど、幼子の姿になった貴方はまるで生まれたばかりの子猫のように可愛らしくて……つい見惚れちゃいます」
(…………)
2人からうっとりとした目で見つめられ、気恥ずかしさから、指揮官は何も言えなくなった。
「んー……指揮官様のお体、熱いです……」
顔を赤くした指揮官の身を案じたべサニーが、ゆっくりと指揮官の額に手を当てた。細くしなやかでひんやりとした彼女の指が、指揮官の額をくすぐる。
「タオルももう温くなって……今お取り替えしますね」
指揮官の体温で早くも温くなってしまったタオルを交換するために、べサニーは冷水で満たされた桶から新しいタオルを取り出し、桶の上で水を絞った。
「よいしょ……よいしょ……」
べサニーの小さな息遣い、水気を含んだ微かな布擦れ音、そして水の落ちる涼しげな音が、静かな部屋の中にひときわ大きく響き渡った。
「はい、指揮官様……ちょっと冷たいですよ?」
(うん、ありがと)
新しいタオルが額に乗せられたことで、火照った体が急激にクールダウンして行く気配を感じ、指揮官は心地良さげなため息を吐いた。
「ふふふ。べサニーさん、ダーリンが汗掻いちゃったみたいだから、タオルで軽く体を拭いてあげて?」
「あ、はい! よいしょ……よいしょ……」
ヴァネッサの言葉に、桶の冷水で温くなったタオルを冷やしていたべサニーが返事をした。再び、指揮官のすぐ近くでタオルの絞られる音が響き渡り、空間を涼しく演出した。
「指揮官様。汗を拭きたいので、お召し物の前側を少しだけ開けさせていただきますね?」
(自分で拭きたいんだけど?)
「いえ、指揮官のお手を煩わせるわけにはいきません! 是非、私にお任せくださいませ」
(そ……そう? じゃあ、お願いしようかな……)
「はい、それでは失礼しますね♫」
べサニーは嬉しそうな表情を浮かべて頷くと、ベッドの上に登って指揮官の隣に腰掛け、着ていたバスローブを脱がしにかかった。
「冷たいので、少しずつ拭かせていただきますね」
指揮官の胸元が露わになるまで広げられ、べサニーは指揮官が驚いてはいけないと、まずは冷たいタオルの端の方を使って指揮官の首筋と胸板を伝う汗を拭い始めた。
「お加減はいかがでしょう?」
(うん、冷たくて気持ちいいよ……ふわぁ……)
「ふふっ……気持ち良さそうなお声、可愛いいです」
それから、指揮官の体が冷たいのに慣れてきた頃を見計らって、タオルの全面を使って指揮官の体を大胆に拭き始める。
濡れた布と肌の擦れる音が響き渡った。
「んしょ……んしょ……」
指揮官のことを一心に想った丹念な手つき、タオル越しに伝わるべサニーの体温、そして彼女の口から時折漏れる熱のこもった吐息。
ただ汗を拭いているだけだというのに、指揮官はべサニーのそんな様子にドキッとするものを感じた。
(ところで、2人はどうして基地に?)
気を紛らわせるべく、指揮官は先程から気になっていたことを聞いてみることにした。商人であるべサニーはともかく、いつもならヴァネッサは喫茶店バビロンの運営に勤しんでいるはずだった。
「実は仕事中、指揮官様が小さくなってしまったという噂を耳にしまして……それをヴァネッサさんにお伝えしてみたところ、一緒に様子を見に行こうという話になりまして」
(え……店は?)
「お休みよ〜」
べサニーの言葉に指揮官がヴァネッサを見上げると、彼女はふんわりとしたお茶目な笑みを浮かべてそう告げた。
24時間営業、いつどんな時でも……大雨や大嵐の時でも、例え世界の終わりが明日に迫っていても開店している筈の喫茶店バビロンが、珍しく閉店しているという事実に、指揮官は驚きを隠せなかった。
「小さくなったダーリンの事が気になって仕方なくて〜 でも、お店を開けっぱなしにして外に出るわけにもいかないし……つい」
(そ、そんな理由で……?)
「それに、この感じだと今日はもうダーリン来てくれなさそうだなって思って〜。だから〜 たまにはいいかなって、今日は臨時休業ということにしちゃったの〜〜」
(いいのかな……)
「あらあら〜? ダーリンは私にヨボヨボのお婆ちゃんになって働けなくなるまでずっとバビロンで働けって言いたいのかしら? 」
(いや、そういうわけじゃないけど……)
機嫌を損ねたのか、少しだけ怒った様子を見せたヴァネッサに指揮官は戸惑うが、次の瞬間、彼女は表情を明るくさせた。
「ふふふ……冗談よ〜。でも私だって、たまにはゆっくり休みたいの。こうして、身分や立場を忘れてのんびりと……ダーリンと一緒の時間を過ごしてみたいなって、前々から思っていたの」
いつ睡眠を取っているのか分からないほど、昼夜を問わずバビロンを営み続けるヴァネッサのことは、指揮官も前々から働き過ぎだとは感じていた。
そんな彼女のことを気遣い、出来れば何かしてあげたいと考えていた指揮官だったが、お互いに忙しい身分である以上、それが叶う機会は今の今まであまりなかった。
(あ……)
なので、こんな自分でよければ……と言いかけたところだったのだが、そこで女性を魅了するという薬の副効果のことを思い出し、指揮官は喉元まで出かけた言葉を押し止めようとした。
……なのだが
「ああ、指揮官様の姿を見た女性は魅了されてしまうという噂もちゃんと聞き及んでおりますので!」
「だから〜 私たちに遠慮なんかしなくてもいいわよ〜?」
指揮官の顔に浮かぶ微妙な表情の変化を察知したのか、2人は交互にそう告げた。
(知っててここに来たの……?)
「そういうこと〜。と、いうわけでダーリン……久しぶりに『アレ』やってあげようか〜?」
(『アレ』って……?)
「ふふふ、それはね〜 ダーリンも大好きな……とーっても気持ちよくなれる『アレ』のことよ〜?」
熱っぽい瞳を浮かべたヴァネッサは、指揮官の耳元に顔を近づけ、その抗いがたい誘惑を囁いた。それからまもなく、指揮官が頷くことになるのは言うまでもなかった。
機動戦隊おねショタサーガー第9話ー
ショタと女神と耳かきリフレ
「ふふっ……それじゃあダーリン、横向いて〜♫」
指揮官は少しだけ顔を赤くしつつ、小さく頷いた。それを見たヴァネッサは温かみのある笑顔を浮かべ、自分の膝を枕にしている指揮官の向きを少しだけ変えさせた。
その間、べサニーはというと……
「それでは、こちらも準備をしますね」
そう言って、慣れた手つきで部屋のリモコンを操作し、照明の光をうっすらとしたものに変えると、さらに持ってきた鞄の中からアロマキャンドルを取り出し、火を灯した。
すぐさま、部屋中に落ち着いた感じのアロマの良い香りが広がった。薄暗い部屋の中、甘い香りを放つキャンドルの灯が妖しく揺らめき……指揮官はまるで、リフレで施術を受ける時のような魅惑的な雰囲気を感じた。
「ヴァネッサさん、これをお使いください」
「うん、ありがと〜」
べサニーは鞄から取り出したそれをヴァネッサへと受け渡し、それから水の入った桶を持つと、部屋のバスルームに向かって歩いて行った。
「それじゃあダーリン〜 準備はいい〜?」
(……うん)
頷き、指揮官が目を閉じると、ゆっくりと何か細い棒のようなものが左耳の中に差し込まれる気配を感じ……まもなく、耳の中でゴソゴソと響き渡るものを感じた。
「どう? 痛くない?」
(うん、大丈夫……)
「そう? それじゃあ、力の入れ方はこれくらいで続けるわね〜」
そう言って綿棒を手にしたヴァネッサは、指揮官への耳かきを再開した。綿棒が耳の淵をなぞるように移動すると、綿棒のカサカサとした質感と耳の薄肌が擦れ、先ほどよりも軽やかな音が響いた。
左耳を優しく擦られるくすぐったさと、脳裏に反響する耳かき特有の音、そしてヴァネッサの真心のこもった手つきを間近に感じ、指揮官は絶妙な心地よさを感じた。
「ふふふ……ダーリン〜 癒されてる?」
(ん…………とっても)
「そっかぁ……よかったわぁ〜 こうしてダーリンに耳かきしてあげるのは、かなり久しぶりってことになるから〜。本当のこと言うとね、ダーリンのことをちゃんと気持ちよくできるかちょっと心配だったの」
(そっか……)
リラックスした状態で耳かきを受けつつも、指揮官はヴァネッサの繊細な手つきに力が籠るのを感じた。
指揮官とヴァネッサ
実は、両者の関係は他の誰よりも古く、実質的に最も長い付き合いとなっていた。ヴァネッサが耳かきの最中に漏らした言葉にもあったように、かつて2人には2人だけの日常があり……目まぐるしく移り変わる日々の中で、多くの絆を育んできた。
しかし、そんな日常は唐突に終わりを迎えた。
かつて世界を騒がせた『あの事件』
[最重要機密に抵触するため削除済み]
その結果、指揮官はヴァネッサの前からいなくなり、2人は離れ離れの身となってしまった。
ーーー私とあったこと、あるでしょ?
指揮官の脳裏に、彼女と再会した時の記憶が蘇る
ーーー人違いかしら、ダーリン?
「ダーリン」
ヴァネッサの言葉に、指揮官の意識は現実に引き戻された。思わず、彼女の顔を見たい衝動に駆られるも、耳かきの最中なので顔を動かすことができなかった。
「今……何考えてた?」
(……よく分かったね)
「うふふ……だって私とダーリンの仲だもん」
(ちょっと……初めて会った日のことを思い出してね)
「そっかぁ……」
そこでヴァネッサは小さく息を吐くと共に、指揮官の耳から綿棒をゆっくり引き抜くと、その場で身を屈め、指揮官の耳元に自分の唇を寄せ……
「もう……黙って私の前から、いなくならないでね」
(大丈夫……ここにいるから……)
ヴァネッサの囁きに指揮官がそう返すと、ヴァネッサは小さく微笑み……そして、指揮官の耳に軽く吐息を吹き込んだ。
(……!?)
突然の出来事に、指揮官の体がびくりと震える。
「ふふふ……カッコつけちゃって〜」
そう言って、指揮官の頬に手を添えた。
「どこへ行っても、必ず帰ってきてちょうだいね。私はあの店で、ダーリンの帰りをずっと待ち続けるから……」
(…………うん)
それからしばらく、ヴァネッサは耳かきを続けた。
「それにしても……ダーリン、ちょっと耳の中汚れ過ぎじゃない? 自分ではお手入れしないの〜?」
綿棒で指揮官の耳に溜まった汚れをかき出していたヴァネッサは、耳の中を覗き込みながらそう呟いた。
(本当はそうするべきなんだろうけど、最近はべサニーがよく耳の掃除をしてくれるから……つい、それに甘えちゃって)
指揮官は傭兵業を営むに当たって、これまで商人であるべサニーとは数え切れないほどの取引をしていた。そのうち彼女から「いつもご贔屓にしているから」と耳かきのサービスを提案させるようになり、今では1ヶ月に1度の間隔で耳かきのサービスを受けるまでになっていた。
そのため、耳かきをするべサニーの手つきは回数を重ねるほどに上達していき、今では指揮官が心地よいと思える箇所を的確に、適度な力加減で奉仕できるまでになっていた。
「ああ、だからあの子にたくさん耳かきして貰えるよう、たくさん溜めてたってことね〜?」
(ま、まあ……)
「じゃあ、今日私がここに来なかったら〜 ダーリンの耳はべサニーさんのものになる予定だったってこと?」
(それは……)
「ふふ……冗談よ〜」
2人がそんな会話をしていると、ちょうどバスルームからべサニーが姿を現した。桶を両手に抱えているが、先程のものとは違い、桶の中からうっすらと温かな湯気が立ち上っている。
「お待たせいたしました。ヴァネッサさん、どうぞ」
「ありがと、べサニーさん」
べサニーは桶を再び棚の上に置くと、保湿用オイルが入った瓶を取り出し、ヴァネッサへと差し出した。
瓶を受け取ったヴァネッサは、チャプチャプと瓶を数回振った後、蓋を開けてオイルを掌に浸すと、指揮官の左耳をマッサージし始めた。
オイルのヌルヌルとした質感が耳を伝い、指揮官の脳裏に快感をもたらした。桶の温水で程よく暖められたことで指揮官の肌に抵抗なく馴染み、そしてヴァネッサのマッサージの腕も相まって、指揮官は極上の心地よさを感じた。
一通りマッサージし終えると、ヴァネッサはべサニーから温かいタオルを受け取ると、耳の表面に残ったオイルを拭き取った後……仕上げとばかりに、指揮官の左耳に優しく吐息を吹き込んだ。
「ふふふ〜 お疲れ様、ダーリン♫」
そう言ってヴァネッサは指揮官の肩を支え、優しく抱き起こした。右耳は? そう思っていた指揮官だったが、すぐさまヴァネッサの意図に気づくこととなった。
「それじゃあべサニーさん、ダーリンの右耳をお願いね〜」
「え……? わ、私がですか?」
ヴァネッサから綿棒の入ったケースを差し出され、べサニーは少しだけ驚いたような表情を浮かべた。
「でも、今日はヴァネッサさんのお手伝いということでここに来たのですが……」
「いいからいいから〜 さあ、ここに座ってね」
ヴァネッサはべサニーをベッドの上に手招きして座らせた後、オイルで濡れた手でベッドを汚してしまわないように気をつけながら、入れ替わりでベッドから降り立った。
「それじゃあ、私はちょっと手を洗ってくるから〜」
「あ、それでしたら桶の水で……」
「いいのいいの。
それじゃあ〜 しばらくの間、2人で仲良くね〜」
べサニーは桶の温水で手を洗うことをすすめるも、ヴァネッサはそう言ってバスルームの方へと歩いて行った。
「……気を遣わせちゃったみたいですね」
ヴァネッサの心遣いに感謝するようにして、べサニーはブロンドの後ろ姿をしばらく見送った。その後、ベッドの上で態勢を変え、自らの膝に指揮官を誘った。
誘われるがまま、指揮官はべサニーの膝を枕にするようにしてベットの上に横になり、右耳が上に来るように寝転がった。
「それでは、耳かきを始めさせていただきますね」
(うん、お願いね)
べサニーはケースから綿棒を取り出すと、丸くなった先端を慣れた手つきで指揮官の右耳へ差し込み、ゆっくと耳掃除を始めた。
カリカリ……とした音が指揮官の耳に響き渡った。耳の中で綿棒が細かく擦れる音と質感、そしてべサニーの優しい手つきに、指揮官は心の底から癒されるものを感じた。
「よいしょ……よいしょ……」
(……ふぅ)
べサニーは熱心な調子で耳の溝をゴソゴソとした。綿棒の先端がいたずらっぽく敏感な部分に触れ、指揮官は思わず体の奥底から息が漏れるのを抑えられなくなった。
「指揮官様、どうですか?」
(うん、とっても気持ちいいよ……)
「ふふ……はい、ではこんな感じで続けますね」
それからしばらく、べサニーは耳かきを続けた。
「ところで指揮官様、先程はヴァネッサさんに耳かきをされつつ、楽しそうにお喋りをなされていましたよね? 何をお話になられていたので?」
(ん……ちょっと、昔話を少しね……)
「昔話……ですか? そういえば、指揮官様とヴァネッサさんって……」
(うん、それなりに長い付き合いになるかな……)
指揮官はヴァネッサとのやり取りを思い出し、小さく微笑んだ。
「前々から思ってはいたのですが、指揮官様はかなり広めな交友関係をお持ちなのですね……女王陛下ともお知り合いのようですし、他国の方々とも」
(まあ、昔は手広くいろいろやっていたからね。そうしていると、自然とたくさんの人たちにお近づきになれる機会があったから)
「あと、女性がやたら多いような気もします」
(ま、まあ、いろいろやってたから…………)
「ふふ……そうですか」
べサニーの微笑みに、指揮官は少しだけヒヤリとするものを感じた。耳かき中なので顔は見えないが、耳掃除をする彼女の手つきがうっすらと攻めたような調子に変わったからだった。
「指揮官様って、ヴァネッサさんと同じくらい『謎の多い人』ですよね?」
(ん……そうかな?)
「ええ。ヴァネッサさんも、自身の過去についてあまり語りたがらない人ですし……そういう意味では、貴方も同じかなって思いまして」
(秘密にしているってわけじゃないけど……)
「でも、語ってはくれませんよね」
(ん……まあ、そうだね)
最も、自分の過去なんて話しても楽しくなるようなものではないので、話すつもりはないが……指揮官がそう思っていると
「ヴァネッサさんはよく、秘密が多い女は魅力的と語ってはいますが……貴方が語ろうとしてくれない貴方の過去が、私と貴方を隔てている壁になっているような気がして……ちょっぴり、寂しいような気持ちになったりします」
(べサニー……)
思わず、声をかけようとした指揮官だったが、べサニーは指揮官の唇に人差し指を当て、やんわりと止めた。
「指揮官様……」
そう言ってべサニーは身を屈め、指揮官の耳元に唇を近づけた。
「ヴァネッサさんや女王陛下に嫉妬するつもりはありませんが……それでもやはり、貴方が他の女性と一緒にいるところを見てしまうと、心の中にモヤモヤとしたものを感じてしまうんです……」
熱のこもった吐息と共に囁かれたその言葉に、指揮官は心の高鳴りを感じた。
「どうしてだと……思います?」
(…………)
指揮官がどう答えたものか迷っていると……
ふと、べサニーは小さな微笑みと共に顔を上げ、指揮官の唇から人差し指を離した。
「ふふ……貴方があんまりにも秘密の多い魅力的な殿方だったので、ちょっとだけ……いじわるしたい気分になっちゃいました」
べサニーはお茶目な感じでそう告げると、指揮官の頬を愛おしげに撫で上げ……ヴァネッサがやったように耳の中に優しく吐息を吹きかけた。
「ただ、私の気持ちを……ほんの少しでもいいから分かってくれると、その……嬉しいです……」
至近距離で囁かれたその言葉に、顔は見えないが、べサニーの顔は今頃真っ赤に染まっているのだろう……指揮官には、容易にそれを想像することができた。
「ふふふ……2人とも、たくさんお話出来たかしら?」
べサニーが姿勢を正したちょうどその時、ヴァネッサがバスルームから姿を現した。あまりにもタイミングが良すぎる展開に、指揮官は彼女がこっそり会話を聞いていたんじゃないかと、一瞬だけ疑った。
「はい、お陰様で」
べサニーはオイルの入った瓶を取り出し、中の液体を手に取ると、先程と同じように指揮官の耳をマッサージし始めた。
それが終わると温かいタオルで余ったオイルを拭き取り、仕上げにとばかりに吐息を吹きかけ……これで、指揮官に対する2人の奉仕は終了という運びになった。
「指揮官様、どうでしたか?」
(ありがとう! とっても気持ちよかったよ!)
「ふふっ……それは何よりです」
(ヴァネッサも、ありがと)
「うーん……」
お互いに大満足といった感じで向かい合った指揮官とべサニーだったが、それを見ていたヴァネッサは何やら考えるようなそぶりを見せ……
「ねぇ、べサニーさん」
「はい、何でしょう?」
「まさかとは思うけど、これで終わりじゃないよね〜?」
「え……?」
ヴァネッサが浮かべた色っぽい挑発的な視線に、べサニーは何のことだか分からず、戸惑った表情を浮かべた。
「とぼけなくてもいいのよ〜? いつも、2人が耳かきの最後にやっているところ……私にも見せて欲しいな〜」
「ですが、耳かきは…………っ!?」
そこで思い当たる節があったのか、べサニーはハッとした表情を浮かべると……それから指揮官のことをチラチラと見やった。
(えっと……もしかして…………アレのこと?)
耳かきの終わりにべサニーが必ずしてくれる『アレ』の存在を思い出し、2人だけの秘密だったそれを何故ヴァネッサが知っているのか疑問に思った指揮官だったが……最初にされてからというもの、癖になってしまったこともあり、今回もやって欲しいということを正直にべサニーに伝えることにした。
「〜〜〜〜〜ッ」
指揮官が希望を伝えると、べサニーは爆発してしまうんじゃないかと思うくらい顔を真っ赤にして、声にならない声を上げた。
「ほ〜ら、ダーリン……して欲しいって顔してるわよ?」
ヴァネッサはベッドの上に腰掛け、期待に胸を膨らませて待っている指揮官のことを示しつつ、べサニーへと語りかけた。
「ですが……見られながらするのは……」
「私のことは気にしないでいいから、やってみて〜?」
「うぅ……」
べサニーは指揮官のことをジッと見つめた。
(嫌なら、別にいいんだけど……)
「い……いえ、嫌だなんてそんなことはありません! 決して! むしろ……私の方がしたいくらいで……そ、そうですよね…………ちゃんと、最後まで……やり遂げないとですよね……」
べサニーは小さく息を吐き、それから指揮官の右側へ移動すると……その豊満な胸の谷間を指揮官の右腕に押し付け、体を密着させると、頭の反対側に両腕を回して固定し……
「それでは……し、しますね?」
(……うん)
「ん…………ちゅ……」
べサニーの唇が、指揮官の右耳に触れた。
控えめで、それでいて甘酸っぱいリップ音が指揮官の心を激しく揺さぶった。
吸い付くような耳へのキスが数回続いた後……
「ん……はぁ…………はむぅ…………」
べサニーは舌を出し、綺麗になったばかりの指揮官の耳に舌を這わせ始めた。チロチロと這い回る彼女の舌はヴァネッサに見られていることもあってまだ遠慮がちで、刺激は少なかったものの……それが初々しいものを感じられるという逆効果を生み出し、指揮官は初めて彼女から耳舐めをされた時のような興奮を覚えた。
やがて、彼女の方も吹っ切れてきたのか……べサニーは徐々に耳舐めを激しいものへと変化させていった。
べサニーの舌が耳の奥底へと侵入する。
耳かきの時とは比べものにならないほどのゾクゾクが指揮官の背筋に走り、耳の中に響き渡る水音は頭頂部まで響き渡り、息継ぎのための吐息ですら、指揮官の耳を痺れさせた。
「はぁ……はぁ……指揮官様のお顔…………ふにゃふにゃになってて…………はぁ……とっても、お可愛らしいですよ……」
(そういうべサニーだって、蕩けた顔してる……)
「ふふっ……指揮官からは顔、見えない筈なのに……どうして分かるんでしょう……? んっ……」
耳舐めをする合間を練って、べサニーは囁く
「ねぇ、指揮官様……」
(な、何……?)
「私……耳舐めをするために、今……貴方の顔をとても近くで見ているのですが……今の貴方は本当に幼くて、初々しい姿をしていますよね……」
(う、うん……)
「それで……目の前にいるこの子を見ていると……つい、思っちゃうんです。私も……いつかこの子みたいな可愛い子を産みたいな……いえ、産んであげたいなって……」
(そ、それって…………うっ!?)
「はむはむ……」
指揮官は彼女の真意を尋ねようとするも、その瞬間……べサニーは指揮官の耳を甘噛みし始め、突然の刺激に言葉を失った。
「へぇ〜〜〜、最近の若い子って進んでるのね〜」
すぐ近くで2人のそんな光景を目の当たりにしていたヴァネッサだったが、経験豊富な彼女にとっても目の前で繰り広げられる耳舐めの光景は刺激が強すぎたのか、頬を赤らめ、両手で口を押さえていた。
「ちゅ…………はぁ、はぁ……よければ、ヴァネッサさんもどうですか? 今なら左側が空いてますよ……んっ……」
「そうねぇ〜 それじゃあ、遠慮なく〜〜〜♫」
(……!?)
突然、左耳に走った刺激に指揮官は体を震わせた。ただでさえ右側だけで精一杯だというのに、それが両側からともなると、到底耐えられるものではなかった。
しかし、そんな指揮官の想いを知ってか知らずか、ヴァネッサは複数回キスを落とし……熱い吐息を吹きかけると共に、指揮官の耳へ舌を這わせ始めた。
(はうぅ…………ふ……2人とも! まって!)
少しだけ呂律の回らなくなった口調で、指揮官は叫び声をあげた。
(こ、これ以上はダメ! お、おかしくなっち……)
「はぁ…………ヴァネッサさん、指揮官様は耳の奥の方が敏感みたいで……んぅ……その辺りを重点的に舐めてあげると……はぁ…………とっても喜んでくれるんですよ…………んっ……」
「ちゅ……耳の奥ね〜 それじゃあ…………えい!」
(二穴は……ッッッ!? ふああああああ…………)
それからしばらくの間、幼い指揮官は2人の女神に両耳を攻められ続けましたとさ
次回、最終回
衝撃の事実が明かされる……!
そして、指揮官の運命やいかに
【お断り】
今回、2人のやっていた耳舐めは、ASMRを用いた音声作品では定番ネタで、あのVtuberでありアイサガのパイロットの1人であるユメノシオリの得意技でもあります。
なので、読んでいて「えぇ……」となった指揮官様は一度ユメノシオリのASMR生放送を見にいって貰ってですね、耳舐めの気持ちよさを感じて貰った上で改めて本作をお読みになって下さい。(あの人、ほんと上手い)
それでは、また……