なにせ、「人類の敵」ですからねえ……
黒龍の威圧感は、凄まじいものであった。常人…いや、「ほぼ」全ての生物がかの龍を目撃すれば、たちまち泣き喚きながら命を乞うだろう。
しかし、二人のハンターの心が折れることは無かった。
「いやー、こりゃヤバいねー! やるっスよ!」
エイデンは勇ましい声を上げながら、背に携えていたヘビィボウガンを構えた。青い星のハンターはそれに頷きながら、彼もまた背に携えていたランスを構えた。
先に動いたのは、青い星。大きく踏み込んでミラボレアスの足元に近づくと、そのランスで一突き。しかし皮膚のあまりの硬さに、刃が通ることは無い。そのまま連撃を繰り出す。エイデンは数発の弾を撃ち込む。
しかし、黒龍に全くダメージは通っていなかった。黒龍はまるでまとわりつくハエを叩き落とすように、その腕を振るって足元を薙ぎ払った。
青い星は大きな盾でそれを防ぐ。しかし想像以上に力が強く、吹き飛ばされそうになる。
それから黒龍は、エイデン目掛けて小さな炎弾ブレス ── 小さいとは言っても人間一人を包める大きさだが ── を放った。
エイデンはそれを横に回避して避けた。しかし、ブレスは地面に着弾すると、地面をマグマ溜まりのように変えた。その数瞬後、なんとその地面は爆発した。エイデンは、先程の回避のみではそれを避けきれず、モロに喰らった。
「うわぁ!」
青い星が声をかける。
「大丈夫か!」
「大丈夫! 防具で何とか! …地面が赤くなったら、注意っスね!」
エイデンは回復薬をポーチから取り出し、それをがぶ飲みした。その間、青い星は足に連撃を入れ続ける。それでも全く通らず、青い星は方法を変えることにした。
モンスターと戦う時は、まず足を攻撃して転すのが先決だが……その足が硬すぎるとなると、話は別だ。
青い星は、今度は黒龍の腹を狙った。すると黒龍はそれを嫌がったようで、すぐ足元に炎弾ブレスを吐いた。青い星は被弾すると思い、盾を構えた。しかし、衝撃は感じなかった。不思議に思いつつも、青い星は攻撃を続けようとした。
「青い星! すぐそこから離れるっス!」
エイデンの切迫した声を聞き、青い星は即座に攻撃を中断し黒龍から離れる。すると、先程と同じように地面が爆発した。
「地雷のようなものか…!」
黒龍はじろりと二人を睨んだ後、口に炎を溜めた。次の瞬間、黒龍の口の中で炎が爆発し、それは燃え盛るブレスとなった。黒龍はそれを前方一面薙ぎ払うようにして吐く。その長さたるや、この広場の端から端まで届く程であった。
青い星は盾を構えてそれを防ぐ。しかし黒煙とも形容できるブレスは、盾に防がれたとしてもその横から回り込むようにして青い星をじわじわと焼いていく。
エイデンはヘビィボウガンを急いで納め、近くにある木製の櫓へと登った。幸い、ブレスで櫓が燃えるには至らなかった。湿っていたのだ。そして櫓の上には、二基の大砲が置かれていた。その中身を確認すると、エイデンは声を張り上げた。
「青い星! こっちに誘導するっス!」
青い星はそれを聞くと、ブレスを吐き終わって四足歩行の体勢になった黒龍に近づいた。
攻撃をしつつ、黒龍がブレスを吐くようなら盾を構え、黒龍がその強靭な体で攻撃してくるようなら離れる。
そうして黒龍の気を引き、大砲のある櫓の近くへと誘導した。
実は、視察隊によって既に櫓の上の大砲には弾が込められていたのである。その事を思い出したエイデンは、青い星に誘導を頼んだのであった。
息を潜めていたエイデンは黒龍が近づいたのを確認すると、大砲を発射する体勢に入った。青い星は、櫓に近づいた黒龍の頭目掛けて、槍を突き出した。黒龍が四足歩行であったことと、ランスのリーチが長かったことにより、槍は目に余裕で届きそうであった。目を潰されることを嫌がった黒龍は、即座に立ち上がった。その瞬間を狙って、エイデンは大砲を発射した。
一発、二発、三発、四発、五発。一基目、全弾命中。
エイデンはすかさず二基目へと駆け、それも発射した。
一発、二発、三発、……今度は黒龍に当たったのは、三発目までであった。黒龍が怯んで再び四足歩行の体勢に戻ったことにより、残りの二発は外した。しかし、それでも十分なダメージであった。黒龍は衝撃で目眩がしているのか、ほんの少し頭を項垂れたまま硬直していた。
「畳み掛けろ!」
青い星の声と同時に、エイデンがクラッチクローを発射する。そして、黒龍の頭に張り付く。エイデンは頭目掛けて機関竜弾を数発放つ。最後の一発は勢いよく撃つことで、エイデンはその勢いに乗って頭を離れた。その間に青い星がそこら辺に落ちていた数個の石ころを拾う。それから、石ころ全てをスリンガーに装填する。エイデンが離れたのを確認して、青い星はクラッチクローを発射し黒龍の頭に張り付いた。
その時。黒龍が硬直から復帰したようで、青い星を引き剥がすために頭をぶんぶんと振ろうとしていた。エイデンの声が響く。
「早く!」
青い星はスリンガーを構え、装填した石ころ全てを一気に発射した。
速さを伴った質量が、黒龍の頭に衝突する。その勢いにより、黒龍の体勢は崩れ、まるで引っ張られるかのように前方へと強制的に進む。これが新大陸のハンター達によく使われる、「ぶっ飛ばし」という技である。
黒龍はそのまま石の壁に衝突し、目眩を起こした。
「よし!」
エイデンが叫ぶと同時に、目眩からすぐに復帰した黒龍がこちらに向き直った。
黒龍は二人を一瞥の後──怒りの咆哮。
ヤキツクス…ヤキツクスヤキツクスヤキツクス!
ひとしきりの咆哮が終わった後、黒龍は羽ばたいた。
──────────
〜現大陸・シュレイド地方・シュレイド城高台のキャンプ〜
二人のハンターが時間を稼いでいる頃。彼らの編纂者及び総司令、将軍とその部下らは戦闘場所の近くのキャンプにいた。全員、かの黒龍の出現に息を呑んでいた。将軍が怒鳴る。
「本隊への報告はどうした!?」
「はっ! 現在ギルドナイト一名が向かっております!」
「一刻を争うんだ! 急げ!」
エイデンの編纂者が恐れとも不安ともつかぬ声を漏らす。
「あんなのが、本当にいるなんて…」
受付嬢がそれに首で同意する。その一方で総司令は、ただ黙って見ていた。その顔は、自信に満ち溢れていた。
きっと、彼らならやってくれるはずだ……。
──────────
〜現大陸・シュレイド地方・シュレイド城付近の拠点予定地〜
シュレイド城の城壁を越えて、さらに向こう側。枯れた山の木々が一部、切り倒されていた。そこにいるのは、現大陸や新大陸から集められた選りすぐりのハンター達と、黒龍を一目見ようと集まった学者達。そして、拠点建築を行う技術者。まだ数枚の大きなシートしか敷かれておらず、その上に荷物や建築材料が載っただけの簡易的な拠点であった。一応建物の基礎らしき木製の枠組みは所々に散見される。
ある二人のハンターが、その拠点の中で休憩していた。お互い向かい合ってシートの上に座っている。
「あいつら、大丈夫かね?」
先行隊を心配しているのは、ハンマー使い。
「きっと大丈夫ですよ! お星様もいますし。あなたは心配しすぎなんですって」
それに応えるのが、狩猟笛使い。
そう、彼らこそが総司令の言う「新大陸の白き風」の残りのメンバーであった。
異変に気づいたのは、ハンマー使いだった。
「……? 何か揺れを感じないか?」
それに狩猟笛使いが首肯しようとした瞬間、揺れは皆に分かる程度に大きくなった。枯れた木々がひとりでに倒れ、折角作った建物の枠組みが崩れる。荷物群は散らかり、学者達は慌てふためく。
ハンマー使いはすぐに悟った。──シュレイド城で何かあった、と。
そこに、一人のギルドナイトがやってくる。彼はハンター達のみを集めた。そして彼が告げた内容とは、とんでもないものであった。
「黒龍が出現! 現在、二人のハンターが時間を稼いでいる。直ちに向かってくれ!」
──────────
〜現大陸・シュレイド地方・シュレイド城〜
黒龍が羽ばたくと、その風圧によりエイデンと青い星は仰け反った。そして、黒龍は真っ黒な天へと飛翔した。
青い星は、視線を黒龍から外さなかった。エイデンは警戒をしつつも、こう言った。
「退いた、んスかね……?」
安心するのはまだ早い。黒龍の力は、こんなものでは無い。
黒龍は広場の外の上空にて滞空すると、なんと口に炎を溜めた。それも見るからに、先程まで使用していた熱量とは比べ物にならないくらいの熱量であった。かの龍の胸が赤く光り輝く。
「おっと、これはマズそうだ」
エイデンがそう言った瞬間、黒龍はその炎を解き放った。
「ほらな!」
エイデンはそう言いながら周囲を見渡すと、丁度いい瓦礫の山を見つけた。数人が入れる程度の隙間が空いている。エイデンはそこへ駆けていく。青い星も同じことを考えていたようで、そこに駆けていく。
黒龍の解き放った炎はたちまちシュレイド城全体へと広がり、火をつけていく。例え対象が不燃物である石であろうと。しかも炎のブレスは一瞬ではない。数秒間、その威力の炎が吐き続けられた。高台とそこにあった大砲は、溶けた。応急で作られた木造の壁は、吹き飛んだ。
その数秒の後、黒龍は更に熱量を上げた炎を放った……全てを滅ぼす為に。
黒龍の炎がすぐそこまで迫る──間に合わない!
そう感じたエイデンは、青い星を突き飛ばした。その助けにより、青い星は瓦礫の山に辛うじて隠れることに成功する。そしてエイデンは──
人間ヨ 我ニ仇ナス人間ヨ
燃エ尽キテ朽チ果テルガイイ
炎の海? ──温い。
地獄の業火? ──温い。
烈火の大地? ──温い!
これは──「劫火」也。
傷つけ要素はオミットしました。
片手剣とかならまだ傷つけてる感あるけどハンマーはただ殴ってるだけだし大剣はただ縦切りしてるだけだしもうこれわけわかんねぇな(白目)
そのかわり次回から戦闘描写強化してるのでヨシ!