ライダーがいないので、ショッカーを作りました。   作:オールF

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感想欄にウォズがわかないことを願いつつ初投稿です。


誕生! 仮面ライダー

「ここはどこだっ……!? 俺を、俺を自由にしろ……!」

 

 

 青年が頭痛に苛まれながらも、瞼を開けて出た言葉であった。

 大の字になって暗い天井を見つめながら、青年は意識を取り戻しながら、状況を確認する。

 周りにいるのは白衣に身を包んだ赤や青のフェイスペイントをした男たちで、自分は円状の台に乗せられて身動きが取れない状態となっていた。

 青年はどうしてこうなったのかを探るため、自分が覚えている限りの記憶を思い出すことにした。

 

 

 

 

 

 世間がニューヒーロー、オールマイトの誕生や謎の組織による誘拐事件やビールス騒動によって騒ぎ立てる中、変わらない日常を過ごす青年は愛車のバイクに跨って疾走する。

 

 

 ───────その青年の名を本郷猛。

 

 

 城南大学科学研究室に籍を置く、IQ700の若き天才である。頭脳明晰にしてスポーツ万能、特に趣味で始めたバイクでの素質が光り、オートレーサーとしての活躍が見込まれる───────はずであった。

 個性社会により、旧来の娯楽のほとんどが衰退し、スポーツ競技のほとんどは個性持ちのエンターテイナー達が取り仕切り、車やバイク、果てには競馬といった個性を用いない競技に関しては過去ほどの人気はなくなっていた。

 そのため、本郷猛はオートレーサーではなく、生化学の権威である緑川博士の助手をつとめながら、彼の研究を引き継ぐべく日々勉学に励んでいた。

 しかし、名だたる科学者の集団誘拐事件に際して、本郷の師である緑川博士も狙われる可能性があるとしてヒーローや警察の監視の下での研究を強いられていた。警護のため仕方ないとはわかりつつも、やはりチラチラとぶつかる視線は繊細な作業を要する研究において、フラストレーションが溜まるものであり、助手たちの集中力が散漫してることに気付いた緑川博士は彼らにこう告げた。

 

 

『騒動が落ち着くまでは研究を中止。君たちには暫く休暇をあげるから、十分に休みなさい』

 

 

 狙われてるのは自分であって、助手たちでは無いのだからと言った博士の言葉に、ヒーローと警察は了承して、本郷をはじめとした助手たちはこうして休暇を過ごしていた。

 本郷はバイク通学のため、大学から少し離れたアパートで暮らしている。他の助手たちは大学近くの寮やアパートを借りているため、会ったのは休暇から3日目のみで、以降は顔を合わせていない。

 どうせ研究室で会えるからいいだろうという判断であるが、本郷にとってはありがたいことであった。

 

 

 何もかも優れている人間というのは、周囲に尊敬なり畏怖なり、何らかの感情を伴った視線に晒される宿命であり、本郷は他の同僚達が自分に対してあまりいい感情を持っていないことをその優秀すぎる頭脳ゆえに理解していた。

 本郷のIQ700というのは個性社会の中では珍しく、個性によっては、本郷のように常人では考えられないような知能を持つ人間というのは多くいた。例えば、本郷の知る者の中にはネズミという身ながらも個性によって、人間以上の知能を有している者がいるが、本郷と並ぶものは今のところ存在しない。かの魔王でも様々な個性を組み合わせてもIQ700という未知の領域には至れないほどである。

 そのため、近くに自分より遥かに賢いという人物がいれば、当然劣等感を抱くものは大勢いた。しかし、政府や文部科学省の出した個性だから仕方ないという風潮のため、悪質ないじめは受けなかったため、幼少時代の本郷の人間性は屈折することなく真っ直ぐに育っていた。

 

 

 けれども、彼の『IQ700』というのは個性ではなく、そもそも本人が持つ資質なのだ。それを本人は理論的根拠がなくとも、その規格外の頭脳が告げたのだ。

 これは個性であって、"個性"ではないと。

 アイデンティティであっても、個性とは違ったどんな人間でも一定確率で辿り着ける境地であると。

 だが、本郷はそれを晒すことなく、父と共に市役所に赴いて個性届けの用紙に『IQ700』と書き込んだ。無個性だとバレれば、両親は悲しまずとも、結果的に悲しませることになることを危惧したからである。

 個性を持つのが当たり前となりつつある社会で、自分に個性がないとわかれば、周りはどんな反応をするかは容易に想像できた。

 昨日まで隣で笑いあって遊んでいた友達が自分に石を投げつけてくるかもしれないし、優しくしてくれていた近所の人が憐れむような目を向けてくるかもしれない。自分だけが傷つくのであればいいが、両親にまで及ぶのであれば、虚言も吐こうと本郷は数十年の間嘘をつき続けた。

 小・中・高の学力試験では、学年首位を獲ることはなく3位に甘んじていた。

 スポーツ競技に関しては、個性の使用が禁止されてることもあってスポーツテストなどでは幼い頃からの父の英才教育もあって、トップクラスの結果を残すことができていた。厳格な父と健康志向の強かった母の進言で空手と柔道をやっていたこともあるが、本人の生まれつきの運動神経の高さが大きかった。

 だが、それが強力な個性持ちの気に触れて何度かいざこざに発展しそうになったが、そこはIQ700の頭脳で大事にすることなくキリ抜けてきた。

 

 

 そして、大学生となった本郷はこれまた父の勧めで城南大学へと入学し、後に緑川博士の助手として過ごしてきた。IQ700の頭脳は、聡明な緑川博士も頼りやすいのか論文についての意見交換に役立ち、プライベートでも各国が行っている研究に関しての私見を述べ合ったりと悪くない日々を過ごしていた。

 あまり友人には恵まれなかったが、自分よりも歳上の大人たちには恵まれており、本郷も後輩にとってそういう人間でありたいと思っていた。

 しかし、1年半ほど前にとうとう緑川博士にも謎の組織の魔の手が迫り、誘拐されてしまった。警護にあたっていたヒーローと警察官たちを死体も残さずに暗殺したヴィランは緑川博士を攫って姿を消した。

 悪の組織の存在は未知の部分が多いものの、オールマイトという抑止力のおかげで勢いは弱まっているのではないかというのがジャーナリストの見解である。だが、肝心の根っこの部分、彼らの基地や拠点はヒーローや警察が総出で探しているもののしっぽの先も掴めていないらしい。さらに聞いたところによれば、外国でも不審な殺人、誘拐事件が起きているらしく、直近ではとある国の電気施設が破壊されたというニュースがあった。

 オールマイトという正義の象徴と呼ぶに値するヒーローの台頭もあって、世間はまだ明るいものの、謎の組織の存在はヒーローや警察はもちろん、本郷のような一般市民の心も曇らせていた。

 

 

 

 

 

 そんな本郷だがある日の休日、後輩と共にツーリングに出ていた。

 

 

「どうだ、おやっさんの整備したバイクは」

 

 

 バイクを止めて、ヘルメットを外した本郷は同じく自分の隣に停車した3つ下の後輩へと目をやる。

 

 

「そうですね。先輩の言う通り、近所のバイク屋が点検したよりもエンジンの音がいい感じがします」

 

 

 本郷に問いかけられた爽やかなイケメンの青年が頷くと、本郷は「そうだろう」と朗笑する。それからも2人は共通の人物に点検してもらったバイクを走らせていく。しばらく経って、後輩が妹の迎えに行かなければならないため、途中で別れた本郷は自分もそろそろ帰ろうかと帰路へと向かう。

 その途中であった。

 

 

「なんだ?」

 

 

 後ろから自分と同じくバイクにまたがる女性達が背後から近づいていた。そのスピードは速く、とても法定速度を守っているとは思えないものであった。

 危ないなと思いながら、本郷は左に寄ろうとサイドミラーから視線を外す。すると、今度は左側通行など無視して道路全体に広がってこちらに向かってくるバイクの1団があった。

 不気味な連中だと悪態つきながら、本郷はエンジンを吹かせる。このまま進めば正面衝突は避けられない。だが、本郷は小さな段差を利用し、車体を宙に舞わせるとその勢いで目の前から走ってきた集団の頭上を飛び越える。

 そうすると、前から来ていたバイク乗り達は本郷の背後に迫っていたバイク乗り達と衝突し、大惨事となっていた。それにはさすがに命の危機に瀕していたとはいえ、本郷も焦りすぐさまエンジンを止めようとする。

 しかし、突如として本郷の視界が白く染る。

 

 

「うわぁぁぁっ!?」

 

 

 バイクが横転し、本郷は受け身をとることもできず、身体中にへばりつく白い粘着質な糸のようなもので絡めとられる。

 身動きを取ろうにも拘束された身体では上手く動くことができず、その場でじたばたしていると、バイク同士が衝突して立つこともままならないはずの女性達が「アハハ」と笑いながらこちらへと進んでくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───────そこで本郷の意識は途絶えた。

 そして起きたら謎の白衣の集団に囲まれている。これはどういうことだと逡巡するも、妖しく光る鷲のレリーフに気を取られてしまう。

 

 

『起きたか、本郷猛。ショッカーの秘密基地へ、ようこそ』

 

 

「ショッカー……?」

 

 

 聞き慣れない名前だと本郷は眉に皺を寄せる。

 ショッカーとは全世界に網を巡らせる秘密結社であり、メンバーは世界のあらゆる地域に秘密裏に建設された基地に配備されており、殺人、拉致、誘拐、洗脳などの工作を行っている。

 本郷はそれを聞いて、2年前から始まった無個性の一般人や科学者の連続誘拐事件も彼らの仕業ではないかと思い至る。

 

 

「俺を攫って一体どうする気だ!?」

 

 

 しかし、彼らの目的は未だ不明であり、本郷は怒気を孕ませた声で問いかけると、答えたのは鷲のレリーフの向こう側にいるであろう者ではなく、本郷を取り囲むように立っている白衣の男たちであった。

 

 

「本郷猛」

 

 

「IQ700」

 

 

「特技。柔道、空手」

 

 

「頭脳明晰、スポーツ万能」

 

 

「これにより、首領の言うオールマイトを倒すための条件を全て達成」

 

 

「よって、ショッカーは君を対オールマイト用の改造人間に改造した」

 

 

 無機質で機械的な口調で淡々と述べられていく言葉に本郷は「何?」と顔を顰める。

 

 

「俺を、改造人間に? 馬鹿なことを」

 

 

「では見せてやろう」

 

 

 そんなことがあってたまるかと鼻で笑った本郷に、科学者達は何かのスイッチを起動させる。すると、本郷に向かって多方向から強風が吹き荒れる。それは本郷が目を閉じることを強いられるほどの強い風であったが、何故か本郷にはそれが苦ではなく、むしろ自分の身体に力が溢れてくるような感覚であった。

 しばらくして風が止むと、1人の科学者が言った。

 

 

「これより君の身体に5万ボルトの電流を流す。ゴム人間や雷に対する耐性のある個性がなければ、一瞬で身体が焼き焦げてしまうほどの電圧だ」

 

 

「しかし、先程の風で風力エネルギーを溜め込んだ君には耐えることが出来る」

 

 

 目配せし、他の科学者が電気スイッチを起動する。緑川博士のもとで科学者として活動していた本郷には5万ボルトの電圧の恐ろしさを理解していたため、彼らの言う通りならば自分は焼き焦げてしまうと恐怖で目を閉じた。しかし、結果はどうだろうか。嫌に変な耳鳴り、電流の迸る音が聴こえるだけで自分の身体にはなんの変化も無い。痛みもなければ、痺れもない。その事に本郷は身震いすると、改めて自分の身体を見た。

 首から下はバイクに乗っていた時の服装ではなく、黒を基調とした材質や構造の分からないスーツに、胸筋や腹筋の周りには緑色のアーマーのようなものがついている。肘の下から手首にかけても同じようなモノが巻きついており、それよりも目を引いたのは赤の風車の付いたベルトであった。

 なんだこれはと驚愕に目を見開く本郷に科学者達は本郷が5万ボルトの電圧に耐えたことに頬を緩ませ「どうだ、わかったか」と口にする。

 

 

「君はここに来てから1週間、ショッカー科学陣の誇る全ての技術を注ぎ込んで作られた改造人間となったのだ」

 

 

 体内に埋め込まれた風力エネルギーを取り込むためのベルトに、本郷と融合したバッタの跳躍力、超小型原子炉を用いたエネルギー炉、5トンの重量を持ち上げることの出来る怪力に、常人の40倍の能力を持つ聴覚、赤外線を発射することで夜でも昼間と同じく見通すことが出来る視力4.5にまで強化された視力など、これまでに製造されてきた改造人間とは比較にならないほどの高性能さをみせる改造人間となった。

 これに本郷猛本人が持つ、格闘センスに頭脳が加われば正義の象徴とまで謳われたオールマイトなど恐るるに足らずというのがショッカー首領と科学陣の出した結論であった。

 中でもタイフーンと呼ばれるベルトに付けられた風力エネルギーを取り入れる装置は、科学者達の自信作であり、恐らくこれと全く同じものが作れるかどうかは分からないと言わしめるほどである。非使用時は体内へと格納され、本郷の意志によって体外へベルトとして顕現させることが可能となっている。

 

 

「我々は憎きヒーロー、オールマイトを倒し全世界へと大攻勢をかけて、世界をショッカーのものとするのだ」

 

 

「君にはそのためにオールマイトを倒す役割を果たすべく、ここに連れてこられたのだ」

 

 

「そんなこと、してたまるものか!」

 

 

「最初は皆、そう言うのだ」

 

 

「しかし、残された意識もこれから行われる脳改造によって失われ、君はショッカーの最高傑作として、正義の象徴を打ち崩すのだ」

 

 

 科学者は麻酔薬の入った注射を取り出そうと本郷に背を向ける。本郷はその隙に逃げられないものかと身体に力を込めた刹那であった。部屋を灯していた妖しい光が消え、代わりに静寂に包まれていた基地内をけたたましい非常警報が駆け巡った。

 

 

「イーッ! 制御室がやられました!」

 

 

「なんだとっ! すぐに原因を調べるぞ!」

 

 

 電気がなくては脳改造が出来ないため、全ての科学者達が部屋から駆け足で出ていく。鷲のレリーフも電気の供給がなくなったためか、光を失っており、本郷は先程蓄積された風エネルギーを用いて腕と脚の拘束具を無理矢理破壊すると身を起こした。

 ここから早く脱出せねばと辺りを見渡すも、出口は彼らの出ていった1箇所のみ。このまま出ていっても、きっとまた捕まるのが関の山だろうと歯噛みすると、視界にとある人物が映った。

 

 

「本郷くん! 無事だったか!」

 

 

「─────緑川博士!?」

 

 

 まさかの再会に本郷は大声を出してしまい、すぐさま閉口すると、緑川に視線で「どうしてここに」と尋ねる。

 

 

「脳改造の寸前に君を助けられてよかった。早く脱出しよう」

 

 

「……ですが、博士、我々だけで脱出するのは不可能です」

 

 

 緑川は本郷の質問に答えなかったものの、本郷もここから出ることの方が優先すべきことであったため、博士に進言する。

 

 

「この天井を突き抜ければ、外へと繋がる通路がある。本郷くん、君の力なら行けるはずだ」

 

 

「お言葉ですが博士、私にそんな力は」

 

 

「ある。ショッカーに改造され、風力エネルギーを溜め込んだ今の君ならできるはずだ」

 

 

 博士の確信のこもった視線に本郷は頷くと、緑川を寄せて跳躍した。

 緑川の言う通り、風力エネルギーを体内に蓄積していた本郷は天井を突き抜けて、太陽の光が差し込む廊下へと出る。

 外へと出るとそこは日本のどこなのかも分からない岩山に囲まれた地帯であり、秘密基地を作るにはピッタリと言うべき場所であった。

 本郷は緑川と共に山道を下っていくも、その足は突如として現れた赤や黒の装束を着たフェイスペイントをした男たちに阻まれる。

 

 

「イーッ!」

 

 

「イーッ!」

 

 

「なんなんですかこいつらは!」

 

 

「ショッカーの戦闘員だ! 君と同じ改造人間だ!」

 

 

 急に現れた不気味さと、改造人間という言葉に本郷は簡単に逃がしてはくれないかと顔をくもらせる。博士を守りながら、彼らと戦うのでは分が悪いと判断するや否や本郷は、強化された視力で自分が乗っていたバイクが置かれているのを発見する。

 

 

「博士!」

 

 

 本郷は博士に声をかけると、先程と同じく彼を抱えてジャンプすると、自分のバイクのところで着地し、エンジンをかける。

 後輩とのツーリングで消費していたであろうガソリンは満タンになっており、本郷はそれを訝しみつつもバイクを走らせる。

 とにかくここから離れようという一心でエンジンを吹かせていると、本郷をまたあの白く太い粘着質な糸が襲う。

 

 

「うわぁぁぁっっ!?」

 

 

「ほ、本郷くん!?」

 

 

 本郷は間一髪として、緑川博士のみを柔らかい土のある道へと振り落とすと自分は崖下へと消えていく。緑川はその光景を悲壮な顔を浮かべながら見つめ、背後に迫る気配にその恐怖を強くした。

 戦闘員だけならまだいい。しかし、戦闘員の前に立ってショッカー怪人第1号とされる蜘蛛男が立っていたのだ。

 

 

「ショッカーを裏切った者は排除する」

 

 

「う、うわぁぁぁっ!!!」

 

 

 若くない身体にムチを打って緑川は走るも、数人の戦闘員に囲まれてしまい、逃げ道を塞がれてしまう。絶体絶命という危機に、蜘蛛男は不気味な足取りでじわじわと近づいてくる。もうダメだ、おしまいだと身を強ばらせたその時であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「待てい!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その声のする方向を、緑川、蜘蛛男、戦闘員たちが見上げる。

 深緑のマスクを被った戦士は赤い複眼のような眼を光らせ、触角のように立ったアンテナを唸らせ、赤いマフラーを靡かせながらそこに立っていた。マスクから下は本郷が先程まで見せていた姿であり、その声からもマスクの中身の人物は誰もが確信できた。

 

 

「生きていたのか!?」

 

 

「行くぞ!」

 

 

 トウッと飛び上がった戦士は、空中で一回転すると緑川を取り囲む戦闘員たちの前に着地する。そして、すぐに戦闘員たちへの攻撃を開始した。

 

 

「トオッ!」

 

 

 一番近くにいた戦闘員に右ストレートが突き刺さり、その威力は常人よりも強化された肉体を持つ戦闘員の身体を一撃で後方へと吹き飛ばすほどであり、底の見えない崖下へと落ちていく。

 

 

「トウッ!」

 

 

 2人目の戦闘員は向かってきたところを背負い投げされ、地面に叩きつけられる。続いて3人目も隙だらけの背中を狙って突撃するも、顎にハイキックが突き刺さり意識を刈り取られる。4人目、5人目も腹部への重いパンチ、アッパーカットで撃沈し、瞬く間に残るは蜘蛛男のみとなった。

 その光景を間近で見ていた緑川は先程とは全く別の感情を伴って身を震わせていた。「まさかこれほどまでとは」と目の前で起きている光景が夢のようであった。

 ショッカーの作り出す改造人間は、戦闘員だろうが普通の人間では太刀打ち出来ず、ヒーローでも戦闘系に特化していなければ返り討ちにできるほどの力を持っていた。それがたった数秒で虫の息となったことに緑川は喫驚し、さらにはその戦闘員よりも遥かに強いはずの蜘蛛男を圧倒する勢いで追い詰めている教え子の姿に打ち震えていた。

 だが、改造人間としての経験はあちらの方が長いためか、蜘蛛男は徐々に戦士の動きに慣れ始めるも、手下を失い、足場も悪い状況での戦闘継続は危険と判断してその姿を消す。

 戦士もここが引き時と判断すると、緑川を連れて彼らの在籍する城北大学近くへと帰還した。

 

 

 

 

 ###

 

 

 

「はははっ! いいぞ! 蜘蛛男を足蹴にするか! それでこそ本郷猛! いや───────仮面ライダーだ!」

 

 

 あぁ、やっとだ。やっと俺の願いは成就された。

 バッタ男に改造されるはずであった本郷猛は、恩師であり自分を改造人間に推薦した緑川博士によって、脳改造される前に脱出することに成功する。

 そして、彼は普通の人間でなくなったことを悔やみ、苦しみながらも、誰にも理解されない孤独の中で人間の自由のために悪の組織"ショッカー"と戦うのだ。

 けれど、同時に皮肉だとも思う。正義とはいつの世も、明確な悪の存在なしには成り立たない。仮面ライダーがこの世界で生まれるための敵"ヴィラン"は数多くいるからその条件は満たしているものの、この世界にはヴィランと同じくして、各々が個性と呼ばれる超常能力を持つ。おそらくは、バッタの個性を持つ人間が存在するのであろうが、彼らは"バッタ男"にはなれても、俺が望む存在'仮面ライダー"にはなれない。

 ならば、作ってしまえばいいと考えた俺の目は正しかったのだ。それに仮面ライダーが生まれるには悪の組織は必要だ。

 本郷猛と一文字隼人はその力を見込まれてショッカーに改造された。

 風見志郎は1号、2号を守るためにデストロンからの攻撃を受けて改造人間となった。

 結城丈二は裏切り者の汚名をきせたデストロンへと復讐すべく仲間たちの手を借りて改造人間となった。

 神敬介はGOD機関からの襲撃を受けて死ぬも、父からの改造手術を受けてカイゾーグ(改造人間)となった。

 山本大介(アマゾン)は十面鬼の襲撃で村が壊滅したことで長老から生体改造を受けて改造人間となった。

 そして、城茂は友をブラックサタンに殺され、復讐のため自ら電気人間となった。

 

 このように仮面ライダー誕生には悪の組織の存在が不可欠であり、その伝統は仮面ライダーRXまで引き継がれている。全ての仮面ライダーの原点たる、1号を作るにはあのオールフォーワンでは足りないのだ。

 もっと巨大な悪の組織、世界規模の大犯罪を起こせるような存在がいなければ仮面ライダーは生まれない。それに、仮面ライダー誕生のためにはほぼ全ての組織を束ねた大首領の存在も不可欠。それを俺が担うというのは、力不足な感じも否めないが、天から授かった改造手術と洗脳の個性を使えば、どうとでもなる。

 

 

「しかし、ショッカー、ゲルショッカーが3・4年で壊滅することと仮定すれば、今のままではいれないか」

 

 

 俺の相手は仮面ライダーだけでなく、世界中にいる様々なヒーローも含まれる。1人1人は大したことないとはいえ、数の利というのは戦闘員を見てわかるが些か厄介だ。

 ヒーロー誌にも年に1回掲載されるかされないかの地元ヒーローレベルなら戦闘員で倒すことはできるが、オールマイトや一流ヒーローと呼ばれる輩は手に余る。それこそ、仮面ライダーと組まれたら面倒極まりない。

 今までは仮面ライダー誕生までの時間稼ぎのために、オールマイトを含めて多くのヒーローを放置してきたが、本郷猛を逃がしたことを失態と思っているオールフォーワンは俺が動かねば不審に思うだろう。いや、もう既に思っているかもしれない。

 そうなれば、俺は仮面ライダーよりも先に奴に倒されることになる。この命は既に落ちぶれて外道に捧げた身。なればこそ、外道に殺されるよりは正義を執行され、往生際悪く、最後の最後まで彼らと戦い、その最後を飾って散る方が望ましい。

 

 

「仕方ない」

 

 

 死神博士が送ってきた個性の力を閉じ込めて拡張・強化し、それを無個性だろうと個性持ちだろうと付与して、普通の人間とは一線を超える存在に変えるというメモリのサンプルを見つめながら俺は思う。

 

 

「俺も自らを改造する時が来るやもしれない……か」

 

 

 だが、今はその時ではないだろう。緑川博士を手放した今となっては、仮面ライダーと相討ちがいいところの半端者にしかならない。このメモリ、ガイアメモリとは似て非なるものを使えば遥かなるステージには到れるやもしれぬが、まだ実験段階ではやはり半端者にしかならないだろう。

 俺が仮面ライダーを超え、オールマイトや名だたるヒーローを凌ぐ存在となって、彼らの前に壁として立ちはだかるにはまだ材料が足りていない。

 

 

「志村菜奈」

 

 

「ここに」

 

 

 それまでの間、俺という個性がなければ無力な存在を隠すための蓑が必要になる。幸い、俺が影となって動かせるやつはオールフォーワンが提供してくれている。

 えんじ色の大正浪漫を着込み、俺の背後に控えていたのだろう志村菜奈が暗闇から僅かな光の当たる場所へと出てくる。

 

 

「大首領であるこの私が命じる。これよりお前は私を護る盾となり矛となれ」

 

 

「もとより我が使命は大首領様を護ること。言われなくても、貴方様が戦えと命じれば、どんな相手とも戦い、殺せと言われればどのような殺しでも実現してみせましょう」

 

 

「よく言った」

 

 

 オールフォーワンも悪趣味だとは思ったが、俺がこれからすることも傍から悪趣味だと思われること間違いないなと心中で自嘲しながら俺は言葉を続けた。

 

 

「では、お前はこれより改造手術を受けよ。そして、日本各地にいるヒーローを殺せ。方法は……ショッカーの改造人間らしく、悪辣に残虐に、凄惨に。ヒーロー一派が恨みや憎悪よりも恐怖を抱くように殺せ」

 

 

 そして、俺は重ねて命じる。俺は大首領としてまだ死ぬ訳にはいかない。しかし、いずれ仮面ライダーは俺の拠点を突き止め、首領を倒して組織を壊滅させようと乗り込んでくるだろう。その時までに俺が彼らを超えられる保証はない。よって、首領にも替え玉が必要になる。そう判断した俺は志村菜奈へと口を開く。

 

 

「お前の改造手術終了をもって、ショッカーの首領はお前に任せる」

 

 

「それは」

 

 

「安心しろ。大首領として統括は引き続き私が行う。お前は私の代わりに組織の在り方を示すだけでいい」

 

 

「そのためのヒーロー殺戮、そう捉えてよろしいですか?」

 

 

「そうだ」

 

 

「……かしこまりました」

 

 

 これで次の組織の育成と、編成を進める時間の確保はできた。まぁ、作戦指揮は俺や他の改造人間のままで、彼女の仕事は障害となりそうなヒーローの駆逐ではあるが。

 そのための改造手術は、そうだな。

 ショッカーの象徴、鷲のマークに倣って鷲を素材とした改造人間、史上最大のワシとしてニュージーランドに君臨していたというハーストイーグルを使うとしよう。遺伝子からの復活モノ同士仲良くやれるだろうさ。

 最後に名前か。安直にワシ女というのはダサいな。その名前はワシの王ということで"アジャーラレクス"にでもしとくか。

 

 

「がっ……ああっ! あ"っ……! あがぁっ!!」

 

 

 感情がなくても、改造人間にされる時は痛みで声を発するんだなと思いながら、志村菜奈の改造手術を進めていく。そして、残りの作業をショッカー科学班に任せるとノコノコ戻ってきた蜘蛛男へ次の指令を与えるべく、身を翻した。

 




本郷がワンフォーオールを受け継いでいたら……と考えてしまうくらいには本郷猛やべーやつなのでは??


あくまでヒロアカ世界での仮面ライダー誕生なので、意図的にセリフの配置や言い回しは変えてます。首領も大まかな流れが合ってればさほど気にしないです。というか、内心ウッキウキで言い回し所では無い。


アジャーラ=ワシ レクス=王
しかし、ハーストイーグルはワシよりはタカに近いらしいが。細かいことは気にすんなー★
志村菜奈も改造人間になって、首領はショッカーが壊滅するのを予見して次の組織の編成に着手しようと思って頑張ってるし俺も頑張らないと!

好きなライダー世代

  • 昭和
  • 平成1期
  • 平成2期
  • 令和
  • 一つに絞りきれないほどに仮面ライダーの歴史は豊潤だ!

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