ライダーがいないので、ショッカーを作りました。 作:オールF
本郷猛と緑川博士がショッカーのアジトから脱出してから1日が経過した。今のところ、追っ手の気配はなく本郷と緑川は街から外れた緑川の所有する別荘に身を隠していた。
本来なら本郷と緑川は行方不明者のため、警察やヒーロー事務所に駆け込んで保護を要請するのが普通であるが、2人にはそう出来ない事情があった。
まずは緑川博士である。彼は世界的にも有名な科学者であるため、彼の帰還を日本だけでなく世界も望んでいた。しかし、その科学者が悪の秘密結社の技術力発展に大きく貢献していたとなれば、世間はどう見るだろうか。豊富な研究資金に、自由に使える研究道具という探究心溢れる科学者にとっては夢のような場所であったショッカーの研究所で緑川は自らの能力を使いすぎてしまった。
これは人類の未来の発展のため、これがあれば無個性と個性持ちの諍いは無くなるなどの甘い言葉に騙され、気付けば多くの発明に力を貸しすぎた。気付いた時には既に遅く、研究をやめようとしたら自分の家族に危害を及ぼすと脅された緑川に正常な思考能力など存在しなかった。
その果てが、自分の助手を改造人間の被検体として売るという行為にまで及んだのだ。これを聞いた者たちは緑川を許すだろうか。ショッカーの技術発展が彼という人間1人のせいではないにしても、民衆は囚われた他の科学者達よりも、多くの罪を重ねて帰ってきた緑川博士を責めるだろう。
緑川博士にも、科学は人々の発展にも破壊にも繋がるという持論を持っており、使う人間の問題だという言葉は真実である。しかし、それで黙るほど民衆は優しくも利口でもないのだ。
だから、緑川は帰ったところで自分に居場所はないだろうと、長らく使っておらず、天井の隅に蜘蛛の巣が張り巡らされたような別荘へと身を隠しているのだ。
一方で共に逃げ延びた本郷猛も自らの変化に驚きを隠せないでいた。父の言いつけで柔道や空手はやっていたものの、試合で人を失神させたり、文字通り吹き飛ばした経験はなかった。恩師の話によれば、自分が倒したショッカーの戦闘員たちは常人よりも数倍の身体能力を持っていた。つまりは今の本郷はそれ以上の身体能力を得たことになる。
そんなはずはないと、本郷は頭を冷やすために水を飲もうと蛇口をひねろうとした。しかし、改造されて普通の人間でなくなった本郷のパワーは凄まじく、蛇口をポキリと折ってしまった。
「一体、俺の身体はどうなってしまったんだ……」
折れた蛇口を見つめながら本郷は頭を抱えた。ショッカーの研究員の話では1週間眠ったままだったというのに、空腹感はない。パワーは明らかに増しているし、五感に関しても年々落ちていたはずの視力は戻るどころかよく見えるようになっており、聴力や嗅覚もどこか鮮明になっているような気がする。触覚や味覚に関してはまだ分からない。
風力エネルギーを体内に貯蔵することで、普通の人間には出せない能力を発揮できるようになった本郷猛はこれからどう生きるべきか考え始めた。
緑川の話によれば、いずれショッカーは追いかけてくる。火の粉を払い除ける力があることは理解出来たが、それをいつまで続けられるかという話は別になる。警察やヒーローに頼ろうにも、個性を偽ったことや自分の身体のことを調べられれば、改造人間になる前の生活には戻れなくなってしまう。
「どうすればいいんだ……」
こんな時に限って自分の頭脳では全く判断が出来ない。本郷はその事に自分のことながらバカにするように笑った。IQが700もあるからこんなことになったんだ。俺がただの人間なら。父親から格闘技なんて習っていなければと、今更語っても仕方の無いたらればの話を並べていく。そうすれば、少しは気分が晴れると思ったから。けれど、募っていくのは自己嫌悪ばかりで、解決に繋がる糸口は見つからなかった。
そうしてるうちに、眠気が訪れて本郷は瞼を閉じた。3大欲求のうち、まだ睡眠の方は残っていたのかと、自分がまだ人間であることを自覚できた本郷は、今まで当たり前だったことに安心感を覚えた。
けれども、目が覚めればまた答えの見つからない問いを続けることになる。本郷は身を預けていたソファから起き上がると、手を開いたり閉じたりした。昨日の出来事が夢であればという僅かな可能性にかけた願いであったが、聴覚は嫌に冴えているし、嗅覚も今まで感じることのなかった朝の匂いというやつに擽られている。やはり夢ではなかったのかと項垂れていると、コトリと小さなローテーブルに白いカップが置かれた。
「本郷くん、何も飲んでいないんだろう。インスタントだがコーヒーがあったんだ」
「……ありがとうございます」
本郷は緑川の出したコーヒーを口に含めた。しかし、喉を潤そうと飲んだコーヒーの味は以前よりも鮮明であり、大学の研究室で飲んでいた豆から挽いたコーヒーとの味の違いが明確に感じられた。それが顔に出ていたためか、あるいは初めから謝りたかったのか、本郷の顔を見てから緑川は口を開いた。
「……すまないね。私が君を推薦したばかりに」
「いえ……博士も大変でしたでしょうし」
「いや、謝らせてくれ。これは私の罪なのだ……」
そこから語られたのは懺悔であった。悔いるように緑川は自らの行いを語り出した。さらわれた時は憤慨したが、ショッカーの研究室を見てからはやりたい放題であったこと。死んだ人間をDNAから蘇らせる研究も人類の未来のためだと協力したが、終わって死者への冒涜であったことに気づいたこと。多くの改造人間の特殊能力開発に手を貸したこと。怪人態と人間態の切り替えができるようにしたせいで、怪人達が日常生活に混ざれるようになってしまったことなど。
泣き腫らし、つらつらと言葉を並べていく恩師の姿を本郷は優しい目で見つめていた。
「罪を数えろと言われたとしても、もはや数え切れない程に私は重ねすぎた」
「気休めかもしれませんが、形はどうあれ貴方がしたことは人類の発展に繋がると思います」
「……そう、だといいんだがね」
本郷も緑川の理念は知っている。科学者であるならば、人間の良心を忘れてはいけない。科学は使い方次第で人類の希望にも絶望にもなることは既に歴史が証明している。
ならば、本当に忌むべきなのは自分を改造したショッカーだと緑川との会話で結論づけた本郷は恩師の手を優しく握った。
「博士、これからはショッカーのためではなく、本当に人類の平和な未来のために、共に戦いましょう!」
「っ……! あぁ……あぁ!」
自分はいい弟子を持ったと緑川は先程の悔いの涙と異なる雫を瞳から漏らす。それに本郷はハンカチを差し出そうとポケットをまさぐるも、どこにも入っていないことに気づくと、鏡台の脇に置かれたティッシュボックスへと目を向けた。
「博士、待っててください。今、ティッシュを」
そう言って立ち上がった本郷は、緑川に背を向けてティッシュボックスを取りに行く。あの涙の量では1枚じゃ済まないだろうとティッシュボックスごと掴んだ本郷であったが、その瞬間緑川の口から驚愕の声が上がった。
「お、お前は!?」
その声に本郷はすぐさま緑川の方を見た。すると、緑川の背後には蜘蛛男が彼の顎を掴んで立っていた。
「お前、博士に何をっ!」
「裏切り者には"死"あるのみ」
「や、やめろっ!!」
止めに入ろうとした本郷に蜘蛛男はすぐさま巨大な蜘蛛の巣の糸を放出する。しかし、改造人間となったことと、この攻撃が1度目ではないこともあって本郷には簡単に回避されてしまう。けれども、蜘蛛男には本郷を近づけさせないだけでよかった。
ほんの数秒。蜘蛛男の毒針を緑川に注入し、さらに彼のDNAが詰まっている体毛を引き抜く時間があれば。
「博士ッッ!! 緑川博士!!」
「ほん、ごう、くん……!!」
蜘蛛男は任務を果たすと蜘蛛の姿へと戻り、屋外へと脱出する。そして、毒針によって身体の組織が分解され泡状へとなりながら緑川は霞んだ視界の中で自分を呼ぶ弟子に最期にほほえみかけた。
「あ……と、は……たっ、のぉ、むぞ……! かっ、かめん、ライ……ダぁ……!」
振り絞ろうとした声も泡のように消え去り、残ったのは緑川の衣服だけとなってしまった。
「仮面ライダー……」
変身後の本郷はフルフェイスのマスクに身が包まれる。そして、彼が変身するためには風力エネルギーをベルトから体内へと溜め込まなければならない。そして、その方法はバイクに乗り込み、走った時の風を取り込むこと。だから、緑川は改造人間バッタ男ではなく、本郷猛でもない改造人間にその名をつけようとした。
本郷は肉も骨すらも消え去ってしまった恩師のメッセージを受け取り、外に隠していたバイクを引きずり出すとエンジンを吹かせた。
向かうは自分の恩師を殺した怨敵にして、自分たちをこのような運命へと誘ったショッカーどもが生み出した改造人間、蜘蛛男。
本郷猛は蜘蛛男をぶっ飛ばすために仮面ライダーへと変身した。
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戦闘員の1人に緑川博士の遺伝子情報の詰まった頭髪を預けた蜘蛛男はその他の残った戦闘員たちを引き連れて小河口ダムを訪れていた。蜘蛛男が託された任務は緑川博士の殺害とDNA奪取以外にも2つ残されていた。1つは言うまでもなく、本郷猛を生け捕り、出来ないのならば殺害することであった。そして、最後の1つは小河口ダムの破壊である。
ダムに塞き止められた水に自分の毒を含ませることで、ダムが決壊した際に水が流れ込んだ街の人間を殲滅するという恐怖の作戦であった。この作戦が成功した暁には蜘蛛男には破壊した都市の再建、その後の運営と幹部職が与えられることが約束されており、蜘蛛男は本郷猛が訪れるまでの間に小河口ダムを破壊するための爆弾を戦闘員たちに設置させていた。
「オイオイ、ここは一般人は立ち入り禁止だよ」
しかし、思いがけない来訪者に蜘蛛男は目を疑った。ダム周辺にいた人間はあらかじめ掃討しており、警察やヒーローを呼ぶことはできるはずがなかったため、来るのは本郷猛だけと思っていたが世間から大活躍を評価されるだけのことはあると蜘蛛男は感心した。
「オールマイト、何しにここに来た」
「それはこちらのセリフだ。君は何者かな?」
赤いマントをたなびかせた筋肉隆々の男は、前までなら蜘蛛の個性を持つと思われる異形型の人間だろうと判断したであろう改造人間に質問を投げ返した。
「お前に答える義理はない」
「そうかい!」
ならば拳で聞くと走り出したオールマイトであったが、突如として近づいてきた気配に動きを止めた。その気配は蜘蛛男を中心に横並びで現れた。ベレー帽を被りフェイスペイントをした男たち、10人。そのうち2人は赤い衣服を着ており、手には鋭利に磨きこまれたサーベルが握られていた。
「お前の相手は俺ではない。やれ」
「イ──ッ!」
蜘蛛男の命令に甲高い声で返事した戦闘員たちがオールマイトへと襲いかかる。鍛え上げた肉体と磨きこんだ技術、そしてそれらを後押しする個性を持つオールマイトにとって、ショッカーの戦闘員が1人ならば敵ではない。だが、常人よりも遥かに強化された戦闘員が10人もいるとなれば話は別であった。
「それっ! あっ! キミィそこは狙っちゃダメ! このっ!」
なるべく刃物を持った2人、おそらくリーダー格と思われる戦闘員に気をつけながら立ち回っているオールマイトは危なげもなく、1人、また1人と戦闘員を打ち倒していく。ちらりと戦いの最中にオールマイトは蜘蛛男の方を見やる。彼がこちらの戦いに参戦する素振りも、戦闘員達が行っていた爆弾の準備作業を進めることも無く、ただ何かを待つように動きを止めて居た。
早く蜘蛛男の目的を聞き出さねばと戦闘員たちを殺さぬように手加減しつつも制圧していくオールマイトであったが、遠くからこちらへと近づいてくるエンジン音が耳に届き、それと同時にピクリともしなかった蜘蛛男が動いた。
何者だとオールマイトはエンジン音が鳴る方を見た。一般人なら止めねばならないし、ヒーローならば加勢を申し込むか離れるかの指示をしなければならない。最悪の場合、蜘蛛男の仲間ならば戦闘員ごときにかまけてる場合ではない。
だが、オールマイトが見た先に居たのはどの位置に属するのかよく分からない風貌をした人間であった。いや、蜘蛛男のように人間の顔が見えないため人間かも分からないが、2足で大地に立ち、胴から生えた2本の腕と骨格から判断するに人間であることは間違いない。
複眼のような目がついた深緑のフルフェイスのマスクをした人物は紅いマフラーをなびかせながらバイクから降り立ち、蜘蛛男へと近づく。
「待っていたぞ。今度こそ息の根を止めてやる」
「最後の勝負だ、来い!」
蜘蛛男の死の宣告に仮面の男が言葉を返すと、瞬く間に戦闘が開始された。先制攻撃は蜘蛛男であり、毒針を吹き出すとそれは一直線に仮面の男の方へと飛んでいく。しかし、毒針は仮面の男に刺さることはなく躱される。その間に距離を詰めた仮面の男がつかみかかった。
仮面の男は蜘蛛男の腹部を殴打し、痛みに前かがみになったところへ追い打ちをかけるように肘打ちで地面へと叩きつける。だが、蜘蛛男も負けじと立ち上がり、仮面の男の動きを封じようと蜘蛛の巣状の糸を吐き出すも、これも容易く躱されてしまう。
まさに一方的な戦いにオールマイトは息を呑んだ。既に戦闘員達は気を失っており、しばらくは目が覚めることは無いだろうと判断したオールマイトはその場から離れて、蜘蛛男と仮面の男が戦う場所へと近づく。
殴打の嵐が蜘蛛男の顔面へと突き刺さり、背を地面にして大きく倒れた蜘蛛男に、仮面の男はトドメの一撃を加えるべく空高くジャンプした。
「ま、待て!」
このままでは蜘蛛男の正体も目的も分からないまま倒されてしまうと危惧したオールマイトが叫ぶがもう遅かった。
IQ700の頭脳が生み出した必殺技は、バッタの脚力を利用した跳躍力と高さを掛け合わせたキックである。仮面の男は宙で一回転し、蜘蛛男へと狙いを定めると足を突き出しながらこう叫んだ。
「ライダーキック!」
仮面の男、渾身の一撃が隙だらけとなった蜘蛛男への胴体へとぶち当たり、蜘蛛男の身体を遥か後方へと突き飛ばした。
「ンモッォ……!」
あまりの威力に蜘蛛男は負け惜しみを言う暇なく、掠れた呻き声を出しながら身体を泡にして溶け去った。その消え方に見覚えのあったオールマイトは、蜘蛛男やあの戦闘員たちがショッカーの改造人間であると確信すると、自分が気絶させ倒れ伏しているであろう戦闘員たちがいる方を見た。しかし、上官が死したためか、あるいは気絶した時すでに消えていたのか、戦闘員達の姿はなくなっていた。
「……君は一体」
何者なんだと問おうとした時、風が吹いた。穏やかで、冷たくも暖かくもない優しい風が。仮面の男はその風にマフラーをなびかせるとオールマイトへと背を向けた。バイクの方へと向かっていく仮面の男にオールマイトは再び問いかけた。
「君は……君は何者なんだ! 人類の味方か! 敵か! それだけでも教えてくれないか!」
ここにはもはや何の証拠もない。蜘蛛男なる怪人がいたことも。ショッカーには多くの戦闘員がいることも。証拠は泡とともに消え去ってしまった。残ったのは結果的にダム破壊を止めたオールマイトと、仮面を被りバイクに乗って現れた謎の人物だけだ。
ショッカーの怪人を1人倒しただけでは敵か味方かの判断をするには早計すぎるとオールマイトは問いを投げた。
「分からない。ただ俺は人間の自由のためにショッカーと戦う───────仮面ライダーだ」
「……仮面ライダー」
それが男の名だと、オールマイトは記憶に刻みつける。今はそれだけでいい。ショッカーがいる限り、彼とはまた会える。詳しい話はまた次に聞こうと。今は自分と同じく、悪と闘う戦士の誕生を歓迎しようとオールマイトは彼が走らせるバイクの後ろ姿を見ながらこう呟いた。
「また会おう。仮面ライダー!」
怪奇・蜘蛛男は仮面ライダーとなった本郷猛の前に倒れた。しかし、ショッカーの生み出した改造人間の世界征服作戦は続いていく。本郷猛はそれを阻止するために、仮面ライダーとして立ち上がった! 人間の自由を脅かす悪を止めるため、頑張れ! 仮面ライダー!
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「キミのお気に入りが殺られてしまったね。首領」
くすくすと嘲笑う黒い影に赤い装束に身を包んだ男は抑揚のない声で「そうだな」と返す。
「……まさか、本郷猛と緑川博士が裏切ることはキミの計画だったのかな?」
「どうかな」
以前から緑川博士を洗脳せずに手元に置いていたことが気になっていたため、今回の脱走事件の真相を突き止めようとオールフォーワンは尋ねてみるが、相手に話す気はないらしく仮面ライダーの背を見つめて立ち尽くすオールマイトが映る画面に目をやっていた。
「まぁ、僕も意図的でないにせよ
責める気はないとオールフォーワンは自嘲気味に笑った。オールマイトを倒すのは容易いが、いたぶるのはショッカーに任せて、自分はトドメの段階まで手を出さないと決めているため静観を保っている。
ただ、悪事に関してはそうではなく。定期的に殺人や強盗、破壊活動をしては心を満たしていた。他にも手に入れたい個性のピックアップや、ヴィラン組織への援助活動なども行っているが、過去に比べれば活動は控えめになっている。
「安心しろオールフォーワン。本郷猛を野放しにしているのには理由がある」
「へぇ」
「オールマイトに本郷猛を味方だと思わせ、完全に信用し、信頼を寄せて仲間と見なした絶好の好機に」
「オールマイトと戦わせるわけか」
洗脳の能力を持つ大首領だから為せる業であると感心したオールフォーワンはその未来を想像して邪悪に笑う。洗脳の力の大きさはこの2年で多くの科学者たちを服従させてきたのを間近で見ていたのでよく理解出来ている。脳改造せずとも、本郷猛のような無個性の人間ならば簡単に操れるだろうとオールフォーワンは頷いてみせる。
「怪人となった志村菜奈と戦わせるのも一興かと思ったけど、そっちも面白そうだね」
オールマイトを苦しませて殺す。それが悪の限りを尽くしてこの世を謳歌するという野望を持つオールフォーワンの第2の野望である。自分の気まぐれから生まれた、周りでうろちょろと飛ぶ羽虫程度だと思っている存在がどれほどに強くなったかは興味があるが、魔王である自分が手を下すほどではないだろうと高みの見物をすることにしたオールフォーワンは「気長に待っているよ」とワープの個性を使って大首領の前から消え去る。
「やっと帰ったか」
そして残された大首領は、ため息を吐くと被っていたマスクを脱ぎ捨てる。世界中の科学者を誘拐したツケが回ってきたせいで、目の下にはクマが出来ており、気の抜けた大首領は椅子を引いてどかりと座り込んだ。
「あ〜疲れた。ったく、仮面ライダーの初陣だぞ。1人で見させろよな……」
そこに悪の秘密結社の大首領の顔はなく、憧れのヒーローを生み出せたという充足に満たされた男の姿のみがあった。蜘蛛男が倒されたから次は蝙蝠男かと過去の記憶を頼りに描いた仮面ライダー戦いの記録という自作ノートを見つめながら思うと、大首領は身体を大きく伸ばした。
「大首領、失礼します」
そうしてリラックスしていると、部屋のドア入ってきたのは人の顔ではなくワシの顔をした大男、ワシをモチーフとした怪人、アジャーラレクスであった。身長2メートルの巨体に弾丸どころか、戦車の砲弾ですら傷1つ付けられない肉体を持つ程に完成されたショッカーの最強怪人にして、ショッカー首領の権限を持つ改造人間である。
「ショォォォッッカァァァ!!!!」
アジャーラレクスは高らかに叫ぶ。決してワシの鳴き声だと弱そうに見えるからとか、そもそもワシの鳴き声が分からないからとかそんな理由でこのような鳴き声をしているわけではない。
しかし、過去の記憶を持つ大首領からすれば「これショッカーグリードなのでは」と感じさせられる鳴き声なのだが、よくよくアジャーラレクスを見れば、首元に巻きついていた蛇のようなものが居ない。蛇がついてないショッカーグリードか、と1人で納得すると大首領は口を開いた。
「アジャーラ、その格好は見てて疲れる。元の姿になってくれ」
大首領がそう言うと、瞬く間に大きなワシは女性の体つきへと変化し、志村菜奈という人間を元にした人造人間にして改造人間へと変身する。ワシの姿から和装のメイド服と言われる大正浪漫を着た志村菜奈は首領に用件を尋ねられると即座に返事をした。
「は、蜘蛛男が倒されたので大首領の考えた計画通り、蝙蝠男を解き放ち、全人類ビールス傀儡化計画を発動したいと思うのですが」
「あぁ、任せる」
「はい」
敬礼する志村菜奈に大首領は目を逸らして肩を落とした。大首領の疲れの原因は、医師会から蝙蝠男のビールスに対する解毒薬の開発チームに入って欲しいと打診されたのを断り続けていたから、というだけでなく、両親から持ち込まれる見合いの話も含まれていた。
地下世界や人気がない洞窟や森の中の秘密基地の中では大首領として、洗脳せずとも大佐や博士、大使から悪のカリスマとして羨望と信頼を集める男ではあるが、表社会では三十路の医者である。
周りにはそろそろ結婚しないのかと、嬉しくもないお節介を焼かれては合コンに連れて行かれたり、両親にお見合いパーティなどを企画されたりしている。何度トカゲロンに爆発物を蹴りこんで貰おうかと思い悩んだことか。
仮面ライダーを生み出して、仮面ライダーの素晴らしさをこの世界に普及し、その仮面ライダーに殺されるという夢がなければ、洗脳という個性を使って自由の限りを尽くしたであろう。しかし、今の大首領に結婚して家庭を持つなどという余裕はない。
せめて、付き合っている人間がいるとだけ言えれば、しばらくはうるさくなくなるのであろうが、それで志村菜奈という既に死人であり、未亡人を利用する気にはならない。いや、ちょっとその考えがチラついたから目を逸らしたのだが。
「大首領、何か」
「いや、なんでもない」
「そうですか」
キッパリと即答した大首領に志村菜奈は追及はせずとも、脳内の量子コンピューターを使って大首領の疲労状態を打ち出すとその身を案じていた。
「ん……?」
しかし、そこで何故案じているかという不可解な思考が発生した。自分には不必要だからと心という機能は作られていないはずと首を傾げる。
一方でその疲労がマッハでアクセルでマキシマムドライブな大首領はと言うと仮面ライダー誕生という事実のみを原動力として、オールフォーワンとの対話を何事もなく果たし、作戦計画書に承認印を押すと志村菜奈へと手渡した。
もう洗脳で適当に誰かと結婚してしまおうかと思考能力がまともに機能していない脳で考えるも、今日の仕事を終えた身体は休息を求めており、椅子に座ったまま眠りについてしまった。
そんな大首領の姿に、心を持たないはずの改造人間は首領が脱ぎ捨てていた赤い装束をタオルケット代わりに掛けてやると、その部屋をあとにした。ちゃんと、他の人間が入って来れないようにロックをかけて。
大首領も表は普通の人間だから。仮面被ってない時のルルーシュみたいなもんよ。
志村菜奈は大首領の素顔を知ってるの?→知ってる
他の幹部は→知らない
AFOは志村菜奈が首領になったこと知ってるの?→知らない
大首領は今何歳なの?→25~34歳
なんで女なのにレクスなの?→本編では大首領の思いつきだから。裏事情は変身したら2メートルの巨体で、明らかに男の声で見た目が蛇のいないショッカーグリードで女を意味する名前を入れたくなかったから。あと特定の人物2人がアジャーラレクスの素顔を知った時の顔が見たいから。
あとはメールで寄せられたもの(ここで返答する非礼をお許し)
アマゾンズとか3号のような平成生まれの昭和ライダーをオリ主は認知しているのか→している。許容している。3号、4号に関してはショッカー側の改造人間として作るかどうか悩んでいる。アマゾンズは先にオリジナル優先だから未検討……と言った感じ。太陽の戦士は言わずもがな。
オリ主の知識→基本的に特撮版のみ。なので映画 The FIRSTは知っている。漫画や小説作品はにわか以下。
設定集を出す予定→切り札(Joker)は最後まで取っておくものだぜ(要するに日曜日までに仕上げられなかった時のための保険)。なので、昭和仮面ライダーをよく知らない人のためのコーナーも締切3秒前と見たらまとめて掲載予定。
アンケートにて好きなライダー世代実施中。アマゾンズや3号みたいなデザインは昭和だけど生まれが平成のライダーは最後のやつか平成2期でいいと思います。ショッカーライダーや偽ライダーが好きな人も最後のでいいんじゃないかな。
アジャーラレクス
変身者 志村菜奈
ワシの王を意味する名を持つショッカーの最強怪人。爪を利用した刺突攻撃、指先からの爆発弾の連射、低空飛行突撃、破壊光線など戦闘能力に特化した怪人で、ショッカー怪人にしては珍しく弱点が存在しない。仮面ライダーのプロトタイプというべき志村菜奈が素体となっているためか、その能力は全ての怪人の頂点であり、強さを分かりやすく言えば慢心しているAFOならば瞬殺できる、現時点のオールマイトと1号を同時に相手しながら圧倒できる程である。
大首領の命令で動き、大首領の危機には何があってもやってくるという従順さを見せる。鳴き声は「ショッカァー!」
好きなライダー世代
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昭和
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平成1期
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平成2期
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令和
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一つに絞りきれないほどに仮面ライダーの歴史は豊潤だ!