ライダーがいないので、ショッカーを作りました。 作:オールF
12月より1月の方が忙しいってなんなん。もっとはよ言ってよ(憤慨)
ちょい短めなので初投稿です。
「いたた……!」
突然現れたワシかタカかわからない怪人に吹き飛ばされたオールマイトは背中を擦りながら立ち上がると周囲を見渡す。鉄骨や重機が見えることから工事現場であることがうかがえる。怪人が意図したのかは分からないが、人気のないところで良かったとオールマイトは正面を向く。
夜という時間帯なこともあって、工事現場に人はおらず作業用の明かりはついていない。明かりは月のみとこれから戦うには少しばかり厄介だなと悪態つきながらオールマイトは目の前に降り立った改造人間を見る。
「随分な挨拶じゃないか、ショッカーの改造人間」
マンションの屋上からどれくらい飛んだのか。マンションの屋上の怪人との繋がりは? 残された青年は大丈夫なのだろうかと疑問や不安は尽きない。だが、眼前にいる怪人から発せられる強者のオーラから、これまでの怪人やヴィランとは一線を画す存在であることがわかる。そのオーラはオールマイトにとっての宿敵にも相当しており、手には汗が滲み出す。
「無口なのかな? それともお喋りは苦手かな?」
「不安を隠そうとするな」
低く、のしかかるような重厚ある声。体格と合わさって男性であることは分かった。ショッカーにさらわれた無個性の人間は数知れない。しかし、自分に匹敵する体格の持ち主となればそう数は多くはないだろう。
だが、この情報を持ち帰れるかどうかは現時点で不明だとオールマイトは敵の言葉を待ちながら考える。
「その貼り付けたような笑顔。不安を隠すためのものだろう」
「違う」
人々を笑顔で救い出すヒーローは決して悪に屈してはいけない。オールマイトが笑うのはヒーローの重圧、そして内に湧く恐怖から己を欺くためである。さらには、亡き恩師によって与えられた言葉からオールマイトは常に笑顔を絶やさない。どんな事があっても笑っているやつが1番強いのだから。
「哀れだなヒーロー。その心の鎧を脱げば楽になれるというのに」
「違う!」
これ以上、今までの自分、これからの自分、亡き恩師の理念を否定させる訳にはいかないとオールマイトは構える。敵の能力は未知数。それでも戦うのがヒーローだ。
「どうした来ないのか」
「……まだ私は君に吹き飛ばされただけで怪我はしてないからね」
しかし、オールマイトにはまだ確信がない。マンションにいた怪人は、無関係な人々をビールスで侵して傀儡とした罪がある。けれども、目の前にいる怪人はヒーロー活動の邪魔はあれども、大きな危害を加えたわけではない。
「なるほど、戦う理由には不十分か」
「君と戦ってる場合じゃないってのもあるけどね」
「……あぁ、奴なら問題ない。1人でもどうにかするだろうさ」
目の前のヴィランが強力な怪人であるのは確信できている。しかし、オールマイトとしては屋上に残された蝙蝠の怪人と対峙していたごく普通の青年と怪人に操られた住人たちの解放の方が急務である。戦っている暇はないが通してもらえないのならば仕方ないとオールマイトが戦闘態勢へと移る前に怪人は「理由をくれてやる」と爪先を差し出す。雲間から出てきた月光によって照らし出された爪先はどす黒く染まっている。だが、左手の爪先は彼本来の色が晒し出されている。その意味を察するのに時間がかかるほどオールマイトは未熟な人間ではなかった。
瞬間、オールマイトが肉薄した。
「貴様、何人殺した」
「まだ43人くらいだ」
オールマイトの振り抜いた拳を怪人は容易く受け止める。さらにオールマイトが左手を突き出す。それも怪人は強靭に発達した腕で受け止めながら「知っているか?」とオールマイトに問いかけた。
「九州のヒーローが続々と殺されているという話だ」
「……知っているとも」
何が言いたいんだと睨みつけるオールマイトに怪人は抑揚のない声でこう答えた。
「私が殺した」
「ッ!!」
「ヒーローを名乗るからもっと歯ごたえがあると思ったが……情けないな」
オールマイトの乱打を、まるで予測しているかのように躱しながら感情の篭っていない声でそんなことを口にする。それが余計にオールマイトの神経を逆撫でした。
「彼らは君という悪に全力で立ち向かったはずだ!」
「否。奴らは所詮、ヒーローという名の皮を被った偽善者だった」
最近、全国で悪事をはたらいているという悪の秘密結社ショッカー。どれだけ政府側が存在を隠そうとも、世界各地で活動する彼らの存在を完全に隠すというのは不可能な話であった。ショッカーのことは名前は出されなくても、週刊誌やインターネット上で仄めかされていた。
噂を聞いた一部のヒーローはとある考えを抱いた。政府が隠すほどの存在であれば、組織の一員と思わしき者を捕らえる、あるいは討伐したとなれば自分の株が上がるのでは無いのかと。
そんな彼らは今、オールマイトの目の前にいる怪人、アジャーラレクスの餌食となった。戦闘員に特に意味の無い暗躍行動をさせて、ヒーロー達を炙り出すとアジャーラレクスは彼らと戦闘を行った。数の利でアドバンテージを取っていたヒーローたちは、初めはアジャーラレクスへの自首によるショッカーの情報提供を勧告したが、無反応であったために総攻撃を開始。そして───────。
「初めは意気揚々と挑んで来た者も仲間が手も足も出ずに殺されたのを見て腰を抜かしていた。逃げ出した者もいたし、自害を選ぼうとした者もいた。中には私に命乞いをしてきた者もいた」
一人一人ヒーロー名を言いながら何をしたか教えてやろうかと、オールマイトの右フックを片手で受け止めながら提案するアジャーラレクス。歯噛みしながらオールマイトは「結構だ!」と答えると1歩距離を取ってから、再び攻撃へ移る。
それを見ながらアジャーラレクスは嘆息した。
「パワーもスピードも十分にある。だが、それにかまけて動きが単調だな」
見なくても躱せるぞと最小限の動きで、オールマイトの連撃を躱していくアジャーラレクスは「落ち着け」と彼から初めて攻撃を加える。鳩尾に強烈な一撃が入り、オールマイトの口の中には鉄の味が広がり、腹部には修行時代に何度も味わった痛みに勝る激痛が走る。
「があぁっ!!」
「自分より強い力にはやはり弱いか」
これでもまだ2割くらいなんだがとオールマイトを見下ろしながら呟く。片膝をつきながら、痛みに苦しむオールマイトは宿敵以来の自分よりも遥かに強い存在に笑顔が消えかかっていた。
「だが、悪くない。お前はまだ強くなれるだろう」
死ななければなと付け加えるアジャーラレクスに、オールマイトは痛みに耐えながら声を絞り出す。
「お前は、なんなんだ」
ただのヴィランではない。悪辣的に人殺しを楽しんでいるようにも思えないし、私怨からヒーローを殺しているように思えない。今も自分を殺す隙はいくらでもあったはずなのに、腹部への一撃のみで済んでいる。この怪人の真意を尋ねるオールマイトに、怪人は肩を竦めた。
「知ったところでお前には何も出来ない」
知りたければ私を倒せと暗に言う怪人に、オールマイトはやはり真っ当なヴィランとは言えないと考える。目的はヒーローの殲滅ではなく、真のヒーローと呼ばれる存在の発掘? いや、そうだとしたらそれに自分が当てはまると考えているのは傲慢が過ぎるかと首を振る。
「私はこれからもヒーローを殺す。邪魔するのなら、警察官でも、力無き者も殺す。止めたければ強くなるんだな」
遠くから聞こえてくる爆発音のようなものが耳に届くと、終わったかと呟いたアジャーラレクスは、オールマイトに背を向けてこの場から立ち去ろうと歩き出す。
「待て!」
オールマイトはそんな敵の背中に声をかける。かけてから、これからどうするかを考える。勝ち目の薄い敵に今、自分ができることはなんだと。このまま放っておくと多くの命が失われることになる。けれども、圧倒的な力の差を思い知らされて折れかけた心と身体の痛みを抱えて勝てる相手では無い。言葉を失うオールマイトにアジャーラレクスは無言で翼をはためかせると月が雲に隠れて完全に暗くなった空へと消えていく。
敵が無傷で立ち去っていくのを見上げることしか出来ない無力さに、憤りを感じながらオールマイトは立ち上がる。世の中の人々が幸せに笑い合える世界に近づくために、最高のヒーローになるためにオールマイトは拳を握る。
「もっと頑張ろう」
腹部の一撃を受けて内出血でヒーロー活動に支障なし。さぁ強くなろうかオールマイト!
次回投稿は多分1月31日になると思います。