ライダーがいないので、ショッカーを作りました。 作:オールF
「世界から悪はなくなるか? いや、何をもってして悪なのか俺には分からない」
唐突な自分語りで恐縮だが、俺は自分を悪だとは思っていない。
「仮面ライダーという正義の味方を作る。そのために土台となるショッカーを作る。俺の考えに間違いはない」
悪の定義が一般的に地球で暮らす人命を脅かす者、あるいは害する者だとするのならば、俺の行いは悪か。答えは否だと断じる。
「何故ならば、仮面ライダーという正義の味方を生み出したんだ。その過程で何人死のうが、未来で救われる人間の数の方が多い」
俺の夢は仮面ライダーという存在をこの世界に君臨させること。そのために正義の味方が倒すべき敵を作るため、また明確な世界の敵から作られた存在という肩書きのためにショッカーを生み出した。何も無いところから仮面ライダーを作ってもそれはただ力を持ちすぎた怪物になってしまう。仮面ライダーは人間の自由のために戦うからこそ、正義の味方なのだ。
「人間の自由を脅かす存在といえばショッカーだ。この世界は悪人が多くても、悪人を束ねる首領がいない。だから組織が生まれない」
と、思っていたのだが、個性発現黎明期から生きている真の化け物がいた。そいつの下には忠誠を誓った者や、奴自らが個性を与えて手下とした改造人間に近いやつもいる。組織としての活動力は未知数にしても、この世界で素朴に生きる人々にとっては脅威に違いない。
さらには、まだ個性が「異能」と呼ばれた時代に異能の自由行使は人間として当然の権利と謳った解放主義者達によって結成された過激派組織も存在しているらしい。他にもヴィラン専門のブローカーや、個性を神からの授け物としてそれを日常生活から制限するということは神への冒涜とする宗教集団までいる。
要するに、ショッカーを作らずとも仮面ライダーが倒すにふさわしい敵はこの世界にも多く存在しているわけだ。しかし、先程の通り仮面ライダーには、望んでもいない強大な力を世界の敵から授けられてしまうというバックボーンがあってこそ光り輝くもの。
「世の中のヒーローが紛い物とは言わない。彼らは彼らで自分の責務を全うしている」
おかげで俺はすくすくと誰の邪魔も受けずにショッカーという組織を作りあげ、その大首領になることが出来たのだから。さて、先程誰の邪魔も受けずにと言ったが、訂正しよう。1人、個人的にかなり嫌いかつめんどくさいのがいる。
オールマイト、というよりは奴の個性に執着を見せているオールフォーワン。奴のおかげで個性を持たない素体を集めるのに苦労はなかったが、それはそれ。悪意なき悪意を持ちながらも自分を魔王と称して、悪の体現者を名乗る化け物は仮面ライダーの敵だ。
「一文字隼人。いや……仮面ライダー2号」
本郷猛、仮面ライダー1号と、なんならオールマイトや他のヒーローと力を合わせてもらっても構わない。個性は自然発生の力。それを奪い、全て扱えるというまるで平成ライダー10周年記念に出てきたディケイドや15周年記念に出てきたフィフティーン並の厄介さを持つ巨大な敵を打ち崩すのには、やはり正義の味方の力を結集してこそだ。
「お前はこれから、自由だ」
モニターの向こう側で脳改造の前に研究員たちを蹴り倒し、一文字隼人を救う仮面ライダー1号の姿を見て、口角が吊り上がる。これから2人がどんな道を歩むのか、どんな敵を倒すのか。俺はここから眺めているだけでいい。サボテグロン、ピラザウルスを初めとした2号に倒される予定の改造人間の製造は既に完了している。さらにはヨーロッパへと刺客を放ち、1号がそちらへと向かわざるを得ない状況を作り出し、倒された怪人たちの再生も順次進めている。
そして、全ての怪人が倒され、2号が1号並の経験値を積んだ時、仮面ライダーの名声はこの世界に轟いていることだろう。
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日本の東京。その山岳地帯においてサボテンが生えているという奇妙なニュースが飛び込んだのはオールマイトがナンバーワンヒーローの座を手に入れた3日後のことであった。国民栄誉賞を辞退し、ヒーローとして当たり前の事だと言って、最低限の賞与しか受け取らなかった男はこのニュースを単なるイタズラであろうと考えていた。
SNS発信のこのニュースは、誰かが意図的にサボテンを置いて、SNSでの地位確立やフォロワー稼ぎといった恣意的なものであろうと考えられていた。メキシコでは"メキシコの花"と呼ばれるサボテンに触れると、死に至るという怪奇現象が起きており、それに便乗するタチの悪い冗談だと思われた。しかし、最初の発信者である日下部という男は自宅にも勤め先にも顔を出しておらず、連絡が取れなくなっていた。
環境省は地元の調査員に命じて、サボテンの伐採と入手ルートの調査をさせた。しかし、いくら待ってもその結果は知らされることはなかった。不審に思った省庁の人間が警察やヒーローに呼びかけて、現場調査を依頼したところ、とんでもないことが起きていることが起こった。
「……い、今わかったぜ。なんで、これの発信者が見つからないのか。どうして調査員が戻ってこなかったか!」
警察官は震えながら、大声で無線機へと先程目の前で起こったことをありのまま伝えようとした。サボテンの周りに落ちていた携帯電話や、調査員の持ち込んだと思われる機器の数々。それらが放置されていたことを不審に思ったヒーローが、偶然サボテンに触れた瞬間、サボテンは爆ぜて飛び散り、瞬く間にそのヒーローの命を奪ったことを。
「こんなの、普通じゃねぇ! 爆弾型のサボテンを作る個性、もしくは触れた物を爆弾にするとか……と、とにかく分からねぇが、やばいのは間違いない! 野次馬とか、余計なのが来る前には、はやく、手を!」
無線機へと現在置かれている状況の奇異さを伝えようと必死に言葉を紡ぐ上司を見た後、部下の1人は先程自分とも交友のあったヒーローが散った場所へと視線を動かした。個性化社会が進んでいるとはいえ、ここまでの恐怖はいつ以来だろうか。触れれば爆発するサボテンなど、どう対処しろというのか。しかも、爆発の威力は凄まじく、4人の調査員らが全て死亡したと確信するのには十分な爆発力であった。自分も上司も遠巻きに見ていただけだというのに爆発の際に起きた衝撃波で身体の至る所に傷ができていた。
そんな彼らに絶望は絶えずやってくる。そう、死ぬまで。
「キキキーッ!」
突然地面から現れたのはサボテンと同じく深い緑色の肌をした人型のナニカ。警官はとても同じ人間だとは思えず、冷や汗を垂らしながら警棒を引き抜き、化け物へと問いかけた。
「な、なんだ、お前は!?」
「俺はサボテグロン! メキシコ支部での功績が認められ、日本侵略作戦の指揮を任された偉大なるショッカーの改造人間だ!」
「ショッ、ショッカーだと!?」
ショッカーといえば、数年前、都内の各所で少人数ではあるものの事件関係者に大きな傷跡を残していった悪の組織の名前であり、それもナンバーワンヒーローとなる前のオールマイトを始めとしたヒーローたちにより壊滅させられたと警官は聞いていた。しかし、実際は壊滅などさせられておらず、今日この日まで日本侵略の機会をうかがっていただけと知ると、警官は背筋が凍った。
「このっ!」
固まっていた警官の危機を救うため、無線での通信を切り上げた上司がピストルを構えて、セーフティを外し、発泡した。1発、2発、3発とデタラメに放った弾丸の1つはサボテグロンの肩部へと直撃するも、弾丸の硬度や威力をものともしない強化皮膚と人工筋肉で練られたサボテグロンのボディーに傷1つつけることも出来ずに弾かれた。
「ば、馬鹿な! この銃は45口径だぞ!?」
「キキ……ッ、その程度の武器で私が倒せるものか!」
今度はこちらの番だと、サボテグロンは手に持っているサボテンの棍棒を硬直して動けなくなっている警官へと振りかざした。
「避けろォーッ! 飯田ァー!」
上司の声は虚しくも棍棒によって骨と肉が裂かれる音の中に消えていき、飯田と呼ばれた警官は上半身が真っ二つに分かれて、血を垂れ流しながら悲鳴をあげる暇もなくこの世から絶命した。
「あ、あ、あぁ……い、い、いい……」
「次はお前だ」
飯田から浴びた返り血をふるい落とした棍棒を向けて、歩いてくるサボテグロンに警察官は膝を着いた。この怪物には地元ヒーローでは勝てないと。通報してから5分。場所の面もあってヒーローが来るには時間が足りなさすぎる。自分が助かったとしても、駆けつけたヒーローがどうなるかと考えると警察官は動悸が抑えられずにその場に蹲った。
「死ねぇっ!」
棍棒が振りかざされる。あぁ、俺の人生はこんな所で終わるのかと、家で待つ妻や息子と娘のことを思いながら、警察官は瞳を閉じた。
「ぐはがぁっ!?」
しかし、耳に届いたサボテグロンの驚きの声と、怪物の身体へと響いたキック音に警察官は顔を上げた。振り下ろされるはずだった棍棒と共にサボテグロンは何者かによって地面に倒され、代わりに立っていたのはヒーローでも警官でもない、黒のアンダーシャツに小麦色のノースリーブのジャケットを羽織った得体の知れない男だった。
「大丈夫かい、おまわりさん」
「あ……あ、あぁ……」
「そりゃよかった」
見たところ外傷は大したことないようで、恐怖によって汗をかきすぎて脱水症状の様子はあるがまだしばらくは大丈夫だろうと判断した青年は立ち上がってきたサボテグロンに視線を向けた。
「この俺を吹き飛ばすとは、何者だお前は」
「……」
サボテグロンの問いかけに対して、青年は口を閉ざしたまま1歩、1歩、サボテグロンの周りを歩きながら警察官が被害を受けないような位置に移動してから口を開く。
「ショッカーの敵、そして人類の味方」
青年の発した言葉に警察官は「それは……まさか」とある噂を思い出した。オールマイトと交流のある警察官が漏らしていたこの世の人々にまだ名前の知られていない存在。フルフェイスのマスクに、赤い複眼のような目と赤いマフラーが特徴的な、ショッカーを倒すために生まれてきたヒーロー。
「まさか、お前」
確か、その名前はと警察官が思い出そうとした時、青年が着ていたジャケットのファスナーを引き下ろした。
「お見せしよう! 仮面ライダー!」
2号、いいよね。
原作に入りたかったけど、2号の登場シーンはちゃんと書きたいよねって!