一通りの視察を終え、執務室に戻ってくる。鎮守府の大規模改装を行ってからが本当の勝負だ。装備を整えさせた艦娘達の訓練、飛行隊の戦力回復を図り深海棲艦どもを叩ける力を蓄えなければ。この改装により資材の半分は消費してしまうがそれでも十分に手元に残すことができる。作るばかりではなく装備の補修や弾薬補充にも資材は使うので無駄遣いはできない。考えなしに使っていくとあっという間だ。細かい計算は大淀がやってくれるので非常に助かる。というより私には恐らくできないだろう。しかし大淀ばかりにこういったことをやらせると負担は当然大きくなる。秘書の補佐をしてくれる艦娘がもう少しいればよいのだが。人員を増やそうか。と声をかけると私1人で十分ですよ。と書類に目を通しながら電卓をパチパチと弾いていた。
「待て待て。確かにお前の処理能力を見たところかなり優秀だというのはわかる。しかし1人で全てをやるとなると、休む日がなくなるではないか。非番の日ぐらいつくらないと休まるものも休まらない。ここは人数を増やし私や大淀がいない時でも回せるシステムをつくっていくぞ。」
大淀は書類から顔をあげ眼をパチパチとさせ、少し驚いたような顔をしていた。なんだその盲点でした。みたいな感じは。
「私たち艦娘は人間よりも丈夫にできているのでその点については心配ないですよ。それにお休みをもらっても何をすればいいのかわからないので。」
社畜魂全開のセリフを聞いてしまった。美人な上に優秀。そしてこの発言である。世の中のブラック企業の社長達が喜んでスカウトにくるだろう。しかしこの鎮守府の総括は私に変わったのだ。艦娘達の運用指揮官として、ある程度の権限は任されているとの事なので出来るだけ環境改善をしていかなければ。何より艦娘と同じペースで働くと私の体がもたない。私のためにもやらねばならぬ。休みの日ぐらいゆっくりしたいのだ。
「君たち艦娘にだって趣味とかあるはずだろう。それこそ甘味を食べてゆっくりするとか酒を飲んでぱーっとするとか。」
「佐賀山提督の時は休みなどなかったので。それに私たちは物を自由に買えるお金など渡されもしなかったので休みを頂いても本当にやることがないのです。もちろん外出することなどもできませんでした。なので気を紛らわせるために働くといった感じです。」
・・・外出禁止はまだなんとなくわかる。外出禁止であれば売店みたいなところがあり、そこで嗜好品や娯楽品を買うという方法をとればいいと思ったのだが視察してまわった時にはそのようなものはなかった。もしや存在しないのだろうか?となると帳簿にのっているこの艦娘の給料はどこに消えたのだ?だいたい察しはつくが。
「そんなことはないぞ大淀。これからは甘味処もできるようになったではないか。それにこの鎮守府施設内に売店を設けよう。君たち艦娘にも給料がでているではないか。安全のために複数人数で行動するなど条件付きではあるが、いずれ外出もできるようにしよう。細かい規約も決めていかないといけないがな。」
「給料・・ですか。それに売店。酒保のことですね。目立った戦果を上げていない私たち艦娘が頂いてもよろしいのですか?それに外出許可もいただけるなんて。」
「何と言おうと本部からは君たちには給料が出ている。それを受け取るのは当たり前だ。だが発言を聞くに手元には届いていないみたいだな。この金はどこに消えたか知っているかな?」
おそらく提督の部屋のどこかかもしれません。と言っていた。艦娘達の給料だが現金手渡しらしい。このご時世には珍しいな。だが佐賀山のとっていた戦闘方法では多くの艦娘が沈んでいく。いちいち囮のための艦娘に銀行口座など個別で用意していてはキリがないと判断したのだろう。おまけに艦娘には家族がいない。姉妹艦なるものはいるがそれは決して人間のような家族ではない。戦争で殉職した物の家族には多少のお金がはいるが、家族がいない艦娘が殉職したところで払う相手がいなければ払わなくてもいい。その影響もあるのか、囮作戦に踏み切ったというのもあるだろう。そしてその浮いたお金をため込んでいたというわけか。今日部屋に戻ったら探す必要があるな。しかし次から次に問題が出てくる。普段ならありえないと思うようなことも戦争という非常事態な環境が冷静な判断を奪っていくのだろうか。私もいずれ佐賀山のように狂気に飲まれていくのか。だがせめてこの艦娘達の上司として環境を整えてあげたい。できるうちにできるだけ。
「そろそろ日も暮れ腹も減ってきた。今日のところはここまでにしよう。その前に明日のことについて打ち合わせをしとかなければならないな。大淀、長門と赤城を呼んできてくれ。」
大淀に頼むと間もなく長門と赤城を連れて戻ってきた。綺麗な敬礼をしてくると、楽にしてくれと返し座らせる。思ったより帰ってくるのが早かったな。もう少し考える時間が欲しかったがまぁいい。
「3人とも聞いてくれ。私が君たちと出会った時のことを覚えているか?私は元のいた世界で寝て起きたらここにいた。いまだに一種の夢の可能性もあると思っているのだ。問題は私が今晩寝て明日起きた時だ。どこかに消えた佐賀山の意識がこの体に戻ってくる可能性も否定はきでない。そうなった時にどうするかということだ。」
3人の顔が青ざめていく。まさか、そんな、など口々にしている。希望の光が見えてきたときに再び前の環境に戻るかもしれないと言われればそうなるのは当たり前だ。
「ゆえに明日3人で執務室にきてくれ。合言葉をきめよう。その時の反応でどうなったかわかるようにしておこう。もし私真船ではなかった場合は申し訳ないがどうしようもない。だが私がこの世界にとどまっていた場合は力を貸してくれ。合言葉は―――――」
3人には脅すような言葉を言ってしまい申し訳なくなる。が私の意識が元の世界に戻ってしまう可能性も0ではないのだ。それを念頭に置いてもらわなければならない。にしても疲れた。今日は部屋に戻って早めに寝よう。せっかくだからレーションを食べてみるとするか。滅多にない経験だ。解散し部屋に戻ると室内に併設されているシャワーを浴びて部屋の捜索をする。思いのほかお金はあっさり見つかった。まぁいきなり大量の金が口座に振り込まれたら調査対象にもなるかもしれないからな。タンス預金するしかなかったのだろう。この金も上手く使っていかねばならないな。酒保や甘味処が完成したら配ってやろう。私は他人が使っていた布団に少し抵抗を感じながらも眠りについた。
起床ラッパが鎮守府内に響く。それぞれ身支度を終えた長門、赤城、大淀は緊張した様子で執務室の前に集まる。昨日はよく眠れなかったのだろう。少しだけ疲れているような顔を互いに指摘しあいながら小声で話す。
「もし提督が・・・真船提督がいなくなっていたらどうすればいいのでしょう。」
「私は信じている。提督は約束してくれたではないか。信じてこの扉をあけるしかないのだ。私が先陣をきる。任せろ。」
「そうですね。あの方を信じましょう。きっとあの人ならば。」
提督、長門だ失礼するとノック音の後に3人が入ってくる。入室許可を求めずに入ったことに入った後に気が付き自分でも知らず知らずに緊張していることが分かった。自覚したことよりさらに鼓動が高まっていく。落ち着くのだ長門よ!そう自分に言い聞かせ声をかける。
「本日の哨戒任務及び作戦の指示を。」
腕を机の上で組み考え込んでいる。そして立ち上がりゆっくりと口を開いた。この時提督からもたらされた言葉に私達3人の顔はきっと歓喜に満ち溢れていただろう。
「真船洋太郎が提督として○○鎮守府に着任する。これより艦隊の指揮に入る。」
提督が鎮守府に着任しました。これより艦隊の指揮に入ります。