海渡る願い   作:哨戒艦艇

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なるべくこまめに更新していきたいですね


第1話

 おそらくこの場にいる3人誰もが困惑していただろう。何せ自分の上司がいきなり記憶がないのだと言い出したら戸惑うに決まっている。無論私だってこの状況に頭が追いついてないのだ。勘弁してほしい。が、このまま黙っていても埒が明かないので私から話を切り出していく。

 

 

「言っておくが冗談ではない。君達の上司には悪いが、この体の主の名前はおろか君たちの名前すらわからないのだ。突然の事態に混乱しているとは思うが君たちの名前、そして今この体の主のこと、現在の状況を詳しく教えてはくれないか。頼む。」

 

 

 2人は顔を見合わせると、どうしたらいいのかわからないのか、あるいは私の言葉をまだ信用できてないのか黙り続けている。やがて意を決したのか、眼鏡の女性が私に語り掛けてきた。

 

 

「では改めて自己紹介をさせていただきます。軽巡洋艦、大淀です。この鎮守府では提督の秘書、補佐を務めております。」

 

 

大淀が会話の口火を切った事により彼女も多少は言いやすくはなったのだろう。続けて赤い袴姿の女性も続いてくれた。

 

 

「航空母艦、赤城です。空母機動部隊として艦載機を中心に戦闘を行っております。」

 

 

 先ほど言っていた『かんさいき』とはやはり戦闘機のことで間違いなかったのだろう。日本海軍にもそういえば赤城という空母があったような・・・名前も一致しているしなにか関係でもあるのだろうか?にしても大淀も名乗る前に軽巡洋艦といっていたな・・ここが海軍の基地だからそう名乗る決まりでもあるのかも知れない。

 

 

 「大淀と赤城だな。自己紹介ありがとう。そういえば私の自己紹介がまだだったな。私の名前は真船洋太郎という。よろしく頼む。」

 

 

 簡潔に自己紹介を終えた後、いくつか質問をするとにわかには信じられないような話ばかりだった。この世界では深海棲艦なるものが突然現れたという事。その不思議な力により当時圧倒的な軍事力を誇っていたアメリカ合衆国が戦いに敗れ世界の制海権を握られた事。そして程なくして自分たち艦娘なるものが現れ日夜世界の平和を守るために戦っているという事。あまりに話のスケールが大きすぎてついていけない。特撮映画にしようとしても1本じゃ収まりきれないぐらいだぞこの話は。ツッコミを自分の心の中で入れつつも、大淀に質問を投げかけ自分の中で整理していく。

 

 

 ここまでくると大淀はどこか確信が持てたようで、しかし恐る恐るこの話題を出してきた。

 

 

 「そして・・今現在提督が憑依?とでもいうのでしょうか・・?その体の主は佐賀山という名前で普段は提督と呼ばれています。」

 

 

 大淀とは対照的に赤城はいまだ困惑の表情がとれない様子だ。そんなに喋っていいのかと言わんばかりに大淀とこちらの顔を交互に伺いながら不安そうな顔をしている。赤城は意外と心配性なのだなと楽観的な考えにひたっていると大淀から続けられた話は聞くに堪えないものだった。

 

 

 この佐賀山なるものは艦娘がこの世に現れ始めてから艦娘を扱う特務部隊の責任者としてこの鎮守府に自ら着任願を出した。対深海棲艦として艦娘の力に期待した。ここで目覚ましい戦果をあげ、護国の英雄として名をあげえ本部に凱旋する算段だったのだが、実際は目立った戦果を挙げることができず、それどころか本部からは何故結果がでないのかと日々、誹謗の的になってたそうだ。その環境に段々耐えきれなくなった佐賀山のとった作戦は捨て身の作戦ともいえるべきものだった。艦娘にはいくつか区分分けがされているらしく、戦艦クラスから駆逐艦、潜水艦など作戦に合わせて様々おり、戦艦は火力がでるが動きが駆逐艦と比べてどうしても遅く被弾がしやすい。その分装甲が頑丈にできているのだが修理にそれなりの資材を使うらしく、(それでも現代兵器や艦艇に比べれば破格の安さで修理できるらしいのだが)被弾、修理を繰り返すと資材もバカにならない。そこで目を付けたのが駆逐艦だった。駆逐艦は戦艦と比べると安価で建造でき、なおかつ速度もでるので無茶がきくとのことで、建造したばかりの駆逐艦の艦娘を囮として前線に立たせることで、狙われている間に後方の高火力艦が敵を墜とすという漫画やゲームでしか実際にはみたことない作戦だった。ゲームなどでは囮として使っても心は痛まないが、この世界では実際に戦うのは艦娘である。ましてや非常に人間の姿に近い彼女たちだ。そして建造したてといえば新兵同然。初めての戦場に駆り出されてお前は囮だ。逃亡せず敵の前で攻撃をよけ続けろなど無茶な命令にもほどがある。そうして海に沈んでいく仲間を何人もみてきたと2人は涙ぐんだ声で語ってくれた。やはり特撮映画は1作では終わらなかったか・・しかも2作目は重い話ときた。どうしたもんかと悩みつつも、話はこれだけでは終わらない。

 

 この戦法は初めは一定の戦果を上げてはいたものの、相手側もこちらの作戦を学習したのかあるいは囮としてでてくる駆逐艦の動きになれたのか、簡単に沈められるようになり、思ったように戦果があがらなくなった。こうしてさらに本部につめられていくうちに限界が来たのだろう。本部にばれないように私利私欲に走るようになり、挙句には艦娘に手を出そうとしている所まできていたのだとか。確かにこれだけ見た目麗しい美女ばかりだとそっちに走ってしまうのもわからなくはない気がするが。決して羨ましいわけではない。私は節度はわきまえているつもりだ。なにせ大人だからな。

 

 大体状況を把握できたところで辛い状況の中、勇気をもって話してくれた2人に感謝の言葉をかけた。なるほど2人が最初に言い淀んでいたのもわかる。私が記憶をなくしたといった時、パワハラセクハラ上司がいきなり無理難題なことをまた言ってきたとおそらく思ったのだろう。機嫌を損ねるとどうなるかわからない。地雷原の中を無理やり歩かせるような行為に等しいことをさせてしまった。後で何かお詫びでもせねばなと思いつつ、改めて部屋を見回すと何やら部屋の本棚の近くにもぞもぞとなにか小さいものが動いている。目を凝らしてみると小人のような形をした人?がこちらをちらちらと覗いては隠れを繰り返していた。もう何があっても驚くまい。自分に言い聞かせながら私の視線に気づいた大淀が話しかけてきた。

 

 

 「提督?いかがされたのですか?」

 

 

 「大淀よ・・この世界には小人?妖精?みたいな物は存在するのか?」

 

 

 この言葉を聞いた2人はおそらく今日一番の反応を見せた。

 

 

 「提督は妖精がみえるのですか!!?」

 

 

 見えるも何もそこにいるのだから見えているのだ。あと私は提督じゃない。ただのサラリーマンだ。再び目が合った妖精とやらは本棚にシュッと隠れてしまった。シャイなのか?

 




人物の名前を考えるのが一番悩みました。
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