直すことができないということはそれほど艤装の損傷がひどかったということか。こればかりはどうしようもない。明石に後でそちらに出向く。と内線を切り気持ちを一旦落ち着かせる。赤城はなんとか加賀を励まそうと入渠施設でひとまず体の古傷をいやしましょうと話題をそらし、気を使っているのがわかる。
「ひとまずは赤城の言う通り入渠施設を利用して体を癒すといい。それから詳しいことを明石に説明してもらってもおそくはないだろう。赤城は加賀を入渠施設につれていってくれ。」
かしこまりました。と敬礼をした後に加賀を連れて執務室から去って行った。残った大淀と加賀の対応について話す時間もほしい。簡単な執務をこなしつつ、大淀と今後の対応について情報交換をおこなう。
「艤装が完全に直らないというのはどの程度のラインによるかですね。完全に、と言っていたので、ある程度は運用可能とは思いますが、以前のような活躍は期待できない可能性が高そうですね・・」
「ああ。だがしかし完全復帰とまではいかなくても、パイロット育成の訓練や哨戒任務などできることは沢山ある。それに執務の補佐だって探していたところだ。道はいくらでもあるさ。だが問題は加賀自身のプライドだ。赤城も誇り高い部分がある。恐らく加賀もそうだろう。一航戦という看板がそうさせているのだろう。仮にダメだったときに、自分の現状と向き合い、納得できるかどうかだな。」
そうですね。と大淀は神妙な面持ちで相槌をうつ。なんにせよ今は入渠施設に向かった赤城と加賀を待つとしよう。その間にできることをせねばな。いつもそばにいる妖精も今回ばかりは陽気な雰囲気は鳴りを潜め、悲しそうな顔をしている。大丈夫さ。と頭を撫でてあげるも、いつものようにご機嫌になることはなかった姿をみて、私の不安な心は晴れることがなかった。
「ごめんなさいね。赤城さん。気を使ってもらって。」
「いえ!そんなことないですよ。後で詳しい話を提督と一緒に明石さんに聞きにいきましょう。まずは体の方を癒してから。ですよ。」
赤城が加賀を抱えて風呂につかっていく。艦娘はある程度この特別な風呂に浸かってしばらくすると体の傷を癒すことができる。私がいない間にこんな立派な施設ができていたのね。赤城さんが言っていた通り、これは気持ちのいいものだわ。この時ばかりは先ほどの悪い知らせのことを忘れ、ゆっくりすることができた。それから2人でいろいろな話をした。新しい艦載機を提督が配備してくれたこと。食堂の他に酒保が近日できること。甘味処もできること。部屋も新しくなっていること。話題はつきなかった。秘密にかくまわれていたので、長々と毎日会話ができなかったのだろう。昼間の入渠という貸し切り状態のおかげもあってか、この時の2人は会話を純粋に楽しめた。艦娘という使命を忘れて。
少しばかりの時間がたち、そろそろいいだろうと赤城が加賀に上がりましょう。と声をかける。そう言って赤城は立ち上がり、浴場からでようとすると、後ろから赤城を呼び止める声がする。どうしたんですか?加賀さん。振り返ると背を向けたまま動かない加賀の姿があった。
「ごめんなさい。赤城さん。私はもう力になれそうにないわ。」
背中越しから聞こえた少し震えた声が聞こえた。その時の私はただただ立ち尽くすことしかできなかった。
「何っ!?入渠しても加賀の体は元にもどらなかったというのか!!」
はい。申し訳ありません。と赤城は泣きながら返事をする。艤装だけでなく、体まで治らないのは想定外だった。一体どういうことなのか。加賀はただただ申し訳ありません。と力なくうつむいていた。適切な治療が遅れたことが今回の原因となったのやもしれない。人間だって骨折したときに適切な治療を行わなければ正常な位置にくっつかないまま治り、痛みが後遺症となって残ってしまうパターンもあるという。恐らくその類だろう。正常ではない状態で傷が癒えてしまい、それを体がすでに正常状態だと受け入れてしまってるので手の施しようがないのだ。佐賀山がもっと早く治療を行っていれば。だが後悔したところで何も始まらない。私がしっかりしないでどうするのだ。
「そうか・・・艤装はある程度直ったという。確認のために工廠に向かうとするぞ。泣いている暇はない。仮に艦娘として戦場に立てなくなったとしても、君には任せたい仕事がいくつかある。そう気を落とすな。というのは気安い言葉かもしれんが、私は君の力を必要としているのは間違いない。では向かうとするぞ。」
そう声をかけ、立ち上がり執務室を皆で後にする。加賀はありがとうございます。提督。と感謝の言葉を述べていた。心なしか調子を取り戻した様子でほっとした。なにも漫画のようにすべてが上手くいくわけではない。ありのままの現実を受け止め、のりこえていくしかないのだ。
「お待ちしておりました。提督。」
工廠につくと、早速明石に加賀の艤装の場所に案内された。艤装も隠していたようで、私がこの鎮守府にやってきた時に引っ張り出し、修理を行っていたのだという。だが結果は先ほどの通りだ。そして明石から説明を受ける。
「艤装についてですが、運用自体は可能となっています。ですが、搭載できる艦載機の減少と速度の低下、この二つはどうしても避けることができません。当時の損傷がひどく、この状態にまでしか持ってくることしかできませんでした。申し訳ありません。」
そんなことない。よくやってくれた。とねぎらい、加賀に艤装をつけてみるか?と声をかける。だが本人がたちあがることができないのに果たしてつけることができるのだろうか?と疑問に思いつつも、返ってきた返事はやります。の一言だった。加賀はなんとかまわりの者に手を貸してもらいながら立ち上がると、機械によって艤装を取り付けられていく。そして完全に装着して少ししてから赤城が支えを外すとそこには出撃所の水面に自らの足で立つ加賀の姿だった。赤城は感極まって泣いている。立っている。自分の力だけで立っているのだ。小さな声でやりました。と加賀はつぶやくと、私の方を向いて深々とお辞儀をしていた。気にするな。と声をかけ、試しに湾の入り口で調子を確認してきたらどうだ。と提案するとうれしそうにはいっ。と笑顔で返事をしていた。赤城も私も付き添いたいので艤装の装着の許可を。と言ってきたのでもちろんだ。と了承すると、赤城はお礼をいうと早速艤装を装着していた。緊急出撃要請をうけたパイロット妖精達が何事かとわらわらと現れると。見慣れない者が1人増えていることに気が付いた。そして口々に喋りだす。
『か・・艦長!!!艦長がいるぞ!どういうことだ?亡くなったはずなのでは?本当に艦長なんですかい!?』
『見間違えるはずがねぇ!理由はどうあれ戻ってきたんだ!よくぞご無事で・・!』
「色々あったけど、こうして再び戦場に立つことができそうです。今まで秘密にしていてごめんなさいね。貴方たち。」
『いえ!めっそうもありません。こうして艦長が戻ってきてくれただけで・・・!!我々加賀隊はこれ以上の何を望みましょうや!』
加賀隊のパイロットたちは自分達の艦長であり、母艦ともいえる加賀の帰還に沸いていた。なかには男泣きをしているものもいる。感動の再会とはまさにこのことだ。しかしずっとわんわんと泣いていては何も始まらない。私は咳払いをすると手をパンパンと叩き、この場を一旦仕切りなおそうと音頭をとる。
「感動の再会もいいが、今は後にしてくれ。加賀が今から復帰のために走行テストや艦載機の発着訓練を行う。故に君たちを呼んでもらったのだ。ただし加賀の艤装は完全に修復できなかったので搭載できる艦載機の数に限りがあるのと速度が以前よりもでないようになっている。そのことを踏まえたうえで再び加賀と戦いたいというものは乗り込んでくれ。加賀隊のパイロット達は赤城隊の者たちから聞いてはいると思うが、艦載機は以前の旧式から彗星など新型にきりかわっているためその操作訓練もかねるように。私からは以上だ。」
そう言い切ると同時に加賀隊の者は誰一人欠けることなく再びともに戦います!と志願していた。加賀はありがとうあなたたち。というとほほ笑んでいる。だが搭載できる艦載機の数は限りがある。どうするのかという問いかけに対して妖精達は自分がたとえ操縦できなくても加賀に乗り込み戦うと言っていた。皆加賀を慕っているのがわかる。よい部下に恵まれたな。と加賀に声をかけると、私もよい上司にめぐりあえたようです。と返してきた。私はどうやら美人からのお世辞になれていないらしい。恥ずかしくなり帽子を深々と被りなおすと、妖精達に乗船命令をだすと妖精達は艦載機とともに光となって腰元の矢筒に収まっていく。赤城隊も準備を終えると2人は並んで訓練海域に出撃していった。あの様子をみるに彼女に執務の補佐をさせるのは到底無理な話だったな。と思いながら工廠をあとにし執務に戻った。
全盛期までとはいえないが復帰を果たした加賀。最近ついつい文字数が多くなってしまい、更新がおくれてしまいそうになります。