「今日の訓練きつかったねぇ~。私倒れるかと思っちゃったよ。」
入渠施設で汗を流し、皆で風呂に浸かりながら今日の訓練内容について振り返っていた。吹雪の言葉を皮切りに皆次々に疲れただのやばかったっぽいだの意見を言っていた。
確かに今日の訓練はすごかった。初めての本格的な訓練ということで神通や川内も多少気合いが入っていたのもあるだろうが、それでも想像以上のものだった。あの優しい神通が鬼のような厳しさで指導してくるので思わず別人ではないかと思ったくらいだ。演習用の近海で敵を想定した的を浮かべ撃ち抜く訓練をしたり、陣形変更の訓練をしたりと大忙しだった。射撃を外しようものならもっと訓練が必要ですね。とにっこり微笑みながら訓練量を増やしていく。あまりの内容の過酷さにお昼ご飯がでてきてしまいそうになったほどだ。明日からこんな訓練が続くのか。と思うとぶるぶると身の毛がよだつ思いだ。お風呂につかっているのに震えるなんておかしな話だ。と思いつつ吹雪は自分の出した話題でテンションがさがりつつある一行に申し訳なさを感じていると、その空気を読んだのか、あるいは深く考えていないのか夕立が晩御飯のことについて語りだした。
風呂に入る前に食堂のメニューを確認に行ったところ、今日はちゃんぽん、というものらしい。すごいいい匂いがしたっぽいと興奮気味に話していた。訓練はきついがその分ご飯もおいしくなった。なにより布団でぐっすりと眠ることができる。前よりもずっとずっと1日が充実していてあっという間だ。皆で楽しみだねとわいわいしながら風呂を後にし、食堂に向かう。食堂につくと、夕立の言う通り、とてもいい匂いだ。もっと強くなるためにはご飯もいっぱいたべなきゃね!と大盛りへの大義名分を掲げ、注文していくのであった。
「長門から少しだけ話を伺っております。まるで人格が入れ替わったようだとか。私もご飯をご一緒してもよろしいのでしょうか?」
一方そのころ、真船は陸奥と呼ばれる長門と同じぐらいの背丈をした茶色のショートカットの女性と話していた。
このやりとりも飽きてきたな。長門の姉妹艦であれば話しても問題なかろう。しかし自分の秘密のセキュリティ管理はガバガバだ。と思いつつ、長門と陸奥を自分の部屋に招き入れ、陸奥に事情を話す。そういうことだったのね。と陸奥が納得した様子でうなずいていた。
「道理で長門がここ数日元気になったと思っていたのよね。それに提督と話すときも前よりフランクになっていたし。あっ、私もこの話言葉で大丈夫かしら?」
とフレンドリーな感じで話しかけてきた。長門よりも落ち着いた雰囲気だ。お姉さんといった感じか。かまわんよ。と返事をすると、ありがとっ。とウインクをしながらお礼をいってくる。なかなか茶目っ気もある感じだな。だが公の場ではしっかりと頼むぞ、と念を押すとわかっているわ。しっかり場をわきまえないとね。と理解してくれた。TPOはわきまえてくれてるみたいで安心した。では向かうとするか、と仕切りなおすと部屋を後にし、食堂に向かう。
食堂につくと、メニューを確認し列に並ぶ。相変わらず私がくると、少しばかりピリッとした空気になるが、そこは我慢してもらおう。私だってお腹は減るのだ。早く食べて去っていくので許せ。と心の中で謝ると、久しぶりのちゃんぽんに心躍らせるのであった。配膳を受け取りいつもの席につくと、長門と陸奥も私に続いて着席した。いただきます。の声が重なると3人で麺と野菜を同時に口に運び舌鼓をうつ。うん。今日もおいしい。
「提督のおかげでこうやっておいしい食事をとることができて感謝しているわ。ありがと。 」
食べながら陸奥がお礼を言ってくる。グッとくるシチュエーションに少しだけドキドキしつつも、礼なら間宮や伊良湖に言ってやれと返事を返す。色気ある女性にこういった風にいわれるのはやはり慣れないものだ。どぎまぎがばれないようつとめていると長門が私も感謝しているぞ提督よ。と長門も後に続いた。気にするな。と声をかけ、少しずつ他愛もない会話を続けることで長門と陸奥の性格が少しずつ分かり、打ち解けてきたような気がした。やがて食べ終わると、長門がおかわりをしにいくぞ。陸奥よ!と勇ましく厨房のカウンターにどんぶりを持って歩いて行った。陸奥は提督の前ではしたないわよ。と注意しつつも、背に腹は代えられないと自分もおかわりしに行った。どうやら艦娘というのは、体が大きいものは大食の傾向があるらしい。私は先に戻っているぞとお盆をさげ、部屋に戻る。この前みたいに新たな乱入者がくるのはごめんだ。部屋にもどるとゆっくりとくつろぎながら考える。
私がこの世界にきてから数日がたったが。元の肉体はどうなったのだろうか?死んだのか?それとも佐賀山と入れ替わりになっているのか。正解はわからず、疑問は深まるばかりだ。しかし今はあの子達のためにできることをやっていくだけだ。布団に寝転がると、近くに現れた妖精たちをつんつんとつつきながらあやしているといつもまにか眠りにおちていった。
「今日の訓練ちょっと厳しすぎじゃなかった?初日からあんな張り切ってるとみんなついていけないよ?」
電気が消えた暗闇の中、布団にくるまれながら妹に話しかける川内。今日の神通は鬼気迫るものがあった。これが妹なのか。何度も確認したぐらいだ。いつもは大人しい神通があんなに熱い性格をしているとは思ってもいなかった。だがあれでは皆がついてこれない。やりすぎだと諭すと神通からはいえ、と反対の言葉がでてきた。
「このままではダメです。提督は私たちを信頼し、新しい装備を授けてくださりました。以前の戦いは空母の援護あってのもの。今後は戦いも激しくなり、援護を見込めない時も多々でてくるでしょう。そうなった時に敗れてしまうことがあってはならないのです。戦場での負けは死につながります。あの子たちは今苦しい思いをしてこの訓練を乗り越えていけば、きっと次につながるはずです。何もできないまま残されていく悲しみは姉さんも知っているでしょう?抗う力を、戦う力を皆につけてもらわなければ。そのために私は鬼になる覚悟です。」
何も言い返せない。那珂が沈んだ時の自分の無力さを思い出してしまった。そうだ。あんな思いはもうごめんだ。嫌われてもいい。あんな思いをこれ以上、下の者たちにさせないようにしなければ。明日も頑張ろうね、神通と声をかけ目をつむる。はい。お休みなさい。姉さんと返ってくると2人はどちらからともなく寝付いていくのであった。
史実でも神通の訓練の激しさは有名だったそうですね。華の二水戦と呼ばれる裏にはどれほどの努力があったのでしょう。