訓練から戻ってきた空母組は艤装を外すとそのまま食堂に向かっていった。艦載機のパイロット達も工廠組の整備兵と点検を行い、愛機に異常がないか入念にチェックしていた。点検が終わると、それぞれのパイロット達は反省会でもしてるのか、五航戦のパイロット達は一航戦の先輩達から指導を受けていた。夕張と明石は微笑ましく見守りながら私たちも今日はあがりにしましょ、とキリのいいところであがって食堂に向かっていく。パイロット妖精達も続きは飯を食いながらだな。と同じように工廠を去って行った。
食堂ではいつものように列をつくり、自分の分の料理がまわってくるのを今か今かと待ち望んでいる艦娘でにぎわっていた。しかし最近は食事以外にも楽しみが増えた艦娘も多いことだろう。その理由は食堂の隣にあるこの施設であることを皆が知っている。少し前に酒保がついに開設されたのだ。酒保の開設数日前に提督から簡単な説明があり、給与が配布され、その給与で好きな物を買っていいとの事だった。当時は訳が分からず、物は試しでと皆それぞれ酒保に入って物色していたのだが、間宮や伊良湖の菓子が置いてあるのを見つけると、我先にと殺到しはじめたのだった。今では小腹がすいた時のためのお菓子やジュース、雑誌などを買って部屋でそれぞれ楽しむものが増えていた。勿論一番人気は間宮のお菓子だ。毎日のように売り切れては食事をそれぞれの艦娘に渡すときに明日のショーケースには何が並ぶのか。という質問ばかり受けるほどだ。初めは少なかった種類も、今は当時の倍以上の数が並んでいる。忙しい時は鳳翔も厨房でてつだってくれるようになり、間宮達のお菓子作りは捗っていた。鳳翔さまさまである。
「相変わらず、すごい人気だな。だがあれだけ皆が群がるのもわかる。確かに間宮の菓子はおいしかった。」
「私もあんなにおいしいものだとは思ってもいませんでした。頂いた給与がこのままだとあっという間になくなってしまいそうです。」
大淀と食事を共にしている私は、大繁盛している酒保を眺めながら食事をとる。ふとまわりを見渡すと、視線の先には羨ましそうに酒保を眺めながら食事の配膳をまつ長門がいた。そういえばあいつは菓子のことになるとやけにテンションが上がっていたな。長門の隣にいる陸奥がなにやら酒保の方を向きながら喋っているが、長門は何か迷っている様子だ。何を悩んでいるのかはわからないが、買いに行きづらい雰囲気に困っているのだろうか。そんな風に推測していると、お盆をもった陸奥がこちらをみつけると、嬉しそうに近寄ってきた。こうなるともう逃げられない。半分まで進んだ食事の食べるペースを落としながら長門と陸奥を出迎えた。
「提督、大淀お邪魔するわね。なんか長門が悩んでるみたいで相談に乗ってあげてくれない?」
「そんなことはないぞ陸奥よ・・ただ・・その・・あれなのだ・・うむ。」
明らかにそんなことありそうな言い草をしているのに思わず笑ってしまった私は、どうした。言ってみろと悩みを打ち明けるように促した。長門の話を要約すると、私自身も甘いものが好きなのだが、駆逐艦の者達が群がっている中に入っていきづらい。なおかつあれだけ不憫な思いをしながらも、最近少しずつ力をつけて頑張っている者達から楽しみを奪ってしまうのは忍びないとのことだった。何とも優しいやつだ。だがお前だって頑張っているんだ。自分への褒美をあげてもいいだろう。と訴えながら食事を終える。長門と陸奥は食事のペースが早く、私と同じタイミングで完食していた。
「ちょうどいいタイミングで食べ終わったな。私もたまには甘いものが食べたいものだ。酒保に並ぶとするか。長門よついてこい。」
昨日も執務中の休憩時に妖精達と食べていたじゃないですか。と小声でつぶやく大淀とそれにあらあら。とほほ笑む陸奥。うるさい私だって食べたいのだ。戸惑う長門を引き連れて酒保に入る。中に入ってみると、意外に広くて驚く。今までは大淀にお使いを頼んでいたので今回入るのが実は初めてだったりする。予想もしない入店者に先に入っていた艦娘達は一瞬驚くも、すぐに敬礼をしてくる。気にするなと声をかけると、再び目当てのものを物色していた。最近は私が無害なことに気が付いたのか、以前よりもまわりの反応が和らいでいた。それでも一部の者以外からは声をかけてもらえないのだが。
目当てのショーケースの前にくると、所狭しと並んでいるケーキが飛ぶように売れていた。以前鳳翔が許可をとりにきたので予想外にいそがしかったのだろう。非番の者が鳳翔の酒保の手伝いもおこなっているようだ。今日は白雪が手伝いとしてショーケースの向こう側に立っている。長門さんと提督は珍しいねとまわりで声が聞こえるのが恥ずかしいのか、長門は引き返そうとしている。そんな長門をしり目に私は近くにいた子に声をかける。確かこの子は夕立といったはずだ。ちょっと時間をもらってもいいか?と聞くと声をかけられるとは思っていなかったのだろう。はっとかしこまった様子だった。
「なに。そんなにかしこまる必要もないさ。今は業務外だから気楽にしてくれていい。相談というまでの内容でもないのだがな。ここにいる長門はたいそう甘いものが好きでな。自分も甘味が食べたいのだが、君達から楽しみを奪うのは忍びないと我慢しているそうなのだ。だが長門だって君たちのために頑張っているのは知っているだろう?だからこれからは長門がここにやってきたら一緒に甘味を選んだり、最新作について話したりと仲良くしてほしいのだ。どうだ?お願いできるか?」
そういうと夕立はわかったっぽっ・・・と言いかけたところを了解しました!と言い直して敬礼していた。敬礼はもうさっきしたからしなくていいんだぞ。と諭し、あとさきほども言ったが業務外だから堅苦しい言葉遣いはなしで頼む。というとわかったっぽい。とおそるおそるながら言ってきた。その返事に満足した私は、ではまわりの者も頼むぞ。と言い酒保をあとにした。
駆逐艦の者達がぞろぞろと集まり、長門に声をかける。長門さん甘い物すきなんだね!これがおいしいですよ!と集中砲火を浴びていた。長門はいつも凛々しく、堂々としているイメージがあったため、気軽に話かけづらい雰囲気があったようだ。ところが共通の趣味があると分かった途端、この話題を皮切りにみんなが寄ってきてくれた。駆逐艦の者達もどうせなら仲良くしたい。という気持ちがあったのだろう。質問攻めにあい、少し恥ずかしくなる長門だがこれからは堂々と酒保にはいり、甘味を買うことができる、なによりこれまでどこか距離を感じていた下の者達からこんな風に話しかけてもらえ、これほど喜ばしいことはない。提督にまた借りができたな。と思いつつ、わいわいと素敵な時間を過ごすのだった。
「結局お菓子は買ってこれなかったのですね。」
「そういう流れになってしまったのだ。悪いがまた今度買ってきてくれるか。」
はい。了解しました。と快く快諾してくれた大淀としょうがない人ね。とため息をつきながらやれやれ、と笑っている陸奥のところに戻った私は食堂で解散し、1人悔しい思いをしながら部屋に戻るのであった。
戦時中の人気艦といえば長門。子供たちから大人気だったみたいですね。大和型は秘匿されながら建造されたため、そもそも認知度がなかったとか。現代では戦艦=大和。時代は変わっていくものです。
通算UAが10000をいつのまにか突破していました。UAが何を意味するのか正直わかりませんが読者の方という認識でよいのでしょうか。なんにせよありがたい限りです。