「私としたことが情けないものだ。」
日向は訓練に出ていく皆を伊勢と一緒に見送りながらため息をつく。先の艦隊決戦で勝利したはいいものの、艤装をひどくやられてしまった。沢山の艦娘が一斉に出撃したのだ。色々な艦娘の艤装が損傷したため、工廠は今日もフル稼働で艤装の修理を行っている。これに加えて失われた艦載機の開発や装備のメンテナンスなども行わなければならない。いくら妖精の力を借りているとはいえ、人手が全く足りていない状態だ。戦艦の艤装は大きく、修理する箇所も多い。損傷が大きければさらに時間がかかる。日向は自分の艤装が直るまで待ちぼうけとなった訳だ。同じく艤装が損傷して海上での訓練ができない伊勢が仕方ないわよ日向。と慰めの言葉をかけてくれたものの、悔しい気持ちは収まらなかった。同じ戦艦の長門と陸奥は流石というべきか、大きな損傷は避けながら戦い、最後まで陣頭指揮を執り続けていた。もし、仮に。自分が旗艦をあの時任されていた場合、旗艦がやられてしまった艦隊は大きな混乱状態になっていただろう。これから艦隊の人数も増え、そのうち旗艦を任されることもあるかもしれない。そうなった時にあのようなことに二度とならないようにしなければ。今はただ艤装が直るのを待っているだけの自分の情けなさにため息をつきながら海を見つめる。眺めた先の海では水上機母艦達がなにやら艦載機らしきものを飛ばして訓練をしている。艦載機か。我々戦艦とは無縁のものだな。だが後学のためにも見学でもしようか。そう思っていると伊勢も同じ気持ちだったのか、せっかくだから見に行こうよ。と誘ってきた。仕方ない。見にこうではないか。
「千歳お姉ぇ、いっぱい訓練して私たちも戦場で活躍できるにならないとね!」
「一緒に頑張りましょう千代田。せっかく装備を提督から頂けたんですもの。皆に負けないように訓練していきましょ。」
千歳と千代田は港近くの演習場で訓練に励んでいた。今まで水上機母艦という艦には装備が与えられず、出撃さえさせてもらえなかった。だが最近は装備をもらえ戦力として出撃、出番が増えつつある。そして今回新しく配備されたこの瑞雲という水上機。これはなかなかの優れもののようだ。偵察と爆撃の両立ができ、性能自体もそれなりに高い。パイロット妖精たちも本当は戦闘をしたかったのだろう。偵察だけでなくこれで戦闘もできるぜと意気込みながら訓練を行っている。あまり無理をしないようにね。とパイロット達に声をかけると、ふと視線にきがつく。振り返る先には港近くに立っている伊勢と日向が見える。なにか用事でもあるのかと思い、訓練を一時中断して千代田共々近づいていく。
「ごめんなさいね。やることなくって見学にきちゃったの。気にしないで続けてちょうだい。」
「そうだったんですね。私たちも新しい水上機を配備されてそのテスト飛行をしていた所でした。なかなかいい機体のようでパイロット達もはしゃいでて困ってます。」
伊勢と千歳が会話をしている間、日向は空を飛ぶ水上機を見つめていた。そして盛り上がっている二人をしり目に暇そうな千代田に声をかけた。
「千代田よ。あの水上機は戦闘もある程度こなせるのか?」
「はい。瑞雲といって偵察、戦闘、艦爆の統合を図った機体だそうですよ。」
瑞雲。何故かはわからないが胸にストンとおちるいい名前だ。艦載機とはまた違ったあの形。気になるな。千代田にお願いし間近で瑞雲をみせてもらう。ふむ。愛らしい形をしているではないか。この丸っこいフォルム。そしてフロート部分。あまり艦載機に興味はなかったが、この水上機、瑞雲は気に入った。まぁだからといって私は戦艦だからおもに偵察目的以外でつかうことはないのだがな。妙に興奮してきた気持ちを落ち着かせるために自分に落ち着くよう言い聞かせ、見学を続ける。やがて訓練を終えた二人から帰投しますと伝えられると、今日のお昼なにかな?と伊勢が歩きながら問いかけてくる。しかし彼女の頭の中は昼食のことなど欠片も気にしてはいなかった。
食堂に到着すると相変わらず混んでいた。皆食べる時間帯が同じだからしょうがないと言えばしょうがないのだが。列に並ぶとほどなくして後ろから足音が聞こえる。そして自分の後ろで足音が止まった。提督だ。挨拶をすると艤装を修理中だからやることがないみたいだな。今はしっかり休んで直ったらまたしっかり頼むぞ。と優しく声をかけてくれた。同じ人物なのに以前の提督とは大違いだ。近寄りがたい雰囲気は消え、こうして食堂にも現れるようになった。まだ少し緊張してしまうが、今ではそれなりに話せるようになった。そうだ。せっかくだし今日の朝のことでも話すか。そう思っていると伊勢が提督にいつのまにか話しかけていた。
「提督、今日の千歳、千代田の訓練の様子をみてたんですけど、日向ったらずっと瑞雲のことみてたんですよ。途中から私が話しかけても上の空。あんな日向初めてみました。」
「瑞雲か。工廠組が開発したから是非使ってくれといってきてな。偵察機なのか爆撃機なのかよくわからんがパイロット妖精達にはどうやら好評らしいな。」
伊勢の奴恥ずかしいことを。これでは私が瑞雲に夢中みたいではないか。私は物珍しさにみていただけなのだ。そんなことはない。と否定するもとぼけちゃってぇ~と伊勢にヒジでくいくいっとされる。むむむ。少し成敗してやる必要があるな。
「ははは。日向は瑞雲が気に入ったみたいだな。確かに戦艦が爆撃機などを積むことができれば、一人で空中と海上から立体的に攻撃できて面白いかもしれないな。」
その時日向に衝撃が走った。瑞雲を私が飛ばす?その発想はなかった。だが提督の言った通り、普通の偵察機ではなく、瑞雲ならば弾着もしつつ、爆撃もできる。そして私自身も砲撃が可能。艦載機を放って突撃。これだ!!!昼食を受け取り席に着くと、日向は一緒にご飯をどうだろうか。と席に招き、自分の思いのたけを熱く語った。余りの情熱っぷりに伊勢も日向ってこんな一面があったのね。と驚いていた。
「日向落ち着け。わかった。まずはご飯を一旦食べ終えよう。その後執務室に二人ともくるように。話の続きはそこでしよう。」
ヒートアップしていたことにようやく気が付き、少し恥ずかしくなる日向。だがさきほどの提督の言葉がきっかけでなにかに目覚めてしまったかのように吹っ切れた日向。こうなった彼女をもはや何人たりとも止めることはできないのであった。
ご飯とみそ汁。パンとバター。日向と瑞雲。出会うべくして出会った二人?