海渡る願い   作:哨戒艦艇

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仕事もひと段落ついたので更新も捗ります。


第51話

 『おい聞いたか?今度朝潮と吹雪がそれぞれ旗艦となって模擬戦やるらしいぞ。』

 

 

 『なんだそりゃ?川内や神通じゃなくて?いったどういう経緯でそうなったんだ?』

 

 

 『なんでも今度漁業関係者の方がここに視察にくるらしくてな。その時に護衛船団の旗艦となるのが朝潮と吹雪らしい。』

 

 

 『なるほどな。なんとなく流れがつかめたぜ。』

 

 

 妖精達はわいわいと集まって話に夢中になっていた。それぞれ魚雷磨きや戦闘機の整備はなかなかはかどっていない様子。鎮守府の話題は艦娘も妖精たちもこの話題でもちきりだった。数少ない娯楽が目の前に転がり込んできたのだ。上からは賭博は禁止されていたが、それでも陰で行われるのは間違いないだろう。仮にばれたとしても金をかけたりしていないので罰は下ったりしないだろうという思いが皆の中にはあった。真船は優しいのできっと許してくれるというのが皆の共通の認識だった。悪くいえば甘いともいう。

 

 

 『お前ら言っておくが、かけ事は禁止だからな。ばれたら俺まで怒られるから勘弁しろよ。』

 

 

 『とはいっても整備兵長もなんだかんだ言って山張ってるんでしょ?どっちにかけたんです?』

 

 

 『・・・朝潮に酒三日分をかけた。』

 

 

 『朝潮ですかい。私も朝潮に賭けましたよ!こいつは吹雪に賭けるって言ったんで演習の日が待ち遠しいですな!』

 

 

 それぞれがどっちが勝つだの言質をとっただのと盛り上がっている。もはや整備などそっちのけ状態になっていた。視線が気になり一人の整備妖精が気が付いて振り返ってみると腕を組みながら自分達の上官である特務少尉が腕を組みながら無言で様子を眺めていた。慌てて皆敬礼をするが時すでに遅し。お叱りの言葉を受けたのは言うまでもない。

 

 

 

 

 「こんな・・訓練厳しかったっけ?・・」

 

 

 ぼそっと吹雪が呟く。旗艦を務めることになって数日間の訓練は普段の訓練に加え、旗艦としての行動や心構えについて教授してもらっているので厳しかったが、それでもなんとかこなせる量の訓練だった。ところが今日は違う。前にもまして厳しいような気がしてならなかった。

 

 

 「ちょっと・・きついかも・・です・・」

 

 

 吹雪の指揮下にはいる予定の綾波や皐月、文月もへばっている。

 

 

 「そんなんじゃあっという間に連携崩されちゃうけどそれでいいの?負けちゃうよ?やるからには勝つ!」

 

 

 いつにもまして気合い十分な川内。一体なにが彼女をここまで駆り立てたのか。今しごかれている駆逐艦達は食らいついていくのに必死だ。その様子はさながら初訓練の時を彷彿させる。息も絶え絶えなんとか訓練を終えると帰投し、艤装を外し妖精達とともに点検を終える。寮に戻ると着替えを手にして入渠施設に向かう。体を洗い流し終えて風呂に浸かるとそれぞれふぅ~と今日一日の訓練の疲れを癒していた。

 

 

 「ところでなんであんなに厳しい訓練になったのかな?明らかにハードルあがっていたよね?」

 

 

 「う~ん。ちょっとわからないかも。吹雪ちゃん今日ずっと怒られてたね。あんなに鬼気迫った川内さん戦場でしかみないのに今日はすごかったね。」

 

 

 吹雪と睦月は原因を探してみるが思い当たる節がない。他のメンバーもぞろぞろと湯舟の中を移動して集まって話し合うもやはり思い当たらない。そうこうしているうちに入口の扉が開いてぞろぞろと新手がやってきた。朝潮達だ。しかしその目にはいつもより生気が感じられない。こちらもこってりと絞られたのだろう。吹雪達と同じように体を洗って湯舟に浸かると生気を取り戻したような声をだした。

 

 

 「そっちもやっぱり結構厳しい感じ?」

 

 

 「はっきり言うとかなりきついわ。ルーキーにこんな訓練させるなんてたまったもんじゃないわ!途中で体ちぎれると思ったくらいよ。」

 

 

 「まぁ数こなしてきた私達でさえきついと思っていました。それについてこれた陽炎は大したものです。」

 

 

 皐月の問いかけに陽炎は自分の苦労をなみなみと語っていたが、不知火のほめ言葉に気をよくしたのか、ふふんと嬉しそうな顔をしていた。単純なやつ。まわりはそう思っただろうが、実際建造されたばかりの陽炎がこの訓練についてこれるのに皆は驚きを隠せなかったようだ。ドヤるだけの実力を確かにもっているのだ。さらにわいわいと盛り上がる艦娘達。いつもより長めに入渠しているが、そんなの関係ないといった様子だ。そして再び入口が戸が開くと話題の中心となっていた二人の人物が入ってきた。

 

 

 「なにやら盛り上がっている様子ですね。早めに上がってご飯を食べてしっかり体を休めないと明日も持ちませんよ?」

 

 

 神通の優しい笑顔と心遣いが今となっては怖い。普段は本当に気が利いて優しい神通だが今はその微笑みが怖い。先の艦隊決戦で敵を追い詰めていた笑顔と一緒だ。あの時一緒に戦った艦娘達は皆同じ思いをしていただろう。そんな中、恐れ知らずが皆が思っていた質問をぶつけた。

 

 

 「ところでなんで今日からこんな訓練が厳しくなったっぽ・・んですか?」

 

 

 夕立だ。ここでまさかの狂犬と比喩された彼女が特攻した。流石に途中でビビったのか口調が丁寧になっていたが、好奇心を抑えられなかったのだろう。湯舟につかってきた川内と神通は二人で顔を見合わせる。そしてなるほど。と神通は一人納得した様子で微笑みながら軽く頷いていた。

 

 

 「どうりでみんなのモチベーションがかわらないなぁとおもってたんだよね~。みんな聞いてないの?この演習で勝った方の戦隊は提督から豪華なご褒美がでるって話だよ。」

 

 

 「私達はてっきり皆はもう知っているのかと。もちろん普段通りの訓練を心がけていたのですが、なにか褒美が出るとなると・・少し訓練にも熱がはいってしまいました。」

 

 

 「えぇ~!!!ご褒美!?何かもらえるの?これは頑張らないとだね!!」

 

 

 「陽炎。勝ってご褒美をもらいましょう。足を引っ張ったらぶちますよ。」

 

 

 「えっ?不知火貴方性格かわりすぎじゃない?あなたそんな感じの子だったっけ?やだ恐い。」

 

 

 張り切っている皐月や、不知火からあふれ出るオーラにビビり気味な陽炎、両手を合わせてうっとりと妄想している綾波など反応は様々だ。

 

 

 「まぁそういうことだから私達も訓練がいつもより厳しくなってるっていうのもあるね。どうせならご褒美もらいたいしね。まぁあの提督だからきっと演習終わりにはきっとご褒美くれるよ。」

 

 

 確かに。あの人なら分け隔てなく接してくれそうな気がする。だがしかし勝つことに越したことはない。吹雪チームと朝潮チームはさらに一致団結して今後の訓練も頑張ろうと互いに切磋琢磨していくのであった。

 

 

 

 

 

 「提督。なにやら妙な噂が鎮守府内に流れているそうですよ。全く焚きつけるのもいいですけどほどほどにしてくださいね。」

 

 

 「ん?何の話だ。私にはそういう噂届いていないが。どういった内容だ?」

 

 

 「なんでも今度の演習で勝ったチームは外出許可がでるらしいじゃないですか。そんなことしたら防衛体勢に穴が開いてしまいますよ。」

 

 

 「まてまてまて。そんなことを話したことはないぞ?誰から聞いたんだ?」

 

 

 「え?私は明石とそういう話になって明石から聞きました。明石も風の噂で聞いたと言ってましたので。」

 

 

 真船は茫然としていた。一体だれがこのでたらめな噂を流したというのか。最近水雷戦隊の訓練がいつにもまして激しいとは聞いていたが、これが原因だったようだ。原因究明に努めるとともに急いで誤解を解かねばならない。しかしせっかくのやる気をそいでしまう形になるのも申し訳ない気持ちになっている。ふと見渡すといつもは近くにいる妖精達がいない。お菓子をテーブルの上に広げ、少しすると欲望を抑えきれなかったのか、ふらふらと現れた複数の妖精達。その一人を捕まえ、問いかけると汗をかきながら目をそらしている。どうやら間抜けは見つかったようだ。

 

 

 妖精があることないことを他の妖精が話す。そしてその妖精達がさらに間違った解釈をして盛り上がる。その話が艦娘達に伝わる。だいたいこんな感じだろう。まずいことになったと真船は焦りながら鎮守府をまわり川内や神通、あるいは吹雪や朝潮達に懇切丁寧に説明してまわった。非常に残念がっていた姿にいたたまれなくなった真船は妥協案として再び鳳翔の酒保で奢るはめになったのであった。  

 




 とばっちりを食らうのはやはり真船。部下のモチベーションを維持するのも上司の大事な役目ですね。
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