海渡る願い   作:哨戒艦艇

55 / 64
ここ最近久々に沢山投稿できました。大満足です。


第54話

 ぬかった。朝潮は焦りを隠せない。突撃してくる敵に加え、綾波からの一撃を貰った時に、敵本隊がいることを失念していた。あるまじき失態だ。だが後悔するよりもここから挽回する方法を考えねば。しかしすでに回り込まれ、有利な状況をとられている。第二艦隊は朝潮を含め、陽炎二人が小破、霞はまだまだ無事だ。一方の第一戦隊は吹雪のみが中破、後は大した傷を負っていない。ほぼ万全といっていいだろう。皐月と白雪、二人もこの鎮守府を初期から支え続けてきた手練れだ。朝潮は迷っていた。吹雪が中破している以上、追いつこうと思えば距離を詰めることができる。だが近づく前にやられてしまうだろう。どうすべきか?色々な選択肢が頭をよぎるが、どれも名案とは思えない。そうこうしている間にも砲撃戦は続いていく。捨て身覚悟で行くべきか。そう思った矢先、陽炎が口を開いた。

 

 

 「ここは私が先頭に立つから私を盾にして敵に突撃しましょ!突撃よ!突撃!先頭はなにも旗艦だけのものじゃないでしょ?」

 

 

 「しかしそれでは陽炎が・・・」

 

 

 「・・・それでいきましょ。行くべきよ。陽炎の心意気を汲んであげるべきよ。朝潮。」

 

 

 陽炎自身自分がこのままだと役に立てそうでないことはよくわかっていた。明らかな練度不足。装填速度も砲撃精度もこの戦場では甘々だ。ならばせめて役に立ちたい。朝潮は陽炎と目を合わせると大きく頷く。その自信に満ち溢れていた目を信じるしかないのだ。朝潮の号令がほどなくしてかかった。

 

 

 「第二戦隊は陽炎を先頭にし反転!単縦陣をとり突撃する!」

 

 

 二人の了解!という大きな返事とともに、大きく旋回し第一戦隊にむかって突撃していく。たった三人の単縦陣。もはや単縦陣と呼んでいいのかさえ分からない。しかし三人の意思はひとつに統一されている。この戦いに勝ちたい。その執念が三人を動かしていた。

 

 

 「いや~。先頭を走るって気持ちがいいものね!その分相手の歓迎もすごいけ・・どっ!」

 

 

 「あんた大物になるわきっと。普通この状況になったらビビるはずよ。私だったらビビっている自信があるわ。」

 

 

 減らず口を叩きながら砲撃を回避する陽炎と余裕を見せる霞。陽炎は直撃こそ避けているものの、確実に負傷してきている。機銃の射程範囲に入る前には恐らく脱落するだろう。朝潮は陽炎に感謝しながら狙いを澄ませて砲弾を放つ。必ずあてる。その思いが通じたのか、朝潮の放った砲弾は不知火を大破に追い込んだ白雪に命中した。

 

 

 「まだ・・まだやれます・・!被害報告を!」

 

 

 『二番砲塔がやられました!砲撃不可!』

 

 

 「第一機銃も被害のため発砲不可!」

 

 

 攻撃をうけ中破判定をうけたのにもかかわらず、白雪は落ち着いていた。こんなことは実戦と比べるものでもない。昔はろくな訓練すらできず、出撃命令が出るたびに悔しい思いをして帰ってきた。仲間を見送り、いくどとなく中破した状況で生き延びられたから今ここにいることができる。数か月前の艦隊決戦の時だって負傷しながらも帰ってこれたのだ。なにより友人の吹雪を勝ちに導きたい。その思いが体を突き動かしていた。もはやこれが演習ということすら忘れてしまうぐらいに夢中になっていた。

 

 

 「私だって・・まだやれるんだから!」

 

 

 白雪が中破に追い込まれたことに奮起したのか、吹雪は自分に落ち着くよう言い聞かせる。こちらは二人が負傷した以上、追撃は免れることはできないだろう。だったら迎え撃つのみ!と深呼吸をした後、放った砲弾がついに相手を捕らえることに成功する。これまで軽快な動きをみせていた陽炎が大破判定になり、戦線離脱となった。しかし陽炎のおかげで十分な距離を詰めることに成功した第二戦隊は勢いそのままに吹雪をねらう。中破に追い込まれている吹雪はいつも通りの回避運動ができず、一撃をもらってしまう。あと少しでもダメージを負えば大破判定がでるだろう。あと一押し。霞は狙いを定めて砲撃体勢をとった瞬間、被弾してしまう。発射さえできていれば。霞は舌打ちするも、砲撃を放ってきた相手は怒っているようだった。

 

 

 「みんな僕のこと無視ばっかりしちゃって。本当に怒っちゃうんだからね!」

 

 

 皐月は自分があまり狙われていない、脅威と思われていないことに腹を立てているのか、ぷんぷんと怒っていた。作戦の都合上狙われていなかっただけであり、皐月自体は別に悪くはない。だが結果として彼女を奮起させる材料になってしまったのは確かだった。

 

 

 「僕が前にでるよ!まだまだ元気だからね!吹雪は僕の後ろに隠れて!」

 

 

 「皐月ちゃん!」

 

 

 吹雪の前に躍り出た皐月はこれでもかというぐらいの速射で弾幕をはる。この怒涛の反撃に霞は小破判定になりながらも、朝潮と連携をとりながら落ち着いて反撃を行い皐月を中破に追い込む。互いの艦隊の距離は近づき、機銃の射程圏内になった。あとは激しい撃ち合いがまっている。

 

 

 『よぉーし!ようやく出番か!後で謝っても許してやらねぇからな!機銃掃射用意!』

 

 

 『皐月に乗ってる野郎どもをタコ殴りにしてやれ!第二戦隊の意地の見せ所だ!このまま押しつぶす!掃射用意!』

 

 

 しかし互いの機銃妖精の機銃を握る掌が発射の振動で揺れることはなかった。港の方で信号弾があがったのだ。ぴったり十二時。戦闘が終わった。結局決着がつかないまま終わったのだ。終了の合図を確認した二つの戦隊は気が緩んだのか、互いに傍により話し合っている。そして提督がまつ港へと舵をきり、走っていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 「月並みのセリフしか言えませんが。艦娘とはすごいものなんですな。」

 

 

 「決して怖がらないでやってください。彼女達は国や市民の皆様を護るためにああやって日々訓練を重ね、努力を重ねています。きっと彼女達以上に海の平和を願っている人はいないでしょう。」

 

 

 「もちろんです。可愛くて強い嬢ちゃん達に護られて俺達は幸せもんだ。なぁみんな?」

 

 

 宇野さんの問いかけに漁師の方々が頷く。宇野さんのおかげで艦娘に対して恐怖、よりも心強い、のイメージを持ってくれたようだ。ちょっとしたインフルエンサーだ。感謝しなければならない。しかし正直ここまで戦闘が長引くとは思ってもいなかった。程なくしてもどってきた二つの艦隊。それぞれ負傷はしているが、顔は晴れやかだ。そろって敬礼をすると、大きな拍手が港に響き渡る。漁師の方々だ。いいものがみれた。など感想を言い合っている。少し恥ずかしいのか、朝潮は表情こそ崩さないが、顔は少し赤くなっている。

 

 

 「皆よくやってくれた。戦闘の総評については後で川内と神通が行うとする。艤装を外して食堂に集合してくれ。」

 

 

 解散を指示し、私は漁師の方々とともに食堂に移動する。移動中も興奮冷めやらぬのか、感想を言い合っている。その後間宮の食堂で食事をとった漁師と艦娘達。

 

 

 「漁師のおじちゃん達がとってきた魚ここで食べたいっぽい!」

 

 

 「はははっ。おっちゃん達に任せとけ。活きのいいやつとってくるからよ!その分しっかり守ってくれや!」

 

 

 交流も上手くいっているようだ。艦娘達もただただ戦うのではなく、こうして護るべき人々との交流で自分達は役にたっているんだという気持ちが訓練などのモチベーションになるだろう。中には鳳翔の酒保に通いたいと言い出す漁師も多数出てきた。流石にそれはと丁重にお断りさせてもらった。

 

 

 こうして視察は無事に終わった。満足げに帰っていった漁師達を見送り、私も執務室に戻る。なんとかなったなと一息つきながらコーヒーを飲む。お疲れ様でしたと大淀の入れてくれた一杯はやはり格別だ。

 

 

 「君もつかれただろう。今日は少し早いが、業務を終えてあがったらどうだ?後は私がやっておこうか。」

 

 

 「いえ。二人でやればもっと早いですよ。私も手伝います。」

 

 

 相変わらず律儀な子だ。大淀のおかげで手早く業務を終わらせ、工廠に向かう。一般の人がいなくなったので妖精達が艤装の修理などを行っている。私は挨拶をすると、明石と夕張が近づいてきて、今日の演習はすごかったと興奮しながら話しかけてきた。別に私が戦ったわけではないのだが。相槌をうちながら艤装の修理状況を確認する。早いものは今日中、遅いものでも明日には修理が終わるそうだ。あと少しで業務終了となるので、遅くならないように指示をだすと、自分の部屋に帰って風呂で汗を流す。きっと川内と神通の総評をそれぞれの戦隊は糧にしてさらに強くなってくれるだろう。食堂で夕ご飯をとっていると、近くに座ってもいいかと尋ねてくる者がいる。川内と神通だ。

 

 

 「今日の演習はすごかったな。以前見学したときよりもさらに動きが洗練されていたようにみえた。」

 

 

 「成長している部分も結構あるけどまだまだだね。そこはきっと経験を積んでいけばさらにいい動きができるようになるよ。ところで提督。」

 

 

 「以前お話していた勝った方にご褒美という話。覚えていますか?」

 

 

 嫌な予感がする。だが約束したのは事実。私はできるだけ平静を装い、もちろん。と返事をする。

 

 

 「色々考えたのですが・・・ここはひとつ二つの戦隊に御馳走していただけないでしょうか?引き分けというのもありますが、どちらもよく頑張っていたので。」

 

 

 「私からもお願い!足りない分は私達二人もだすからさ!ねっ?」

 

 

  二人のお願いに私は目を閉じて考える。やはりこうなった。引き分け判定をこちらが出した以上こうなりそうな予感はしていた。しかしどちらも頑張っていたのは事実。どうすべきか。いや。悩む要素などない。漢をみせる時だ真船。自分に言い聞かせ二つ返事で快諾する。

 

 

 嬉しそうに喜ぶ二人。急いで食事を終わらせた川内は皆を呼んでくると急いで食器を片付け、小走りで寮に戻って行った。

 

 

 「提督。お願いしたはいいものの、お財布の方は大丈夫でしょうか?難しいようなら断っていただいても。」

 

 

 「大丈夫だ。給料も入ったばかりだからな。気にせず飲み食いしてくれ。」

 

 

 ありがとうございますと神通からの返礼をもらい、まもなく戦隊を引き連れてやってきた川内。提督なら御馳走してくれると信じてたとうきうきな皐月。ここまでくるともう笑顔しかない。皆を引き連れて鳳翔の酒保へとはいる。まぁ今日は駆逐全員というわけではなさそうだしなんとかなりそうだ。しかし店の中には思わぬゲストが先に来ていた。

 

 

 「おや?提督達もお食事ですか?せっかくなのでご一緒しましょう!」

 

 

 「奇遇ですね。ですがこういった機会はなかなかありません。ご同伴に預かります。」

 

 

 いけしゃあしゃあと笑顔で悪魔の言葉を放ってきた赤城とすまし顔の加賀。その正面には少し困ったような顔で会釈をする翔鶴とバツの悪そうな顔をしている瑞鶴。確実に計画的な犯行である。赤城さんだ!とはしゃぐ吹雪。

 

 

 「ささっ。吹雪ちゃんも座って座って。ほらここ。」

 

 

 悪魔の誘いに簡単に乗ってしまった吹雪。引くに引けない状況が着々と作られていく。そしていつのまにやら大人数になってしまった鳳翔の酒保。

 

 

 「提督さん。提督って大変なんだね・・・」

 

 

 「瑞鶴。お前はいいやつだなぁ・・・」

 

 

 瑞鶴の気遣いが心に染みる一日となった。




ついに決着。しかし鳳翔の酒保には妖怪食う母が・・・真船のお財布は艦娘のためにあるというのか。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。