海渡る願い   作:哨戒艦艇

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陸軍の艦娘も登場です。


第62話

 「急な申し出を受け入れてくれて感謝する。名は延岡と申す。陸軍所属で階級は少将だ。よろしく頼む」

 

 

 「陸軍所属、あきつ丸と申します。艦隊にお世話になります」

 

 

 「同じく陸軍所属、神州丸と申します。揚陸作戦はお任せください」

 

 

 翌日、早速鎮守府にやってきた陸軍の延岡少将と二名の艦娘と挨拶を交わした私は、そつなく対応をこなす。昨日はあの後、陸軍から艦娘がやってくるみたいだと、鎮守府ではちょっとした騒ぎとなった。昔は陸軍と海軍の仲が悪かった影響のせいか、その時妖精達はザワザワしていた。

 

 

 私も自己紹介をした後、鎮守府を案内していく。少将をはじめ、少将の付き人達やあきつ丸と神州丸も海軍の施設に入ることはあまりないのだろう。顔には出さないようにふるまっていたが、興味津々といった様子だった。体裁を気にしているのだろうか。私としてはもっとフレンドリーに振舞ってもらっても構わないのだが、そうはいかないのだろう。

 

 

 「噂には聞いていたが、これほどまでに設備が充実しているとは。艦娘達の教育も行き届いているようで安心した。心置きなく二人を任せることができるよ。よろしく頼む」

 

 

 「お任せください。陸と海、力を合わせて国の平和を守りましょう。しかし急な申し出で驚きました。差し支えなければ理由を聞いても?」

 

 

 「ああ。谷上中将からある程度は聞いているとは思うが、いくら相手が海を中心にした部隊とはいえ、島の占領や上陸作戦は我々の仕事だからな。君達だけにも苦労をかけさせるわけにもいかない。正直に言えば陸軍としてもここで戦果を上げていかねばならないからね。なによりあの娘達を何とかしてあげられないかと思っていた矢先に君のことを谷上中将が紹介してくれたのでそれなら是非という事でこうなった訳だ」

 

 

 谷上中将が言っていた内容と同じのようだ。もちろん無碍に扱うつもりはないが、所属が違うため、ゲスト扱いをしなければならない。いい方は悪いが、正直少し面倒ではある。

 

 

 「鎮守府に在籍する以上は君の指揮下に入るようにあの娘達にも言い聞かせてある。もちろん正式な命令なので安心してほしい。君のことだから大丈夫だとは思うが、もしもの時は・・・わかっているね?」

 

 

 延岡少将はいかつい顔で笑いながらも圧を絶やさない。素直に怖い。いかつい容姿もあいまって、着ている衣装が別の物なら完全にアウトな構図だ。私はもちろんですと月並みな返事しかできなかった。本当に怖い方だ。

 

 

 「佐賀山中佐。何度も言うようで申し訳ないが、あきつ丸と神州丸をよろしく頼む。二人とも郷に入れば郷に従え。だ。規律をしっかり守り、落ち度のないように」

 

 

 「お任せください。不肖あきつ丸、全力で艦隊のお力になれるよう努めていく所存であります!」

 

 

 あきつ丸が代表して返事をすると、私も挨拶を交わす。厳格な顔で満足そうにうなずくと、鎮守府を去って行った。お見送りが終わると、改めて二人が挨拶をしてきた。私も挨拶を返し、皆で執務室に歩を進める。

 

 

 「しかし延岡少将は中々に勇ましい顔立ちだな。正直少し驚いてしまったよ」

 

 

 「少将は怖い見た目とは裏腹に、とても優しい方なのであります。自分達のことを孫娘のごとく可愛がっていただきました」

 

 

 「自分も最初は驚きましたが、あきつ丸が言う通り延岡少将は人格者で我々も大変お世話になりました」

 

 

 延岡少将は慕われているようだ。まるで想像ができん。まぁ今はこの娘達がこの艦隊になじんでもらえるように努力しよう。延岡少将と面談をしている間に寮の案内を大淀にしてもらっていたので、ひとまず部屋の整理をしてもらってから執務室に再びくるよう指示をする。凛々しい返事で敬礼をした後に踵を返すと、足並みをそろえて寮へ歩いて行った。その厳格な姿を見ていると、いつぞや通路ですれ違う夕立がスキップしながらぽいぽい言っているあまりに対称的だと思い出して笑ってしまった。はたからみたらいきなり笑い出す気持ちの悪いただの人だ。周りに誰もいなくてよかったと胸をなでおろしながら、執務室に戻った。

 

 

 「すまない。今戻った」

 

 

 部屋に戻ると、大淀と会話をしながら自分の席につく。すると何やらいつもはのんべんだらりとしてテーブルの上にいる妖精達が私の方を見て騒ぎ出した。一体何なんだ。お菓子を我慢させているときでもここまで騒ぐとこはなかったぞ。不思議におもって周りを見回しても何も普段と違うところはない。よく見ると、妖精達は私の帽子付近を指さしてなにかわめいている。私は帽子をとってテーブルの上に置いてみると、そこには複数の妖精がいた。少し頭が重いと思っていたが、コイツらのせいだったのか。しかしよく見てみると、今まで見てきた妖精達とは服装が違う。それぞれ茶色のような制服や、あきつ丸が着ているような服をきている妖精だった。

 

 帽子から机に上陸した部隊は笛をピピーと鳴らしながら防衛部隊の目の前までいき、にらみ合いを始めた。お互いに何やら言い合っているが、何を言い合っているのかわからない。挙句の果てには拳銃らしき物を上にむけて放ち威嚇しはじめた。だがその拳銃は屋台の射的のよりも弱弱しい音でパンパンとなっていたので、思わず笑いそうになった。威力は期待できなさそうだ。

 

 

 『おい貴様ら! 提督殿がお見えになられたのに、なんだそのだらしない姿は! 海軍は規律がよほど緩んでいると見える! 我々陸軍が修正してやる!』

 

 

 『な、なにぃ! こちとら提督公認なんだ! 新参者のくせに偉そうにしやがって! 海の上での戦いをお前らに教えてやる!』

 

 

 何を勘違いしているのかここは海の上ではない。

 

 

 『貴様らの腑抜け具合に提督殿は呆れて物申さなくなったのだろうよ! 一にも二にも規則!我々が管理させてもらうぞ!』

 

 

 『大人しくしていれば調子に乗りやがって・・! もう我慢ならん! この精神注入棒でお前らを打ちのめしてやる!』

 

 

 『ふふっ、弱い犬ほど吠えたがるものよ。者どもかかれ! この地の安息を護るのだ!』

 

 

 『野郎ども負けるな! 歴戦の猛者の力って奴を見せつけてやれ! 突撃ィ!』

 

 

 ----ビリッ

 

 

あわや開戦。その直前、一つの乾いた封をきるような音とともに、ほのかに甘い香りが戦場に漂う。妖精達が私の手元に視線を集中させると、さっきまでの騒がしさはどこにいったのか、一点に視線がくぎ付けとなっていた。

 

 

 『なっ。ななっ・・・!』

 

 

 『どっ・・どら焼きだと・・!?』

 

 

 突然の甘味の出現に戸惑う妖精達。がやがや騒いでいるが、誰一人としてどら焼きから視線を外すものはいなかった。その様子を見ながら私はどら焼きをとりあえず半分にして語り掛ける。

 

 

 「お前達が仲良くするというのであれば、このどら焼きはお前達にあげようと思うのだが・・・」

 

 

 『・・・・・』

 

 

 机の上に静寂が訪れる。大淀はたまに独り言をいいながら相変わらず黙々と業務を進めている。

 

 

 『・・ここは提督殿に免じて休戦協定を結ぶとする。貴様ら提督殿に感謝するのだな』

 

 

 『海軍としては陸軍の提案に反対である』

 

 

 こいつらあくまで丸丸一つのどら焼きを手に入れるため戦おうというのか! なんとがめついやつらだ。私は目を細めて海の妖精達を見つめると

 

 

 『冗談です冗談!』

 

 

 都合のいいやつらめ。特にいつもテーブルにいる妖精達はどら焼きに焼き印されている間宮の文字を見逃さなかった。その味をしっているがゆえに一人じめ? しようとしたのだろう。騒ぎが収まったのをみて、両軍に半分ずつ分け与えた。陸軍妖精達は陣地がないので可哀そうと思い、ハンカチを敷いてあげたら喜んでいた。

 

 

 『これが音に聞こえし間宮の甘味・・!』

 

 

 厳格な様子の陸軍妖精達も甘味を食べるときは非常に幸せような顔をしていた。こうみるとどちらも根っこは一緒のようだ。茶番みたいな感じになったが、仲良くしてもらわなければ困るからな。大人しくなった妖精達を尻目に私も業務を進めていく。

 

 

 「ふむ・・あのいざこざを一瞬で沈めるあたり提督殿はやはり只者ではなさそうでありますな」

 

 

 「人心掌握もお手の物。これは期待ができそうであります」

 

 

 いつのまにか入室していたあきつ丸と神州丸はそう言いながら私のそばに寄ってきた。いるなら早く声かけてくれよ。

 

 




甘味は世界を救う。
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