視線を感じてふと見渡すと長門と明石がこちらを見つめていた。大淀はお茶を飲みつつ資料を整理し赤城に至っては妖精達と淡々と食べている。いつのまにか妖精が戻ってきていたみたいだ。私は恥ずかしくなり、ちっぽけな威厳を取り戻そうと咳払いをし気持ちを落ち着かせる。私は今提督なのだ。この鎮守府の長としてしっかりせねばな。しかし過ぎてしまったことはもう遅い。
「提督の中身が入れ替わったという事、にわかに信じられないが妖精に触れ、認識しているうえに大淀と赤城の表情をみると嘘ではないように思える。一つ約束してほしいことがあるのだ提督よ。私たち艦娘は国を守るために生まれてきたのだ。勿論戦いに犠牲はつきものだ。提督という立場である以上非情な命令を出さねばならぬ事もこれからあるやもしれぬ。だが決して無駄死にさせるようなことはしないでほしいのだ。何かを守るために力尽きたとしたならば我々は本望だ。せめて散り際だけは誇りを胸に沈みたい。この長門の後生だ。頼む。」
「その点においては問題ないぞ長門よ。君たち艦娘の戦闘映像を見させてもらったが国を護りたいという気持ちに嘘偽りは感じなかった。そして今君の発した言葉にもだ。君たちがただの兵器だというならば使い捨て戦略も候補にあがったかもしれないが違うだろう?君たちには感情がある。そして人と同じように考え、理解し、自分たちの意思を伝え学習することができるのだ。厳密には人とは違うのかもしれないが関係ない。今は私の部下なのだ。必死に戦う部下を見殺しにするほど私は鬼畜ではないつもりだ。それにさっき言った通り君たちは学習することが出来る。つまり戦闘や訓練を重ね、精鋭と育て上げることでこの艦娘を使い捨てる戦略の打破を考えている。私は貧乏性でな。使えるものは大事に取っておくきらいがあるのだ。なにより見た目麗しい美女たちを苦しめるのは私の趣味ではないのでな。」
「ふふっ美女・・・か。賛辞としてありがたく受け取っておこう。これからよろしく頼む。艦隊の指揮や運用などについてはこの長門に任せてくれ。今は苦しい状況かもしれないが必ずや提督を勝利に導くと約束する。」
頼もしい言葉だ。長門にはわかってもらえたようだ。長門と明石がくるまでの間に赤城と大淀にこの方針で行く予定と相談したところ、喜んで賛同してくれた。数の戦いで劣っているのであれば、一人ひとりの練度をあげていくしかない。そしてこちらも少しずつ数をふやしていくしかないのだ。勿論戦況が戦況なだけに悠長なことは言ってられないが深海棲艦も急な戦線拡大に兵站がおいついていないはずだ。日本近海のみと考えれば海軍の船艇で哨戒、防衛で時間は稼げるはず。後は稼げた時間でどれだけ艦娘達の練度があがるか、国内の物資がもつかにかかっている。問題は山積みだ。
「私は・・私も提督のお役に立てるのであれば一緒に戦いたいと思います!私は工作艦という艦種である以上前線でお役にたてることはありませんが・・・それでも。」
「何をいうのだ明石よ。後方支援も大事な役割だ。整備や補給をおろそかにすると前線で戦うものは存分に力をふるうことはできない。ゆえに艦種別に軽視するということはしないつもりだ。その力を私にために、そして仲間や国のために貸してはくれないか。」
ねぎらいにも似た言葉が心にすっと入り込んでいく。私はきっとこの言葉がほしかったのかもしれない。前の提督は装備を開発するのが当たり前、妖精達が減っていき手が回らないようになってもノルマは変わらず。遅れれば叱責を受ける日々。心が折れかけたところにこの優しさを受けてしまってはどうしようもない。私がこの提督についていくと決めるのに十分な言葉だった。
「ついでといっては失礼かもしれませんが・・・私からもお願いがあるのですがよろしいでしょうか?」
明石からも要望があるみたいだ。この際なんでも受けつけて改善できるものは改善していくべきだ。なるべく要望には応えてあげたいところ。
「現在工廠は必要最低限の設備しか整っておりません。妖精たちが戻ってきた今の規模だと装備の開発や修理、そして建造のことを考えると手狭になります。これから提督は我々に配慮してくださるとおっしゃっておりました。宜しければ工廠の拡張の許可をお願いできないでしょうか。」
「大淀、この鎮守府にある資材で工廠の拡張は可能か?できれば明石の要望は叶えるべきだと私は思っている。まずは装備、環境を整えていきたい。」
「はい。問題ありません。十分な資材を残しつつ、拡大することは可能です。工廠が大きくなるのであればそれだけ人手が必要となるはずです。妖精たちだけではなく夕張にも工廠の補佐として働いてもらうのはどうでしょうか?」
ゆうばり?なんだそいつは?そいつも艦娘なのか。私はその夕張とやらの存在は知らないがまぁいいだろう。設備だけひろげてそれを人手不足で満足に動かせないのであれば意味がないからな。
「わかった。その夕張とやらにも補佐命令を出しておこう。明石よ、夕張に急になぜ拡張できたのかなどと聞かれてもそれとなく濁しておけ。いずれ夕張にもこのいきさつを話す機会もあろう。それまでは情報の秘匿を頼むぞ。」
「はっ!工廠拡張の許可、ありがとうございます!早速行動に移したいと思いますので下がってもよろしいでしょうか?」
「かまわん。しっかり頼むぞ。くれぐれも働きすぎて体を壊さないようにな。」
「ご配慮ありがとうございます!それでは失礼します。」
そういって部屋から出ていったかと思うと、小走りで遠のいていく足音が聞こえなくなっていった。どんだけうれしかったんだあいつ。しかし私の中身が変わったことは相手をみて徐々に認知してもらう必要がある。
鎮守府の中には私を恨んでいるものもいるだろう。もし恨んでいる艦娘にこの情報が伝われば私を追い出す口実として本部に密告するやもしれぬ。政治闘争に知らずに巻き込んでしまうことは避けてあげたい。そうなってしまった場合、待ち受けているのはこの鎮守府の解体、そして私の尋問は避けられないだろう。末端の艦娘は国のために戦っている自分たちが処分の対象になってる可能性があるのだと知りもしないはずなのだから。そう頭を悩ませながら一息つこうとコップに手を伸ばす。少しぬるくなったコーヒーが飲みやすい。茶菓子に手を伸ばそうとすると私の前の籠から菓子がなくなっていることに気が付く。見渡すと赤城の前の籠には空になった大量な袋が綺麗に折りたたまれていた。
「あの・・・提督・・その・・お菓子のおかわりをいいでしょうか?」
思わず失笑してしまった。
少しずつ艦娘たちが自分の色をだせるようになればいいかなと。