ギャルゲーの世界に転生したけど、メインキャラじゃなくてモブと付き合いたい 作:ドン・コルレオーネ
……さて。
どうしたものか。
やっと会いたかった子に会えたのはよかった。
だが、これからどうしたらいい?
まあとりあえず、一言お礼くらいは言わなきゃな。
「分かった、教えてくれてありがとう」
「………………」
その子は無言で、ぺこりと頭を下げた。
よし!せっかくなんだから、もう少しだけ話を……。
「あの、良かったら名前を教えてくれないかな?クラス全員の名前くらいは覚えたくて……」
恐る恐る、彼女にそう尋ねてみた。
「!?」
すると彼女は、信じられないといった顔をして驚くと、画面蒼白になって逃げ出した。
「え?え?」
教室から出ていった彼女を咄嗟に追いかけたが、廊下に出ても既に彼女の姿は見えなかった。
「な、なんで突然に……?そんな気持ち悪いこと言ったかな?」
あそこまであからさまに避けられると、さすがにへこむ……。
「あ!明くん!」
「ん?」
ちょうど廊下の突き当たりにいたさやかが、俺を見つけたようだ。
走って俺のところまでやって来る。
「よかった!ようやく会えた!」
彼女はニコニコと、無邪気に微笑んでいた。
「……………………」
さやか、か。
たしかゲームでは、この後『悩み事がある』と言われ、放課後に二人で喫茶店に行かないか?と誘われるはず。
「……どうかしたのさやか?俺を呼んでたって聴いたけど……」
「あ、うんうん。実はちょっと相談事があってね?」
ほら来た。
「よかったら、放課後に二人でどこか落ち着けるところでお話したいんだけど……」
少し顔を下にうつむかせて、もじもじとしているさやか。
無論、これにイエスと答えれば、さやかルートの方向になる。
だけど、俺は……。
「ごめん、今日は放課後ちょっと忙しくてさ」
「……そ、そっか」
彼女はまるで、捨てられた子犬のようにしょんぼりとした。
きっと耳があったら、くたり……と弱々しく垂れていただろう。
そんな姿を見ていると、なんだかさすがに罪悪感が出てきてしまい、思わずこう口走った。
「だからその……相談をメールかなんかでしてくれたら、夜に返事ができるかも」
「ほんと?ごめんね、私のために」
「いや、俺の方こそ」
さやかは、少しだけ笑顔を取り戻した。
……キーンコーン、カーンコーン……
「あ、いけない!5時限目始まっちゃう!明くん、またね!」
「……ああ」
彼女は急いで自分の教室へ帰り、席へとついていた。
「……………………」
俺もまた、自分の席へ戻り、次の授業の準備を始めた。
……放課後。
さやかに忙しいと言った手前、俺はしばらく教室に残ることにした。
がやがやと、クラスメイトたちが帰宅していく。
きっとこれから、友達や恋人と遊びに行く人もいるだろう。
「……………………」
ダメだなあ、俺は。
好きな子に気持ち悪がられて、でも自分を好いてくれる子をないがしろにして……。
何が“五人からは選ばない”だ。
俺のアホ。
「…………はあ」
深いため息をつきながら、俺は窓の外を見つめていた。
燃えるように赤い夕日が、空に鮮やかなグラデーションを作っている。
センチメンタルな気持ちには、もってこいの風景だ。
(……名前も知らないモブキャラ、か)
正直、逃げられるほど気持ち悪いことを言ったとは思っていないが、それは向こうがどう感じるかによる。俺の基準で考えちゃダメだ。
いいさ。少なくとも、好きだった子には会えたんだ。それで満足しようじゃないか。
(明日、あの子に謝ろう……せめてそれくらいはしたいな)
そう考えて、時計にふと目をやる。
16時23分。
そろそろ、俺も帰るかな。
教科書を鞄につめて、席を立とうとしたその時……。
「……一ノ瀬、くん」
声が聴こえた。
俺の右隣に、人が立っていた。
あの子だ。
あの子がいた。
名前も知らない、あの女の子……。
「え?あ、あの……」
思わずどもってしまう。
なんでこの子が、こんなところに?
てか、まだ帰ってなかったの?
俺に、何の用で声をかけたの……?
様々な疑問が、頭の中に浮かんでは消え、浮かんでは消えを繰り返した。
夕日の赤い光が、ぼんやりと彼女を照らしていた。
繊細そうなあの子の顔が、ひどく綺麗に見えた。