ギャルゲーの世界に転生したけど、メインキャラじゃなくてモブと付き合いたい   作:ドン・コルレオーネ

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第四話 孤独なあの子

 

「ど、どうしたの?」

 

俺はなんとか平静を装って尋ねたつもりだったが、口調が少し震えてしまったし、最初を噛んでしまったし、緊張しているのがあっさりバレてしまった。

 

「……………………」

 

彼女はというと、俺とは目線を合わせないようにしながら、なんだかバツの悪そうな顔をしている。

 

だからと言って、俺も何か気の利いた言葉が出てくる訳でもなく、ひたすらに気まずい空気が流れるばかりであった。

 

「あの、さっきのことなんだけど……」

 

彼女は何やら申し訳なさそうな表情をしながら、小さな声で話していく。

 

なんかすごい……。この子が“決められた台詞以外”を話しているのを見るなんて……。

 

「さ、さっきって……?」

 

「ほら、お昼休みの……。私、突然逃げ出しちゃって……その……ごめんなさい……」

 

「いやいや、そんな!俺の方こそごめん、びっくりさせちゃったみたいで」

 

「……うん」

 

「そ、その。なんであの時びっくりしてたの?いや実は、正直君があんなにびっくりするとは思わなくて、よかったら理由を教えてほしいなと……」

 

「……………………」

 

彼女は眉をしかめて、顔をうつむかせた。

 

「も、もちろん、話したくなかったら大丈……」

 

「……モブ、だから」

 

「え?」

 

 

「私が、モブキャラだから」

 

 

……なんだって?

 

モブって……まさか。

 

「あなたは主人公で、私はモブ。本来、あの場面であれ以上の会話はないまま終わるはずだった」

 

「……………………」

 

言葉が、出なかった。

 

いや、出せなかった。

 

この子は明らかに、確実に、“この世界の事”を理解して喋っている。

 

「でもあの時、あなたはシナリオ以外の言葉を私に向けて話した……。こんな経験、今までなかったから、その……怖くなって逃げ出したの」

 

「……………………」

 

正直、まさかこんな展開になるとは思わなかった。

 

この世界がゲームであることを、自分以外に知っている者がいるなんて……。

 

……もしかして、彼女も……。

 

「ひょっとして君も、元の世界からやって来たの?」

 

「……分からない。もしかしたらそうだったかも知れない。でも、何千、何万と同じ台詞を繰り返す内に……自分がどこから来たのか、何者だったのか、全て忘れてしまったの……」

 

「何万……」

 

「途方もない時間だった。台詞が終わったと思ったら、また最初からスタートされて……。延々同じことの繰り返し。主人公のあなたがヒロインの桃谷さんに呼ばれる。そしてそれをあなたに伝える。ただそれだけのために、私は生きていた」

 

「……………………」

 

名もなき彼女の眼は、果てしない孤独を思わせた。

 

涙を流さずに泣いているような、悲痛な色。

 

「……………………」

 

「……でも、私、嬉しかった」

 

「嬉し、かった……?」

 

「うん」 

 

彼女は上目遣い気味に俺を見ると、少しだけ微笑んだ。

 

「一ノ瀬くんが、私を見てくれたから」

 

「え?」

 

「ああやって私の名前を訊こうとしてくれたから、私はやっと、自分ていう存在があることを認知できた。もしあのままだったら、きっとロボットみたいに何も考えず、感情もなく、ただ動くだけの物体になってたと思うから」

 

「……そんな。でも怖がらせちゃったし」

 

「それはまあ、確かにそうだけど……結果的には、私の自我が多少取り戻せたから、それでいいの」

 

「そ、そうなの、かな?名前とかも分からないままなのに……」

 

「うん、いいの。このゲームに、私の名前は必要ないから」

 

彼女は前髪が眼にかかったのを、柔らかな仕草で耳にかける。

 

「それじゃ、さようなら。好きなヒロインを選んで、ゲームを楽しんでね」

 

「あ……」

 

「私を認知してくれて、ありがとう」

 

そう言って、彼女は背を向けた。

 

 

がららっ

 

教室の扉へと開けて、独り廊下へと出ていく。

 

俺は結局最後まで、あの子の背中に、何一つ告げてあげられなかった。

 

 

……君を。

 

……モブの君を、選んじゃダメ?

 

 

たった一言。

 

それすら言えない。

 

最後の最後で、俺は臆病になってしまった。

 

……日が落ちていく。

 

影の色がだんだんと濃くなるのを、誰もいない教室でぼんやり見つめていた。

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