お屋敷、メイド……うぅ頭痛が痛い
『私を殺したのはあの男!』
そういって彼女が指差したのは、この屋敷の当主──
(-.-)Zzz・・・・
俺には霊感がある。それも見えるだけとか、何かが聞こえるだけ、なんてぬるいレベルじゃあない。見る、聞く、触る、嗅ぐ全て可能だ。その気になれば憑依させることも自由自在だ。ざっくり言うと霊能チートってやつだな。
そんな俺だが基本的にはニートをしている。
ただ、なんの因果かよくミステリーである絶壁のお屋敷みたいな所に来て、嵐に見舞われ、如何にもなお屋敷に軟禁状態になり、さらに予定調和のように殺人事件に遭遇した。
呪われてんのかな。でもそんな気配はない。俺なら分かるはずなんだよなぁ。
「はぁ」
つい、ため息が出る。
「どうしたの? 疲れてるの?」
俺を連れ出した張本人が、まるで悪びれずに言いやがった。
そもそもの原因はこいつにある。こいつ──
亮にはよくあることで、突然何の脈絡もなく、行動を開始する。バカなんだと思う。しかも、それに人を巻き込む。マジ迷惑な奴なんだが……。
俺がじとっとした目を向けるとバツの悪そうな顔になる。
「ぅう、ごめんなさい……。悪気はなかったの……」
「……いいけどよ。慣れてるからさ。はぁ」
なんと言うか、憎めない奴なのだ。コロコロと素直に変わる表情と裏表のない性格がそうさせるのだろう。
で、だ。問題はそこじゃない。いやこいつもこの状況も問題だけど一番の問題は、板野サヤさん(23)の霊である。
『ねぇねぇ! 早くあいつを捕まえる証拠を探しにいこうよ! あいつの部屋とかにきっと毒とかがあるからさぁ!』
うるさいなぁ。
この人(?)が今回の事件の被害者に当たるらしい。彼女の死体は、彼女の自室にある。毒殺(?)だってさ。部屋の中には彼女の吐瀉物がばらまかれている。中には乾いているのもある。嫌なものを見させられたものだ。
彼女が言うには、当主の
うん。まずこの時点でおかしくないか?
ペットボトル飲料って他の人に勧めるときは、普通、未開封のやつを渡すよな。それなのにどうやって毒を仕込むんだよ。
仮に方法があるとして、橘さんにそれができるのか?
じゃあ開封済みを渡されて素直に飲む場合ってなると、親しい仲、要は友人や恋人のパターンだ。それなら納得できなくはないが……。
はっきり言って俺は理屈をこね繰り回すのが苦手だ。大体は直感でなんとかなるし、理屈はめんどくさい。
そもそも俺は小説で登場する探偵じゃあない。ついでにイチイチ犯人を捕まえよう! とかいう正義感も無い。
つまり、もうめんどくさいからサヤさんは無視したいのだ。死んだくらいでイチイチ騒ぐのは馬鹿馬鹿しい。
サヤさんが俺の肩を掴みガクガクしてくる。心霊現象そのものである。まっこと鬱陶しい。
『ねぇねぇねぇねぇ』
うがー! やめてくれ!
荒ぶる俺。俺の霊圧にビビるサヤさん。笑う亮。カオスである。
そんな俺達の態度が悪かったのか、ここの使用人、つまりはサヤさんの先輩に当たる女性──
今、俺らは応接室に居る。んで、さっきまでこの事件について話合ってたわけだ。話し終わっても誰も席を立たない。かといって話すこともないから、変な空気だ。
静かな応接室に全員で集まって暇してれば、周りの奴が気になったりもするだろうよ。やることないし。特に俺なんて何もないところに小声で話し掛けたり、荒ぶったりしてるし。
「
「そうですか? それは助かります」
なんていい人なのだろうか。メガネ姿もかわいいし、素晴らしい女性だ。
俺は意気揚々と部屋を後にしようとしたのだが、味方からまさかの裏切りを受ける。
「ゆう! それはダメ! 死んじゃうってば!」
亮のインターセプトが入る。
なんで死ぬなんて分かるんだよ? バカか?
「こーゆー時に1人になりたがる人は殺されちゃうんだって! ○ナンで見た! ○田一でもやってた!」
だからここに居ろと。
やっぱりバカか? アニメと現実は違う。だってそのアニメに幽霊なんて出てこないだろ? だったら完全なフィクションじゃねぇか。全く当てにならない。
だが、あまりにも亮が必死に止めるから、可哀想になってきた。しょーがないから、もう少しここに居てやることにした。
しかし今度はサヤさんから抗議が入る。
『ちょちょちょっと! さっき証拠を探しに行くって約束したじゃない!』
いや、そんな約束はしていない。何を言ってるんだ。これだからそれなりに見た目のいい女は嫌いだ。
もう俺のフラストレーションは限界だった。大体、俺はインドア派のニートなんだ。自分のお部屋を愛している。早くお家に帰りたいのだ。
だから、こう言ってやった。
「謎は全て解けた。犯人は……」
俺が何かワケわからんことを言い出したせいだろう。皆の視線が痛い。
いや、約一名(亮)が目をキラッキラッさせている。やっぱりバカだろ。
……うん、俺が何をしたかだけど、皆の記憶を見た。
記憶ってのは魂的なサムシングに刻まれる、と俺は考えている。んで、俺にはそれを見れるんよ。疲れるし、嫌なもんを見ることもあるから、いつもはやらないけど。
ま、そういうわけで謎()なんて知らないが、全て解けたのだ。解けたったら解けたのだ。
「板野サヤさん。彼女が犯人です」
応接室の皆がポカンとする。サヤさんもポカンとする。
「本当に大丈夫ですか? 私がお部屋までお連れしましょうか?」
梓さんが如何にも心配してそうな顔をし、さりげなく俺の背に手を添える。
清純派気取りやがって! お前が居るせいでこんなことになってるんだぞ!
「大丈夫です。しかし梓さん」
俺は微妙に探偵風のムーヴをかます。だって亮の反応が面白いんだもん。
「どうやらあなたは橘氏と不倫関係にあったようですね」
「? 何を言っているのですか?」
あくまでシラをきるつもりか。俺はボソッと呟いた。ツイットーだけに。
「あずにゃん不倫愛好会」
「!??」
梓さんの表情が崩れる。
いや、そんな顔するなら始めからそれ系の投稿するなよ。
あずにゃんの不倫愛好会てのは、大手SNSにあるアカウントで、所謂裏アカってやつだ。そこで自分の趣味全開の投稿をしているらしい。
そこでは特定の名前こそボカされているものの、見る人が見れば分かるくらい具体的に色々と記されている。ちなみにフォロワー数は1万を越える。
要するに、梓さんはめっちゃ歪んだ承認欲求持ちってことだ。普通に引くわ。
「まぁなんだ、それが原因で同じく橘氏と不倫関係にあったサヤさんが嫉妬に狂い、今回の騒動を起こしました」
「それって……」
亮はお馬鹿さんなので、ピンときていないようだけど、梓さんと橘氏は何となく気づいたみたいだ。
「要するにサヤさんは自ら毒を摂取し、自殺したのです」
サヤさんの霊体が揺らぐ。
「そして、橘氏と梓さんによる他殺と誤認させる工作もしています」
嫉妬の末の命を掛けた復讐ってか。馬鹿馬鹿しいなぁ。
「……その判断の根拠はなんだい?」
橘氏が柔らかな声音で聞いてきた。まぁ、そうなるよね。ぶっちゃけ霊能抜きだと明確な根拠はない。
だからそれっぽいことを並べる。
「皆さんも現場は見ましたね? パッと見、遺書もない。死に様も酷い。確定はできないがなんとなく他殺なのでは、と疑いましたよね」
沈黙が痛い。はっきり言って手頃な言い訳なんて無いからかなり苦しいです。
「ゲロのインパクトで頭がおかしくなる気持ちは分かります。何を食ったらああなるのか想像もできません」
『おい』
サヤさんが何か言ってるが知らん。めんどい女は嫌いだ。
「でも皆さん、冷静に考えてください。ゲロがあれほど広範囲にある、ということは移動しながら撒き散らしたということです。そう、所謂歩きゲロです」
歩きゲロってなんだよ。
どうして誰も突っ込まないんだ?
おい、亮。悲しくなるから「なるほどー」とか言うな。
「しかも、です。ゲロは乾き始めているものもあれば、鮮度(?)を保っているものもありました」
サヤさんが静かになってる。
へ、ざまぁ。無関係の俺を巻き込んだ報いだぜ。
「つまり、毒物の服用から断続的に嘔吐しながら、長い時間を掛けて死亡した。他殺であれば助けを呼ばないのはおかしいですよね?」
当然スマホだって持っていただろう。その気になれば、自分の足で部屋を出ることも可能だったはずだ。
「仮にその場に犯人が居たとしたら、ゲロが付着か、少なくとも臭いくらいはつく筈ですが、ここには、サヤさんのゲロ、そう、サヤさんのゲロ
大事なことなので二回言っておいた。なお、実際、臭いがどれくらい付くかなんて分からない。サヤさんに恥ずかしい思いをさせる為に言っただけである。
サヤさんは俺の横で真っ赤になってぷるぷるしてる。ざまぁ。
ちなみに、生きてるサヤさんが最後に目撃された時から今までの間、着替えた人は居ないっぽい。
「というわけで自殺と考えました。それと変態メイド、梓さんのSNSへの投稿」
「ぷ、変態」
亮が吹き出す。そういうとこ、俺は好きよ。
「そこから、人間関係を考察して、状況から矛盾がない筋書きを探した。それがさっきの答えになります」
亮がおーと歓声を上げる。まさにバカの見本。君はいいワトソンになれるよ……。
しかし。
「でも、それって単なる情況証拠からの推測ですよね?」
ずっと黙っていた橘さんの奥さんが異を唱える。
いや、あんたが現実から目を逸らし続けたからこうなってるとこもあるんだからな? マジお家帰るの邪魔しないで。
「ごもっともです。ではこれから橘氏と梓さんの部屋を皆さんと一緒に調べましょう。すると出てくる筈です」
サヤさんが霞み出す。
あんたが頻りに橘さんの部屋を調べろって言ってたのは、要は
「サヤさんが仕込んだ毒物がね」
決まったぜ。あとは警察が来たら多分こんな感じだから後は任せたバイバイってすれば完璧だ。これでお家に帰れる。俺は一仕事終えたと、ドヤ顔だ。
しかし俺の願いは叶わず、後から到着した警察のお友達と夜通し密室で盛り上がる義務が発生した。正確に分かりすぎてて怪しいんだってさ。いちゃもんである。
なんとか誤解は解けたんだけど、帰り際にエロい身体した女刑事が、警視庁なんたらかんたらっていう長い肩書きの書かれた名刺を渡してきた。
なんか嫌な予感がするけど、敢えて考えないことにした。
ただ……。
「俺の勘って当たっちゃうんだよなぁ」
「どうしたのゆう? お腹減ったの?」
亮が、俺が買っておいたポテチを食べながら、言いやがった。
信じられるか?
俺が警察署から帰り着くと、マイルームでポテチ喰いながらゲームしてたんだぜ? 俺を巻き込んで警察署送りにしといて、亮だけずるくないか?
しかも暑いからってノーブラTシャツで。ここはお前の部屋じゃない。
「ねぇ! 次はここに行きたいんだけど……」
亮がどこからともなくパンフレットらしきものを取り出す。旅館がどうのと書いてある。
俺の頭に『湯けむりなんたら殺人 ~囚われたニートの謎~』とかいうパワーワードが……。
そんなわけで答えなんて決まってる。
「却下だ! 絶対に嫌だ!」
当たり前だろ!
え? サヤさんの霊はどうしたかって?
気が済んで成仏するまで、俺に憑くらしいっすよ。なんだかなぁ。
こうして事件(笑)は幕を下ろした。めでたしめでたし?