【完結】霊能チートのネタバレ事件簿   作:虫野律

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俺と少女と『名探偵ユウキの冒険』 [中編]

──エロいことしたいとか、女の泣き顔が大好きということではない(嫌いではない)。

 

 

 

(///∇///)

 

 

 

 

 父に会うために私がしたことは模倣だ。

 私がそうやって真似をしていれば、やがて父が私を叱りに来てくれるのではないかと思ったからだ。

 

 頭がおかしいのかもしれない。

 でも、もしかしたら下手な模倣をする私を見かねて止めに来るんじゃないかと思うと自分を抑えることができなかった。

 

 だから私はもう1人の凌遅屋になった。

 

 そうやって何人も殺してきた。

 

──早くやって来ないかな。

 

──もう4人殺したよ。

 

──お父さん。どうしたの?

 

──なんで会いに来てくれないの?

 

──お父さん……。

 

 父は私の前に現れてはくれなかった。

 

 私は絶望した。私の中にある何も無い伽藍堂(がらんどう)洞穴(ほらあな)が拡大していくのを自覚した。

 

 暗い。

 

 誰も私を見ることはできない。

 

 寒い。

 

 誰か私に熱を……。

 

 寂しい。

 

 誰か私を……。

 

 そうやって答えも救いも見当たらない思考が、私を支配していった。

 もっと殺さなければいけないと思った。そうすればお父さんが……。

 

 私の殺人ペースは上がっていった。

 

 当然と言えば当然だけれど、警察の捜査にも熱が入る。

 でも()められない。

 

 もう私に残された時間は少ないかもしれない……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

┐('~`;)┌

 

 

 

 

 家に帰ると灯りが点いていた。解理さんは帰っていないのだろうか。

 

「……ただいま」

 

 何となく、少しだけおそるおそるそう言った。

 少しして解理さんから定形句が返ってきた。

 

「おかえりなさい」

 

 まだ居たのか。

 

 解理さんの声の発生源である居間に行くと、信じられない光景が広がっていた。

 

「どうしたんすか? ご飯を取り上げられたチワワみたいっすよ」

 

「いや、だってよ」

 

 テーブルには、ほっけだろうか、白身魚の塩焼きを主役に筑前煮と漬物が脇を固めている。味噌汁の椀は空だ。きっとまだ鍋にあるんだろう。

 お手本のような一汁三菜。

 

 それをエロいだけが取り柄の解理さんが作った? なんの冗談だよ。

 

「いやぁ、結城君なっかなか堕ちないから少し本気出したんすよ」

 

 えぇ……。

 

「どうっすか? 色んなところにグッときたっすよね?」

 

「いや、それよりも気になることがあるんだが」

 

「なんすか? 胸はFしかないっすよ。盛ってるっすから」

 

 いや今はそこは訊いてない。

 てか盛ってたのか。いやいやいやFだと盛る必要無いだろ。それを「Fしかない」とか世の中の貧乳女どもに、とんでもない一撃をくれてやってるな。頼むからそれを他の人の前で言うなよ。

 

「……他人(ひと)ん家の台所勝手に使うの抵抗無かった?」

 

 だって俺と解理さんは付き合ってるわけじゃない。親しい友人ってわけでもない。普通、抵抗あるよな。

 だからチワワみたいな顔はやめろ。

 

 ピーーーー。

 

 突然、電子音がした。

 

 なんだ?

 

「あ、電話きたっす。浮気じゃないっすよ」

 

 いや、浮気どころか本気になってもらって結構っすよ。

 

 妙な呼び出し音のスマホを取り出して、解理さんが通話を開始する。

 

「うぃーす。なんすか? これから彼氏とイチャつかなきゃいけないんすよ」

 

 凄い。たったこれだけしか喋ってないのに、ツッコミどころが山盛り沢山だ。もう胃もたれソースカツだよ。

 

「……あーマジっすか。はぁ。了解っす。カレ……結城君と現場に向かうっす」

 

 解理さんがキリっとカッコをつける。うーん、中身を知ってるとギャグにしか見えない。

 

「結城君。凌遅屋によるものと見られる死体が見つかったっす」

 

「あらら」

 

「だから行くっすよ!」

 

 アイアイサー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「結城君、お疲れ様ー」

 

「お疲れ。今回も頼むよ」

 

「結城さん! 来てくれたんですね!」

 

 等々(とうとう)。何故こんなにプレッシャーを掛けるのだろうか。今回は簡単にはいかないと思うんだけどなぁ。

 

 しょーがないから曖昧に返していく。

 

 で、問題の遺体だ。

 まだ現場にある。近くで鑑識さんと刑事さんが話している。

 霊は居ないし、残留思念も無い。あ、いや、ちょぴっと残ってる。うーん、やっぱり違和感があるんだよなぁ。

 

 なんでかっていうと、俺だって凌遅屋について調べていたんだ。解理さんに捜査協力を依頼される前からだ。

 その過程で遺棄現場にも行ったが、残留思念を見つけたことは一度も無い。

 だから残留思念があるこの現場には違和感を覚える。

 

 これでも俺は真剣に凌遅屋を探していた。

 

 俺にとっては凌遅屋は他の犯罪者とは違う。当たり前だ。だから高校を卒業後は、仕事もせずに凌遅屋を追っていた。

 亮の両親はそんな俺に何も言わない。少し悪い気もするが、これは譲れない。

 

 現場とされている場所へ訪れたり、死体の様子から犯人像を分析してみたり、死体の遺棄された場所から犯人の活動拠点を予想して聞き込みをしたり、そして記憶を読んだりと色々やってきた。

 

 でも手掛かりは見つけられなかった。霊能チートを持つ俺が本気になってもだ。

 

 確かに俺も万能ではない。

 でも、都内を中心に数えるのもバカ臭くなる程の人間の記憶を見てきて、凌遅屋と川見真一さんを結び付ける情報が、出てこないのは明らかに異常だ。

 そして当然の様に死体遺棄現場には残留思念も一切無かった。

 

 そこで俺はある仮説を立てた。

 

 つまり川見真一さんは超高水準の霊能力者なのではないかということだ。

 

 理由は簡単だ。

 

 俺ならばやろうと思えば凌遅屋と同じことを、目撃情報を0にして実行することが、かろうじてできるからだ。

 ただし、防犯カメラの映像などの物的証拠は別だ。カメラに関しては気付ければやりようはあるが、常にそうはいかないだろう。

 実際、川見真一さんが凌遅屋だと言われるようになったのも防犯カメラの映像があったからだ。一応、建前は死体遺棄の容疑者としての指名手配であり、連続殺人については重要参考人にすぎないようだが、川見真一さんが犯人であるとの暗黙の共通認識が出来てしまっている。

 そして、川見真一さんの顔写真はニュースで何度も放送されてきた。

 当然、世間の認知度もそれなりだ。

 

 だが、凌遅屋が世間に認知されるようになってから約10年、未だ川見真一さんは捕まっていない。都内で犯行を繰り返しているのにだ。

 

 異常だ。異常すぎる。

 

 しかし、だからこそ同類だと思うんだ。

 

 手段としては、例えば霊圧を敢えて下げると気配は希薄になる。俺レベルなら、目の前に居ても黙っていれば認識されない程度までコントロール可能だ。

 目撃者の気配、つまりは霊気に気を配れば目撃者を見落とす事も無いだろう。

 それでもやむを得ずに見られたら、魂に霊気をぶつけて記憶を消してしまえばいい。これに関してはあまり得意じゃないから、俺がやると廃人を量産してしまうけれども、証言を抹消することは完遂できる。

 更に、殺害対象になる人間に憑依して肉体を操作すれば、人目を避けて殺害場所に連れてくることも実現不可能な難易度ではない。

 残留思念については、霊気が死体や遺棄現場に残っていないか確認して、見つけた場合は霊圧を上げて消し飛ばすか、掴んで握り潰せばいいだけだ。

 

 こう考えると俺の奇天烈な推理もあながち的外れではないのではないか。

 

「はぁ」

 

 ただ、こんな感じの推理を持っていても、模倣犯の可能性に気付けただけで、具体的に犯人を特定できてないんだよなぁ。

 

「……結城君、やっぱり調子が良くないんすか?」

 

 解理さんが珍しく深刻な顔をしている。

 

「別にそういうわけじゃないんだよ。ただ、難しくてな」

 

 ま! グダグダ言っててもしゃーないし、とりあえず残留思念を掴まえてみよ。

 

 ふよふよしている残留思念にサクッと触る。

 

 んー。またダウンコートの男? 首絞められて意識を落とされている。それだけか。

 

 んー、限定できんな。

 

「なんか分かったっすか?」

 

 解理さんが俺の目を覗き込む。眼球に俺の姿が映っている。

 この近距離でそんなに見つめられると解理さんの感情が流れ込んで来てしまう。

 

 ……これは恐れ? そして期待? 何を恐れて……。

 

 !?

 

 そういえば、解理さんは「ダウンコートの()」と言っていた。俺は一度も男なんて言っていないのにだ。

 

 つまりは……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(゜ρ゜)

 

 

 父を探すのにも、凌遅屋として活動するのにも警察官は都合が良かった。だから私は警察官に成った。その数年後、運良く捜査一課に潜り込むことができた。凌遅屋の情報もよく聞こえてくる。

 警察の手法を考慮した上で、捜査の裏をかくように凌遅屋として活動すればリスクは抑えられる。現に今まで容疑者どころか、参考人にすらなっていない。

 凌遅屋としての活動自体は順調だった。

 

 けれど父は現れなかった。

 

 焦りや今までの努力が報われないんじゃないかという不安、そして日に日に強まる孤独感と愛されたいという欲求。

 もうどうにもすることができないくらい狂っている心が、パラパラと砂利のように崩れていく。そんな気がしていた。

 

 鬱々とした日々の最中、私の耳にとある情報が入ってきた。

 

──巻き込まれた事件を非凡な速さで解決に導いた青年が居る。

 

 興味を持った。

 もしかしたらこの青年ならば父の居場所を見つけ出してくれるかもしれない。

 

 事情聴取の名目で接触した。

 

 青年は結城幽日という名だった。痩せ型で少しクセのある顔付き。どちらかと言えば男臭い顔立ちだと思う。

 でも、そんなことよりも彼の持つ雰囲気が独特だった。

 彼はよく目立つ。事件が無ければ言動はかなり控えめだ。人の中心になりたがらない印象を受けた。

 それなのに存在感がある。芸能人は華があるから人目を引くとよく言うけれど、彼は華が無いのに人目を引く。

 これだけでもよく分からないのだけれど、実力を見ようと彼に捜査協力を半ば強引に依頼してみたら、もっとよく分からなくなった。

 全く理解できない手段で、彼はあっという間に手掛かりを見つけ、事件の真相に辿り着いたようだった。

 不思議だった。でも謎なんてどうでもよかった。

 

 私は希望を見つけたのだ。

 

 彼ならば父を探し当てることができるかもしれない。

 

 だけど1つ懸念事項があった。彼に依頼し、父を見つけてもらうことは、父が逮捕されることに繋がってしまう。

 それは認められない。

 だから私は彼の心を手に入れようとした。

 自分で言うのもおかしな話だけれど、私の容姿は悪くない。身体も男性には魅力的な筈だ。実際、私の外側は今までそれなりにモテてきた。

 私の顔と身体を使い、彼を私の傀儡にし、又は弱みを握り、警察とは関係無く個人的な依頼を受けてもらえるようにしたかった。

 そして父を見つけても警察には言わないでおいてもらい、父と再会した後に殺してしまう予定だった。

 

 ただ、私は今まで恋愛というものと真剣に向き合ったことがない。父以外の人間は本当の私を愛することができないから、真剣になりようがない。

 あの日のことも、それより前のことも全部知っているのは父だけだ。私を理解できるのは父だけだ。

 

 だから恋愛の様な経験はあっても、本当の意味での恋愛の経験は皆無だった。

 そんな私であるので、当然と言えば当然なのだけれど、彼を誘惑するのは上手くはいかなかった。そもそもどうすればいいか分からない。

 

 そんな中、警視庁上層部の指示で彼に凌遅屋事件の捜査協力を依頼することになった。

 

 最近は比較的友好的になってきたと思う。依頼も以前よりすんなり受けてくれる。

 しかし、凌遅屋事件は彼にとっても容易ではなかったようだ。未だ決定的な手掛かりは見つけていない。

 それでも、犯人がダウンコートとフルフェイスのヘルメットを着用していたことを突き止めた。

 鳥肌が立った。

 この分では近い内に私に辿り着いてしまう。そう思うと不安が湧き起こる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最新の遺棄現場でいつものように手を伸ばし、目を閉じる彼を見る。私の暗い洞穴で恐れが(うごめ)く。

 

 彼が目を開ける。難しい顔をしている。

 

「なんか分かったっすか?」

 

 努めて軽薄な声音を作る。

 私が彼の目を覗き込むと、彼が私を見つめ返してくる。

 

 やっぱり不思議な感覚だ。彼に見つめられると全てを見透かされているような幻想を抱く。

 誰にも理解されない、暗く、不快なだけの、価値の無い本当の私を直視しているのかな。

 

 それは……。

 

 でも……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(+д+)

 

 

 

 

 

 解理さんの記憶によると、解理さんの実の親父さんが凌遅屋であるらしい。そして解理さんはその模倣犯。

 

 無意識に解理さんのことを容疑者リストから外していた。

 警察官という立場や普段の言動から、解理さんではないと勝手に思っていた。

 それに、俺は人の記憶を読むのが好きではない。疲れるし、見たくないものを見てしまうし、何より、そうやって人の心裏(しんり)に土足で踏み込むのは気分の良いものではない。

 

 だから、基本的には怪しい人や必要がある人以外は記憶を覗かない。

 今回はそのせいで模倣犯の特定が遅れてしまった。

 

 解理さんは瞬きをせずに、その大きな瞳で俺を見ている。

 

「……いや、なんも分からん」

 

「そうっすか」

 

 どうしたもんかね。

 

 現場を調べるふりをしながら思考を深める。

 

 解理さんの精神構造は、精神医学的には「演技性パーソナリティー障害」と呼ばれるやつだ。

 ざっくり言うと、演技や過剰な演劇的言動、エロいことをしてまで人の注目を引こうとする人格障害だ。

 これだけだと「それくらいなら普通の範疇じゃん」と思うかもしれないが、この障害の前提には苦痛がある。注目されないと耐え難い不安感や精神的苦痛を感じてしまう。

 幼少期に親の愛情を十分に受けてこなかった場合等に起こりやすいとされている。

 

 解理さんの精神は、幼い日に家族を目の前で殺されたところから狂い始めている。

 そして唯一残された家族である父の失踪。

 解理さんは誰かに愛されたいと願いながらも、それが満たされないまま生きてきた。「父に棄てられた自分は価値の無い人間だ」という考えに囚われているせいで、愛されている事実やその可能性を認識する事ができなくなっているからだ。

 自分を愛してくれる筈の父や母を失った為に、人間にとって極めて重要な幼少期に、最も必要としている人の愛を受け取ることがほとんどできなかった故の歪みなのだろう。

 

 そんな解理さんは父が生きて近くに居る可能性を知り、自分の中にある父を求める感情をはっきりと認識してしまった。

 まるで小さな子が親に依存するように、解理さんは父を求めている。

 

 そして、父に構ってほしくて父の真似をし始めた。それが凌遅屋模倣犯の表面的な真実だ。

 

 んー、解理さんは俺が探してる凌遅屋じゃないってのは分かったけどさ、どうしたもんかね。

 解理さんが犯行をした証拠を集めて、逮捕されるようにする?

 いや、それをやってもいいんだけどさ。川見さんへの対応を考えるとなぁ。

 川見さんへの手掛かりは分からず仕舞いってのがなぁ。

 

 結局、この日の捜査は大した収穫を得られることなく終えることになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜11時、住宅街を解理さんと歩く。捜査からの帰りを解理さんと伴にしている。

 

 少し話をしようかなってね。

 

 穏やかな口調で話し掛ける。

 

「なぁ、解理さん()凌遅犯なんだろ」

 

 解理さんの気配がぶれる。

 

「……」

 

「ダウンコートの男なんて俺は言ってない。男物のアウターだと解理さんが知っていたからそう言ってしまったんだろ?」 

 

 プラス、犯人像を男性と限定したいという(潜在的)願望が現れたんだろう。

 

「……」

 

「解理さんが苦しんでいるんじゃないかっていうのはなんとなく思ったよ」

 

 解理さんから表情が消えていく。

 

「……警察に言うのですか」

 

 解理さんの口調が変わる。こちらが本来の解理さんかな。いや、こちら()か。

 

「……それは決めかねている。俺からすれば模倣犯は重要じゃない」

 

「それなら……」

 

「だけど、そのままなら解理さんはずっと苦しいままだ」

 

 解理さんだってバカじゃない。父と2人で幸せに暮らすという夢が、非現実的な妄想だと心の奥底では悟っている。罪悪感だってある。

 それでも止まれないのが歪みなんだ。

 

 解理さんの本当の願いは、模倣犯としての解理さんを親父さんに愛されることじゃない。家族が殺された日に歪み出した、根っこのところにある本質的な人格を受け入れ、愛してほしい。俺にはそう願っているように見える。

 

 それが実現するには、解理さん自身が自分を認める必要がある。それを前提に他者から本当の自分が愛されていると実感できて始めて、解理さんは満たされる。

 

 ……めんどくさ! 地雷女ここに極まりって感じやん! 男は都合の良い女が大好きなのに、こんなんで愛されるわけないやろ! いい加減にしろよ!

 

 とか思うけどそんな素振りは一切見せない。辛いです。

 

「解理さんを楽にしてやることはきっと難しい」

 

 解理さんの目が何を映してるのかは分からない。記憶を読めてもその人間の全てが分かるわけじゃない。

 

「だからちょっとだけズルをするよ」

 

「……?」

 

 ……チワワみたいな顔は変わらんのな。おもしろ。

 

「手を貸して」

 

「……はい」

 

 困惑しつつも素直に手を差し出してくる。

 

 よしよし。人間素直が一番やで。ツンデレなんていらんかったんや!

 

 解理さんの手を握る。冬の寒さに冷え込んでいる。でもきっと解理さんの世界はもっと冷たいのだろう。

 

「愛してる」

 

 なんてな。

 

「何を……!? え、え、え……」

 

 げへへへ。

 

 説明しよう!

 

 今、俺は俺の魂を解理さんの魂に無理矢理突っ込んだんだ。なんかエロいぜ!

 ……以前、クソビッチサイコパスのいずみさんっていうヤベー奴に、擬似的な罪悪感を作り出してやったことがあった。

 やり方は、彼女に怨みを持った魂を彼女の魂に重ねることで、その怨み(責める気持ち)をいずみさん自身の感情と錯覚させたんだ。

 今回はその逆。

 つまり「解理さん大好き! エロくておバカな解理さんも、ガチメンヘラ隠キャ道を邁進する解理さんもちょー愛してるぜ(キリ)!」って念じまくった霊気で俺の魂をコーティングして、その擬似的愛の塊(笑)を解理さんの魂の中に無理矢理流し込んだんだ! なんかエロいぜ! 

 

 するとあら不思議!? 解理さんは自己肯定感が天元突破したではありませんか。

 

 解理さんは潤んだ目で、所在なさげにキョロキョロしている。

 

「……何をしたのですか」

 

「大したことはしてないよ。少しだけ素直になるおまじないをしただけだよ」

 

 おまじない(霊的マインドコントロール)。フヒヒ。

 

 解理さんが二重の大きな目を俺に向ける。少しタレ目気味の瞳と長い睫毛が、女性的な柔らかさを解理さんに与えている。

 

 ……何回見てもエロ特化型最終兵器みたいな人だな、ホント。なんか全てのパーツがそんな感じなんだよなぁ。中身さえマトモならもっと楽しく生きられただろうに。

 

「……本当なのですか」

 

「何が?」

 

 鈍感系(詐欺師系)ですが、何か?

 

「さっきのです」

 

 はい釣れましたぁー。魂に干渉できる俺には鴨が葱しょってるように見えるぜ。ゲヘヘ。

 

「嘘じゃないよ」

 

 解理さんが手を強く握り返してくる。

 

「……」

 

 物欲しそうな顔しちゃってまぁ。

 

「……愛してる」

 

 言葉を噛み締めるように伏し目がちになり、そして、とうとう解理さんの瞳から涙が零れる。

 

 説明しよう!

 

 今度は解理さんに重ねてた魂を少しずらしたんだ!

 するとあら不思議!? 俺の魂と重なっている部分からは自己肯定感が、重なっていないがすぐ横にある俺の魂からは、解理さんへの愛が感じられるではありませんか!

 魂は嘘をつけない。普通はな! だが俺ならばある程度は誤魔化すことが可能なのさ!

 それにそもそも解理さんのことは嫌いじゃないし、可哀想だなって思ってるから、慈愛的な意味じゃあまるっきしの嘘じゃない。だからこそこんな力技が可能なんだよね。フヒヒ。

 名付けて、魂だいしゅきホールド! フヒ。

 

 涙が解理さんの頬を伝い、ぽたり、ぽたりと落ちていく。

 

「……ぅ」

 

 さて、解理さんは静かにギャン泣き(?)してることだし、これで攻略完了ってことでいいっしょ。

 

 俺がなんでこんなことしたかっていうと、勿論理由がある。

 解理さんを堕として、エロいことしたいとか、女の泣き顔が大好きということではない(嫌いではない)。

 

 川見さんが俺の推理通り霊能力者だったと仮定し、かつ川見さんの立場になって考えると次の様になる。

 

 まず、解理さんは川見さんの殺害対象になり得る。

 何故なら、模倣犯がやりすぎていると警察の捜査がキツくなるからだ。いくら気配を消すことができるといっても、警察の捜査が過熱すればやはり煩わしい筈だ。

 そんなわけで川見さんは解理さんを密かに監視している可能性がある。そこまでいかなくても、捜査状況や娘の様子あるいは模倣犯の状況を知るために、不定期に解理さんの記憶を読んでいるというパターンも十分あり得る。

 いずれにしろ解理さんを通して俺の存在に気付く。そして俺の非常識な捜査や解決スピードから霊能力者とすぐに察するだろう。 

 川見さんと同格以上の霊能力者である俺が、凌遅屋を探している事実に気付いたら、不都合な存在である俺を消そうとするのではないだろうか。

 川見さんならば霊能力を捜査に使う有用性を理解している筈だ。であればそういう行動に出てもなんら不思議ではない。

 

 結論、俺と解理さんは襲撃を受ける可能性がそれなり以上にある。

 

 そして、凌遅屋が仮に襲撃して来た場合、解理さんが味方になっていた方が良い。その為には解理さんを懐柔しておく必要があった。

 だから警察に言わずに解理さんを攻略した。

 

 我ながら酷い奴だとは思う。

 

 でも、俺には欲しい物を全て手に入れるだけの能力は無い。汚い手を使っても一部しか得られない。

 

 さて、俺のくだらない愚痴はどうでもいいね。お客さんが来たみたいだ。

 

 突然の、空間が軋む程の圧。

 

「!?」

 

 解理さんが驚愕を浮かべるが、それだけだ。通常なら魂が壊れてしまいかねない重さの霊圧を浴びているのに、普通にしていられるのは俺の魂を内部に置いているからだ。

 

 なんとなく来るんじゃないかって思ってた。でも、だからってこんな住宅街で霊圧をここまで上げるとかやばすぎ。半径50メートル圏内の住民は下手するとショック死してるぞ。

 

 少し先の十字路を見る。

 

「初めまして。川見さん」

 

 俺がそう言うと、1人の男が現れた。黒のステンカラーコートを着ている。何度もニュースで見た顔と大きくは違わない。

 

「……お父……さん」

 

 動揺するよな、そりゃあさ。今まで執着してきた人物かいきなり目の前に現れたんだから。

 川見さんがそんな解理さんを冷めた目で見る。興味無いと言わんばかりに、無表情のまますぐに視線を俺に移す。

 

「……やはり強いな」

 

 川見さんの声は少しざらついている。川見さんをよく視る。そうするとその異常性がよく分かる。

 

「……ヤバいな、あんた」

 

 川見さんには重く、濃い怨霊、怨念が尋常でない程憑いている。これほど憑かれているにも関わらず、自我を保っている。だけに留まらず、やろうと思えば、おそらくは怨念を制御できるのではないだろうか。

 バケモノだ。

 

「お前も似たようなモノだろう」

 

 否定はできないな。

 

「川見さん、悪いが記憶を読ませてもらった」

 

「……」

 

「あんたが何を考えているかを少しは理解した。その上で言わせてもらう」

 

 川見さんに変化は無い。

 

「もう終わりにしてほしい」

 

 川見さんがしようとしていることは完全無欠の自己抹消だ。

 川見さんは昔、家族を殺されたことを自分が早く家に帰らなかったからだと考え、自分を責めている。それはもう強い強い自責の念に圧迫されている。

 自殺しようとした。しかし、いざ首を吊ろうとした時に気が付いてしまった。 

 卓越した霊能力者であり、強い後悔を持つ自分は、肉体が生命活動を停止したとても、霊体と成り、半永久的に憂き世(うきよ)をさ迷うことになってしまう。

 強すぎる魂と霊気のせいでな。

 それでは何の意味もない。魂ごと全てを消し去りたい。そこで川見さんは思い付いた。思い付いてしまった。

 

──人を苦しめて殺し、その怨念と呪いにより自らの魂を破壊させてしまえばいい。

 

 確かにそれならば、世界から完全に消えることができるかもしれない。

 辛いだろう。間違いなくな。常人ならばすぐに狂いながら死んでいく。罪の意識から目を逸らす為には、その苦しみも痛みも必要なのかもしれない。

 

 だけど、それはやっちゃいけないことだろ。自分勝手すぎる。

 俺だってろくな人間じゃないけど、それくらいは分かる。

 だから川見さんにはこんなこともう終わりにしてほしい。

 しかし。

 

「それはできない。私が消えるまでやめるわけにはいかない」

 

 そうか。そうだよな。言われてやめられるくらいなら、こんなになるまで苦しまないよな。

 俺の薄っぺらな戯れ言でどうにもできないなら、しゃーない。

 

「解理さん」

 

 呆然と川見さんを見ていた解理さんが、少しだけ俺の方へ顔を向ける。

 

「少しの間、川見さんを捕まえといて」

 

 解理さんに可能な限りの霊気を渡す。これでそこそこやれる筈だ。

 

「……私がお父さんの味方になるとは考えないのですか」

 

 なんだ。そんなことか。

 

「それは無いな。だって解理さん、川見さんと心中するつもりだったんだろ。そこまでして止めたかったんだろ」

 

 魂は嘘をつけない。

 人のほとんど無意識下にある覚悟だって分かってしまう……こともある。幸運なことに全ては分からない。

 でも、運が良いのか悪いのか、解理さんのそれは理解することができた。

 解理さんは川見さんに愛されたい。そして、この惨劇を自分の手で終わらせたい。

 それらの願いが時にそれぞれ相反し、傷付け合いながら、時に一体と成り、暗い暗い心の最奥に根付いていた。

 

「そんな解理さんが川見さんを逃がすわけがない」

 

 それに、解理さんは俺に期待している。

 かつて好きだった絵本に登場した名探偵のように、複雑に絡んで息も理解もできなくなった自分や父さんの心を、解き明かしてくれるのではないかってね。

 だから解理さんは俺に目を付けた。

 

 いいだろう。期待に応えてやるよ。俺が世界の(ことわり)をねじ曲げる反則(チート)の使い手ってとこを見せてやる。

 

「終わったら『名探偵ユウキの冒険』を読んでやるから、今は少しだけ頑張ってくれ」

 

「……本当に何でもお見通しね……」

 

 ちなみにこの絵本は俺の家にもある。俺の父さんがこの絵本のファンだったんだよなぁ。複雑だわぁ。

 

 解理さんが微かに笑う。いつも見ていた笑顔とは違うけど、まぁ悪くはない。

  

「何をしたいのか分からないが、霊圧で消し飛ばせないなら原始的な手段に出るだけだ」

 

 川見さんが懐に手を入れる。

 

 そして──銃声。

 

 

 

 

 

 




メタ的な伏線は吉良解理さんの名前です。
吉良→きら→killer(殺人者)
解理さんは表面からは本質を理解されない存在。そこから「理解」の逆ということで「解理」です。
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