ウンエイ・ブレイク・オンライン 〜狂人がVRゲ運営を壊すまで〜 ※2020/12/04~更新休止   作:毒肉(どくにく)

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ストック無いし頭痛いし更新少し止まります


#11 辻ヒールの憂鬱

 ここはとある会議室。

 石造りの分厚い壁には、ご丁寧な事に防音の魔法が付与されている。

 長机を囲むように配置された十の椅子(いす)には(かた)や洋風、片や和風の古風なファッションから学ランと、何とも統一性の無い服装の集団が座っていた。

 座れなかったのか、はたまた座らなかったのか、それらの椅子の後ろには、これまた統一性に(とぼ)しい大勢のがいる。

 統一性がないのは何も服装だけではない。

 性別、年齢、肌や髪の色に至るまで、その集団は誰の目から見てもチグハグ、といった印象だろう。

 誰もが真剣な面持(おもも)ちをしているが、誰もがその重たい唇を動かそうとはしなかった。

 静寂(せいじゃく)を切ったのは、神官服を(まと)った〈精霊人(エルフ)〉の男だった。

 

「これより、恐らくこのゲーム最初のPKである、通称”仮面の暗殺者”についての情報共有会議を始める。」

 

 ザワ、と一斉に音が()れ、それがしばらく続く。

 集団───異邦人達が近くの者達とひそひそと話を始めたのだ。

 一部から神官服の男を褒め(たた)える声が出るが、当の本人は不機嫌そうな表情で眉をひくつかせる。

 

 ドン、

 濁っていて、それでいて良く通るような重低音が会議室中に響く。

 集団は一斉に音の鳴った方向へと首をひねる。神官男の横。そこには、長剣を横に置き机上で拳を握る筋骨隆々(きんこつりゅうりゅう)の大男が居た。

 静寂が再び訪れる。

 大男はチラリ、と目線をわざとらしく動かすと、神官男は再び口を開く。

 

生暖炉(なまだんろ)、続けろ」

 

「そうだね……みんなに集まってもらったのは他でも無い。例の仮面の暗殺者の、第二の犠牲が出たからだ。……前へ出てくれ」

 

 生暖炉と呼ばれた神官がそう言うと、五人組の男達が神官の椅子の横へと進む。

 

「君達の襲われ時の状況を、説明して欲しい。出来るかい?」

 

「俺が一番長く残っていたから、俺が話そう」

 

「では寝寝寝(ねるねるねる)君、頼むよ」

 

 ローブを纏った男が名乗りをあげ、集団の目線は彼に集中する。寝寝寝と呼ばれた男は語り始める。

 

「俺達はニーシャルナ森林の奥にある〈毒蛙(ポイズン・トード)〉が出るのダンジョンを探索してたんです。そしたら、曲がり角からいきなり〈一角兎(アルミラージ)〉に襲われたんです。しかもそいつら魔法を使いやがって……」

 

 ローブの男はその時の状況を細かく語り始める。

 

「それはいつの事でござるか?」

 

 椅子に座る者達の内一人、紺色の忍者の格好をした男がローブの男に問う。

 

「え、あぁ。昨日の事だけど」

 

「そうでござるか、ならもう居ないでござるかな……。念の為、隠密部隊は向かわせるでござるか。となると拙者の───」

 

 頭巾(ずきん)の結び目から伸びた(ひも)を手で()ねながら、忍者姿の男はブツブツと呟く。

 

「なら私も一つ、質問して良いか?」

 

 手をピンと挙げて声を張り上げたのは、これまた和風の侍のような格好の少女だった。

 桃色の羽織をピラピラさせながら、少女は鼻息を粗くする。

 

「そ、その暗殺者とやらは……つ、強かったか?! 斬りごたえがありそうか! 斬っていいのか、いいんだよな??」

 

 身をよじらせ顔を赤らめ、口に手をあてながら言う姿はまるで恋人を思う乙女のようであったが、その内容は極めて血腥(ちなまぐさ)いものであった。

 猫のような耳と尻尾をピクピクと揺らしながら高揚気味にローブの男の返答を待つ。その姿は猫ではなく犬のようであった。

 顔を引きつらせる者、またかと呆れる者、反応はこの二色に分かれた。一名、例外を除いては。

 

「し、師匠! こういう時は大人しくしてるッスよ! ほら、みんなから変な視線向けられてますッスよ!」

 

 侍姿の少女に慌てて忠告するのは、制服姿の女子高生だった。長い黒髪に白シャツ、深緑のミニスカート、腰にはセーターらしき物を巻いている。右眼の下にはハート型のタトゥーが刻まれている。

 腰には少女と同じ刀剣が携えられている。

 

「ぴぇ。静かに。私は今、大事な話をしている」

 

「私の名前はぽぇッスよ! いい加減覚えて下さいッス!」

 

「はいはい分かった。うるさいぞ、ぷぉ」

 

「わざとッスか?? わざとッスか?! わざとッスよね、それ!!」

 

 ぽぇと名乗る刀女子は自らの師匠に嘆くが、返事は返って来なかった。

 ローブの男は気まずそうに小さく「自分達は弱いので何とも……」と呟いたのを知る者は、生暖炉以外に存在しなかった。

 

騒々(そうぞう)しいぞ、小娘共! 生暖炉様がお困りだろうが!」

 

 その様子に腹を立てたのは、坊主頭の矢筒を背負った男性だった。白と金の神聖さを感じさせる色合いの服のデザインは、それとは対照的に動き安さや身軽さ、それでいて最低限の防御面までも考慮されたような鎧の配置をしている。

 彼の後ろに立つのは、同じく白を基調とした服を着用した者達。彼らは坊主頭の男に頷いて共感を表した。

 

「なんだ、言わせておけばセミロング。やはり弓なんて遠距離からの姑息な戦術に見合った性格をしているな」

 

 言い返してやったぞ、ふん。と言わんばかりの態度とドヤ顔で、侍少女はその場の空気を凍てつかせた。それを解凍したのは、またしてもぽぇであった。

 

「貴様ァ……!」

 

「ま、まあまあ落ち着いて下さいッス、ウチの師匠もわざとやってる訳じゃないんスよ……ほら、謝って下さいッス!あとセミロングじゃなくてボウズさんっすよ! あの野球部に居そうなフォルムの何処にセミロング要素があるんスか!」

 

「ふん、お前まで奴の味方をするかぽぉ。恩を仇で返すとはいい度胸だ、かかって来い」

 

「いやいやいや、どうみても師匠が悪いッスよ! それと決闘したいだけッスよね? ちょっとはTPOをわけまえて欲しいッス! あとぽぉじゃなくてぽぇッス、何回言わせれば気が済むんスか!!」

 

 ぽぇは再び師匠を嘆いた。しかし効果は無かった。

 坊主頭の狩人──ボウズは呆れてものも言えないと言った表情で悪態をつく。そして、何を思ったか八つ当たりを始めた。

 

「全く、(しつけ)がなっとらん。フクベ、貴公に責任があるのでは無いか? 最近、そこの小娘と話をしておったように見えたが?」

 

 フクベ、と呼ばれたのは先刻、侍少女より先に質問をしていた忍者男であった。フクベは戸惑いながらも身の潔白を主張する。

 

「いや。あれはでござるな、その…………というか!そもそも拙者が一度話しただけで斬霧(ざんむ)殿の性格が変わるわけ無いでごさろう!」

 

 会話内容を避けるかのような口振りで、侍少女──斬霧の保護責任は自分に在らずと声を荒らげる。

 

「だいたい、そういうのはぷりぷり★ぷりてぃ〜殿の領分でござろう? 拙者は見たでござるよ。何か親しげにしていたではごさらんか」

 

 忍者は早口で、それでいてロールプレイを忘れない巧みな話術を披露する。そして華麗に他人に責任を押し付け、地獄の様な会話パスを回す。

 

「あらぁ、アタシの所為って言いたいのぉ? たしかに斬霧ちゃんとは仲良くやってるけど、それはアクセサリーとかの趣味が合うからよぉ。戦闘系ならやっぱりデストロイちゃんじゃなぁーい?」

 

 名指しされたのは、ピンクの派手なスパンコールの多い衣装をした男、いや正確には女だった。厚化粧と無精髭という何ともアンバランスな組み合わせが、独特の雰囲気を出している。

 彼女の背中からは、その派手さにある意味似つかわしくない白い翼が生えている。

 派手なオカマ──ぷりぷり★ぷりてぃ〜はあくまでの関係を主張し、モヒカンに着崩した学ランを着たヤンキー風の男を人差し指で撫でるように指差した。

 

「アァ? 俺ァ、キリキリと一回も喋った事すらねェんだがよ。それでも俺が悪ィって言うのかゴラ」

 

 ヤンキー風の男は額に青筋を立てて周囲を威嚇する。その恫喝(どうかつ)に場の者達は思わず恐怖を覚えた。

 しかし、残念な事に斬霧は空気が読めなかった。

 

「キリキリでは無い、ザンムだ! 何度言えば分かる、漢字の読みも真面に出来ないのか! ドッティ・アストロイッ!」

 

「ダーティ・デストロイさんッス。もうツッコミ疲れたッス。あと師匠も人の事言えないッスよ……」

 

 周囲の異邦人達はこう思った。勝手にツッコんで勝手に疲れただけは無いか、と。

 しかし同時にこうも思った。彼女が居なければ、この強者達に誰が割って入って話を修正するのかと。

 彼、彼女らは熱い目線をぽぇに向けた。

 

「え、なんスかなんスか」

 

 戸惑うぽぇを他所(よそ)に、喧嘩腰の両者は最悪のフェーズへと移行しようとしていた。

 

「なんだこの糞ガキ、やんのかゴラァ!」

 

「やる?やるとはまさか決闘の事か! いいぞ戦おう、戦おうともパンティ・バストレイ!」

 

「ナメてんのかテメェ!キリキリィ!」

 

「貴様……! よもや生かしておけん!斬る!」

 

 互いが互いの地雷の上でヒップドロップ大会を繰り広げ、激しい戦いが始まろうとした瞬間、ドン! と叩き付けるような音が会議室に響く。

 

「うるせぇ、」

 

 舌打ちをしながら連中を(にら)むのは、最初に生暖炉に司会を促した男だった。

 その顔は怒気によって酷く歪んでおり、今にも爆発しそうな何かを抑える様子である。

 机は男の拳型に沈んでおり、初めて見る親友の本気の怒号への動揺と、弁償代の事で生暖炉の頭は埋め尽くされていた。

 

(こ、こぇッス……)

 

 ぽぇの感想はここで終わった。悲しいかな彼女の脳はこれ以上の文書を生み出す事は出来なかった。馬鹿だからだ。

 しかし、恐怖を感じるだけ師匠よりマシという事実を、異邦人達はまだ知らない。

 

「ま、まあまあ。皆落ち着きましょうよ」

 

 固まる生暖炉に代わり、場を和ませようと努力する。

 トンガリ帽にマントを羽織り、ボディラインを強調するような露出の多い服を着ている。長いマスカット色の髪の横からは、特徴的な尖った耳がはみ出している。

 その風貌(ふうぼう)は神話や伝承の魔女を彷彿(ほうふつ)とさせる。

 いつもは妖艶な微笑みを浮かべている顔も、今では若干引きつっている。

 

「ほ、ほら! こういう時こそ仲良くって言うじゃない? ね、ね? アンタもそう思うでしょ?」

 

「ワシに振ってくれるな……まあ同感はするぞ」

 

 答えたのは、長い髭がトレードマークの背丈のやけに低い老人だった。頭に被った兜を外し、その小さな手でぐしゃぐしゃと髪を乱している。

 彼の横には人一人程ある大きなハンマーが置かれている。

 

「ね、アンタもそう思うでしょ?」

 

「ァ? ババアのゆぅコトなんざ……」

 

「おい、テメェ今なんつった?」

 

「……素敵なお嬢様、貴方様の意見に賛同致します。」

 

「よろしい」

 

 モヒカンの男──ダーティ・デストロイは魔女の気迫に圧されて縮こまった。

 周りの冷ややかな目線がダーティのモヒカンに刺さる。ダーティは(うつむ)いたまま魔女──ウィッチェ・ソーサリィを見つめる。

 ウィッチェは「何ガン飛ばしてんだ?」とドスの効いた声でダーティを威嚇する。すっかり縮こまったダーティは更に首の角度を下げ、やがてそのまま動かなくなった。

 

「ほ、他に案がある者は居るかい?」

 

 若干の苦笑を顔に浮かべながら、生暖炉は再び己を殺した”仮面の暗殺者”についての話題に切り替える。それに少々の強引さが残るものの、不満をあげる者は居るはずが無かった。

 黒髪に白のメッシュの少年がゴクリと唾を飲み、浅く息を吸う。

 

「あ、あの……僕に「今からそのダンジョンに特攻こうするのはどうだろうか!」」

 

 その勇気ある提案は呆気なく掻き消された。

 

「師匠それさっきフクベさんが「私はそれがいいと思うのだがな!な!」」

 

「人の話を聞けッスよ! すいませんッスねフクベさん、ウチの師匠は空気が読めないっていうか」

 

「ん、いや、別に良いんでござるが……」

 

 ぽぇの謝罪に対し、フクベは素っ気無く返した。

 

「ほら、師匠も謝って下さいッスよ!」

 

「う〜ん、ん……」

 

 斬霧は唸り声を上げながら眉にシワを寄せる。

 

「何を悩む必要があるッスか、四の五の言わずに謝って下さいッス!」

 

「いや、いいでござるから!ホントにいいでござるよ!ね、斬霧殿も反省してるみたいでござるし!ほら!」

 

「……そうッスか? まあ本人がそこまで言うなら……」

 

「思い出したぞ!」

 

 斬霧が謝罪する事を強く、強く否定するフクベに困惑するぽぇの横で、斬霧はまるでモヤが晴れたかのような顔になった。

 

「わー!わ〜ッ!!わァァ〜〜〜ッッツ!!!」

 

 突然騒ぎ出した忍者に、異邦人達は困惑の目を向ける。

 

「ハラベ様、ごめんなさいにゃん」

 

 瞬間、その場の空気が凍った。

 

「だったか? 確かこうだったな、ハラベの教えてくれた最大級の謝罪! 上手に出来ていたか、ぱぁ?」

 

 斬霧は純朴な眼差しで弟子を見つめ、褒められる事を今か今かと待っている。

 突然名指しされた忍者に、異邦人達はゴミを見るような目を向ける。

 ぽぇの表情は、見る見るうちに鬼の形相へと変貌していった。

 

「ち、違うでござる! いや、本当でござるよ! そう、そう!ロールプレイの話でござるよぽぇ殿! い、いやだな〜そんな事をする訳無いではござらんか。斬霧殿はリアル中学生でござるよ? あ、いや本人から聞いたし隠す気も無いって言ってたしストーカーとかじゃないから本当だから。そんな事をしたら拙者がロリコンみたいではござらんか! ざ、斬霧殿ってほら、種族が〈猫獣人(ワーキャット)〉でござるし?そう、だから皆もそんな目で拙者を見ないで欲しいでござるよ! そうだからつまりその……だって、ほら、ここゲーム的な?ロールプレイングゲームじゃん的な?RPGなんでござるよ! えー、あー、ロール!そうそうロールなんでござるよ、な! 斬霧殿! 斬霧殿は拙者を(とが)めたりなんてせんでござろう!そうでござろうよ?ね?」

 

 焦りからか、口調の乱れ始めたフクベは斬霧に救いの手を求めた。

 後にこの場にいた異邦人達はこう語る。被害者に(すが)り付く加害者という構図は、正しくこの世の地獄のようであった、と。

 

「そうであったか、てっきりゲーム外でもかと思っていたが……すまぬなフクダ、私の勘違いだったようだ。」

 

「師匠……」

 

 俯く斬霧に、ぽぇはかける言葉を失くした。

 

「ところで…………なんであったか、そうだ! ご主人様と言うのだと教わったのに、間違えてしまった。咄嗟のことでな、私は物覚えが悪い故、謝罪に謝罪を重ねてしまった。不覚だった」

 

「キィィィサァァァァマァァァァァッッッッッ!!!!!!」

 

「ひぃ!」

 

「?」

 

 ぽぇは激怒した。必ず、かの邪智暴虐の忍者を除かなければならぬと決意した。

 生暖炉は処刑台へと連行されていくフクベを見つめながら、一向に進む気配の無い会議を悟ったように達観する。

 やがて目を(つむ)り、誰にも聞こえない微かな声で、ポツリとこう呟く。

 

「憂鬱だ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

>to be continued… ⌬




やっぱり忍者は汚い
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