「バジリスク、間抜けな侵入者を噛み殺せ!!」
トム・リドルの号令と共に、
「ロックハート先生!?」
ハーマイオニー・グレンジャーが悲鳴を上げるが、流石にチャーミングボディ賞を5回入賞した男は格が違った。
「何故だ、何故死なない!?」
バジリスクに命令を下したトムは理解出来なかった。
毒蛇の中の毒蛇に噛まれて生きられる者など存在しない…はずだった。
逆にロックハートはとても落ち着いていた。
「猪は毒蛇を好んで食らう。
これは私の『オークとぶらり途中下車の旅』に書いてましたよ?」
ロックハートが言った事は、天才トム・リドルにも理解出来なかった。
「どういうことだ」
その解説は、語りたがりのお喋りハーミーが答えた。
「395ページの5行目だわ。
豚科の分厚い脂肪と筋肉は、蛇の猛毒を無効化するのよっ」
「素晴らしい。ミス・グレンジャー。グリフィンドールに20点」
勲3等のマーリン賞を獲得した、闇の力に対する防衛術連盟の名誉会員は、重厚な筋肉と脂肪の層により、毒蛇の劇毒を防ぎ切った。
「そんな莫迦な」
「ありえない…」
「おったまげー、マーリンの髭かよ」
「…流石に勉強不足よ」
トム、ハリー、ロンの男子生徒(?)3人はそれぞれ驚愕を示すが、ハーマイオニーは何を当たり前の事をと思っていたようだ。
「そもそも、何故秘密の部屋が生まれたのか。
それを知らないで、バジリスクの主を名乗っていたのかい?」
トムが知らない秘密を、まるで知り尽くしたかの様にロックハートは語る。
「そんなものはサラザール・スリザリンが、選ばれし者の為に──────」
トムの言葉を遮って、ホグワーツ魔法魔術学校が誇る筋肉と脂肪を黄金比で備えた男は語る。
「それは違う。
秘密の部屋の正体は、選ばれなかった者達への救済装置だ。
確かにサラザール・スリザリンは、生まれ持って筋肉が付きやすい純血の人種こそ、ボディビルダーに向いているという、遺伝子論者であった。
だが、サラザール・スリザリンは陰キャだった。
陽キャ達に知られずに身体を鍛えたい陰キャ達の気持ちを理解していた。
秘密の部屋の正体は──────秘密のトレーニングルームなのさ」
ロックハートが左目をウィンクしながら杖を振ると、秘密の部屋は様変わりした。
鏡張りになったそこには、所狭しとベンチプレス、サンドバッグ、懸垂器具などが利用者を求めて踊っていた。
「では、ではバジリスクは何だと言うんだっ!?
美しい肉体を永遠の彫像にする為に生まれたとでも言うのか!?」
トムの絶叫にも、ロックハートは
「そんなものは石化トレーニングに決まってるじゃないか。
身体をちょっと
この瞬間、ハリーとロンは、トムと気持ちを共有していた。
即ち思考を放棄したのだ。
ハーマイオニー・グレンジャーだけは、ロックハートのブートキャンプのBGMを鼻歌で奏でてご機嫌だった。
「そうさミスター・トム。
大切なのは全てを忘れる事さ。
こんな風にね、オブリビエート」
悩みや疲れを忘却させて、トレーニーに疲労の限界まで追い込ませる忘却呪文。
ロックハートが唯一自信を持って唱えられる呪文は、トム・リドルから的外れな場所に、即ち床に落ちていた日記帳に直撃した。
トム・リドルは実体化した日記の記憶。
忘却呪文は記憶を消す魔法。
即ち、トム・リドルへの最適解であった。
「トムを倒しちゃうなんて…」
ハリーが驚くが、別におかしなことなど無い。
ギルデロイ・ロックハートの先祖は、スリザリンに秘密の部屋で鍛えられた、脂肪ばかり増えてしまう肉体の劣等生。
己の心臓を半分ほど石化させる事で負荷を掛け、その結果人並外れた肺活量を手に入れた学生だった。
彼はバジリスクによる心臓過負荷トレーニングに感謝を示し、
これは、『大蛇とおおヘビーな平日』にも記されていた事だ。
「おやおや、この日記帳はまっさらになってしまいましたね。
折角ですから、素晴らしいサインをあげましょう」
歴史を積み上げて来た日記帳に書かれた文字と意思は全て消え失せ、そこには新たな一文字だけが記された。
その文字とは勿論──────
「ギルデロイ・ロックハート。
世界で一番チャーミングなこの私です」