BSO-ブレイブソウルズ・オンライン   作:り け ん

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中編が挟まりました。
またここから中々編が挟まるとは...ないと思います。多分。


中編・会敵援軍

このゲームにおいては、プレイヤー種族ごとに”世界”が分かれている。

 

“死神”の本拠地たる世界の名は、尸魂界(ソウル・ソサエティ)

“破面”の本拠地たる世界の名は、虚園(ウェコムンド)

“滅却師”の本拠地たる世界の名は、見えざる帝国(ヴァンデンライヒ)

 

 

そして、各々の本拠地の他……中立の戦闘地域として定められている世界が、”現世”である。

 

 

“現世”の世界は、ほとんど現実の世界と変わらない現代風の街並み。一応、人間達もそこで暮らしを営んでいる設定ではあるが、そのNPCを見かけることはほとんどない。なぜならいざ現世に赴く時、ほとんどの場合時間は夜に設定されているからだ。

このゲームの設定では、夜の現世では”虚”と呼ばれる悪霊が跋扈(ばっこ)するという。この虚が、他のファンタジーゲームでいう”モンスター”に値する。死神と滅却師は、このモンスターを討伐し続けるのが任務のメインとして与えられるのが特徴だ。ただ、死神と滅却師は目的は同じでも、種族同士は対立しているという不思議な関係にある。

 

そして…破面とは、虚が高度に進化した霊命体という設定を持っているため、同族である虚と戦ったりはしない。代わりに、虚の討伐のため現世に出張ってくる死神や滅却師を打ち滅ぼしに来るという位置づけになっている。

 

 

今回、九条が現世に赴いたのはその破面絡みの案件であった。

 

 

 

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(…一通り見て回ったが……虚はいても、破面らしき霊圧は感じられないな…)

 

(ま…ダメでもともとの任務だ。いないならいないで、それはいいことだし)

 

 

敵対勢力の存在を感じられないことに半ば安堵しつつ、それでも一応物陰に姿を隠すようにして九条は座り込んだ。

 

 

彼女が今いる現世のステージは『廃工場』

複雑な配管や機械構造が重なって遮蔽物が多く、さながら立体迷路のごときステージである。虚などNPCの攻撃を交わすのに地形を利用しやすい分、初心者向けステージとも言える。だが逆に、プレイヤー同士の戦闘だと一点、互いに隠密と不意打ちの策謀が行き交う上級者の戦場と化す。

 

だが、このゲームではあまり不意打ちや隠密を好んで使う上級者プレイヤーは少ない。なぜなら、ゲームの戦闘使用上に存在する”霊覚”のシステムのお陰で、奇襲等が成功することは稀だ。他のゲームで言えば、万人に索敵スキルが配られているようなものだからだ。

なので、このステージはもっぱら初心者用という印象を持つプレイヤーが大半だろう。そして、数ある初心者向けステージの中でもここはさらに人気度は低め。なので今九条がいる状況のように、他にプレイヤーがいないような状況も珍しくない。

 

 

過疎気味なゲームの中でさらに過疎っている現世のステージ。それなのにもかかわらず、天貝隊長の話によればここには一定の周期で破面プレイヤーが時折姿を現すというのだ。

 

 

──死神や滅却師のいないステージにわざわざ現れるということは、なんかしらの特殊な任務じゃねえかと思ってんだ。探索系か、もしくは何かしらの強化・習得イベか…。

 

──ただ、周期が二週に一度っていうなんとも微妙な感じでな。ただの偶然じゃないかと言われたらはっきり否定は出来ないんだが…やっぱり、こういうのはどうしても気になってな。誰か調査してくれる隊員を探してたんだ。

 

 

天貝の言う通り、確かに二週間に一度では周期と言うには少々怪しいところではある。そのように中途半端なタイミングで発生するクエストというのも聞いたことがない。無論それは死神サイドでの観点であり、破面サイドまでそのような事情かどうかまでは断言できないが。

 

このように曖昧な案件であるが故、部下のプレイヤーにもなかなか頼みづらかったという。それに、これを調べようと思ったら今の九条のように破面の出現を待ち、いざ現れたら隠れつつその動向を探るというなんとも地味な仕事をしなくてはならない。確かにそれではやりたがる人はいないだろう。話を聞いた九条からしてそうだったのだから。

 

もちろん、それを一番分かっているのは天貝だった。だからこそ、個人的に報酬を出そうと彼は言った。先日に九条が受けた高難易度クエストの約1.1倍の量の強化素材と金額を提示され、九条は一も二もなく頷いて承諾した。報酬をキチンとくれるのであれば、公式任務であろうが個人的な任務であろうか受けて立つという意志だ。

 

 

天貝隊長の気のせいでしたーというオチならばそれはそれでいい。

だが、もし気のせいでないとしたら…二週に一度なんていう妙な周期のクエストが本当にあるのだとしたら、相当にレアな類のクエストではなかろうか。ことによると、破面専用ではなく全種族共通の隠しクエストという可能性だってある。仮にそうなら、その詳細を知ることができるだけで儲けものになる。

 

 

色々な仮定を頭の中で繰り返す九条だが、結局のところ破面が来ないことには皮算用に過ぎない。破面が来るまでは一応”霊覚”に神経を尖らせながらも、体は少し脱力してのんびりしようかと思った時…ふと、霊圧の感触が後頭部辺りを撫でたような気がした。

 

 

ほんの微かな感じだったので、一瞬気のせいかとも思った。

 

 

 

 

 

 

次の瞬間、まず先にシステム上の”音”が届いた。

現実の自然界ではまず発生しないであろう、”力”を現す不愉快な音の奔流。

 

 

 

 

 

脱力しかけていたその体をバッと起こした九条は半ば転がるように回避行動を取る。

そしてその数瞬後…さっきまで九条がいた位置を、薄緑色の”光線”が薙ぎ払っていった。

 

 

(今の...! まともに食らってたら、やられてたかもしれない…!)

 

 

確実にやられていた、とまで思わなかった。それは、自分が育てたこの「九条」というキャラに対する少なからずの自負があったからである。実際、食らってみるまで正確な攻撃の威力は分からないのだから咄嗟に抱いた九条の感情は正しいモノではあるのだが…それでも、今の攻撃がいかに高威力かは容易に推測ができる。

 

 

そして、攻撃が飛んできたということは…当然、攻撃を放った”敵”がいるということ。

 

 

 

 

「……ほう」

 

「久しぶりだな。この距離からの虚閃(セロ)を躱されたのは」

 

 

 

 

その”敵”とは、NPCではなく、明らかにプレイヤー。

今の攻撃……虚閃を扱える種族は、破面のみ。

 

 

 

 

 

「どうやら…ただの(ゴミ)ではないらしい」

 

 

 

 

 

九条が顔を上げた先にいるプレイヤーの姿を見て、天貝隊長の懸念が事実だったことを彼女は知った。だが…その破面プレイヤーの姿を見た瞬間、九条の胸中に新たな懸念が生まれた。

 

 

 

ゲームの中だというのに、この冷徹な視線を放つプレイヤーに……自分は勝てるのか、と。

 

 

*

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*

 

 

死神と滅却師のキャラクター容姿はほぼ現実の人間を踏襲しているのに対して、破面だけはキャラクターメイク時点からゲーム特有の容姿アレンジがデフォルトで加わっている。より特徴的なのは割れた仮面の跡のような白いパーツと、仮面紋(エスティグマ)と呼ばれる顔の紋様。そして、体のいずれかに付与される黒い穴…この三つだ。

ゲームの設定上、破面の体に存在する黒い穴は『失った心』を表すのだという。そう、それはあくまでゲームの設定でしかない…はずなのだが。

 

目前の破面プレイヤーは……まるで本当に心がないかのように、冷え切った眼をしていた。その胸元に存在する、黒い穴のような虚無の瞳。

 

 

その虚無に吸い込まれるような、不気味な心地を抱えていた九条は、反応が遅れてしまった。

 

 

目前の破面プレイヤーの姿が、ブレるように描き消えていた。

 

 

 

「……っ⁉︎」

 

 

 

このゲームの中で染み付いた無意識の防衛本能の近い感覚によって微かながら防御の態勢はとった。

しかしそれでも…破面プレイヤーによる手刀の一撃は九条のHPを容赦なく削りとっていた。自身の視界の端に映るHPバーの減り具合を一瞥した九条は、先程の驚きも虚無に吸い込まれかけた恐ろしい心地も全て頭から吹き飛び、ゲームの世界で生きる“戦士”の顔つきになった。

 

 

一方の手刀を叩き込んだ側の破面プレイヤーは、相変わらずの無表情。まるでロボットのようにただ、戦うための観察を繰り返しているかのような…。

 

 

 

「ようやく、戦いの顔になったか」

 

 

 

ただし、その声には虚無や冷徹さからはかけ離れた感情……

 

 

 

「……ならば、始めるとしよう」

 

 

 

“愉悦”が微かに含まれているようにも、聞こえた。

 

 

 

 

九条は、呼吸を整えつつ…静かに腰の刀——斬魄刀を抜き放つ。

比較的ゆっくりとした動作だったが、破面はまるで九条が抜くのを待っていたかのように動かず、九条が斬魄刀を構えたその瞬間に、その姿がブレるように動き出す。

 

だが、今度こそ九条は完璧に防御の態勢で応ずることができた。破面の膝蹴りを刀で受け止め、思いっきり力を入れて弾き返す。その際の音は、とても生身の人体に当たったとは思えない程に硬い音。鉄と鉄のぶつかり合いとでも表現できそうなくらいだ。もちろんそれは、九条も重々承知していた。

 

 

(斬魄刀を抜かない、か。あえて手を抜いているつもりか、もしくは…鋼皮(イエロ)の硬度を活用した格闘戦スタイルが主体…か)

 

 

鋼皮(イエロ)とは、破面のみに備わっている鋼鉄の肌のこと。基本的に防具の概念がないこのゲームの中で唯一、デフォルトで鎧を持つ種族と考えると、破面の強さがよく理解できる。他にも様々な種族的優位も重なり、このゲームにおいての破面は”最強”の種族だと言われている。もちろん、他の種族にもそれぞれ独自の長所は数多くあるのだが。

 

他ゲームの防具とは違って肌そのものが硬質なため、殴打や蹴りの攻撃に応用できる。そのため鋼皮や基礎身体能力を重点的に成長させ、素手による戦闘スタイルを確立している破面もいるという。九条は、目前のプレイヤーもその類の相手だと認識した。なにせ、攻撃の全てが非常に重い。

 

 

(しかし…そうだとしたら厄介だ。私の斬魄刀の能力と相性が悪すぎる…!)

 

(能力狙いは諦めて、”ブースト”を積極的に使って斬り込んでいくか…いや、距離を取りつつければ、破面なら遠距離攻撃の”あの技”を使ってくるはず………使わせるためにも、霊圧を割くとしたら鬼道だ!)

 

 

戦闘方針を一瞬で固めた九条は、相手を弾いた時の反動を利用してバッと後方に下がる。そして、死神専用の攻撃魔法である鬼道を放つため、詠唱を──

 

 

「破道のさ……なっ!?」

 

 

だが、破面はそれを許さなかった。詠唱の余裕すら与えないと言わんばかりに追走してきた破面からの回転蹴りを受け流すため、鬼道を中断して刀で攻撃を受け流すしかなかった。

格闘戦主体のキャラが機動力を上げているのは当然といえば当然である。だが、距離のつめるスピードが予想外だ。先ほどよりもスピードを上げてきている。この速度は、間違いなく死神の隊長クラスに値すると九条は判断した。

 

 

 

(ともすると…こいつは、ひょっとして……!)

 

 

「斬魄刀を抜いておいて、鬼道頼りか?」

 

「…っ!」

 

 

ほとんど耳元で囁くように言葉を投げかける破面。全然距離を離すことができていない証拠だ。刀のリーチが全く活かし切れていない。下手に刀を振りかぶったら、懐に潜り込まれて攻撃をもろにくらってしまうだろう。それほどに、敵の移動速度は驚異だった。

 

だが、次の瞬間……なぜか敵の方から距離をとり始めた。

飛ぶように後方に下がる破面を見て、九条は一瞬訝しげに眉を潜めた。しかしすぐに、当の破面の口からその行動の意図が語られることになる。

 

 

「…いいだろう。自信があるのならば…一度だけ、撃たせてやる。来い」

 

「……なに?」

 

 

破面は、距離を取ったまま工場機械の密集する場所より高い()()()()()()()()、破面は一切動かない。ここまで露骨な行動をされては、九条も流石に察せざるを得ない。

 

 

──明らかに、舐められている。

 

 

「…後悔することに、なるぞ」

 

「気丈な女だ。そう思うのならば、後悔させてみるといい……さあ」

 

 

相変わらず無表情のまま平然とする破面を見て、九条は心の中で歯噛みした。実のところ、さっきの九条の言葉はほとんど虚勢に近かった。自分の鬼道はあくまで牽制を前提とした鍛え方しかしていない。他の破面と比べても明らかにレベルの高い鋼皮にあの膂力。鬼道など、その身一つで打ち消されてしまってもおかしくない。

 

 

それでも…九条は破面と同じ高さの()()()()()()、構えを取りつつ詠唱を開始する。

 

 

「…炎昼叫喚 嘆きの咆哮!」

 

 

だが、もちろん…鬼道だけで仕掛けるつもりはない。

 

 

「金景 朱音の空欲し 波打ち乱れ仙を舞う!」

 

「極彩解け切り 雲海熱せよ!」

 

 

このゲームではありきたりな手であるため、通じる保証は全くない。

それでも、この機を逃さず…全力で叩き込みにいくのみ。

 

 

 

「破道の五十! 川龍焔(せんりゅうほむら)!!」

 

 

 

九条の突き出した腕を中心として、火炎で構成された巨大な東洋風の龍が破面に向かって襲いかかった。

 

 

 

九条が現在使える中で最高威力を誇る鬼道ではあるが、そちらのステータスを重点的に上げている訳ではない九条は、これが決定打になるとは微塵も思ってない。だからこそ、これはある意味では”囮”だ。

九条は思いっきり空を蹴った。おそらく振り払われるであろう鬼道が消えたその隙を狙って——剣撃を叩き込む。もちろん、”ブースト”をかけた上での渾身の一撃を。鬼道を目眩しにして接近し、連続するように刀での攻撃を行うなんて、このゲームにおいてはあまりにオーソドックスすぎる動きではある。が…この実力差を前にしては、打てる手はオーソドックスだろうとなんだろうと試さざるを得ない。

 

 

 

 

火炎龍の後を追うように駆け出し……斬魄刀を振りかぶりながら、その剣に”ブースト”を──

 

 

 

 

 

 

しかし、そんな九条の横を…突如、彼女より遥かに速いスピードで横を飛んでいく”新たな闖入者”の影があった。

その”死神”の姿をみた九条の眼が驚きで見開かれる。

 

 

*

*

*

 

 

破面は、自分を食い殺さんとばかりに獰猛な炎の牙を剥き出しに迫り来る龍を見てもなお、表情を変えなかった。

 

 

(この程度か…下らんな)

 

 

場合によっては虚閃(セロ)でかき消すことも考えていたが…期待外れとでも言わんばかりに右手のみを突き出す破面。

 

 

──ブースト

 

 

破面が念じたその時…ただ突き出しただけの右手の平に龍が触れたその瞬間、動きがピタリと止まった。まるで、見えない壁にでも阻まれたかのように。実際には、その先にはただ破面の掌があるだけだというのに。

 

無理矢理にでも力を入れて押し通ろうとするかのように、火炎龍が更に大口を開けた——次の瞬間、破面がグッと握り拳を作り、バッと腕で目前を薙ぎ払った。

 

 

 

すると、あれだけ巨大な火炎龍が……ブワッという音と共に頭部から崩壊。続くように体全体も霧散していく。そして火炎龍が消えていくにつれ、それに隠れていた霊圧が破面にもよく感じ取れるようになってくる。

 

 

(接近……見え透いた手だ。鬼道を防ぐのに生じた隙を狙って叩こうというだけでしかない)

 

(その種の手合いには、見慣れすぎているくらいだ)

 

 

斬新さを微塵も感じない、苦し紛れの一手。戦いを始める前には微かに瞳に浮かんでいた愉悦の感情もすっかり消え失せ、ただただ機械的に対処するためにその片手を目的の方に向けようと…した。

 

だが、その手が一瞬…動きを止めて腕が戸惑うように引っ込んだ。

 

 

(この霊圧…なんだ!? これではまるで、別の...!)

 

 

そして、それは”まるで”ではなく”完全に”別のものであると、すぐに気づいた。

一瞬の迷いも、気づきを得てからは即座に対応してみせた。

 

その片腕で、死神の刃を素手で受け止めた。

 

 

 

 

 

その死神は………先ほどまで相対していた相手とはまるで違う、男性であった。

加えて、破面の真後ろより…”あの霊圧”が。

 

 

 

「…虚閃(セロ)

 

「っ!?」

 

 

 

もう片方の腕が伸び、その人差し指から……薄緑色の閃光が放たれた。

明らかな攻撃性能を持った閃光は、一人の死神の姿を飲み込んでいく…ように見えた。破面には、ほんの一瞬だけ。

 

冷めた目つきとなった破面は、目前でつかんでいる刃をそのまま強く掴み、思いっきり振り払った。それには刃のみならず、その刃の持ち主である死神ごと振り払われる。

 

振り払われた男性の死神は、態勢を崩すようなこともなく見事空中でバランスを取り、そのまま空中に立った。そして…”女性の死神”は、その横に立った。自らの体力ゲージを微かに減らしつつも。

 

 

「……なぜ、ここにいるんだ…因幡」

 

「咄嗟に加勢した私に対する一言が、それか。()()()()相変わらずだな…九条」

 

 

男女の差はあれど、口調が似ている二人の死神。

今まで破面が対峙していた女性死神とは別に現れた男性死神は、緑と黄で髪色が真ん中で綺麗に分かれている奇妙な長髪をしていた。

 

 

破面は目を細めて……ほんの、微かに口元を歪めて呟いた。

 

 

「増援か……なるほど。面白いが、まだ……物足りそうにないな」

 

「…ほう、なんとも欲深い破面のようですね…聞いていたイメージとは、随分と異なる」

 

 

二色の髪をもつ長髪の男性死神は、一転して丁寧な口調となって破面に相対する。無論、ただ尊敬の念から丁寧な言葉遣いになったわけではなく、むしろ慇懃無礼な雰囲気を敵に向けて漂わせていた。

 

破面はその長髪の男性死神の言葉を聞き、鉄面皮のような表情の中で、微かに瞼を動かした。

 

 

「…『聞いていた』……だと? 貴様……俺を、知っているとでも?」

 

「ええ……実は一昨日、うちの隊長が破面を一人、生捕にしましてね。命と等価交換で、情報を貰い受けたのです。…その中には、”十刃(エスパーダ)”の話も」

 

「………」

 

「まあ…そう怒らずに。他種族より成長が遅い分、デスペナがより重くのしかかることは、貴方も分かっているでしょう?」

 

 

まるで変わらぬ表情のように見えた破面の様子からでも、微かな苛立ちを敏感に感じ取った長髪の男性死神は、相変わらずの慇懃無礼な振る舞いを隠すことなく手元の斬魄刀をクルクルと弄んでいる。

 

一方、そんな男性死神の言葉に…息を飲み、驚きを隠せないのが……九条だった。

 

 

「”十刃(エスパーダ)”…だと……!?」

 

 

 

 

 

十刃(エスパーダ)とは、破面の中において唯一の”強さ”の指標となる階級制度。

護廷十三隊における”隊長”にあたる存在とも言える。だが、階級制度としての”隊長”とは決定的に違う点がある。それは、護廷十三隊においては総隊長を除いて全ての隊長が同等の立場にあるのに対し、”十刃”のみは…戦闘能力順に1から10の数字を与えられ、その数字がそのまま地位と強さとして直結する…()()()()()()()

隊長と同じく、ゲーム当初は10人全てNPCだった”十刃”も…下剋上によって何人かは既にプレイヤーと取って代われている…らしいが、死神達はその正確な情報を掴みきれていなかった。というのも、破面は十人の十刃とその部下…従属官(フラシオン)以外は、組織的なものはなく、その行動も取らない。独立独歩の気風が強い破面からは、その分同族の情報すら知らぬ破面も多いのだ。

 

そんな中で、男性死神が所属する十番隊の隊長が捕らえた破面が同族の情報を……しかも、十刃の情報を持っていたのは、誠に幸運という他なかった。

 

 

「”角が生えた仮面の名残を左頭部に被り”、”緑の両眼の下に垂直に伸びた緑色の線状の仮面紋(エスティグマ)”、”痩身で真っ白な肌をした黒髪の男”…破面は外見的特徴が強いゆえ、伝聞の情報でも充分に断定は可能で容易い」

 

「でしょう? 第4十刃(クアトロ・エスパーダ)の……シファー、さん」

 

「…………」

 

 

名前を言い当てられたその破面は、無言のまま。

肯定も否定もしないものの……その沈黙は、肯定をも同義であった。

 

そして、男性死神から情報を聞いた九条はポツリと呟く。

 

 

「………クアトロ、ということは…」

 

「そう、”十刃”における序列第四位。情報によると、現役破面プレイヤーに限れば序列第二位に値する…とか」

 

「……!」

 

 

数字上は、四位。しかし破面プレイヤーに限っては…二位。

つまりそれは、第4十刃より上の序列に成り代わったプレイヤーは一人しかいないということだ。

実質、敵陣営の二番手…自分は今まで、そのような相手と戦っていたのかと思うと…九条は背筋が凍るような思いに襲われた。そんな様子の九条を横目で見て、男性死神は面白そうに笑う。

 

 

「随分な敵を見つけてきたものだな、九条。相当な手柄となるだろう…お前の望み通りに」

 

「…手柄が欲しいわけじゃない……これほどの大物とは…予想、してなかった」

 

「そうか。なら、逃げるか? 相手は実質序列No.2だ。第三席のお前が逃げたとしても、誰も責めはしないと思うが?」

 

「…………ふざけるな」

 

 

それでも……九条は、隣の男性を睨みつける。

 

 

「私は…どんな相手でも、逃げない。ゲームの中()()()逃げるような人間には、絶対になりたくはない」

 

「…………」

 

 

その言葉を聞いた長髪の男性死神は、一瞬…ほんの一瞬だけ哀愁の表情を漂わせたが、すぐに含み笑いが混ざった表情に戻ると、隣の九条にこう問うた。

 

 

「加勢は、どうする?」

 

「……へ?」

 

 

男性死神の言葉に、意外そうな声を出したのは九条。そんな九条を横目で訝しそうに見る男性死神。

 

 

「…何か、問題か?」

 

「あに……いや、因幡のことだ。てっきり、見物だけして帰るつもりかと」

 

「……お前がどういうイメージを私に持っているのかは知らんが…」

 

 

ここで、因幡と呼ばれる男性死神は九条に対して向き直った。

 

 

「私には、可能な限りお前を助ける意志がある。いつも、ずっと…()()()()()()()()()()()、だ」

 

「……!」

 

「心配するな。今日は充分な時間のもと、ログインしている。久しぶりに、お前のゲームに付き合ってやる」

 

「…………………………………………ありがとう」

 

 

 

随分長い間の後に、ほんの小さな言葉を漏らした九条。それを見て、相変わらず因幡は愉快そうに体を揺らした。

 

 

「……話は、纏まったか?」

 

 

そのタイミングを見計らい、一定距離を保って空中に立っていた破面──シファーが声をかける。声を聞いた二人が、改めてシファーの方を向き直る。

 

 

「話が纏まるまでお待ちいただけるとは…ご丁寧なことで。まるで架空の悪役のようですな」

 

「話の最中に奇襲でもすると思ったか? …それでは、つまらん」

 

 

煽るような因幡の言葉にも、無表情のままで言葉を紡ぐ破面のシファー。

 

 

「見せてみろ。真正面から……貴様らの全力を、な」

 

 

微かに首を傾げるようにして…挑発の言葉をかけた。

そして二人は…その言葉を真っ向から受け止めた。

 

 

「言われずとも…全力を出さないと、こちら側の命が危ないのでね…。このゲームのキャラに未練がある訳ではないですが…九条の方は、未練が多そうなのでね。彼女にデスペナを負わす訳には行かないのです」

 

「…変な言い方するな。だが、意見は同じだ。私は……負ける訳にはいかない。お望み通り、全ての力で、私は…戦う!」

 

 

 

二人の死神は、自らの斬魄刀を掲げ……同時に、その力を解放した。

 

 

 

「降りしきれっ!『退紅時雨(あらぞめしぐれ)』!!」

 

「狂え…『來空』!」

 

 

 

緑髪の女性死神…九条の刀は、切っ先が十字の形状へと刀が変化し、

二色の髪をもつ長髪の男性死神…因幡の刀は、両刃の薙刀へと変化した。

 

 

 

その刀の解放を見た、シファーは……分かりやすい愉悦の感情を瞳に浮かべた。

 

 

 

「…やはり、”レア5”以上の斬魄刀の持ち主…そうでなくてはな。これなら、期待ができそうだ」

 




ブレイブソウルズオンライン版・現護廷十三隊情報②


十番隊 隊長:草冠
十番隊 第三席:因幡


※全員本人ではなくゲームの中で偶然そっくりさんになった人達です。
※大切なことなので三回言いました。
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